【日本の安全保障戦略】
安倍晋三前首相が「打撃力保持を検討すべきだ」と述べてから、まもなく1年となる。ロシアは核兵器を実戦用に小型化し、「核の先制攻撃があり得る」と公言している。中国は、米国とロシアが中距離核全廃協定で手を縛られている間に、台湾、日本、グアムを射程に入れる中距離核ミサイルの増強に余念がなかった。北朝鮮もついに核兵器を保有した。核兵器を持たない台湾と韓国でさえ、射程500キロを超える中距離弾道・巡航ミサイルを保有している。
日本だけは「専守防衛」ということで、ミサイル防衛の整備に徹し、中距離ミサイルを保持しなかった。北東アジアの全ての国が弾道・巡航ミサイルの開発配備にひた走る中でである。剣道の乱捕り稽古に、真剣白刃取りで臨むようなものである。ミサイル防衛は高価なシステムである。数千万円するかどうか分からない北朝鮮のミサイルを撃ち落とすイージス艦発射の迎撃用ミサイルは最新型で1発約30億円する。米軍のトマホーク巡航ミサイルでさえ1発2億円程度である。ただでさえ厳しい防衛予算でミサイル防衛だけに特化するのは合理的ではない。
また、ミサイル防衛は完全ではない。北朝鮮の恫喝(どうかつ)には対応できても、中国やロシアのミサイル飽和攻撃にはとても対応できない。しかも、最近では極超音速飛翔(ひしょう)体というマッハ5を超えるミサイルが登場し始めた。それは、今の日本のミサイル防衛能力をはるかに凌駕する。
残念ながら、いまだに日本の議論は1956年の時点(=鳩山一郎首相が衆院内閣委員会で、敵基地攻撃能力の保有は合憲だと表明した)で時計が止まっている。当時、自衛隊には何の攻撃能力もないにもかかわらず、「日本は敵の核ミサイルを先制攻撃してよいのか」という議論がかしましかった。しかし、最近のミサイルは北朝鮮のものでさえTELと呼ばれるトラックに載せられて深夜の森の中を走り回る。先制攻撃など出来はしない。今、議論すべきは、「撃たれたら撃ち返す」という意思を示して、相手をどう抑止するかという議論である。抑止力強化の議論である。もとよりそれは個別的自衛権の枠内の議論である。
核の報復については、米国の核の傘に依存するしかない。日本が核不拡散条約批准に応じたのは、米国が核の傘の提供を保証したからである。だが、通常弾頭のミサイルについては日本も自力で努力すべきである。すでに航空自衛隊は離島防衛のために射程1000キロの巡航ミサイルの取得を認められている。敵に撃つのを止めろと言うには、「撃ったら撃ち返すぞ」と言う覚悟がいる。平和は懇願するものではない。守るものである。
■兼原信克(かねはら・のぶかつ) 1959年、山口県生まれ。81年に東大法学部を卒業し、外務省入省。北米局日米安全保障条約課長、総合外交政策局総務課長、国際法局長などを歴任。第2次安倍晋三政権で、内閣官房副長官補(外政担当)、国家安全保障局次長を務める。19年退官。現在、同志社大学特別客員教授。15年、フランス政府よりレジオン・ドヌール勲章受勲。著書に『戦略外交原論』(日本経済新聞出版)、『歴史の教訓-「失敗の本質」と国家戦略』(新潮新書)など。
専守防衛と言うのは、「開戦即本土決戦」と言うことで始まれば必ず被害が生じる。国家と国民の脅威になるものはできるだけ遠いところで撃破するのが戦術の基本である。また「平和、平和」といくら熱心に神仏に祈っても神も仏も守ってはくれない。同盟国であってもまずは自分から血を流す覚悟がなければ相手にはしてくれない。技術の革新で戦いの様相も変化している。かつては50キロ、100キロ程度だったミサイルの射程も500キロ、1000キロ以上になっている。そんなところに短距離ミサイルを吊り下げて飛び込んでいくのは自衛隊員に「死ね」と言っているようなものである。相手の侵略意思を押しとどめるのは平和の祈りではなく「やったら痛い目を見るぞ」という力の備えである。南沙諸島をあっという間に席巻した中国が尖閣諸島に簡単に手が出せないのも日本がそれなりの軍事力を備え、後ろの米国があるからである。自ら戦いを仕掛ける必要はないが、国土と国民を守るためには武力を行使する覚悟が必要である、‥(^。^)y-.。o○。
Posted at 2021/03/23 11:27:57 | |
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