国産初のステルス戦闘機開発に向けた試作機「先進技術実証機」(ATD、通称・心神)が来年1月、初の飛行試験を行う。日本の先端技術を結集した軽量化の徹底が図られ、「平成の零戦」とも呼ばれる。日本の国産戦闘機構想は、1980年代のFSX(次期支援戦闘機)選定をめぐり米国の横やりが入り、日米共同開発に落ち着いた過去もある。自衛隊や防衛産業にとって、悲願ともいえる“日の丸戦闘機”は果たしてテイクオフできるか。
「心神」は、防衛省の委託を受けた三菱重工業など国内企業が平成22年から開発に着手した。開発の場となった三菱重工名古屋航空宇宙システム製作所は、零戦を生んだ同社名古屋航空機製作所の流れをくむ。これも航空ファンが「心神」と零戦を重ね合わせる理由だ。
ちなみに「心神」は正式な名称ではない。開発構想初期に防衛省内で使われ始めたとされる。由来も定かではなく、防衛省担当者は「われわれは『心神』という名前を採用しているわけではない」と言いながらも、ついつい「心神が…」と呼んでしまうほど定着しているようだ。
「心神」は全長約14メートル、全幅約9メートル、全高約4.5メートル。炭素繊維の電波吸収材により、敵のレーダーに映りにくくするステルス性能を備える。燃料装置の小型化や炭素繊維強化プラスチックを使用することで軽量化も図り、高い運動性を目指す。
国産が難しかったエンジンは、IHIが開発した。エンジンと飛行を一体的に制御することで、機首を上方の敵機に向けたまま失速せずに前に進むことも可能だ。「高い温度で動けば動くほど能力が上がる」(防衛省担当者)ため、エンジン部品にはセラミックス複合材を使用した。従来のニッケル合金では耐熱性が1000度程度だったのに対し、約1400度にまで向上したという。
防衛省が国産戦闘機にこだわるのは、国内防衛産業の保護という側面もある。F2戦闘機94機の生産は平成23年9月に完了し、生産ラインは動いていない。このまま放置すれば関連企業が戦闘機事業から撤退し、日本の技術基盤が失われる恐れがあるからだ。防衛省の試算では、仮に国産戦闘機が導入されれば4兆円の新規事業が生まれると想定し、8.3兆円の経済波及効果と24万人の雇用創出効果をはじき出した。
国産であれば「機体に不具合が生じた際に素早く対応できるメリットもある」(航空自衛隊関係者)。一方、政府・与党には「日本の戦闘機は日本で作る」という技術ナショナリズムものぞく。
「戦闘機は国の空を守る重要なアセット(装備品)だ。それをわが国の独力の技術力で保持するのは防衛政策にとってもシンボリックな事業だ」
空自出身の宇都隆史参院議員(現外務政務官)は4月10日の参院外交防衛委員会で、小野寺五典防衛相(当時)にこう迫った。
このとき、小野寺氏は「わが国の防衛に必要な能力を有しているか、コスト面での合理性があるかを総合的に勘案する」と述べるにとどめた。防衛省は国産戦闘機の開発費を5000億~8000億円と見積もっているが、追加的な経費がかさみ、1兆円を超える可能性もある。国産でまかなえば1機当たりの単価もはねあがり、防衛費が膨大な額に上りかねない。
同盟国・米国の反応も気になる。1980年代のFSX選定では、米国製戦闘機の購入を求める米側との間で政治問題となり、日本が米国の要求を飲む形で米国製のF16を母体に日米共同でF2戦闘機が開発された。バブル景気絶頂の当時は米国内の一部で日本脅威論も論じられており、戦闘機の独自開発もその延長線上で待ったがかかった-。こう受け止める日本政府関係者は少なくなかった。
現在のところ、「心神」について「米国から共同開発を持ちかけてきてはいない」(防衛省関係者)という。米政府は大幅な国防費削減にあえいでおり、無人戦闘機の開発に着手していることもあり、新たな共同開発事業に手を出せない事情も指摘されている。
だが、同盟国といえども、こと軍事技術に関しては警戒感が根強い。
米政府はステルス性能試験施設の使用を「心神」に認めず、日本側はフランス国防装備庁の施設を使わざるを得なかった。平成23年12月に決定した次期主力戦闘機(FX)の選定で、日本政府は当初、ステルス戦闘機F22ラプターの導入に期待を寄せたが、米政府は技術流出を懸念して売却を拒否。最終的にF35ライトニング2が選ばれた経緯もある。
「航空機産業は日本にとって致命的な意味を持つ産業になる。これを発達させることを絶対好まない国がある。それはアメリカです」
2月12日、日本維新の会の石原慎太郎共同代表(当時)は衆院予算委員会で、こう力説した。防衛省内にも「今は技術を蓄積している段階だから米国は何も言ってこないが、機種選定の段階になったら何か言ってくるかもしれない」(経理装備局関係者)という声はある。
とはいえ、仮に国産戦闘機の導入を断念した場合でも、「心神」開発に伴う恩恵は無視できない。
現在主流となっている戦闘機の国際共同開発では、「心神」開発の経験が生かせるからだ。
防衛省担当者は「部品やエンジンを1機の戦闘機に組み立てる経験や技術がなければ国際共同開発では相手にされない。他国から『お前は戦闘機を作ったことがあるのか』と言われたら、イニシアチブを取ることは難しい」と語る。
国産戦闘機という選択肢があれば、他国メーカーと交渉する際に有力なカードにもなり得る。
「平成の零戦」は日本の空を守るのか。政府は国産戦闘機を導入するかどうかの判断を、4年後の30年度に予定している。
開発費の1兆円が安いか高いか、それは価値観の問題だろう。東アジアの情勢は中国の台頭などで極めて緊張した状態で何時何が起こってもおかしくはない。また、国産と言うことになればすそ野の広い航空機産業のこと、大きな経済効果も期待できる。そうしたことを考えれば1兆円と言う投資が決して高いとは思えない。しかし、どの程度の戦闘機ができるのか、特にエンジンの自力開発ができるのか、その辺りも大きな問題だ。そこで国際共同開発と言うのも選択肢の一つだろう。特に英国はエンジン技術を持つ格好の国だと思われる。次の国産戦闘機が誕生するかどうか、それは政府の決断の問題だろう。
Posted at 2014/11/07 00:46:58 | |
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