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2016年09月01日 イイね!

翼の向こうに(12)

翼の向こうに(12)


横須賀基地に着陸すると礼のつもりで操縦の下士官に煙草数箱を渡した。そして指定された隊舎に出頭すると佐山少佐が笑顔で迎えてくれた。


「こんなに早くまた顔を合わせるとは思わなかったな。まあ取り敢えず宿舎に行って身の回りの整理でもしていてくれ。後で呼びに行かせるから。」

 
高瀬のように実績のある戦闘機乗りならいざ知らず、私のように予備士官のひよこが何故ベテラン揃いの横須賀航空隊などに転属して来たのかその理由を聞きたかったが、あまりよけいなことを言わずに「よろしくお願いします。」とだけ挨拶して宿舎に向かった。
 
 
従兵に案内された宿舎は基地の片隅にある粗末な平屋だった。広間の奥にはベッドが並んでいたが、どこを使えばいいのか分からなかったので荷物を広間の隅に置くと椅子に腰を下ろして一体ここで何をやらされるのかを考えた。特攻隊にでも編成されて何処かに送られるのだろうか。どうせ遅かれ早かれ死ななければならないのだろうから死ぬことは仕方がないが、何時、何処で、どんな死に方をするのか、そんなことが気掛かりで仕方がなかった。それは取りも直さず死を恐怖し、生に執着しようとする思いがあるからと思うと自分の未練がましさが恥ずかしくなった。
 
 
しばらく何もすることもなく独りで薄暗い宿舎の中で悶々の思いで過ごしていると入口の開く音がした。私はその音に驚いて立ち上がった。


「従兵、入ります。」

 
部屋の外で威勢のいい声が響いた直後に先ほど私をここへ案内してくれた従兵が入って来た。


「飛行長から食事をお持ちするように言われました。『一五〇〇には戻るのでしばらくゆっくりしていてくれ。』との伝言がありましたのでお伝えします。食事がお済みになりましたら呼んでください。」

 
私はテーブルの上に食事を置いて出ていこうとする従兵を呼び止めた。


「飛行長?佐山少佐のことか。あの人は飛行長なのか。するとここは何かの飛行隊なのか。」

 
従兵は怪訝な顔をして私を見詰めた。何故そんなことを聞くのかと訝っている様子だった。


「自分には詳しいことは分かりませんが、新しい戦闘機隊を編成すると聞いています。飛行長は機材の調達のことで出掛けられています。」


「戦闘機隊?搭乗員は何処にいるんだ。それに機体や整備は。」


「搭乗員の方はまだ十数名しか集まっておられません。皆さん、訓練や要務で外出されています。機体も紫電が数機あるだけで、まだほとんど集まっておりません。でも海軍随一の精鋭戦闘機隊になると言っていました。」


「誰が、誰がそう言っていたのか。」


「飛行隊長の山下大尉です。それから山下大尉から『ベッドは空いているところを好きに使うように。』と伝言がありました。」

 
従兵は敬礼をすると部屋を出て行った。私は自分が来た部隊が戦闘機隊に編成されることを聞いて胸が高鳴るのを感じた。ひよこの予備士官でも戦闘機に乗って戦うのは夢ではあったが、まさか正規の戦闘機隊に配属になるとは思っていなかったからだった。

 
戦争は悲劇と破壊をもたらすだけの不毛な行為だという考え方には大いに矛盾することかもしれないが、私は戦闘機搭乗員として戦えることに本心興奮を禁じ得なかった。闘争心、敵愾心、そうした争いごとに向かおうとする心、誰もが心の中に持ち合わせているもので、それが人間の繁栄の一翼を担っていることは間違いのないことなのかも知れないと自分の現金な変遷を理由付けていた。

 
午後になると午前中の作業を終えた者がぽつりぽつりと戻り始めた。そのたびに立ち上がって挨拶をしたが、誰も特に関心を示してくれた者はいなかった。午前中に言われたとおり、午後三時過ぎに佐山少佐に呼び出された。そして司令の部屋に挨拶に行った。申告を済ませると、司令から「君のことは予備士官の中でも特に技量抜群ということで推薦を受けている。当隊は現在編成途上にあるが、編成を完了した後は海軍随一の精鋭戦闘機隊として日本上空の制空権を奪回し、それを突破口にしてこの困難な戦局の打開を図ることを任務とするつもりだ。そのためには装備も勿論だが、君達のような若い力を必要としている。どうか期待に背かぬ活躍を望む。」と訓示を受けた。

 
これまで特攻隊として遅かれ早かれ爆弾の部品として命を捨てることになるという半ば捨鉢な気持ちが、この訓示で吹き飛んで日本の防空の一翼を担えるという誇らしい気持ちが改めて沸き上がって来た。


「帝国海軍の伝統を受け継ぎ、これを汚すことのないよう誠心誠意努力いたします。よろしくお願いします。」

 
これまで口から出たことのない言葉が自然に出たのもこの思いがけない光栄に浴したからだったのかもしれない。佐山少佐の部屋に戻った時も司令の時と同じ挨拶をしようとして少佐の苦笑で押し止められた。


「知らない仲ではないのだし、張り切る気持ちは分かるが、そう畏まるな。まあそこにかけろよ。」

 
勧められるままに椅子に腰を下ろすと佐山少佐は数枚の写真を差し出した。その写真にはここに来る時、空中で出会ったあの試作機が写っていた。


「紫電二一型。紫電一一型の改良型だ。そう言っても零戦しか知らないだろうが、今度うちで使う戦闘機だよ。乗ってみるとなかなかいい戦闘機だ。あの時、君達が言っていたように発動機など色々問題はあるのだが、他にこれといった機体がない。零戦ではもうどうにも敵の新鋭機に対抗できなくなってしまっているからな。グラマンよりはずっとましな機体だが、これから出てくるP五一やサンダーボルドという敵の新型機にどの程度対抗できるかは分からない。

 
しかし、次期艦上戦闘機の烈風の開発がもたついている今、海軍は当面こいつに頼る以外にないからな。しかし、よく言ったもんだよ。君達も。本当にこの誉という発動機ももう少し余裕を持った設計をしていてくれたら使い易かったろうに。

 
いずれにしても近いうちに乗ってもらうことになるけれど、正直なところどうなんだ、君の腕は。」

 
聞かれた私も実際に戦闘を経験してはいないので何とも言い難かったが、一通りの高等飛行や空戦機動はこなして待機要員にも加わっていたことを話すと、佐山少佐は大きく頷いた。


「あの晩、君達に言われたように、この戦争は何もかもが間違っていたのかも知れない。その責めを負うのは当然我々であるべきなのだが、今となってはただこの日本の国土と国民を守るために君達の命が必要になるかもしれない。どうかそれを察して欲しい。」

 
大きく開かれた佐山少佐の目が涙で光っていた。私はその目に佐山少佐の誠実な人柄と苦悩を見たように思った。


「よろしくお願いします。」

 
私は不動の姿勢を取って佐山少佐に答えるとそのまま部屋を出た。戦闘機搭乗員として選抜された晴れがましさの上に逼迫して追い詰められた現実の戦局が覆い被さって返って息苦しささえ感じた。世の中のどこを向いても死ぬことばかりが強調されていた。この時代に死ぬことはごく当たり前の何所にもありふれた出来事だった。そうして誰もが死に対して何の感情も持たなくなったこんな時代を異常と感じている自分の方が異常なのか、良く分からなくなった。



Posted at 2016/09/01 20:49:37 | コメント(0) | トラックバック(0) | 小説2 | 日記
2016年09月01日 イイね!

防衛省、グレーゾーン、集団的自衛権などに対応のため訓令を改正




首相腹心の稲田新防衛相のもと、防衛予算増額か


防衛省が昨年10月1日に「防衛諸計画の作成等に関する訓令」を全面改訂していたことが明らかになった。

 

この事実を同省は明らかにしていないし、メディアも全く気付いていない。

 

筆者が知ったのも偶然であった。筆者が定期的に情報公開請求を行っている『陸上自衛隊報』(陸自の部内報に相当するもので、外部には非公開)で最近開示された第493号(2015年10月29日)に「防衛諸計画の作成等に関する訓令」が改定された旨の告知が掲載されたおかげだ。

 

同訓令はその名の通り、防衛省が防衛力の整備や運用に関するいくつかの「防衛計画」を作成する際の、プロセスを定めた規則である。

 

私が別途公開請求して開示された新訓令(A4で16ページ)はタイトルは旧訓令と同じだが、平成27年防衛省訓令第32号として新たに制定され、冒頭で「防衛諸計画の作成等に関する訓令(昭和52年防衛庁訓令第8号)の全部を改正する」と全面改定を行ったことを謳っている。

 

新訓令の最大の特徴は「統合機動防衛力の構築を推進する」ことを新たに目的として加えた点。全面改定された新訓令を読むと、この統合機動防衛力という目的に沿って、これまでの「有事」対処を主眼とした硬直的な防衛計画の作成プロセスを有事以外の事態、いわゆるグレーゾーン事態にも対応できるように変更したことが分かる。日本の防衛が、侵略を受けたときの「有事」への対応から一歩踏み出して、グレーゾーンという新たな状況にも、まさに実戦レベルで対応し始めたと言えるだろう。

 

では、「統合機動防衛力」とは何かご存じだろうか。第2次安倍政権が新設した「国家安全保障戦略」を踏まえて策定された防衛大綱(「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」)のキーワードとなる日本の防衛のための新概念だ。

 

統合機動防衛力は、純然たる平時でも有事でもない事態(いわゆる「グレーゾーン事態」)が発生した場合に、「必要な海上優勢・航空優勢を確保して実効的に対処し、被害を最小化すること」(『平成27年版防衛白書』)を狙いとしている。

 

グレーゾーン事態への対処は、現防衛大綱で初めて自衛隊の任務として具体的に明記された。それ以前に制定されていた旧訓令では、この事態への対処はそもそも想定されていなかった。

 

グレーゾーン事態に関し『東アジア戦略概観2014』(防衛研究所)は、「有事に対処する能力を整備するだけではなく、平素から常時継続的に防衛力を運用させていくことが、意図と能力を相手に認識させ、抑止力を実効的に機能させる上で重要になってきている」と説明する。

 

つまり今回の訓令全面改定は、有事対処を主眼としたこれまでの「防衛計画」では対処し切れないという防衛省の認識の現れなのだ。

 

新訓令では、防衛計画作成プロセスを計画の作成に留まらせず、統合機動防衛力の構築という任務を加えることで、グレーゾーン事態への対処に向けての態勢構築にも適用可能にしたと筆者は見ている。

 

では、グレーゾーン事態とは何か。一昨年の集団的自衛権行使容認を巡る連立与党協議で政府が提出した15事例では、具体的なグレーゾーン事態として以下の3事例を挙げている。



事例1:離島等における不法行為への対処
事例2:公海上で訓練などを実施中の自衛隊が遭遇した不法行為への対処
事例3:弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護

 

事例1は尖閣諸島を意識しているし、事例3は北朝鮮のミサイル発射が想定されるだろう。要するに、中国、北朝鮮からの脅威に対応しようとしているものだ。その意味では、最近頻発している接続水域への中国軍艦の進入、防空識別圏への中国軍機の進入などもグレーゾーン事態に整理できる。

 

このグレーゾーン事態への対処を盛り込んだ統合機動防衛力について『平成26年版防衛白書』は、前防衛大綱の「抑止概念に代わる新たな抑止力の考え方を示したもの」と説明しているが、明確な定義を示していない。白書の関連の説明を読む限り、規模的な概念ではなく、防衛態勢の有り様を示したものと言えそうだ。

 

明確な定義がない「統合機動防衛力」だが、安倍政権が集団的自衛権行使容認へと舵を切ったことと合わせて鑑みると、日本の防衛政策が、じわりと専守防衛の枠から抜け出ていく先ぶれとみることができるのではないだろうか。

 

なお、「統合機動防衛力」について政府は、「『質』と『量』を必要かつ十分に確保」(「防衛大臣談話」〔2013年12月17日〕)するとしている。

 

このうち「質」の確保が、今回の訓令の改定であったと言える。そして「量」の確保が、予算による裏付けだ。

 

防衛大綱を防衛力整備の面で具体化する「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)」では、これまでの中期防所要軽費が過去4回連続で当初決定総額が前期より減額されてきたのに対して、前中期防より約1兆2,800億円の増となった。

 

また第2次安倍政権は厳しい財政事情でありながら、内閣発足後に初めて編成された平成25年度予算以降、4年連続で防衛費を増額して財政面で統合機動防衛力を後押ししている。

 

折しも、内閣改造があった。安倍政権の統合機動防衛力の整備方針を忠実に実行するのが、稲田新防衛相の役割といえる。訓令の全面改正にともなう「防衛計画」の改定とともに、次のポイントは防衛予算の折衝になる。防衛省は首相腹心を大臣に得て、来年度も防衛予算増額の恩恵を享受することになるだろう。




状況に応じて適切かつ具体的に対応できるよう規定を整備するのはいいことだ。でも所詮は部内規定だろう。予算はそれなりに確保は出来ているようだ。でも2%ばかりの増加でメディアもずい分と大騒ぎをするものだ。実際には補正予算で取得している分もあるのでもう少し増えているんだろうけど、・・。





Posted at 2016/09/01 16:14:51 | コメント(0) | トラックバック(0) | 軍事 | 日記
2016年09月01日 イイね!

日本の気候は明らかに変わっている。




台風10号の進路北側に位置した岩手県岩泉町では8月30日夜に、1時間50ミリを超える非常に激しい雨が降り、町内を流れる小本川の水位は川岸の高さを最大で約3メートルも上回っていた。

 

気象庁によると、台風10号は北東側に活発な雨雲を伴い東北地方に接近した。岩泉町での降水量は台風が上陸した午後6時までの3時間に125ミリに達した。

 

グループホームから直線距離で約3.3キロ下流に位置する小本川の赤鹿観測所では水位がぐんぐん上昇。午後6時過ぎには川岸の高さを超え、午後7時からの1時間で一気に1メートル50センチ上がり、午後8時に6メートル61センチにまで達した。

 

川の水は蛇行するカーブの外側であふれやすい。約800メートル上流には小本川がほぼ直角に曲がる場所がある。早大の関根正人教授(河川工学)は「あくまで一般論だが、川が蛇行する場所ではカーブの外側へ飛び出す力が働いて氾濫や決壊が起きやすい」と話す。

 

岩手県は小本川の川幅を広げる改修計画を検討中だったが、避難指示の判断材料となる氾濫危険水位は設定していなかった。県は計312河川を管理しており、順次設定を進めていたという。

 

台風10号は統計のある昭和26年以降、東北地方太平洋側へ上陸した初のケースだった。小本川の水位は少なくとも過去10年以内ではもっとも上昇したという。岩手県河川課の担当者は「危険度は他と比べて低いと判断していた。台風が初上陸だったことの影響は今後分析する」と話した。




日本近海で台風がぼこぼこ発生したり、時間雨量80ミリだの100ミリだのと言う雨が降ったり、やはり日本の気象は変わっているんだろうなあ。これまでは水利の便がいい河川敷の付近や谷が開けた山麓に集落が発達してきたが、これからは水害の恐れがある河川敷付近の低地や土砂崩れの恐れがある山麓周辺は住んではいけないな。今回被害に遭ったグループホームも、「なぜこんな河川敷に、・・」と思うところに作られている。過去に同種の被害がなかったからと言って、今はもう川の側は危ない。





Posted at 2016/09/01 11:58:43 | コメント(0) | トラックバック(0) | その他 | 日記
2016年09月01日 イイね!

民進党は選挙が第一、政権などはグリコのおまけ程度




野党第一党の党首選といえば、将来の首相候補を選ぶ重要な選挙のはずだが、民進党のそれはまるで学級委員選びかと見紛うほどの低レベルだ。出馬表明した蓮舫氏の前に、細野豪志氏や江田憲司氏、枝野幸男氏、そして若手の玉木雄一郎氏といった有力議員は軒並み不出馬を表明している。

 

民進党代表選が盛り上がらないのは、蓮舫氏のライバルたちがまるでババ抜きのように、対立候補に担がれないように出馬を固辞しているからにほかならない。


 

そんな中で「5年ぶり3度目の出馬」を表明したのが、前原誠司・元外相だ。甲子園じゃあるまいに。


 

前原氏と蓮舫氏は安保政策が正反対。蓮舫氏が集団的自衛権の行使容認反対の立場で「憲法9条は絶対に守る」と公約して左派にも支持を広げているのに対して、前原氏は集団的自衛権賛成派。後がない前原氏は「負けたら党を割る」くらいの覚悟で安保論争を挑むかと思っていたら、出馬に必要な20人の推薦人集めに苦労し、なりふり構わず政策的に一番遠い左派の赤松グループ(旧社会党系)に支援を要請して断わられた。


 

それでも負けを覚悟で出馬に踏み切ったのには事情がある。


「勝ち目がないのを承知で出馬を表明したのは、若手が玉木を担ぎ出すのを防ぐため。蓮舫vs玉木の勝負になれば、党内は一気に世代交代して自分たちの出番がなくなる。野田、岡田、前原、枝野といったかつての民主党七奉行世代(*)は蓮舫代表の下で党の実権を握り続けようとしている」(若手議員)





【*2003年頃から渡部恒三氏が呼び始めた呼称で、野田、岡田、前原、枝野の4氏に、仙谷由人氏、玄葉光一郎氏、樽床伸二氏を加えた7人を指した】


 

政治評論家の有馬晴海氏は民進党の体質をこう分析する。


「民進党が今回の代表選で党の存在をアピールするには誰か対立候補を立てなければならない。そこで前原氏に出てもらって、票が蓮舫氏に集中しすぎないように、それなりに前原氏に入るようにする。傍から見れば出来レースに映ってしまう、そんな代表選の展開になるのではないか。


 

自民党の総裁選は候補者たちがガチンコで勝ちを取りに行く。それに比べて民進党は民主党時代からガチンコで喧嘩しない。だから負けた方は負けを認めずに、妙な遺恨が残ってその後も党内がゴタゴタするわけです」


 

こんな茶番を続けていたら国民の信頼を取り戻すなどほど遠い。野党は共産党だけ、ということになりかねない。




民進党の究極の目的は政治がどうの、政権がどうのではなくて選挙で何人当選するかですからねえ。間違って過半数を取って政権がついてきてもそれはグリコのおまけくらいにしか思っていないでしょう。そのレベルで政治をやるからずっこけるし、国を崩壊に導くんですね。


Posted at 2016/09/01 11:57:28 | コメント(0) | トラックバック(0) | 政治 | 日記
2016年09月01日 イイね!

翼の向こうに(11)




「起床、起床、待機所に集合。」

 
部屋の中に高瀬の大声が響いた。驚かそうと思ったのかもしれないが、とっくに起きて支度を整えていた私はゆっくりと襖を開けて高瀬の前へ出て行った。


「なんだ、もうすっかり支度は済んでいたのか。」

 
私を慌てさせようという当てが外れた高瀬はつまらなそうにつぶやいた。私達は二人の芸者に支払いを済ませると航空隊に向かって急いだ。


「どうだった。楽しんだか、昨夜は。」

 
高瀬が大きく吸い込んだ空気を吐き出しながら言った。


「お前はどうだった。」


「ああ、やった、やった。随分命の洗濯をさせてもらったよ。小梅、あれはいい女だ。自分の仕事をよく心得ている。」

 
高瀬は大きく伸びをしながら自分が買った女を褒めた。


「そういう言い方をすれば俺の小桜は落第だな。個人と戦争という話で一晩終わってしまったよ。彼女の弟な、海兵を出て山城に乗り組んでいたらしい。」

 
山城という名前を言った時、高瀬の肩が小さく動いたように見えた。


「山城か、スリガオで見たよ。扶桑と並んでレイテ目指して進んで行ったよ。その晩、二隻とも撃沈されたってな。艦隊上空は通過禁止なんで翼を振りながら近づいて行ったら大勢甲板で手を振っていた。今時の戦争に飛行機の援護もなく敵艦載機の大群に蹂躙されるのはさぞ悔しかったろうに。何だか立ち去り難くて、しばらく上空を旋回していたよ。あんな旧式艦まで駆り出して、しかも何の意味もなく犬死にさせて。小桜って言ったよな、お前の女。苦労して弟を海兵に入れたんだろう、気の毒にな。」

 
酔いと睡眠不足ではっきりしない頭の中を世界、国家、民族、社会、個人、色々なものが複雑に絡み合って頭の中をぐるぐる回っていた。いきなり「誰か!」という門衛の誰何で我に返った。何時の間にか私達は基地の正門まで来ていた。気が付いて考えてみれば我々は門限破りの脱柵だった。「まずい。」と思っていると高瀬は銃を構えた門衛に向かって「横須賀航空隊の高瀬中尉だ。御苦労。」と一言答えて胸を張って門を通った。

 
高瀬の気迫に押されたのか、門衛はそれ以上問い質すこともなく「ご苦労さまです。」と我々に敬礼するとそのまま門を通した。


「貫禄だな。」


私が言うと、高瀬は「何、何度も弾の下を潜ってきたからな。こんなこと朝飯前だ。」と言って胸を張った。

 
基地に入ってから高瀬とはすぐに別れてそれぞれの宿舎に戻った。もう生きて会うことはないかもしれない別れにしては、お互い『元気でな。』といった程度の軽い別れだった。そして私はその日の午前中に新しい機体を受領して自分の所属する基地に戻った。

 
自分の所属する部隊に戻って訓練と待機任務の繰り返しで追われるように時間を過ごしていたある日、従兵が私を呼びに来た。


「武田中尉、司令が呼んでおられます。」

 
従兵に言われて私は背筋が強張った。真っ先に横須賀のあの晩のことが頭に浮かんだからだった。


「分かった。ありがとう。」

 
従兵に答えて立ち上がったが、子供の頃職員室に呼ばれた時のように足は重かった。


「武田中尉、入ります。」

 
司令室のドアをノックすると中に入った。司令の表情は特に普段と変わらなかった。私の呼び掛けに司令は顔を上げた。


「おう、武田中尉、入れ。」

 
言われたとおり司令の前に進み出ると私は型通りの挨拶をした。私を見ても特に難しい顔をするでもなく、司令は「まあ、そこに掛けろよ。」と言って私に椅子を勧めた。私が勧められるままに椅子にかけると司令は相変わらず穏やかな表情で言った。


「武田中尉、君と顔を会わせるのも今日が最後になってしまった。技量抜群の君を手放すのは本職としても誠に残念なのだが、君に転勤命令が来ている。発令は明日付けだ。急なことでご苦労だが、すぐに支度をしてもらいたい。」

 
司令が差し出した辞令を開いてみると『横須賀航空隊付きを命ずる。』という文字が目に入った。


「先方に佐山という少佐がいるそうだ。明日からの君の直属の上官になる。横須賀航空隊に着任したら佐山少佐の指示を受けるように。」

 
私はその場で立ち上がると命令を復唱した。そしてこれまでの礼を言ってから部屋を出ようとすると司令に呼び止められた。


「武田中尉、貴様次官を知っているのか。」


「先日、機体の受領に横須賀に行った時に偶然料亭でお会いして一献いただきました。特にそれ以外に次官と面識はありません。」

 
私は簡単に答えたが司令は含み笑いを浮かべて私を見返した。


「次官とは海軍省で御一緒した仲でな。もう一人の仲間と大分気勢を上げたらしいな。次官もたじたじだったらしいぞ。あの剃刀と言われた次官が。」

 
すべては筒抜けだったと知って私は恐縮しきって司令室を後にした。

 
急な転勤命令とはいっても持ち物もほとんどなく、まして家財道具や家族があるわけでもなかった。飛行隊長に申告した後はそのまま送別の宴会となってしまった。翌朝は午前6時に部隊の見送りを受けて複座の連絡機に同乗して横須賀へ向かった。


「分隊士、約二時間で横須賀に到着します。到着予定は〇八〇〇の予定です。」

 
伝声管を通して操縦を担当している下士官の声が聞こえた。


「分かった。」

 
一言答えて地上を振り返った。半年を過ごした基地が遠く後に小さく見えた。小一時間後席で転た寝をしていると、また伝声管を通して耳に弾けるように響いてきた操縦の下士官の声に起こされた。


「一一時の方向に試験飛行中の新型機。迂回します。」

 
言われるままに左上方を見上げると試作機や練習機に使われる赤味がかった黄色に塗装した単座の戦闘機らしい機体が目に入った。


「新型の戦闘機か。」

 
下士官に尋ねると「紫電を改良した戦闘機です。通称『紫電改』と呼ばれています。」という返事が返ってきた。


「少し近付けないか。」

 
初めて見る新鋭戦闘機は零戦と違ってスマートさはないが、力こぶが盛り上がったように逞しいその機体に魅力を感じた。


「飛行中の試作機に接近することは禁止されています。」

 
下士官は素っ気無く答えると機体を右に旋回させてその試作機から離れていった。

Posted at 2016/09/01 00:09:42 | コメント(0) | トラックバック(0) | 小説2 | 日記

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