投入後から悩まされているLINK ECUの始動不良.
まずは
燃料系の見直しを行いましたが,どうも狙った挙動が得られず,日によって掛かりが良かったり悪かったりと不安定.閉鎖された試験室で行っている訳ではないので,気圧が湿度等の変動要素はありますが,それが原因だとしても過敏過ぎ.
「こりゃ,原因は燃料系じゃないな・・・」と思い始め,今度は空気系の見直しの方に着手してみました.
最初の始動なのでアクセルはOFF状態.すなわちスロットルは全閉ですので,空気量をコントロールしているのはEACVのみとなります.このEACVは水温によって開度を変更する事ができ,燃焼が不安定な低水温時には開き気味にして高めのアイドル回転数を,反対に安定した燃焼が得られる暖機後は閉じ気味にして低めのアイドル回転数を実現します(LINKでは,これを「アイドルベースポジション」と言います).
LINKの始動制御は,この「アイドルベースポジション」に「始動Stepテーブル」を加算して始動後のアイドル状態よりも開度を開く機能があり,マニュアルには以下のように書かれています.
【始動Step】
・ エンジン始動時の空気流入量を増やします.
・「始動Step」はエンジン回転数が検出されてから3秒でフェードアウトします.
これを素直に読むと,「始動Step」の作動領域は以下となります.
開始 ・・・ エンジン回転数が検出されてから
終了 ・・・ 開始後3秒
スターターを捻ったら,3秒間だけ「アイドルベースポジション」に「始動Step」分が上乗せされるという感じなので,図にするとこんなイメージでしょうか.
まずは,このイメージに従って,「アイドルベースポジション」+「始動Step」時の空気量に合うように燃料増量を調整していくのですが,最初に火がついた後,ブスッ・・・ブスッ・・・と燃料が濃過ぎて失火しているような挙動を示しました.
火がつく前後で燃料量は一定ですから"濃過ぎ=空気が足りない"となります.「3秒間は空気量は変わらないのに変だなぁ~?」と思い,もう一度マニュアルの文言を読み直してみると,
【始動Step】
・「始動Step」はエンジン回転数が検出されてから3秒で
フェードアウトします.
「フェードアウト・・・あっ!」と,ここで勘違いに気付きました.実際の動きはこうだったのです.
そう,「フェードアウト」という事は,3秒かけて「始動Step」はなくなる(=アイドルベースポジションと同じ値になる)という意味でした.燃料量が一定なのに,空気量が徐々に減らされるので,リッチ失火していたようです.
ならば,「始動Step」の機能を無効化して,「始動step」で増やしていた分をそっくりそのまま「アイドルベースポジション」に上乗せしてみます.
これで,ブスッ・・・ブスッ・・・といった失火挙動はなくなり,安定して燃焼させられるようになりました.
しかし,「アイドルベースポジション」を大幅に増やしてしまったため,回転数が2500rpm近くまで吹け上がる状態になってしまいました.そこで,今度は1800rpm程度に収まるよう「アイドルベースポジション」の値を設定し直し,その空気量に合うように燃料増量を再調整しました.
これで,吹け上がり過ぎず,安定した燃焼状態を作り出せるようになりました.
ところが,「アイドルベースポジション」に合うように燃料増量を半分近くまで絞ったため火がつきにくく,数回スタータを捻らなければならず,その果てにようやく火がついたとしても,すぐに消えてエンストしてしまいました・・・.
「この燃料量でも火がつかない訳ではないのに,何でこんなに不安定なんだ!?」と悩みながら計測データを見返していると・・・,
「アレッ? スターターを捻った瞬間にアイドルベースポジションが80%になってないか・・・?」
最初のキーONエンスト状態では,「アイドルベースポジション」は0%なのですが,スターターを捻った瞬間,値が80%にすっとんでいました.「何だ? コレ??」とマニュアルをひっくり返してみるも,そんな制御は見当たらず,悩んでいると「アイドルステータス」の動きが目に留まりました.
【クランクデューティ】
・ステッピングモーターがクランキングポジションにあることを示しています.
【Hold - 始動】
・始動Stepテーブルが適用されています.
「これだ!」と思い,この文章を解釈してみると,どうやらこういう作動タイミングのようです.
開始 ・・・ クランキングポジション(=スターターON状態)
終了 ・・・ スターターOFF(=400rpm以上になった瞬間)
作動タイミングが分かったところで,このままだと「400rpmまでは火がつきにくく,400rpm以上になったら空気が急激に絞られる」という動き方になってしまうため,「最大Clamp」を使って,強制的に最初の80%開を絞る事にしました.
これでようやく,最初の火のつき具合が安定したのですが,「最大Clamp」は始動時以外でも機能するため,「アイドルベースポジション」と同じ値にする事は出来ず,どうしても400rpm以降で空気量が急激に絞られてしまい,その付近で燃焼が不安定になります.
そこで,この400rpm前の強制開と「アイドルベースポジション」を滑らかにつなぐように「始動Step」を再設定しました.
これでようやく,"最初の火のつきやすさ"と"火がついた後の燃焼の安定性"を両立出来るようになりました.
いやぁ~,ここまで来るのに3週間も掛かってしまいましたが,何とか妥協出来るトコまでは来られました.まだ常時1発始動とはいかないので,引続き細かな調整は必要ですが,少なくとも始動のロバスト性(外乱の受けにくさ)は十分高められたので,始動不良によるバッテリー上がりの懸念は大幅に小さくなったのではないかと思います.