菅直人首相は7日の北方領土返還要求全国大会で領土問題解決への強い決意を表明した。ただ、ロシアのメドベージェフ大統領による国後島訪問や、沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件などで相次いだ「外交敗北」への謝罪や反省はなかった。やはり、いつもの根拠なき大風呂敷なのか。
「大統領の国後島訪問は許し難い暴挙だ。元島民が元気なうちに問題を解決したいと改めて決意した」
首相は大会でこう述べ、近い将来に問題を解決する気概を見せた。10~13日に訪露する前原誠司外相も「(領土を)できるだけ早く返還させるために政治生命を懸けて努力したい」と強調した。
その意気やよしだが、首相は「暴挙」という強い言葉でロシア側を刺激することに何らかの勝算はあるのか。それもなく「人気取り」のために思いついたとすればあまりに罪深い。前原氏の「政治生命」にも重みがない。なぜならば、首相の定義によるとこの言葉は「最大限努力していきたいという覚悟」(1月26日の衆院代表質問での答弁)にすぎないからだ。
「頑張れよお~!」
首相が会場を後にする際の声援はこの一声だけ。国民の期待値の低さを物語っている。そもそも昨年9月に中国漁船衝突事件が発生した背景には鳩山由紀夫前首相の発言がある。鳩山氏は首相時代の昨年5月、政府が「領土問題は存在しない」との立場をとる尖閣諸島についてこう述べた。
「(米国は)帰属問題に関しては、日本と中国の当事者同士でしっかり議論して結論を見いだしてもらいたい、ということだと理解している」まるで尖閣諸島を「領土問題」として中国と交渉のテーブルに着くかのような発言だ。首相がこれでは米国も自国民の犠牲を払って尖閣諸島を守る気にはならないはずだ。
米軍普天間飛行場移設問題の迷走により、ただでさえ日米同盟は軋(きし)んでいた。そんな中でこんな発言をすれば、中国は日米の不協和音を確信し、さぞほくそ笑んだことだろう。平成21年12月には、鳩山氏は、天皇陛下との会見を1カ月前までに申請するという「1カ月ルール」を破り、中国の習近平国家副主席の「特例会見」を強行した。小沢一郎幹事長(当時)率いる総勢626人の民主党訪中団が胡錦濤国家主席と記念写真を撮る「お礼」だったとされる。
外務省筋によると、これには外務省も宮内庁も猛反対したが、小沢氏がインドネシア外遊中の鳩山氏に国際電話をかけて「何をやっているんだ」と怒鳴り、ねじこんだという。
「日本は強く要求すればルールを曲げて応じてくる」。中国はそう学習したはずだ。中国漁船衝突事件の際の強硬かつ執拗(しつよう)な船長釈放要求はその学習効果の表れではないか。そして菅首相は中国の意向通りに昨年9月25日未明、勾留期限を待たずに船長を釈放した。
見逃せないのが、そのわずか2日後の27日にロシア・サハリンの地元通信社が「メドベージェフ大統領が訪問中の中国から北方領土に向かう計画だ」と報じたことだ。「大統領が北方四島を具体的に訪問するとは受け止めていない」
当時、首相は人ごとのようにこう語り、何の危機感も持ち合わせていなかった。一方、大統領はこの訪中で、先の大戦の対日戦で中ソ両国が共闘したとの歴史認識を確認している。中国と示し合わせた上での北方領土訪問だった可能性すらある。
鳩山、菅の2代の民主党政権は発足からまだ1年5カ月しかたっていない。にもかかわらず、戦後半世紀以上も積み重ねてきた日本の外交実績は一気に失われつつある。
民主党の菅政権はどうも底抜けの呆けのようだ。北方領土はロシアの実効支配が浸透して住民も1万人以上も居住している。そんなものを早期に返せと言っても戻ってくるはずもない。戻してもらったとしてもそこに住んでいるロシア人の生活はどうななるのか。実効支配の重さを何も理解していない。
外交はパワーゲームでただ返せと言っても簡単に返ってくるはずもない。力のバランスの上に立って微妙なせめぎ合いが続くだけだ。後ろ盾にひびを入れておいて口先だけで強がってみても足元を見られるのは知れている。今あるものをしっかりと手の内に握っておいて力のバランスを見ながら次の手を考える。切る札がなければそれを手にするまで原理原則を繰り返しながらじっと待つだけだろう。
原則は絶対に枉げない。何よりもこれが外交の大原則だろう。それをちょっと脅されたりおいしい札を見せられるとコロッと枉げてしまっては足元を見られるのは当然だろう。実効支配という事実はあまりに重い。北方領土にしても竹島にしてもどうしても取り返したかったら武力で取り返すしかない。
それほど重いことに軽々しく政治生命をかけるなどというのは悲しくなるほど事実認識が軽いか、国民をバカにしているとしか言いようがない。口で言って領土が戻るほど外交は甘くはないことを菅政権は骨身に滲みるまで学ぶべきだろう。
Posted at 2011/02/07 22:47:56 | |
トラックバック(0) | 日記