日本政府は、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の導入を決めた。12月16日の閣議で新たに決めた反撃能力は、敵の射程圏外から攻撃できる長射程のミサイルを使った「スタンド・オフ防衛能力」を活用する。国家防衛戦略は「2027年度までに、地上発射型及び艦艇発射型を含めスタンド・オフ・ミサイルの運用可能な能力を強化する」としている。トマホークはその「つなぎ」とみられ、政府は来年度予算にトマホーク取得予算として2100億円余りを計上するという。
そして今、一部でかまびすしいのが「トマホーク役に立たない論」だ。トマホークは1980年代から配備が始まり、湾岸戦争やイラク戦争など、様々な戦闘で使われてきた、「現存するなかで、最も信頼性の高い巡航ミサイル」(自衛隊幹部)だ。ただ、弾頭重量は1千ポンド(約450キロ)で、2千ポンド級もある地上攻撃用爆弾と比べれば、見劣りがする。「鉄筋コンクリートの建物に穴は開けられるが、完全に吹き飛ばすほどの力はない」(同)。トランプ米政権は2017年4月、シリア軍の基地などにトマホーク59発を発射したが、大きな打撃を与えるには至らなかったとされる。速度も900キロ足らずのため、携帯式防空ミサイルシステム「スティンガー」で撃墜されることもあった。
事前に目標の座標と画像を入力し、GPS機能と画像照合システムで飛行するため、精密攻撃に適しているが、米軍に現在配備されているトマホークは移動する標的は狙えない。米軍はすでに、地上や海上を移動する目標を攻撃できる改良型トマホークの実験を終えているが、配備は2~3年ほど先になると言われている。こうしたことが、「トマホーク役に立たない」論者の根拠になっている。
元海上自衛隊海将補で徳島文理大人間生活学部の高橋孝途教授(国際政治・安全保障論)は「役に立たない論」について2種類あると指摘する。高橋氏は「それは、持ってはいけない論者と、論理的に考えた結果論者に分類できます。前者は、そもそも反撃能力は憲法・専守防衛違反だから、トマホークを持つなどとんでもないという人々。こうした方たちは、トマホーク役に立たない、という議論を積極的に支持します」と語る。
これに対し、後者の人々は、日本政府は、これから反撃能力を構築するのに、装備の導入を先に決めるのは「順番が違うのではないか」と主張する。日本が反撃能力の導入を正式に決めたのは12月16日だ。これから、反撃能力を使うための情報収集の仕組み、指揮体系、発射プラットフォーム、配備場所などについて詳細に詰める必要がある。関係者の1人によれば、「トマホーク導入」は確かに、こうした議論の積み重ねの結果決まったのではなく、どちらかといえば、政府高官らの「トマホークがあるじゃないか」といった「半ば思いつき」(同)によって決まったという。
切迫した状況に直面
高橋氏は、後者の主張は傾聴に値すると評価しつつ、「それでも導入を決めた背景を理解する必要があるのではないでしょうか」と語る。「日本の安全保障環境はかつてないほど悪化しています。一日も早く準備をしなければならない以上、とりあえず、手に入るものは先に手に入れるという発想は間違いではありません。トマホークもスーパーで野菜を買うようなわけにはいきません。発注してから生産、引き渡し、操作員の養成などに時間がかかります。その間に、反撃能力の全体システムを構築しようということなのでしょう」
それでも、「役に立たないトマホークを買っても意味がないではないか」という主張は残る。自衛隊幹部は「確かに、中国やロシアが保有するS300やS400といった近代的な防空システムがあれば、トマホークの相当数は撃墜される可能性があります。でも、相手に届く兵器があるのとないのでは、まったく効果が違います」と語る。「トマホークがあれば、相手がそれを防衛している間、こちらが作戦を遂行する時間を稼ぐことができます。評論家の方々は、トマホークの能力にだけ注目しがちですが、作戦全体を考えた場合、トマホークは有力な手段になり得るのです」
また、今回の反撃能力に否定的な主張の論拠には2つの種類があるようにみえる。ひとつは、「護憲・平和論」だ。理念は貴いものがあるし、大事にしたいが、こうした人々もロシアによるウクライナ侵攻や、中国軍が今年夏に台湾周辺で行った軍事演習に賛成しているわけではない。国家安保戦略が反撃能力の根拠として掲げる「日本周辺の安保環境の悪化」にはある程度の理解があるとみられる。つまり、こうした人々は「令和の状況」を認めながら、「主張は昭和のまま」という状態に陥っているようにも見える。
もう一つは「増税反対論」だ。この反発の背景には、岸田文雄首相がまず、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に出てきた「国防費のGDP(国内総生産)比2%」の流れに乗り、「金額先行」の流れを作ったという事情がある。ただ、自民党ベテラン議員の言葉を借りれば、「自分の財布を開けてでも、平和と安全を守ってくださいという気分になれない」という心理状態もあるだろう。政府が議論の進め方を間違えたために起きた反発が、「自分の財布を開けてでも、平和を守ってもらわないといけない状況」を直視できない状況を生み出している。
来年の通常国会での予算審議で、政府が走りながら考えている、「トマホークを、どのような状況で使うつもりなのか」「どんなシステムを構築し、どんな目標を狙うのか」といった具体的な議論が絶対に必要だ。ここで論理破綻したら、導入を諦めるしかない。逆に政府が議論から逃げたら、トマホークを持っても、国民の支持や団結を得られない。
日本は、そのくらい切迫した状況に直面している。(牧野 愛博)
通常弾頭の巡航ミサイルをいくら装備しても核抑止力のような抑止力にはならない。核弾頭だと都市が一つ消し飛ぶが、トマホークが命中してもビルが一つ崩壊する程度で威力には天文学的な格段の差がある。また発射手段を攻撃すると言っても秘匿された移動目標を狙うなど不可能なことは過去の例が証明している。しかし相手の射程外から攻撃できる兵器があるとないでは天と地ほどの差がある。特に日本に侵攻を企てようとした場合、当然揚陸艦による侵攻艦隊を組んで侵攻するが、いつどこから狙われるか分からないと言う圧迫感があるし、トマホークは飛行速度が遅いとは言ってもすべてを撃墜することは困難だろうから当然被害は出る。大型の強襲揚陸艦などが被弾すれば侵攻作戦は頓挫する可能性が高い。専守防衛などと言うが、「開戦即本土決戦」で国民に被害が出ないと反撃できないなどと言う考え方は理不尽ではある。戦争などすべきではないが、人間が存在する限り戦争はなくならない。有事に国民の身体生命財産を守るのが国家の義務ならもう少し合理的な考え方を導入すべきだろう。増税は嫌だと言うが、軍事力と言うのは周囲の状況に影響される度合いが非常に大きい。日本の周辺は中国、北朝鮮、ロシアにどっちに転ぶか分からない韓国と日本の味方は全くない。北朝鮮は弾道弾だけでその目は米国を向いているので日本には大きな影響はない。ロシアにしても大規模北朝鮮と言ったところで日本に侵攻するような能力はない。一番危険な国は中国だろうけど中国にしても日本に全面侵攻する能力はないが、台湾侵攻に併せて南西諸島の制圧くらいならやりかねない。いきなり上陸と言うことはあり得ないので上陸地域の軍事力をミサイルや航空攻撃で無力化してから上陸と言うことになるが、南西諸島の自衛隊を制圧してさあ上陸と言うそんな時に九州辺りからミサイルが飛んでくると言うのは中国にとっては何とも厄介だろう。日本の防衛費増額や長距離ミサイル装備で中国が「そんなものなんでもない」と強弁したり日本周辺でしきりに示威行動を繰り返すのは「嫌なことをしやがるな」と思っている証だろう。お上も「反撃能力」などと曖昧な言い方をしないで「具体的かつ明白に日本国民の安全を脅かすような対象は日本から可能な限り遠方で撃破する。そのための長距離ミサイルの装備だ」とはっきり言えばいい。戦後の間もない時期から70年以上が経って軍事環境は劇的に変化している。専守防衛もその変化を考慮して形を変えていくべきだろう。いくら尊い理念があっても具体的な手段がなければ国家と国民の安全を担保することはできない、・・(^_-)-☆。
Posted at 2023/01/02 14:23:20 | |
トラックバック(0) |
軍事 | 日記