今年4月から施行される、新「防衛計画の大綱」(大綱)、「中期防衛力整備計画」(中期防)による自衛隊の「変化」で、見逃されている重要なポイントがある。それは「航空自衛隊の戦闘機は、空中戦専門のF15戦闘機を含めて、すべて対地・対艦攻撃が可能な『戦闘攻撃機』に切り替わる」という事実である。敵のレーダーを攪乱させる電子戦機も保有することから、自衛隊は今後、米軍に頼ることなく単独でも「敵基地攻撃」能力を持つことになる。
護衛艦「いずも」の空母化ばかりに目が奪われがちだが、今まさに自衛隊は、空母保有を含めて攻撃的な兵器体系に移行しようとしている。事実上の「軍隊」を目指す方向性が鮮明に打ち出され、「専守防衛」は風前の灯火となりつつある。
「戦闘機」から「戦闘攻撃機」へ
昨年12月18日に行われた大綱、中期防の閣議決定に合わせて、同日、次のような閣議了解があった。
「F35Aの取得数42機を147機とし、平成31年度以降の取得は、完成機輸入によることとする。(略)新たな取得数のうち、42機については、短距離離陸・垂直着陸機能を有する戦闘機の整備に替え得るものとする」
解説が必要だろう。米国製の新型戦闘機F35Aは、老朽化したF4戦闘機の代替として42機の導入が始まっている。105機も追加するのは、F15戦闘機のうち改修不能なタイプの99機と入れ換えるためだ。ただし追加の105機のうち、42機は垂直離着陸ができるF35Bにする、というのだ。
F35Bと機種を特定していないのは、まだ機種選定手続きが行われていないためだが、他に候補機は存在しないのだから、公平性を装う一種の茶番でしかない。ともかく、この閣議了解を受けて、航空自衛隊の「戦闘機」はすべて「戦闘攻撃機」に生まれ変わることになる。
2018年3月31日現在、航空自衛隊の戦闘機は、空中戦の専用機で対地・対艦攻撃ができないF15が201機。一方、対地・対艦攻撃もできるF2、F4、F35Aは合計148機にとどまるため、航空自衛隊が空中戦に力を入れていることがわかる。これは航空自衛隊の主任務が、他国の軍用機に日本の領空を侵犯させない「対領空侵犯措置」にあるからだ。
各基地の戦闘機は、日本の領空より外側に設けられた防空識別圏に入り込む他国の軍用機に対してスクランブル発進し、領空侵犯を未然に防止する。スクランブルのための緊急発進待機は、三沢基地に配備されて間もないF35Aを除く、3機種すべてで実施している。
本来の空軍力においては、ミサイルや爆弾を投下して敵を制圧する打撃力が特に重要視されるが、自衛隊は守りに徹するため、「航空自衛隊というより空中自衛隊だ」と自らを揶揄する航空自衛隊幹部もいた。それも間もなく、過去の話になる。
今回の閣議了解と大綱、中期防により、改修できないタイプのF15は長射程の巡航ミサイル「JSM」を搭載できるF35A、F35Bと入れ換わる。また別の巡航ミサイルの「JASSM(ジャズム)」と「LRASM(ロラズム)」は、改修できるタイプのF15とF2への搭載を目指す。これにより、F35A、F35B、F15、F2という4機種すべてが巡航ミサイルを搭載できるようになる。
ちなみにJSMはノルウェー製で射程が500kmあり、JASSMとLRASMの射程はともに900kmもある。これらのミサイルを、航空自衛隊の戦闘機に搭載して日本海から発射すれば北朝鮮に届き、また東シナ海から発射すれば中国にまで届く。
これまで政府は「他国に脅威を与えるような大陸間弾道弾、長距離爆撃機、攻撃型空母は保有できない」と説明してきたが、「戦闘攻撃機と巡航ミサイルの組み合わせ」は実質的に「長距離爆撃機の保有」と何ら変わりない。遂に自衛隊が「敵基地攻撃」能力を持つことになるのだ。
完全な「方向転換」
「敵基地攻撃」とは、1956年に鳩山一郎内閣が示した政府見解である。鳩山首相は「誘導弾等の攻撃を受けて、これを防御するのに他に手段がないとき、独立国として自衛権を持つ以上、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨ではない」として、敵基地攻撃を合憲とした。
1990年代以降、北朝鮮による弾道ミサイル発射が繰り返されるたび、自民党が自衛隊の敵基地攻撃能力保有を求めてきたが、政府は自衛隊が保有できる兵器を「自衛のための必要最小限度のものでなければならない」とし、「自衛隊には敵基地攻撃能力はない」と答弁してきた。
この答弁通り、戦闘機に関しては、F4から空中給油装置を取り外して航続距離を制限していたが、1980年代に調達を開始したF15以降の戦闘機は空中給油装置を外すことをやめた。
その後さらに、飛びながら燃料供給できる空中給油機を導入して戦闘機の航続距離を延長。上空から敵の動向を探る空中警戒管制機(AWACS)も導入し、領空に踏み込んだ戦闘機を統制できるようになった。
海上自衛隊が将来の空母保有に備えて、艦橋を右舷に寄せた空母型の輸送艦や護衛艦を建造してきたのと同様、航空自衛隊も「敵基地攻撃」に踏み切る「その日」に備えてきたのだ。
そして、今回の大綱・中期防で、巡航ミサイルの導入と妨害電波を出して敵のレーダーをかく乱させる電子戦機の保有を決定したことにより、自衛隊の「敵基地攻撃」能力は「ない」から「ある」に180度方向転換することになる。
海上自衛隊が空母化する「いずも」は、米国と中国が対立する南シナ海など海外での戦闘機運用を可能にする攻撃的兵器であり、「敵基地攻撃」能力の一環とみることができる。
自衛隊が攻撃的兵器体系の保有へと歩を進め、のみならずその総仕上げを迎えたのは、自民党国防部会の「大綱提言」が安倍晋三内閣によって丸呑みされたからにほかならない。ためらう自衛隊制服組を無視して、大綱・中期防をまとめたのが自民党であり、安倍首相だった(2018年12月19日、現代ビジネス「『いずも空母化』は自衛隊の要望ではなく実は『自民党主導』だった」)
米国に払うカネは「安くても1兆2000億円」
他国は自衛隊の変化に驚きを隠さない。大綱・中期防の閣議決定を受けて、中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道官は「強烈な不満と反対」を表明した。その一方で、米国のトランプ大統領は大いに目を細めていることだろう。閣議了解の中に「(F35Aの)平成31年度以降の取得は、完成機輸入によることとする」とあるからだ。
防衛省は、日本の航空機産業を育成するため、F4後継のF35Aを国内で組み立てることを決め、三菱重工業、三菱電機、IHIの防衛産業3社に合計1870億円を支払い、生産ラインを完成させた。
だが、米政府は日本での組み立てを認める代わりに、米政府が価格を一方的に決める対外有償軍事援助(FMS)方式を譲らなかった。日本で生産されるF35Aは書類上、一旦米政府の所有となり、それから日本政府に売却される。この回りくどい方式の中で米政府は完成機の輸入より50億円以上も高い1機150億円の値をつけた。これでは高すぎるので、国内組み立てを止め、米国からの直輸入に切り換えるというのが今回の閣議了解の意味である。
防衛省が掲げた「国内企業参画」の目標など、もはや消えたも同然。生産ラインの構築に投じた巨額の費用もドブに捨てることになる。「計画は失敗、税金は無駄遣い」となったが、安倍政権が責任を取るはずもない。米政府から購入する105機分の総額は、安く見積もって1兆2000億円にもなる。トランプ米大統領が嬉々として「日本がすごい量の防衛装備品を買ってくれる」と話したのは、このことを指している。つまるところ、日本政府は面白いように米政府のワナにはまり続け、引き続き米政府の「言いなり」となっているのである。
大綱・中期防には米国から輸入するミサイル迎撃システムの「イージス・アショア」導入も明記された。これにより、防衛省が米国にFMSで支払う総額は、2019年度だけで7013億円に達する。過去最高額は2016年度の4881億円だから、新記録の更新だ。日本の防衛費は、米政府の「第二国防費」の様相を呈している。
安倍首相は政権発足から1年後の2013年末、現行の大綱・中期防を閣議決定した際、「向こう10年を見通して策定した」と説明した。これを5年で前倒し改定したのは、16年の安全保障関連法の施行を受け、軍事への傾斜を強めたからに他ならない。
ひとりの首相のもとで大綱・中期防が改定されたのは、これが史上初めてだ。安倍政権下で、日本の安全保障政策が急速に右旋回していることの証明である。
「専守防衛」と言うのは日本が軍事力を行使する場合の大方針を示したもので言わば「基本的戦略」とでもいうべきものである。外国から急迫不正の侵害を受けた場合、これを打ち払う必要最小限の武力行使しかしませんと言うのが専守防衛だろう。これは国家の政治レベルの問題であってそれを個々の戦術レベルにまで持ち込むべきではない。万策尽き果ててもう軍事力に頼るしか日本の平和と独立を維持する手立てがないと言うときにその平和と独立を守るべき軍隊の手足を縛って不利な状態にして戦えというのは何とも不自然で理不尽だと思うがいかがなものだろう。やるからには最も効率的に侵攻軍を撃破して日本の平和と独立を守るべきで戦術に関してはその専門家に任せるべきじゃないだろうか、・・(^。^)y-.。o○。
Posted at 2019/02/05 16:08:24 | |
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