今回は沖縄でマスタングのレンタカーを借りたので、2泊3日に渡りドライブした結果をココに残そうと思う。
■概要
マスタングの歴史を遡ると、その始まりは1965年になる。
手軽な価格にスポーティなデザインに十分な性能、更には豊富なオプション群から顧客の好みにより様々な組み合わせが可能なフルチョイスシステムが与えられ、それに倣い日本でもトヨタがセリカで同様の手法を展開する程、国内外を問わずに人気を呼び大ヒットした。
その後、数度のフルモデルチェンジを行うも、排ガス規制の影響により性能はガタ落ちとなる上にスタイルも初代程のスマートさが無く、ライバルに比べ飛び抜けることが出来ないまま歴史を重ねて行った。
唯一、初代以外では筆者のような30代半ば~40代前半には5代目マスタングで白のコンバーチブルが記憶に残るだろう。
まさしくDragon Ashの降谷建志のマスタングである。
当時、筆者と同世代はマスタングと言えばこの印象も強かったのである。
その5代目も99モデルで一変し当時はガッカリしたものだ。
さて、そんな歴史が多々ある中で2005年にモデルチェンジした6代目が今回レンタルしたマスタングになる。
この6代目は初代を上手くオマージュし、コレぞ21世紀のマスタングらしいモデルとなっている。
今回借りたモデルは中期型の2012年モデル。
グレードはV8 5.0GTコンバーチブルプレミアムとなる。
■エクステリア
このクルマはロングノーズ、ショートデッキのいかにもアメ車らしいスタイルだ。
そして初代をオマージュしたこともあり、ネオクラシック調の雰囲気も漂っている。
ノーズは逆スラントのデザインが印象的であり、ノーズの長さを強調することも相まってとてもカッコイイのである。
また2010モデルからヘッドライトがプロジェクター式になりより精悍な印象になっているのが特徴とも言えよう。
リア回りもこれまた初代の特徴をしっかりと捉えている。
しかしながらこのテールは車体に対してやや大きく感じ少々野暮ったくもある。
2013年以降の後期型ではこのテールに改良が加えられスッキリとしており、筆者は後期の方が好みである。
フェンダーには誇らしく”5.0”のエンブレムが大きく輝いており、余裕をアピールする。
給油口はリッド自体がキャップになっている立体型となっており、給油の際はリッドを開けるだけで給油が可能になっている反面、キャップ式が多い中、気密性に関してはやや心配ではある。
■インテリア
重厚感溢れるドアを開けると目に飛び込んでくるのはEL発光式のスカッフプレートだ。
車名が誇らしく書かれているものの面積が大きい為、足が短い人ならば、その長いサイドシルに足が当たったり擦れることも多かろう。
インパネにはシルバーのパネルが前面にあると共に、丸型のメーターも相まってオールディーズな雰囲気を醸し出している。
パネルの合わせ目はいかにもアメ車な大味な感じで決して建付が良いとは言えないが、この大らかな感じが車両のキャラクターと適度にマッチしており全く気にならないのである。
シートは見た目と異なりゆったりと快適に座ることが出来る。
実際に1日中走り回っても全く疲れないのには感心した。
革の触感や見た目のクオリティ云々は国産車に適わないが、そんなことよりも意外や実用性に振られているのである。
シートはスライドのみ電動で、リクライニングは手動…この辺りも高級感より実用的でなるほど操作性は良い。
少々変わっているのは、写真から分かるように座面先端にランバーサポートのスイッチが配置されている。
このパワーシートもやはり精度が大味で、スライドが引っ掛かって上手く前に行かないのだ。
2日目にこの写真を撮影時に、スライドスイッチを長押しし、ようやくシートは引っ掛かった位置から前方へスライドしたのである。
「アメリカ人は足が長いだろうから、コレで前端なんだな」と、短足の筆者はやたらとシートを前にスライドさせたがるオバサンのように初日を過ごしたのである。
ドアトリムにはドアミラー付け根に電動ミラーのスイッチ、インサイドハンドル横に集中ドアロックスイッチ、そしてパワーウインドウスイッチは一般的な位置に配置されているが、リア左右の窓は1つのスイッチで一括制御される。
操作性はどれも標準的である。
そして運転席に座り、インパネ左側から輸入車では一般的なダイヤル式のヘッドライトスイッチ、そしてその横にあるダイヤルはレオスタットなのだが、ルームランプのスイッチも兼用しているのである。
危うくルームランプの点灯に気付かずバッテリーを上げるとこであった。
下にある3つのスイッチはインフォメーションディスプレイの情報表示や、セットアップスイッチとなるのだが、これがイマイチ扱い方が分からず、理解するまで少々時間を要するのである。
メーターは表示からしてクラシックなテイストを出しており、これが非常にムーディで格好が良い。
メーターの照明はなんと125色から選択が可能で、どうやら後々調べて分ったことはアンビエント照明は7色から選択が可能なようだ。
しかしながら、これがスイッチでの調整が非常に分かりにくく、最終的に当日はメーターの調色が分かっただけであった。
インパネ中央の左右レジスターの間にはシガーソケットが装備されているのだが、コイツは常時12Vが来ているので、駐車時にソケットを抜いておかないといけないのだ。
純正オーディオはドット表示の液晶でさすがに一昔前のオーディオである。
Bluetoothも備わってはいるものの、エンジンが切れる度にリセットされ、再セットしないといけない上に、操作が難解であり、このクルマ最大の欠点である。
各種電気装備の操作性は全般的に確かに良いとは言えず、長方形のスイッチパネルの左下の電源パネルのスイッチを押してから各種操作をしないと行けず、やや分かりにくい。
性能としては十分で、やや肌寒くてもヒーターがよく効いて快適にドライブ出来る。
シフトレバー横にはTRC、ハザード、トランクオープナーとスイッチが並ぶ。
ハザードスイッチはもっと大きく分かりやすい位置にあった方が良いだろう。
センタートンネル後端には気持ち程度のコンソールとシガーソケットが存在する。
コンソールリッドの精度などはやはりアメリカンでプラスチッキー且つ大味である。
さて、ルーフ側に目を移すと、サンバイザーにはバニティミラーと照明が備わる。
使用性は標準的。
ソフトトップを開ける際はルーフ両端のロックを外すのだが、コレが少々固く女性にはやや力が必要だ。
そしてルームランプ中央にあるスイッチを押してルーフを開ける。
開閉時間はおおよそ10秒程度である。
一気に車両後方に回るが、バックカメラはハイマウントストップランプ上部にあり、バックミラーにモニターが内蔵されている。
しかしながら、気持ち程度の装備であり、モニターの視認性もオマケ程度である。
インパネ助手席側上段にはシルバーの加飾パネルにはエアバッグが収納されており、下段にはグローブボックスが装備されている。
リアシートはまずまず座れる程度の機能性は確保してあるが、やはり快適とは言えず、1時間程度の移動なら良いと言える。
写真のように荷物置き程度で考えるのがマストだろう。
ヘッドレストは前に倒すことも可能だが、なんとなく装備されているだけであり、視認性が上がるとは到底思えないシロモノだった。
ヘッドレストを倒したところで、オープン時の視認性は抜群であるし、またクローズド時の視認性はソフトトップのせいで悪いままなのである。
■ユーティリティ
ラゲージは写真のように十分で、旅行トランクとバッグを収納しても尚余裕があり、言葉通りGTとしての機能は十分である。
アメ車の定番で、ラゲージ内に閉じ込められた人間が、引っ張って開けることが出来る、エマージェンシーレバーも当然装備される。
■メカニズム
2012 フォードマスタング V8 5.0GTコンバーチブルプレミアムに搭載されるエンジンは以下の通りである。
V型8気筒5000㏄DOHC、418馬力、53.9kg-m。
コレに組み合わされるミッションは6速のオートマチックで、車両重量は1740㎏。
これだけのスペックを持ちながら、足回りはフロントがストラットなのは分からなくはないが、リアはなんとリジッドアクスルなのである。
ブレーキは前後ベンチレーテッドディスク。
タイヤは前後とも245/45ZR19のピレリでP-ZERO NEROであった。
踏み込むとトルクが太いこともありグングンと低速からの加速はしていくものの、決して高回転型のエンジンではないことと、車重のせいもあるのか今一つ伸び感に欠ける印象があり、体感的には320馬力程度だと思っていた。
単純に直接比較するのにはやや適さないかもしれないが、同じ5リッターV8同士だとレクサスLC500の方がより伸びる印象はあった。
しかし、優雅に直線をひたすらにツーリングするとなるとマスタングの方が好ましい。
エンジン音が豪快な為、さぞかし走りも粗削りのように思われるかもしれないが、アクセルコントロール性には非常に優れており、微小な開度では車両姿勢が極端に変化することなくスムーズな速度管理が出来る。
一方、ここぞいう時の踏み込みでは即座に反応し、車両はスクワットしながら前へ前へと押し出していくのだ。
しかしながら、全体的にボディ剛性はお世辞にも良いとは言えず、路面からの入力により終始ワナワナと震えていた。
さらにはリアのリジッドサスが外乱からの影響を非常に受けやすく、高速走行時にはアクスルステアの影響で車両はあくまで車線内ではあるものの、左右へ振られ修正舵を入れる場面も見受けられた。
全体的な乗り味は車両イメージ通りの懐古的なものだ。
また、ここもアメ車らしいのだが、路地での取廻しは滅法弱い。
国産車ならセンチュリーでも楽々曲がれるであろうヘアピン形状の交差点では小回りが効かず、バックして切り返さないと曲がらない場面もあった。
以前乗った4代目マスタングも同様であったことも付け加えておく。
このように挙げると悪いような印象が残るクルマだが、実際に乗るとそのようなネガティブ面もキャラクターとして許容出来てしまうのがこのクルマの凄いところだ。
このクルマはただ単に踏み込んで飛ばし回せばただの荒馬だ。
だから、このクルマは決して飛ばさずにただひたすら大排気量に任せ直線を優雅に走る為のクルマなのだと筆者は考える。
まさにこのエンブレムがそれを全て表している。
ドライバーのこのクルマに対する理解度次第でマスタングは名馬にもなるし駄馬にもなってしまうのだ。
■結論
今回のマスタングで回った沖縄の2泊3日で分かったことは、筆者にとってこのクルマはやはり名馬であった。
沖縄の眩しい日差しを受けながら国道58号線を颯爽と駆け抜けるマスタングは実に優雅なひとときを与えてくれた。
残念なことにヨーロッパブランド志向の日本ではこの味を受け入れる者は少なく、2016年には正規輸入がストップしてしまった。
しかも当のフォードがなんと今度はマスタング・マッハEというSUVを出すらしい。
なんともこれは過去にあったスカイライン・クロスオーバーのような何とも言い難い複雑さがある。
この先、この名馬はどこへ向かっていくのであろうか。