【日本の覚醒】
三木武夫内閣は1976年、第一次防衛大綱で「基盤的防衛力構想」を打ち出した。力の真空をつくり自らが不安定要因とならないという構想だった。「国民を守る」という国防の原点が失われていた。自衛とは、脅威対抗である。自分より強い敵に囲まれて、自分で勝手に最低限の防衛水準など設定すれば、いざとなれば敵に蹂躙(じゅうりん)されるだけである。
基盤的防衛力構想の実態は、冷戦中、総勢40万を誇る極東ソ連軍が北海道に侵攻してくれば、米シアトル(ワシントン州)やハワイ(ハワイ州)に撤収した米陸軍や米海兵隊が駆け付けるまでの数カ月間、ソ連軍を北海道にくぎ付けにすることにあった。陸上自衛隊と航空自衛隊が玉砕覚悟で踏ん張り、海上自衛隊が米第七艦隊とともに米軍の来援を護送する。自衛隊の力が尽きるころ、米軍が日本列島に上陸してソ連軍をやっつけるという構想だった。ひところよく言われた「限定小規模対処」とは、ソ連軍の大規模侵攻があれば、全滅しかけた自衛隊が4回の表でリリーフの米軍と交代するということに他ならない。「国民不在、米国頼りの敗北主義」である。
基盤的防衛力構想は、その後も日本の防衛政策を縛ってきた。その結果、自衛隊の継戦能力は著しく低くなった。日本は「米軍が来るまで数カ月持てばよい」という軍隊を育ててきたのである。弾がない。弾薬庫もない。部品が足りないから戦闘機も飛ばない。高価な戦闘機は青空の下で甲羅干しだ。自衛隊の神経中枢というべき指揮命令中枢も地上にむき出しだ。潰してくれと言わんばかりである。いざとなれば多くの傷病兵が出る。従軍する医師も足りない。これで日本が守れるのか。この10年、中国の軍拡は天を衝く勢いだ。習近平国家主席は「台湾武力併合」の野心を隠さない。
自衛隊の最高幹部たちは、戦略的重心を徐々に南に移してきた。陸上自衛隊は与那国島をはじめ、南西諸島に新たに基地を開き、長崎には水陸機動団の一個旅団が立ち上がった。東シナ海で劣勢な海上自衛隊は、フリゲート級、コルベット級の護衛艦増強に大わらわだ。滑走路爆撃を覚悟した航空自衛隊は、短距離離陸と垂直着陸が可能な最新鋭ステルス戦闘機「F35B」の導入を決めた。しかし、足腰の弱さは覆うべくもない。
安倍晋三元首相は在任中、防衛費を約1兆円増やしたが焼け石に水である。日本の防衛力増強は喫緊の課題である。防衛費は「GDP(国内総生産)比2%」でも足りない。平和はタダではない。「各省予算の活用」「国債増刷」「増税」の三本柱で財源の確保が必須である。
かねはら・のぶかつ 1959年、山口県生まれ。81年に東大法学部を卒業し、外務省入省。北米局日米安全保障条約課長、総合外交政策局総務課長、国際法局長などを歴任。第2次安倍晋三政権で、内閣官房副長官補(外政担当)、国家安全保障局次長を務める。19年退官。現在、同志社大学特別客員教授。15年、フランス政府よりレジオン・ドヌール勲章受勲。著書・共著に『戦略外交原論』(日本経済新聞出版)、『安全保障戦略』(同)、『歴史の教訓』(新潮新書)、『日本の対中大戦略』(PHP新書)、『国難に立ち向かう新国防論』(ビジネス社)など。
冷戦時代にソ連が40万の兵力を北海道に着上陸させて侵攻を継続できたかどうかはちょっと疑問だが、それでも当時の自衛隊の戦力では10万のソ連軍でも対応に苦慮しただろう。日本がこれまで描いてきた「当座を凌げば米軍が来援して敵を追い払ってくれる」という都合のいいシナリオが今回のウクライナ侵攻や中国の台湾侵攻の脅威で吹っ飛んで雲散霧消してしまって日本有事は日本が独力で対応するという現実を突きつけられてしまった。だから大慌てで防衛力の増強に走ったんだろう。それにしても装備を買い込んでも人はどうするんだろう。それに長期にわたる戦闘に耐えられるような兵站補給、後方施設や燃料弾薬の備蓄なども必要だろう。そして何よりも最も効果的な防衛戦略の確立と国民の理解が不可欠だろう。いつまでも「専守防衛」などと言う過去の因習に縛られている場合ではない、・・(^_-)-☆。
Posted at 2022/12/17 22:07:28 | |
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