ロシア国防省は26日、イギリスについて、ロシア領内を攻撃するようウクライナを「挑発」していると非難した。これに先立ち英政府の国防担当幹部は、ウクライナがロシア国内の軍事目標を攻撃する際にイギリスが提供した武器を使用するのは「必ずしも問題ではない」と発言している。
■ロシア、イギリスに警告
ロシア国営インタファクス通信が伝えた声明で、ロシア国防省は「(ロシア国内を攻撃するよう)イギリス政府がキエフ政権を挑発しているが、これを実行しようという動きがあれば、我々は直ちに相応に反応すると強調しておきたい」と述べた。ロシア国防省は自国内が攻撃されれば、ウクライナの首都キーウ(ロシア語でキエフ)の「意思決定拠点」を直撃する用意があると警告。報復攻撃には「長距離高精度兵器」を使う準備ができているとした。さらに、その場所に西側諸国の顧問がいたとしても、報復攻撃の決定に必ずしも影響しないと述べた。セルゲイ・ラヴロフ外相も、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナを通じてロシアに対する代理戦争を遂行していると批判。西側諸国がウクライナへ送る武器は、攻撃の対象になると述べた。ラヴロフ氏は、西側がウクライナに重火器などを提供して「火に油を注いでいる」と指摘。現在の紛争が第3次世界大戦に至る危険性を、あらためて強調した。
■英国防幹部の発言は
ロシア国防省の声明に先立ち、イギリスのジェイムズ・ヒーピー国防担当閣外相は、ラヴロフ外相の発言後にBBCラジオ4の番組に出演。イギリス提供の武器をウクライナが使い、敵対するロシアの軍事目標や補給線を攻撃するのは「まったく合法なこと」だと述べた。ヒーピー氏は、提供された武器を使ってどこの何を攻撃するか決めるのはウクライナ側であって、武器の製造者や提供者ではないとも指摘。また、ロシアと戦争しているのはNATOだというロシア側の主張を「ナンセンス」だとした。
「敵の深奥にある標的を狙い、相手の後方支援や補給線を混乱させるのはまったく合法なことだ」とヒーピー氏は言い、ロシア軍がウクライナの補給線を混乱されるためにウクライナ西部の軍事目標を攻撃するのも戦争行為の一環としては合法だとも付け足した。ただし、その際には民間人への攻撃は避ける必要があるが、「(ロシア軍は)残念ながらこれまでのところ、その点はほとんど考慮していない」とも述べた。
ヒーピー氏は英紙タイムズのタイムズ・ラジオに対しても、イギリスがウクライナに提供する武器の一部は国境を越えた標的を攻撃できるだけの長距離射程のものだと認めた上で、イギリス提供の武器をウクライナ軍が使用してロシア国内の軍事目標を攻撃することは「必ずしも問題ではない」と述べた。
英国防省の関係者は、国防担当閣外相の一連の発言を受けて、ウクライナ軍による標的選定にイギリスはかかわっていないと説明。ヒーピー氏が「深攻精密攻撃」という表現を使ったのは、ロシア国内の標的を攻撃するという意味ではなく、ロシア軍の絶え間ない砲撃を止めさせるという意味だったと話した。
「包囲下のウクライナの各都市にロシア軍が浴びせ続ける無差別砲撃に対抗するため、イギリスや西側の多くの同盟諸国は今では、射程がこれまでより長い武器システムを提供している」とも、この消息筋はBBCに話した。
「標的の選定はウクライナがやることだが、イギリスはこの紛争の全当事者が、戦時国際法を完全に順守した形で攻撃目標を決定するよう期待している」とも、この国防関係者は述べた。
ボリス・ジョンソン英首相は後に英トークTVのインタビューで、イギリスの武器がロシアの製油所などに対して使われることをどう思うか質問され、ウクライナには自衛権があると答えた。
「この危機がウクライナの国境を越えて激化してほしくない」とジョンソン首相は前置きした上で、「しかしジェイムズ(ヒーピー)が言ったように、ウクライナの人たちには明らかに自衛権がある。ロシア領内から攻撃されているわけで、(ウクライナ側には)自分たちを守り防衛する権利がある」と述べた。ロシアはこれまで、ウクライナ軍が自国内の標的を攻撃していると主張。4月初めにはロシア西部ベルゴロド州の燃料貯蔵庫がウクライナ軍の攻撃で出火したと主張した。ウクライナ側は、自軍がロシア領内を攻撃したとは認めていない。
■西側からウクライナへ武器の追加供与
西側諸国は2月末にロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、数百万ポンド規模の軍事支援をウクライナに提供してきた。NATOや欧州連合(EU)当局者は、追加軍事支援についてドイツで協議を重ねている。イギリス政府もジョンソン首相が23日に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話会談し、武器の追加供与を約束した。
25日にはベン・ウォレス英国防相が、スターストリーク軽量型防空システムの発射台を搭載したストーマー対空装甲車を数台、ウクライナに提供すると発表した。これによってウクライナ軍は「昼夜両用で強化された短距離防空力」を得ることになると、国防相は英下院に説明した。ウォレス氏はさらに、ロシアは軍事侵攻開始以来、約1万5000人の兵を失ったと下院に報告。さらにロシア軍の装甲車約2000台が破壊されるか、奪われたという。
■ロシアは核兵器を使わない=英首相
ジョンソン首相は後にトークTVのインタビューで、たとえウクライナでロシア軍の戦況がこれまで以上に不利になったとしても、ロシア政府が核兵器を使うとは思わないと述べた。ジョンソン氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の国内支持基盤は「圧倒的」で、「ロシアのメディアは見る限りまったく分かっていない」ため、プーチン氏が姿勢を和らげて撤退するだけの「政治的な余地」やは十分あるという見方を示した。
<解説> ジェイムズ・ランデールBBC外交担当編集委員
ウクライナは自国の存亡をかけてロシアと戦っている。ゆえにウクライナ軍がロシア国境を越えて敵の補給線をたたくのは、決して意外ではない。そうした攻撃に自分たちが提供した武器を使われても、西側諸国がそれほど気にしていないのも、同じくらい意外ではない。では、ジェイムズ・ヒーピー発言の何が興味深いかというと、それが非常に率直だったことだ。たとえばイエメンなど他の紛争においては、イギリス提供の武器使用について、イギリスの政府関係者は態度を明示しないのが常だ。ある意味で、ヒーピー閣外相はいつものように自分らしく率直に語っただけだ。彼はどちらかと言えば政治家というより、元軍人として発言しがちだ。しかし別の次元で見ると、その発言はこの紛争におけるNATOの関与がいかに深まっているか、そのことを反映している。西側がウクライナに提供する武器は、より大きく、より強力なものになっている。ウクライナに短距離対戦車砲を提供することと、ウクライナに越境可能な射程距離のドローンや大砲を提供するのは、同じことではない。ウクライナ防衛とロシア攻撃を区別する一線は、ますます紛らわしくぼやけてきた。
(英語記事 Ukraine war: Russia accuses UK of provoking attacks on its territory)(c) BBC News
ロシアは自分が独立主権国家であるウクライナに国際法に違反する武力侵攻しておいてその被害者であるウクライナに武器を供与するなと言うのは盗人猛々しいと言わざるを得ない。しかも虐殺だの性的暴行だの略奪だの拉致だのと戦争犯罪を重ねておいて不届き千万である。ただこの紛争、冷戦期にも起こらなかった東西の武力紛争、戦争と言ってもいいかもしれないが、に近くなっていることは事実だろう。戦っているのはウクライナとそれを支援する義勇兵対ロシア軍と親ロシア派勢力だが、ウクライナは西側陣営から莫大な兵器供与を受けている。当初は対戦車兵器や歩兵用の肩撃ち式対空ミサイルだったが、ここにきて戦車、戦闘機、装甲車、榴弾砲、など重装備が供与されているのは東部におけるロシアの侵攻をウクライナが食い止めることができるかが、この戦争の先行きに大きくかかわってくることが予想されるからだろう。ロシアは5月9日の対独戦勝記念日にマリウポリで戦勝パレードを行うと言うが、これが阻止できればロシアの侵攻の意図は破砕されることにもなる。ウクライナが長距離兵器を取得するとパレードに砲弾が撃ち込まれることもあり得る。ロシアも必死だろう。ロシアはこの侵攻で明確な勝利を収めておかないと戦後の制裁や賠償、そして戦争犯罪の捜査などで国家が崩壊する恐れがある。ウクライナだけでなくロシアも土壇場の崖っぷちに立たされていることは間違いない。
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Posted at
2022/04/27 12:14:31