スミソニアン航空宇宙博物館の別館は、米首都・ワシントンの玄関口であるワシントン・ダレス国際空港(バージニア州)にほど近いところにある。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の首席交渉官会合の取材で訪米した機会を利用し、訪ねてみた。
映画「トランスフォーマー2」の舞台にもなった別館には、今はもう空を飛んでいないエールフランスの「コンコルド」や、日本人宇宙飛行士も搭乗したスペースシャトル「ディスカバリー号」など多彩な機種を間近に見ることができる。マニアでなくても楽しめる展示内容だ。
中でも目を引いたのは、昭和20年8月6日に広島に原爆を投下したB29爆撃機「エノラ・ゲイ」だった。鏡のように銀色に輝く怪しげな機体からの原爆が、無辜の一般市民を含め推計14万人を惨殺し、今も後遺症で悩まされる人々を生じさせたかと思うと、不気味さが一層募る。
1995年、原爆投下から50年を機にワシントン中心部のスミソニアン航空宇宙博物館本館でエノラ・ゲイの機体の展示企画が持ち上がった。「原爆投下は正義だったか否か」の論争が巻き起こったのは記憶に新しい。当時の館長辞任にまで至る騒動になったが、今は別館に移り、原爆に関する際だった説明も見当たらなかった。
気になったのは、エノラ・ゲイの大きな主翼の下にある機体だった。日の丸が塗装された旧日本海軍の誇る戦闘機「紫電改」だった。たまたま機体を配置する上でそうなったのかどうか。展示の意図は知らないが、「米国が日本を制圧した」という印象を受けた。制圧したのは事実だが、何とも屈辱的だ。
紫電改の近くには、水上攻撃機「晴嵐」や航空特攻機「桜花」、夜間戦闘機「月光」が完全に復元された形で展示され、翼を欠いて胴体だけの「屠龍」もあった。全部エノラ・ゲイに見下ろされているようだった。これだけの旧日本軍の戦闘機を一カ所に集めて展示している場所は、日本国内にもないだろう。いかにも戦果のようにして米国の国立施設に展示されていることを考えると、なんとも不快な気分になった。
ワシントン中心部の博物館本館も訪ねた。いま映画「風立ちぬ」で話題の零戦があった。隣には旧ナチスドイツ空軍のメッサーシュミット機もあった。展示エリアでガイドが訪問者になにやら説明していた。英語は苦手なので正確には分からなかったが、要は米国は正義のために日本やドイツの戦闘機と戦った-という趣旨の説明だったように記憶する。説明を聞き、いかにも米国の栄光の歴史に関心した風の米国人を見て、いい気分ではなかった。
米議会の近くには「ニュージアム」という建物がある。ニュースとジャーナリズムの博物館といったところだ。たまたま通りかかったのも何かの縁と思い、22ドルを払って中に入った。ちなみに航空宇宙博物館含めワシントンの多くの博物館は無料だ。
ここも見応えはあった。本物のベルリンの壁や、2001年9月11日の米中枢同時テロで破壊された世界貿易センタービルの鉄塔部分などを展示していた。社会党委員長だった浅沼稲次郎氏暗殺の瞬間の写真を含むピューリッツァー賞を受賞した写真の数々や、ケネディ元大統領暗殺の特集など盛りだくさんだった。取材中に戦渦の犠牲となったジャーナリストの写真展示もあり、昨年シリアで亡くなった山本美香さんの写真もあった。
「本日の新聞1面ギャラリー」というコーナーがあった。世界各地の80以上の新聞の1面をずらりと展示するというこの博物館の売りらしい。
だが、そこに日本の新聞は一つもなかった。欧米の新聞がほとんどで、米国にとって「日本は世界を代表する国ではない」とでも言いたいのだろうか。それとも日本の新聞の影響力がないということか…。
圧巻は「ニュースの歴史ギャラリー」だ。1545年以降の大きな出来事などを伝える新聞を保存・展示しており、「歴史的価値のある1面コレクション」なのだという。
その中で「PEACE!」(平和!)と大きな見出しを掲げた1945年のロサンゼルス・タイムズ紙号外が目を引いた。日本が太平洋戦争で全面降伏したことを伝える内容で、「Japs」(ジャップ)という文字もあった。富士山をバックに旭日旗が燃えている絵も掲載し、「やっと日本人どもをやっつけてやったぜ」という歓喜の様子がひしひしと伝わってくる紙面だった。その新聞を堂々と「歴史的価値」のある出来事として今も展示している米国人の本音が垣間見えた。
博物館は、その国の権威の象徴なのかもしれない。かつて英国ロンドンの大英博物館を訪ねたときもそうだった。大英帝国時代に世界中から集めた(?)芸術・文化の品々を展示し、かつて世界に君臨した時代を彷彿させる展示内容だった。
それに比べれば、日本の博物館はなんとおとなしいことか。国のために亡くなられた英霊の遺品などを収蔵した靖国神社の遊就館は、時に国内外から「戦争の美化」と批判される。米議会から「事実に基づいていない展示」と干渉を受けたこともあるし、修学旅行での訪問が問題視されて以降、取りやめとした関西地方の中学校まである。なにをかいわんや、である。
今回の米国の博物館訪問は基本的には興味深い内容が大多数で、別に不平・不満だらけだったわけではない。そもそもこちらが勝手に訪れただけであり、少し卑屈に感じすぎるのかなとも思うが、ところどころで味わった屈辱は決して忘れまいと心に誓った次第である。
おのれ、鬼畜米軍、天誅を加えん。地獄に堕ちろ。今さらそんなことを言ってみても始まらないが、戦争に正義はない。勝った方が正義を作り上げる。それが戦争の真実だろう。太平洋戦争は日本と米国が西太平洋と東南アジアの覇権を賭けて戦った戦争だった。その戦争に勝った米国が正義を作り上げた。それだけのことだ。
「思い知ったか、鬼畜米軍 紫電改の奮戦」(↓)
http://blogs.yahoo.co.jp/ntkd29/52304644.html
Posted at 2013/09/29 23:02:37 | |
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