いわゆる「ジープ」と呼ばれる小型四輪駆動車が軍用車両のトップイメージのように思う。これは連合国軍側の視点によるものだが、たとえば第二次世界大戦や朝鮮戦争、ベトナム戦争などを題材とした映画やドラマなどに登場し、主人公級の役割を果たすのが「ジープ」だ。兵士とともに戦場の泥と埃にまみれ、縦横無尽の活躍を見せる。この小型四輪駆動車は1940年代に米陸軍の主導で生み出され普及した。兵士の足となり、人員や物資を運び、もちろん陸上戦闘にも投入される。こうした『使える四駆』は軍隊の必須装備だ。
陸上自衛隊の高機動車。前バンパー左隅の表記から第1師団第1普通科連隊第2中隊の車両と読み取れる。東京ビッグサイトで行なわれた防災展で撮影。第1師団第1普通科連隊は首都東京に置かれた唯一の普通科連隊。練馬駐屯地に駐屯し、主に東京23区の災害派遣・防衛警備を担任している。しかし先の大戦期に活躍とは、いかんせん古い。いきおい、新世代の軍用小型四輪駆動車のニーズが高まり、1980年代から90年代にはその具体化がなされた。米軍の「ハンヴィー」(HMMWV: High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle=高機動多用途装輪車両、Humvee)の量産開始が1985年だった。ジープよりも大型化された車体に大パワーの心臓部、高走破性を見せる脚周り。便利な軍用四駆として一気に普及した。自衛隊も同様に新世代の軍用小型四輪駆動車を開発、導入を開始した。それが「高機動車」だ。部内では「コウキ」などと呼ばれる車両である。
高機動車は1993年から配備を開始、まずは歩兵部隊である普通科部隊へ配備されていった。現在では全普通科部隊への配備が完了し、野砲やミサイル部隊である特科や工兵部隊の施設科、通信科部隊など、職種をまたいでの配備が進む。高機動車のエンジンはトヨタ・ダイナやトヨエースなどに使われた15Bを基にする。排気量4104ccの直列4気筒直噴ディーゼルに、ターボ/インタークーラーを装備した15B-FTを当初に積んだのち、排ガス規制に対応する15B-FTEへ替えられているという。約170馬力で、オンロードでの最高時速は105km(トレーラー等牽引時や10名乗車時、2名のみ乗車時は125kmが可能だという)。
高機動車は人員輸送用車両の位置付けで1990年代はじめに登場した。トヨタ自動車が開発と納入を担当し、製造は日野自動車が行なった。陸上自衛隊向け専用開発車両だが、民間版として「メガクルーザー」が同時期に登場しており、ともに話題となったことを覚えている方も多いと思う。ちなみに、航空自衛隊では消防車両の系統の「場外救難車」という名称でメガクルーザーを導入している。四駆システムは、ロック機構付きセンターデフを持つフルタイム4WDで、電動デフロック機構付きLSDだ。脚周りは4輪ダブルウィッシュボーンサスペンション。ハブリダクション機構も付いていて最低地上高の確保に役立つ。後輪には逆位相4WSを搭載し、最小回転半径6.5m以下と、大柄な車体に対して驚くべき小回り性能を発揮する。ちなみに全長は4.91m、全幅は2.15mだ。タイヤはランフラットタイヤを履く。空気圧調整装置を積んでいて、被弾し空気圧が低下したとしても、この装置を稼働させることで走行性を維持させることが可能だという。ダイナなど市販車ベースの設計だから一般路での走行性や、いわゆる乗り心地も良い。最大積載時の総重量は約4トン。輸送機での航空輸送も可能だ。
高機動車が本領発揮するのはオフロードだ。写真のようにアプローチ/デパーチャアングルの大きさとオーバーハングの短さには感激する。高さ50cmの段差などはごくフツーに乗り越える。渡河性能も高く、水深80cmでも走行は可能だ。開発時から拡張性を考慮され多くの派生モデルが存在する。地対空や地対地ミサイルを積んだものや、通信装置・レーダーを積んだものなどだ。これは後部荷室が平床で、コンテナ化やモジュール仕様などの装置をそのまま搭載できる設計によるもので、汎用性は高い。
演習場などで行なわれる陸自の演習や訓練を取材する場合、報道陣の移動手段として高機動車に乗せてもらうことがある。広い演習場の各所で行なわれる機能別訓練などを撮影・取材して回るには優れたオフロード性能と積載性を持つ高機動車が最適だからだ。後部には通常で6~8名、詰めて座れば荷室だけでなんとか10名が乗ることもできるから、大人数が移動する場合には何かと便利なのだ。ちなみに10名の乗車は普通科小銃小隊1個班の人数と同じ(前席乗車人数含む)。小銃小隊は文字通り小銃や機関銃、無反動砲などの携行火器を携えるから個々人それなりにボリューミーだ。同様に報道陣は望遠レンズや複数のカメラ、TV録画録音照明機材等を抱えており、そうした取材者が8名座ると実際窮屈で、結局6名前後がいい感じになる。フル装備してかさ張った普通科隊員らが6名前後で乗車した際の混雑具合とは、我々取材者が乗せてもらったときのボリューム感とおそらく同様なのだろうと毎回思う。
高機動車後部へ乗車した印象とは次のとおり。まず車体後部のステップを足掛かりに昇り、観音開きのバックドアから入って荷室左右に据えられたロングシートに座る。着座位置関係は列車の横長シートに座るのと同じだ。アテンド役の広報担当隊員がバックドアを閉めてくれる。シートの座面面積やクッション材は最低限だが、お尻が痛く感じることは少ない。演習場のガレ場や泥濘を高機動車はグイグイと走る。ばねは柔らかめで、ストロークの長いオフ車のあの乗り心地だ。逆位相4WSで急勾配のヘアピンも一発で曲がる。魅惑のオフロード性能……買えるものなら高機動車が欲しいと思う。
青森県弘前市の陸自第39普通科連隊を取材時のこと。連隊の高機動車の後部荷室には熊手形状の木製部材が車内中央に、幌屋根内側と荷室床の間に差し込まれ、設置されていた。後部のド真ん中に巨大な熊手があって乗降時に少し邪魔だった。季節は冬。これは何かと問うと、布製の幌屋根に降り積もった雪の重みで幌屋根とステーが歪まないようにする補強材だという。木製の熊手は隊員らの手製だった。豪雪地域で装備を丁寧に使う現場の工夫を見て、ホッコリしたことがある。(貝方士英樹)
トヨタは武器の製造にかかわっていることを知られるのを嫌がっていたが、それでも小型トラックやその派生車などを細々と作って納入していた。トヨタの高機動車は1個分隊を乗せて移動できる軍用車両として開発されたが、これは米国のハンヴィーに刺激されたのかもしれない。車自体は四輪駆動四輪操舵でハブリダクション機構などを有したほとんど特殊車両と言うほどの機構を持ち、不整地の走破性は極めて高いそうだ。当初は軍用を中和するためにメガクルーザーの名称で一般に市販されていたが、1千万円の価格と全長5メーター、全幅2.15メーターの巨体で運転席と助手席の間には巨大な変速システムが介在し、インパネの操作は不便、でかいわりに車内での移動ができないような特殊車両は警察、消防などのお上やよほどの好きものでなければ買うものもなく、民間型は短期間で姿を消した。新車登録されたのは133台とか。それに比べて軍用型がいまだに生産装備されているのは軍用型と言うのは必要な細かい改造はされているだろうが、さほど商品価値を上げるためのモデルチェンジの必要がないし、自動車と言う機械は電子制御やEV、HV、FCVなどパワーユニットを除けばもうほとんど改良の余地がないほど完成しつくされた機械なのでこれでいいのだろう。エンジンも排ガス規制クリアのために日野製のものに換装されているようだ。この車は基本非装甲のソフトトップの車両だが、国際任務使用車両には装甲やエアコン付きの車両も装備され、またミサイルや通信システムなど各種装備搭載車としても活用されている非常に汎用性の高い車両で今後もしばらくは自衛隊の主力車両の一つとして活躍するだろう。高機動車は全国各地で見かけるし、高速などもよく走っている。最近は三菱の1/4トントラックよりも頻繁に見かけるが、車両は購入総額で予算開示され、どの車が何台と言うことは載っていないので分からないが、もしかしたら装備数も多いのかもしれない、‥(^。^)y-.。o○。
Posted at 2021/10/10 10:43:36 | |
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