久しぶりの艦船模型です。
キットはヤマシタホビーから発売されたばかりの「駆逐艦竹」。今回は同型艦の「桑」として建造します。
まずは桑について。
桑は松型駆逐艦の五番艦として藤永田造船所で1944年7月に竣工しました。訓練期間を経てフィリピン沖海戦では小澤機動部隊の一員として戦艦伊勢日向、空母瑞鶴などを護衛してほぼ無傷で帰還しました。
その後、1944年12月のレイテ島オルモックへの輸送作戦中、米大型駆逐艦3隻の集中攻撃を受け僅か9分間で撃沈されました。
オルモックでは竹と行動を共にし、桑が敵の目を引き付け、竹が反撃するための時間を稼いだ形になりました。
今回はオルモック輸送時の姿を再現します。
次に資料の確認。
手元にあるもののうち主に使えそうなのはこちら↓
コピーした図面は竹制作時のものです。
そして実艦写真は↓の1枚のみ。
公試運転時の写真はあるはずですが、見つかりません。戦後焼却処分されたのかも。さんざんググりましたが、何も出てきませんでしたorz
仕方ないので同じ造船所生まれの梅、杉、樫、楢の写真を参考にします。
ではいよいよ船体のチェック。
船体は全部で5つのパーツから構成されますが、船体内部に板を縦横に配置することで「反り」を防止する作りとなっています。
さすが最新キット!
以前のブログでは舷窓の位置が誤っている以外は全体的に良好と書きましたが、改めて確認し直しました。すると…。
1 船首楼甲板の平面形状について
写真日本の軍艦別巻2に収載された「竹」図面(以下「竹図面」)では舳先から1番主砲操作フラット後端までは緩やかな曲線で、そこから船首楼甲板後端までは直線となっています。
一方キットでは同じ箇所を境に前後とも直線で構成されています。
念の為同別巻2に収載されている「橘」図面も確認しましたが、竹図面と同様のライン構成でした。さて、どちらが正しいのか…。
2 船首楼甲板の傾斜について
竹図面では舳先から1番主砲操作フラット後端まで、同後端から艦橋前端まで、同前端から船首楼甲板後端までの3つのエリアでそれぞれ直線で構成され、船尾に向かうほど傾斜がゆるくなり、艦橋エリアは水平とされています。一方キットでは舳先から1番主砲操作フラット後端までとそれ以後の2つのエリアがそれぞれ直線で構成され、フラット後端以降は水平でなく若干の傾斜がかかっています。
樅の実艦写真で確認したところ、キットの形状になっていると分かりました。
3 2番主砲フラットの直径について
1番主砲操作フラットの半径はキット・竹図面とも1/700で5mmとなっていますが、2番のそれは同図面だと4.6mm、キットだと1番同様5mmとなっています。2番のほうが砲本体は大きいことを考えるとフラットの大きさが1番より小さいのは不自然であり、少なくともキットのように1番と同じサイズとするのがより自然と考えられるので、キットのサイズを尊重しようと考えました。
4 舷窓について
キットの舷窓の位置及び数は竹図面及び実艦写真いずれとも異なる配置となっています。また「歴史群像太平洋戦史シリーズ43松型駆逐艦」(以下「学研本」)に掲載されている松型各艦の写真とも比較しましたが、いずれとも異なるように思われました。各艦の位置が微妙に異なるので、全艦の最小公約数としての数をモールドしたということでもなさそうです。ということは何らか別の意図があるのかも…。
5 リノリウム甲板の範囲について
学研本中程にある折込図面に掲示されている「竹甲板敷物配置」(以下「敷物配置」)では艦橋の左舷より右舷の方が艦首寄りで鉄甲板が始まっています。また艦尾についても敷物配置では2番Y砲前以降で鉄甲板に切り替わっています。
キットでは艦橋の右舷左舷とも同じ位置で鉄甲板に切り替わり、艦尾は後端から9mmの位置で鉄甲板に切り替わっています。
また敷物配置では烹炊室右舷側に斜め後ろに伸びるリノリウム甲板がありますが、これはキットにモールドされていません。
これまた何らかの資料を基にしているのかも…。
6 舷側外板継ぎ目について
学研本中程の折込図面に掲示されている「丁型線図説明図」(以下「説明図」)では外板ごとに互い違いになっています。
また「昭和造船史別冊日本海軍艦艇図面集」(以下「図面集」)の「松型中央部構造切断」では外板接合部のみ凸となっています。
実艦がどうだったか確認できる写真としては学研本の樫は説明図、竹、樅、欅、桐が図面集と同じ作りになっているように見えます。
キットでは細い凸モールドで継ぎ目が表現されており、実艦写真に忠実です。ただし樫を作る際にはモールドを作り直す必要があります。
※前回作った竹はこの検証を十分に行えておらず、外板ごとの凹凸で表現してしまいました…。
7 魚雷運搬軌条について
竹製作時にも悩んだ部分で、艦首を上にした平面で見た場合、資料によって「人」型と「Y」型の2パターンあります。竹は甲板敷物図ベースで「Y」型としましたが、キットは「人」型。
これを「Y」型にしようとすると、滑り止め甲板のモールドをいったん削る必要があること、「人」型が間違いと言い切れないことから、このままにします。
意外と多くの発見と疑問がありました。手元にこれ以上の資料がない以上、考えていても答えは出ません。思い切ってメーカーに尋ねてみようと考えました。
この手の質問はメーカーには山盛り届くと思うので、回答が返されないことも当然に想定していましたが、驚いたことに翌日には回答を頂くことができました。
それによると金型制作にあたっては竹を始めとする丁型駆逐艦の当時の図面が残っており、そこに描かれた船首楼甲板平面はキットのような形状であること、舷窓の位置も同図面の位置を採用したこと、リノリウム部分は複数の艦艇研究家の「敷物はどのように張られていたのか不明なことが多い」との意見に加え、原図でも明確な指示がないことなどからキットのように表現したこと、とのことでした。
※泡沫モデラーの不躾な質問に丁寧なご回答をいただきましたことを、この場を借りて深くお礼申し上げます。
これを受けて、船首楼甲板の平面及び傾斜、2番主砲フラット、リノリウム甲板のエリアはキットのままとします。
舷窓については、少なくとも竹は↓の公試運転時及び復員輸送後の写真から、キットの表現は誤りであると断言できます。
ただ今回制作桑する桑については写真図面とも皆無のため、どうするかの検討が必要です。
この続きは次回。
Posted at 2021/10/09 18:20:38 | |
艦船模型 | 趣味