クルマの世界にインパクトを与えた航空技術
text:Tom Evans(トム・エヴァンス)
今日、クルマにつかわれている技術は、もとは軍事や航空向けに発明されたものが数多くある。わたし達が普段何気なく使っているものも、実はかなり異なる用途や目的を持っていた。
アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)
EUおよび米国で生産されるクルマへの装着が義務化されている、アンチロック・ブレーキ・システムは、フランス航空界のパイオニア、ガブリエル・ヴォアザン(1880-1973、写真左)によって発明された。航空機はしばしば、タイヤを破裂させることなく、前線近くの短い滑走路に着陸、停止しなければならなかった。そこで、ヴォアザンは、第一次世界大戦の終わり頃に生産した軍用機(写真右)に、初歩的な機械形式のABS技術を採用した。
■クルマに使われているアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)
ABSは、今日のロードカーの最も重要な安全機能の1つだろう。ほとんどの路面、ほとんどの条件で、各車輪のブレーキ圧力を変化させてロックアップを防ぎ、クルマをより速く停止させることができる。この技術は、1966年に英国の4輪駆動スポーツカーであるジェンセンFFのロードカーに最初に採用された。1970年には、電子制御式ABSが、さまざまなクライスラーモデルに採用されたが、メルセデス・ベンツは、1978年にさらに洗練された4輪マルチ・チャンネル・システムをSクラスW116に導入した。
ヘッドアップディスプレイ(HUD)
ヘッドアップディスプレイ(HUD)の歴史は第二次世界大戦以前にさかのぼる。射撃の正確性を高めるため、航空機の照準器に十字線を追加したのが始まりだった。戦時中、イギリス空軍は、レーダースクリーンをモスキートの夜間戦闘機のフロントガラスに反射させることに成功した。この技術は戦後、徐々に高度になり、さまざまな脅威の兆候を戦闘機のディスプレイに表示できるようになった。
現在では民間航空機でも使われている。
■クルマに採用されているヘッドアップディスプレイ
HUDは、オールズモビル・カトラス・シュープリーム・コンバーチブル・インディ500ペースカーのプロダクションカーに最初に搭載され、1988年に50台がカスタマーに提供された。1990年にデジタルディスプレイに速度が表示される機能がオプションとして、オールズモビル・カトラス・シュープリーム・サルーンに採用され、より定着したものとなった。GMは、同社が1985年に購入したヒューズ・エアクラフトの名残であるヒューズ・エレクトロニクスの子会社からこの技術を入手した。
ヒーテッド・ウィンドスクリーン
導電性コーティングで覆われたガラス板に電流を流すことで、ガラスを加熱する機能のことを言う。低温や高地でフロントガラスの凍結を防ぐため、第二次世界大戦中の航空機で広く使われていた。戦後、安価で製造できるようになったため冬のクルマのフロントガラスの除氷への利用が検討されるようになった。フォードが初めてこのシステムを採用し、1974年のアメリカ国内のさまざまなモデルに使われたが、信頼性は低かった。1985年、ヨーロッパ向けフォード・グラナダ(写真上)とフォード・トーラス(写真下)およびマーキュリー・セーブルに、より技術の高いヒーテッド・ウィンドスクリーンが採用された。現在ではフォードの定番となっており、他の多くのメーカーでも採用されている。
チタン
素材としてのチタンは、非常に強く、軽く、腐食に強く、航空宇宙産業に最適とされている。機体の92%がチタンで作られていた、アメリカのロッキード社製SR-71「ブラックバード」偵察機(写真)は、皮肉にもそのほとんどのチタンがロシアから調達されていた。
■クルマで使われているチタン
チタンの利点はクルマにも当てはまるが、コストが高いため、通常の量産モデルには使用されていない。チタン排気システムを搭載したコルベットC7などの、プレミアムスポーツカーやスーパーカーに採用されている。2015年、世界初のフルチタン・スーパーカー、ICONAヴルカノが210万ポンド(3億円)で発表された。
V8エンジン
1902年にフランスの先駆者レオン・ルヴァヴァッスール(1863-1922)によって発明された最初のV8エンジンは、カナード機に取り付けられ、その後、第一次世界大戦中に戦闘機に搭載された。V8エンジンは当初、プロジェクトの財政支援者の娘にちなんで「アントワネット」と呼ばれていた。
■クルマに搭載されているV8エンジン
V8エンジンの発明なくしてクルマの歴史は語れないだろう。今日の小型化時代でも、多くの人気のあるスポーツカーに搭載されている。アメリカでは依然として人気が高く、ピックアップ、SUV、およびダッジ・チャレンジャーSRTのようなマッスルカーで採用されている。
レーダー
このテクノロジーは英語のRAdio Detection And Ranging(電波探知測距)を略してレーダー(Rader)と呼ばれるようになった。1930年代、空爆を恐れる多くの国々で、他の国に知られないよう秘密裏に開発された。レーダーは、爆撃機への攻撃をいち早く察知することで、戦いをより公平なものにすることができた。
1940年の英国空中戦で、イギリスがドイツ空軍に対して使用した、チェーンホーム・レーダーシステム(写真)が最初の成功例とされている。
■クルマに使われているレーダー
レーダーのクルマへの使用は、1982年、トヨタがコロナにバックソナーを取り付けたのが始まりだ。1998年、メルセデス・ベンツはレーダー技術をW220 Sクラスに使用し、量産車で利用可能なアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)を世界に紹介した。
GPSナビゲーション
位置がわからなくなり、燃料を使い果たし、墜落するというパターンは、第二次世界大戦の数年後まで、非常に多かった。そこで、1950年代に米国政府は衛星を利用した、航空機、船舶、潜水艦の位置をグローバルで把握するトランシットシステム(写真)を立ち上げた。1993年には、はるかに正確なシステムである、Global Positioning System(GPS)に置き換えられた。
■クルマに搭載されているGPS
マツダ・ユーノス・コスモは、1990年にGPSを利用したサテライトナビゲーションを装備した最初の量産モデルとなった。1994年には、BMW(7シリーズE38)がヨーロッパで、翌年にはGMのオールズモビルがアメリカで、それぞれ初めてGPSを搭載したモデルを発表した。オールズモビルは、ガイドスターと呼ばれるシステムを採用した。すべてのGPS対応機器は米国空軍の善意により運営されている。
燃料噴射装置
燃費、出力、および信頼性を大幅に向上させた燃料噴射装置は、アントワネットV8航空機エンジンで最初に使用された。第二次世界大戦中には、戦闘機エンジン、特にメッサーシュミットBf 109(写真)のようなドイツ製エンジンで広く普及した。特定の操作中に電力を失う可能性のあるブリティッシュ・スピットファイアなどの航空機で使用されていたキャブレター・エンジンに対し、燃料噴射装置付きのエンジンは優位に立つことができた。
■クルマ用の燃料噴射装置
最も注目すべき燃料噴射装置エンジンの1つに、メッサーシュミットBf 109で使用されているダイムラー・ベンツDB 601のV12エンジンがある。戦後の時代を象徴する新しい魅力的なスポーツカー用の高性能パワープラントが必要だったダイムラーは、DB 601のシリンダーを半分に減らし、容量を33.9Lから3.0Lに縮小してもなお、243psを実現するエンジンを開発した。こうして、1954年にニューヨークショーで発表された、かの有名なモデル、メルセデス300SL「ガルウィング」のエンジンが生まれた。このモデルには、機械式燃料噴射装置が採用された。電子制御式燃料噴射装置は、1958年にクライスラーが生産したさまざまなモデルで採用されている。
ターボチャージャー
ターボチャージャーは、圧縮した空気をエンジンの燃焼室に送り込み、より多くの電力を生成する。1905年に特許を取得したが、1915年になって初めてターボチャージャーが燃焼機関に取り付けられた。フランス人エンジニアのアウグスト・ラトー(1863-1930、写真左上)は、第一次世界大戦中にフランスの戦闘機に搭載されたルノー・エンジンにターボを取り付けた。ラトーの独創的なシステムは、高度に関係なく、エンジン内の空気圧を一定に保つことができたため、空気が薄い場所でもその性能を発揮することができた。
■クルマに搭載されているターボチャージャー
今日、ターボチャージャーはクルマのガソリンエンジンで広く使われていて、比較的小さなエンジンから大きなパワーを生成するのを助けるため、燃費の向上に重要な役割を果たしている。ディーゼルエンジンにとっても、出力とトルクを向上させることのできるターボチャージャーは必要不可欠なものとなっている。
(AUTOCAR JAPAN)
民生技術と言うのは軍事技術から派生しているものが多い。地球上でもっとも好戦的な生物である人間は戦うことに関しては血道を上げて力を尽くす。車で画期的だったのはABS、レーダー、GPS、燃料噴射装置、過給機辺りだろうか。熱線ガラスなどは当たり前、チタン素材は車よりも鍋かまの世界が多用されているようだし、多気筒エンジンはエコで絶滅危惧種だろう。ABSは登場した時は車が変わるかと思った。その後、何台かABS付きの車に乗ったが、今のところ、ABSの世話になったことはない。レーダーも画期的だった。AH64戦闘ヘリに雨中でも使用可能なミリ波レーダーが装備されたという話を聞いていたが、車にミリ波レーダーがつくというのでどういうことだと思った。なんと衝突防止装置のためだった。排気タービン過給機も今は世界市場の9割が日本製と言うが、太平洋戦争当時は日本では実用的な過給機が作れず、高度1万メートルを飛行して都市無差別爆撃をするB29に有効な打撃を加えられず日本中丸焼けになった。当時、日本に実用的な過給機があればB29にもう少し痛い目を見せられたかもしれない。GPSはこれも画期的なデバイスで今では車もバイクもGPSなしでは乗れなくなった。当初は自車位置と目的地の方向を示すだけだったが、最近は様々な機能が加わって多様化している。スマホで代用している人が多いが、スマホは徒歩を基準にしているのでとんでもない道を案内することが多いとか聞く。燃料噴射装置も太平洋戦争中にドイツのボッシュ製の燃料噴射装置を購入して国産したものを三菱の金星エンジンなどに使っていたようだ。車の燃料噴射装置も採用当初は異常燃焼を起こすなんてこともあったようだが、最近の内燃機関では直噴が当たり前になっている。HUDは一部の車でフロントガラスに速度を表示する程度には使われているようだ。もっと多くの情報を表示してもいいと思うが、読み取りに忙しくなって事故を起こすなんてことがあるかもしれない。この先、最も大きく変わりそうな技術と言ったら自動化と動力だろうか。軍事の世界では兵器の無人化が進んでいるが、車も同様に自動運転技術が進んでいる。また動力も内燃機関から電力へと変化している。最近は8輪駆動の電動装甲車が8輪を微細に制御して超信地旋回をするなどという研究がおこなわれているが、この辺りは民生技術が軍事に転嫁するという逆転現象が起こるかもしれない、・・(^。^)y-.。o○。
Posted at 2020/02/15 10:43:37 | |
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