TC1000の1ヘアでタイヤの縦のグリップを限界まで引き出せているのか?と言われ,ハイグリップラジアルの限界が1.2Gと言われているところ,私は1.0Gでフルロックしたのに,プロは1.3G出してもロックが回避出来た・・・というのが
前回のお話.
ブレーキング時にタイヤのロック→解除という高度なスキルが,私にないのは事実だとしても,ロック経験後の2度目の踏み込みで,1回目よりも踏力を上げるとは考えにくく,一体プロはどうやったんだ?と他のデータも調べ始めました.
そうしたところ,別の日に,別のプロに,別のタイヤで走ってもらった時のデータ(↓)を見ていたところ,
右側の緑丸の部分で1.23G出ていました.やっぱりプロは出せるのか・・・と思いつつ更に見ていくと,同じプロが,同じタイヤで,同じ走行枠を走ったのに,左側の緑丸の箇所では0.99Gしか出していない事に気づきました.
この赤線と青線の違いは何か?を調べていったところ,それが
車重 である事に気づきました.
赤線はプロの単走時,青線はプロの横に私が同乗した時.つまり,青線の方は私の体重分(約60kg)クルマが重い状態の時のデータという事になります.そして,別のプロが1.3Gを出した時も,やはり車重が増えていた時(=同乗走行時)であった事に気づきました.
ブレーキング時に1.2Gを出すためには,車重が何か関係がある・・・?と思い,今一度,物理の基本に立ち返って考えてみます.
運動方程式([力] = [質量] × [加速度])より,
[減速G] = [制動力] / [車重]
となるので,[減速G]を上げるためには,ブレーキの[制動力]を上げるか,[車重]を減らせば良い事になります.これで[車重]が関係している事は確認出来ましたが,[減速G]は[制動力]と[車重]の比率になりますので,片方が増えたら,もう片方も増えないと絶対値的には上がらないという事になります.
という事で,次にブレーキの[制動力]に関して調べてみます.
(アドヴィックスセールス:
ブレーキ雑学講座72 タイヤとブレーキより)
[制動力]
= [ピストンシリンダー面積] × [パッドの摩擦係数] × [ブレーキ油圧] × [ローター径] × [タイヤ外径]
ですので,同じクルマで物理諸元が一緒であるならば,[制動力]を決めているのは[ブレーキ油圧]=[踏力]のみという事になります(厳密には,[パッドの摩擦係数]も車速によって変化しますが,今回は省略).
従って,同乗走行時のプロは,[車重]が増加した分だけブレーキング時の[踏力]を上げ,[車重]の増加分よりも[踏力]の上げ代分の方が大きかったため,結果,[減速G]が上がった・・・という理屈になりそうです.
では,なぜ[車重]が増えると,より[踏力]を上げられるようになるのか?
ここも物理の基本に立ち返って考えてみます.
アモントンの法則から,
[摩擦力] = [摩擦係数] × [垂直抗力]
= [摩擦係数] × [車重]
となりますので,[車重]が増えると[摩擦力],すなわちタイヤのグリップが単純に増える事になります.
[摩擦力]が増えれば・・・,
それと釣り合うようにブレーキング時の[制動力]も増やす事が出来ますので,これが[車重]が増えて[減速G]が上がった理屈のようです.
理屈が分かったところで,では,[車重]が軽い時に,なぜプロは1.2Gを出さなかったのか? これはプロの技量を踏まえれば「出さなかった」のではなく,「出せなかった」と捉えるべきでしょうね.
ならば,[車重]が軽いとなぜ出せないのか? プロですから「フロントタイヤのグリップを使い切れていない」なんて事は有り得ません.グリップに合わせて,フロントの制動力はMAXまで使い切っているはず.ここから更に制動力を上げるとなると・・・,
ハッ! Σ(゚▽゚;)!! 「リアの制動力か!?」
私のEF8の
前後重量配分は 65.6:34.3 という典型的なフロントヘビーで,リアの軸重は337kgです.
そして,同乗時に乗っかった60kgのウェイトは,この位置(↓)にセットされているので,車体のほぼ中心.
ウェイトがない状態で車高はほぼ水平にセットしてありますから,車体の中心に掛かった荷重は前後のバネレートに基づいて配分されると思われ,当時のレートだとフロント:リア=2:3くらいになるはず.これに基づきウェイトの分配をざっくり計算をしてみると,
60kg × 3/5 = 36kg
となりますので,リアの軸重は,
36kg / 337kg = 0.10
となって,約10%増えていた事になります(ちなみに,フロントの増加量は約3%).
前述の通り,タイヤのグリップは重量(軸重)に依存しますので,これだけでリアのグリップが10%増加し,同等以上の制動力も得られると考えられます.これに加えて,ウェイトの追加により,水平→リア下がりに車高が変わっていたのだとしたら,
フルブレーキング時に起きる,リアのリフトを抑制する効果も得られいるかもしれません.これによってリアの制動力は更に上がっていた可能性もありますね・・・.
以上を纏めると,プロがブレーキング時に1.2~1.3G出せていたのは,60kgのウェイト追加による副次効果と思われ,ウェイトがない時の限界はやはり1.0G前後と思われます.これはウェイトの追加によって前後の重量バランスがリア寄りに変化し,軽量時には使い切れていないリアブレーキの性能を引き出せた事によるものと推測します.
であるならば,リアが軽量なFFで,ましてショートホイールベースでリアが浮き易いCR-Xの場合は,一般的に言われているハイグリップラジアルの限界Gを減速時に引き出すのは難しいのではないか?と思われます.どうしても限界Gを引き出したいのならば,リアに重りを乗っけて走れば済む話ですが,仮に重りを乗っけてブレーキングで稼いだとしても,重りのせいでコーナリングとストレートスピードを失うのであれば,トータルで考えれば損だと思いますので,それをやろうとは思いません(笑).
ただ,重りを乗っける以外の方法(例えば,車高をリア下がりにするとか)で,リアブレーキを効果的に使えるようになるのなら,試す価値はあるかな?と思います.そして,その際に効果を測るモノサシとして,今回,ひらりん2000GTさんに教えて頂いた「1.2G」が指標の1つになるのではないでしょうか.
ひらりん2000GTさん,アドバイス有難う御座いました!
Posted at 2021/09/24 23:39:25 | |
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