前回までに艦橋構造物と中央部機銃台を製作しましたが、いずれも図面と実艦写真との間にいくつも違いが見られました。手元の図面2種類はいずれも「公式」とされるものですが、少なくとも一等輸送艦に関しては、全面的に信用するべきではないと判断せざるを得ません。
もともと旧海軍艦船は図面通りに作られていることは少なく、同型艦でもそれぞれに違いが見られます。よって模型の製作は図面よりも写真を優先すべきと言い尽くされているところでもあります。これまでも私はこの基本に忠実に考証作業などを行ってきましたが、本第9号輸送艦は実艦写真に比較的恵まれていることから、より写真重視で進めていきたいと思います。
さて今回の探照灯台。まずは図面チェックです。
平面形については2種の図面とも似たような形状ですが、前端の位置が異なります。どちらにするかは実艦写真を見ながら検討します。
ここで少し疑問に思ったのは、戦時急造型である本艦型はあらゆる部分が直線基調で作られていますが、この探照灯台床面のみ円形です。本艦型の設計のベースは丁型駆逐艦ですが、そちらの探照灯台床面は八角形です。冒頭に述べたように、図面が実態と合わないということも考えると、一等輸送艦の探照灯台の床面は円形でなく多角形だった可能性も考えられるのでないかと思いました。
今回はこれも同時に検証します。
側面を見ると、左に掲げた図面では探照灯下に六角形と思われる台座がありますが、右の図面では探照灯床全体を台座が支えているように見えます。
ではいよいよ実艦写真。
第9号の探照灯台を前からと後ろから撮影したものです。
前からの写真では探照灯台床面は後ろに向かって広がっているように見えます。また床面と基部の後端が同じラインで終わっています。
後ろからの写真では、探照灯台床面の高さが水兵の膝より少し高い程度で、手前に置かれた機銃弾薬箱よりは少し高いように見えます。同床面の平面形ははっきりしませんが、折れ角が付いている様子が見受けられないので円形ではないかと推定できます。
ここで不思議なのは探照灯台後ろにある鉄板。特にRが付いているように見えません。この鉄板が何のためのものか不明ですが、鉄板が平面構造であるならば探照灯台後端部が直線で切り取られ、そこに鉄板が接続されているのかもしれません。
第5号輸送艦の左舷からの写真を拡大すると僅かながら探照灯台の影が見えます。不鮮明なのではっきりと断言できませんが、影は台中央に向かって斜めにかつ直線的に伸びているように見えます。仮にこの見方が正しいとすると探照灯台床面は多角形ということになります。
念のため同時期に設計・建造された丙型や丁型海防艦の図面や写真で探照灯台の平面形を確認したところ全て円形で作られており、駆潜艇その他の小艦艇も全て円形のようです。
探照灯台はなぜ円形なのか、丁型駆逐艦だけなぜ多角形なのかといった疑問は残りますが、先程の第5号の写真での影は「たまたまそう見える」だけだと考えるほうが無理がない気がします。よって床の平面形は探照灯周囲は円形で、後端部のみ直線で切り欠かれている形状とします。
続いて探照灯台床面の前端部と基部についてです。
2号ではキャンバスの前端が機銃台前端より後ろにあります。同様の様子が4号と9号にも見られます。またいずれの艦でも探照灯と望遠鏡はあまり離れていないようです。よって探照灯台床面前端は機銃台前端より少し後ろにあると断定しました。
基部についてはいずれの写真でもはっきりしませんが、4号では望遠鏡下に白いスペースが見えます。これが何らかの構造物の反射によるものなのか、望遠鏡下が抜けていて向こう側が見えているのか判然としません。
一方第9号の写真では望遠鏡下は明確に暗く写っています。
これらのことから少なくとも第9号では、基部は探照灯台全体を支えるサイズであったと考えられます。
そして漸く工作w
手すりとキャンバスは後日設置します。
次に探照灯。
図面ではこのような表記があります。
文字がつぶれかかっていますが、「七十五糎(?)」と書かれているようです。
75cm?旧海軍の小艦艇に搭載された探照灯は90cmのはず。75cmなどというタイプがあったのか?
そう思って調べてみましたが、Wikipediaでも150cm、110cm、90cmは記載があるものの75cmはありません。他のサイトでも調べましたがどこにも出てきません。他艦の図面なども調べましたがやはり見当たりません。
そこで第9号の写真を確認。
身長165cmの私の肩幅はだいたい50cm。当時の日本人はもう少し小柄だったようなので45cmとすると、探照灯の直径は90cmとなります。仮に直径を70cmにしようとすると肩幅を35cmにしなければなりませんが、さすがに小人過ぎますよねw
ということで探照灯は90cmで確定。
パーツはナノドレッドを使えばよいのでしょうが、もったいないので自作。
1.2mm丸棒を適当なサイズに切り出し、その厚みから少しはみ出るように0.1mmプラペーパーを巻き付けます。
次にその上から先程よりほんの僅か短いペーパーをもう一度巻き付けます。
こうすることでレンズ面を取り囲む枠が出来るという寸法です。
さらにプラバンなどでディテールを付けてやれば完成。
実際の現場ではキャンバスで覆われていることが多いので、ここまでこだわって作る必要もないのですが、今回は夜間の輸送場面をジオラマ化する予定なので、あえてキャンバスの無い状態の再現を試みます。
Posted at 2022/09/11 11:34:28 | |
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