尖閣諸島北方120kmの公海上で、中国海軍のフリゲート艦が海自護衛艦「ゆうだち」に射撃管制のレーダーを照射した挑発行為から1ヶ月近くが経過するが、いまだ中国から謝罪の言葉はない。それどころか「日本の捏造(ねつぞう)」と逆ギレする始末である。
中国が絡むと事実関係がうやむやにされがちなのは毎度のことだが、レーダー照射を仕掛けた“容疑者”については、すでに中国上層部のある人物の名前が挙がっている。中国問題に詳しいジャーナリストの富坂聰氏がこう明かす。
「レーダー照射は日本だけでなく、中国の政治指導部もギョッとしたはずです。外国記者の質問に絶句するなど、華副報道局長の態度を見ても、中国外務省や党指導部がレーダー照射の事実を知らなかったのは明らかです。私の得ている情報では、レーダー照射を命令した人物として、中国海軍の最高幹部の名前が浮上しています。対日強硬論者として知られ、習近平(しゅう・きんぺい)新指導部の日本への対応ぶりは手ぬるいと、日頃から不満を口にしていたそうです」
その最高幹部とは中国海軍ナンバー2の徐洪猛(じょ・こうもう)海軍副司令官だ。
ただ、ここで疑問が生じる。中国は共産党の中央指導部のもと、一枚岩の団結を誇っているというイメージが強い。果たして中央指導部の許可もなしに、人民解放軍の一機関にすぎない海軍幹部が、独断でレーダー照射という挑発行為を発令することができるものなのか?
この疑問に中国評論家の黄文雄(こう・ぶんゆう)氏が答える。
「大いにあり得ます。総書記に就任したばかりの習近平には、まだ解放軍をきっちりコントロールする力はありません。しかも、その解放軍も陸軍、空軍、海軍で意見がバラバラときてる。ひとつ言えることは尖閣諸島問題については、海軍が最も強硬だということ。だから海軍が陸軍や空軍、さらには党指導部や外務省に黙ってレーダー照射という挑発行動に出ることは、十分にあり得ることなんです」
こうした中国海軍の跳ねっ返りぶりについては、日本でも次のような証言がある。中国情勢に詳しいノンフィクションライターの安田峰俊氏が言う。
「海上自衛隊関係者から直接聞いた話なんですが、ここ一年、明らかに中国海軍の動きがおかしくなっていると、現場サイドでは感じているそうです。具体的に言うと、あえて日中関係を緊張させるような行動が目につくと言うのです。しかも、その行動が日々にエスカレートしていると危惧していました。総書記になったばかりで、胡錦濤(こ・きんとう)の前体制からの移行期にある習近平が今、レーダー照射を命じて日中関係を緊張させても、彼の負担が増えるだけ。かえって習近平体制のリスクが高まります。今回のレーダー照射は中国海軍の一部派閥の独断で実行に移されたと考えるのが妥当だと思います」
中国海軍のイケイケドンドンぶりについて、前出の黄氏はこうも指摘する。
「香港に『フェニックステレビ』という放送局があります。実は、この局のオーナーが海軍をはじめとする人民解放軍なんです。そのため、将官クラスの軍人が頻繁に番組に出演するんですが、そこでよく飛び出るのが『もし日本と戦争になったら、わが解放軍は30分以内に日本自衛隊を殲滅(せんめつ)できる』という発言。どこまでも自信たっぷりなんです。ただ、実際にはアメリカもロシアもさらには中国の分析でも、日中が海戦をしたら中国の解放軍は日本自衛隊に負けるとされています(笑)」
中国の海軍が、こうした強硬な態度を取るのはなぜか。
「そんな海軍が尖閣の海域で過激な行動を繰り返すのは、解放軍内における軍事予算の争奪戦という意味合いもあるんです。海軍が日本に強い姿勢を示せば示すほど緊張が高まり、陸軍や空軍よりも優先的に多額の予算をせしめることができるという寸法です」(前出・黄氏)
中国海軍の行動からは、日本を挑発して危機を煽(あお)り、国内でのし上がってやろうという魂胆が透けて見えるのだ。
かつて予算を削られ、権益を陸軍に奪われるのを恐れて勝ち目がないと分かっている戦争に踏み出して壊滅し、多くの犠牲を払った海軍があった。言わずと知れた帝国海軍だ。国家の安全よりも自分が所属する組織の利益を守ろうとするのは万国共通なのだろうか。軍事力と言うのはその存在を以って戦争を抑止すると言うのが本来の姿だろうが、どうもそんなことは机上の空論なのだろうか。
Posted at 2013/02/25 22:48:29 | |
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