先月から投入したLINK ECU .気温が高い事もあり,まだ持てるポテンシャルをフルに発揮していない状態ですが,各種センサ値が読めるという事でデータ解析の範囲は飛躍的に拡大しました.
しかし,当然の事ながら,メーカーが多大な時間を掛けて開発したECUとは異なり,まだ詰めきれていない部分もいくつかあります.その中で今1番の困っているのが始動性.暖機終了後の始動性は悪くないのですが,一晩冷やした状態だと非常に掛かりが悪いです・・・.
1週間ショップに預けて確認してもらいましたが,なぜかショップの環境では再現せず,やむなく原因究明を自分で始めてみました.
まずは,現状の確認.
始動中はオルタネータが発電しないので,バッテリのみでスタータの電源を補わなければならず,どうしても電圧降下が起きてしまいます.この電圧降下によってECU~PC間の通信が途絶えてしまうため,始動過程のデータは計測出来ない(様子が分からない)のが非常に辛いところです・・・.
このため,始動の様子を動画で撮影してみました.それでは始動1回目.
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はい.全く掛かりません・・・.元気良くスタータは回っているのでバッテリが原因ではなく,火がつかない(空燃比が濃過ぎ or 薄過ぎ)のが原因に思えます.
続けて,始動2回目.
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1回目に比べると,火がつきかけているのが何となく分かります.この感触だと次で掛かりそう.
という事で,始動3回目.
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3回目にして,ようやく掛かりましたが,火がついた直後に「ボフッ,ボフッ」と咳き込むような音がして500rpm前後で暫く停滞した後,吹け上がる感じです.
今の時期ならバッテリの出力も安定しているので,始動に3回程度かかっても何とかなりますが,真冬でバッテリが弱っている時に,これだけの回数を行うのは心臓に悪いです・・・.何とかして,今のうちに解決しておきたい.
では,何をイジれば良いのか,LINKのマニュアルを読みながら考えてみましょう.
LINKの始動制御は,大まかには下図のような動き方となっています.
燃焼というのは化学反応ですので,空気だけでも燃料だけでも燃えません.両者が混合して,点火スパークというエネルギーが加わった時に初めて燃えます.但し,空気よりも燃料の方が必要な着火エネルギーは小さいため,必然的に燃料が濃い方が着火しやすくなります.このため,上図のように始動過程は積極的に燃料を増量しています.
図が英語なのでとっつきにくいですが,大まかに分けると5段階の制御が行われている事が分かります.
①Pre-Crank Prime(始動前噴射)
始動させる前,すなわちエンスト状態(0rpm)の時に噴く分です.ポート噴射式の場合,ポートの壁面が冷えていると噴いた燃料は壁面に付着して,なかなか筒内に入り込みません.これを防ぐために,エンジンが回転する前に余剰に噴いて,壁面を濡らし,付着を防ぐ機能です.
ここの単位は[ms].キーをSTART位置にしてから設定した時間分だけインジェクタが開いて燃料が流れ込みます.
②First Crank Enrichment(初回クランク補正)
スタータが回り始め~最初の1回転(360°)間,後述する「クランキング補正」に更に加算する形で増量する機能です.あんまり聞かない機能ですが,恐らく気筒判別するまでの間(360°?),増量させる事を狙っているようです.
ここの単位は[%].「始動前噴射」と違って,こちらは回転させながら燃料を流しますし,「クランキング補正」に更に加算する形なので,濃過ぎにならないか?という心配があります.
③Crank Enrichment(クランキング補正)
その名の通り,クランキング時(スタータが回っている間)に補正する機能です.この機能の終了タイミングは,回転数が400rpm以上になった時で,スタータだけで回っている時には大体200rpmですから,火が付いて400rpm以上にならなければ,延々とこの補正が作動している事になります.言い換えると,クランキング中の空燃比を決める一番の要素となりますので,この補正が最も重要そうです.
ここの単位も[%].1つポイントなのは,400rpmを超えた瞬間に補正が切れるのではなく,補正を継続させるディレイタイマ(Crank Hold Time:クランキングホールド時間)が設定出来る事です.これによって1回ついた火を失わずに暫く維持させる事が出来ます.但し,長く維持させ過ぎると,今度は濃過ぎで失火する可能性も出てくるので設定には注意が必要です.
④Post Start Enrichment(始動後増量)
回転数が400rpmを超えて,ディレイ時間も終了し,「クランキング補正」が完全に切れたタイミングで入れ替わりに作動する補正です.アイドリングの目標回転数までソフトランディング(軟着陸)させるように減衰させる機能となります.
ここの単位も[%].3回目の始動で,一旦火が入った後,「ボフッ,ボフッ」と咳き込むような挙動になっているのは,この増量のせいなんじゃないかと思っています(濃過ぎて失火している).このため,今回は無効化してみる事にしました.
⑤Warm Up Enrichment(暖機増量補正)
「始動後増量」が切れた後に作動する補正機能です.本来は暖機促進のために使うのでしょうが,EF8の排ガス規制レベルでは,使う必要がありませんね.
・・・という事で,④と⑤を無効化し,①~③のパラメータを振って始動性が改善するかチェックしてみます.但し,②は水温に寄らず固定値で全温度帯に影響が出るため,イジるのはちょっと怖い.①は壁面付着なので効果代が読めませんし,値を増やす側はプラグがカブる可能性が高い.
結果,③の「クランキング補正」の低水温域(20~30℃)をイジって,始動性の改善を試みます.
1回始動して暖機が完了すると,先程の動画のような始動不良は起きないので,完全に冷えた状態まで待つ必要があり,1日1回しかテストする事が出来ません.このため,かなり時間がかかりましたが,初期値の3倍まで濃くしてみたところ,3回→1回で始動出来るようになり,「ボフッ,ボフッ」という咳き込み挙動もなくなりました.
そして本日.「イイじゃん,もっと盛ったれ~♪」と調子にのって,更に濃くしたところ,今度は全く火が入らず,クランキングを繰り返しているうちに恐れていたバッテリー上がりを起こしてしまいました・・・orz.
慌ててショップに電話し,店長に泣きついて予備のバッテリとブースターケーブル持参で救援に来て頂きました.
(店長,夜遅くに対応有難う御座いました!)
う~ん・・・.やっぱりデータを見ながら判断出来ないのは辛いなぁ~.
ただ,濃過ぎになる値は何となく掴めたので,ここから少しづつ薄めて,バランス点を探ってみたいと思います.
理想の始動は,こんな感じ(↓)なので,これを目指して微調整を繰り返していきます.
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