2年に一度の陸海空自衛隊による実動統合演習が11月に全国各地であり、離島奪回訓練が鹿児島県の種子島で報道陣に公開されました。強風、高波の悪天候でしたが、沖合の艦艇から発進した水陸両用車が続々と上陸。そこまで見せつける背景には、中国への変わらぬ警戒感とある狙いがありました。(朝日新聞編集委員・藤田直央)
ヘリで沖合の輸送艦へ
報道陣は11月14日午前9時に旧種子島空港に集合し、陸自ヘリCH47で島の南数キロの沖合へ。約20分で海自最大の輸送艦「くにさき」甲板に着きました。離島奪回訓練の取材で、艦尾のドックから水陸両用車AAV7が発進するのを見るためです。
ヘリを降りると、幅25mを超える広い甲板が左右に揺れています。飛行中のヘリの窓からは晴れて穏やかに見えた海ですが、艦上では時折しゃがむほどの風と波。遠くで全長26m超の海自のエアクッション艇も木の葉のようです。陸海空から艦艇3隻、水陸両用車16両、1500人が参加する過去最大規模の離島奪回訓練――。しかし実はこの時点では、悪天候で中止するかもしれないと自衛隊から言われていました。一帯には強風注意報と波浪注意報が出ていました。水陸両用車は海上を浮かんで進みますが、水上艦よりは沈み込む一方で潜水艦のような機密性はなく、荒波に激しくもまれれば乗員の命に関わります。訓練ではあえて海へ出る必要性は実戦よりもちろん低いので、中止は時折あるのです。「くにさき」に着いてしばらくすると、自衛隊から「訓練は実施されます」と伝えられました。その取材が目玉だと期待する報道陣からは喜びと安堵の声がもれました。
陸海空3将官が意義強調
報道陣は甲板から大型の昇降機でドックへ。水陸両用車が並び、顔にも迷彩を施し銃を持った隊員らが乗り込む準備をしています。昨年に発足した陸自水陸機動団(長崎県佐世保市)の面々です。その前に、報道陣同様にCH47ヘリで「くにさき」に着いた陸海空の3将官が並び、取材に応じました。この離島奪回訓練の仕切り役です。訓練全体の指揮官は、海自掃海隊群(司令部・神奈川県横須賀市)の白根勉司令です。「我が国は多くの島嶼を保有しています。敵が侵攻する場合に迅速に部隊を展開し、海上優勢、航空優勢を確保しつつ上陸を阻止し、敵が占拠した場合はあらゆる手段を使って奪回します」と強調。「このようなオペレーションでは陸海空部隊の統合運用が極めて重要になります」と訓練の狙いを述べました。上陸部隊を指揮するのは、陸自水陸機動団の青木伸一団長。「水陸機動団からは800名と最大規模の参加です。発足して1年半になり、(海空との)統合のスタイルもできあがってきた。まだまだ完全ではないが最大限の能力を日々発揮しています」と語りました。東京・横田に司令部がある空自航空総隊の柿原国治幕僚長は「空自は水陸両用作戦での航空支援、つまり上空から戦闘機などで火力支援をする役割を担います。海上・陸上部隊の要請に的確に応えることが求められ、訓練は統合運用をさらに進化させます」と語りました。横揺れが続く中、私は水陸機動団の青木団長に水陸両用車の上陸について「荒れていますが、これぐらいなら大丈夫ということですか」と聞きました。「運用上の話で明確に言えませんが、後ほど見ていただければわかります。できる状況です」と返ってきました。
水陸両用車が次々発進
海上は西から北西の風13~15m、波高1.5m。午前11時ごろ、離島奪回訓練が始まりました。艦尾のハッチの方へ、1両21トンを超える水陸両用車10両がキャタピラとエンジンの音を響かせながら集まりました。ハッチがスロープのような形で外へ倒れると、うねる海面が現れます。艦尾で発進管制を担う隊員が赤い旗を振るたびに、1両ずつ黒煙を上げて急発進。最初は飛び込むような感じで8割方沈み、少し浮いて、種子島へ針路を取りました。報道陣はそれを見届けると、「くにさき」甲板からCH47ヘリで旧種子島空港への復路です。窓からは、一列になって種子島南端の前之浜を目指す水陸両用車が見えます。白波が立つ海面は往路と同じですが、全く穏やかに見えませんでした。島の真ん中辺りの旧種子島空港に着くと、報道陣は各自の車で前之浜へ。次は水陸両用車が上陸する様子の取材です。レンタカーでサトウキビ畑に囲まれた国道58号線を南へ走りながら、私はこの訓練の意味を考えました。指揮官を務める海自の白根司令は「特定の国や地域を念頭に置いたものではない」と話しましたが、自衛隊の人々が中国を意識していることは想像に難くありません。東シナ海の沖縄県の尖閣諸島を日本政府が2012年に「国有化」すると、領有権を主張する中国との関係が緊迫しました。首脳往来は再開しましたが、尖閣周辺領海への中国公船の侵入は続いています。中国は南シナ海では東南アジア諸国と領有権を争う岩礁で一方的に埋め立てを進めています。日本は東シナ海で米国との同盟により中国の進出を牽制していますが、まずは自ら備えようということで南西諸島防衛を強化しているわけです。
「報道も抑止に貢献」
離島防衛のために陸海空の自衛隊が連携を強めないといけない事情は、先に「くにさき」艦内で3将官が語った通りです。私が考えたのは、その連携ぶりを今回なぜここまで報道陣に披露してくれるのかということです。もちろん訓練公開には内外への自衛隊をPRする狙いがありますが、見せすぎると敵に手の内をさらすことになります。今回は水陸両用車が輸送艦から発進する様子を国内で初めて公開し、しかもぎりぎりの判断だったことを示したわけです。訓練なので、実戦での能力はこんなもんじゃないぞという意味では牽制になるかもしれません。しかし私がはっと思い当たったのは、「くにさき」乗艦中に自衛隊幹部がくだけた感じで語った「皆さんの報道も抑止に貢献しますよ」という言葉でした。実戦には兵士の命がかかり、報復の応酬でエスカレートしかねません。避けたいのはどの国も同じで、そのために力を示して相手を牽制するのが「抑止」です。一部の国での軍事パレードは国威発揚の面もありますが、抑止のわかりやすい例です。
日本で言えば、陸海空自衛隊の実動統合演習は2006年に始まって今年で7回目を数えます。米軍に頼らず自衛隊だけで「対処」する力を磨く場と言えますが、それだけでなく、その力を対外的に示して「抑止」に生かす場となってきているのです。
ただ、防衛省・自衛隊が離島奪回訓練を「特定の国や地域を念頭に置いたものではない」とする一線は変わりません。中国が念頭などと言えば「抑止」どころか刺激をしてしまい、デメリットが大きくなってしまいます。だからこそ、若干手の内をさらすデメリットがあってもメディアに公開し、「報道も抑止に貢献」してほしいのです。私は「くにさき」艦上で悪天候下でも訓練があると知った時、思わず「さすが」と口にしましたが、迂闊だったかなと思いました。
絵になるなあ……
午後1時過ぎ、報道陣が種子島南端の前之浜に着くと、水陸両用車10両はもう着いており、地元の人たちが見に来ていました。写真を撮っていると10両は次々と海に入り、半分はそのまま輸送艦へ戻りましたが、半分が波を越え再び上陸してきました。車両後部の扉から顔まで迷彩の面々が現れ、報道陣の近くまで前進して銃を構えます。「くにさき」艦内で見かけた水陸機動団です。絵になるなあとシャッターを切り、午後2時過ぎに取材は終了。レンタカーで種子島空港へ戻って夕方の便を待つ間、「これもウィズニュースのため」と動画をたくさんツイートしてしまいました。
離島防衛、水陸機動団はソ連と言う仮想敵を失った陸自の生き残りをかけた新構想ではある。3万トン級の大型強襲揚陸艦建造なんて言う話もあったが、今、引っ張りだこで艦艇、人員ともに自転車操業の海自はこれに巻き込まれてなるものかと「陸自で勝手に輸送艦を運用すればいいだろう」と突き放している。軍隊と言うのは良くも悪くも敵がいるから人も金も取れるのであって敵のいない軍隊は衰退していくだけなのである、‥(^。^)y-.。o○。
Posted at 2019/11/17 14:32:11 | |
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