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ntkd29のブログ一覧

2015年09月07日 イイね!

あり得ないことが、(26)




すらり氏と入れ替わりに女土方がラウンジに入って来た。そして席に着くと「お疲れ様」とだけ僕に向かって言った。


「相手の人、ゲイだったわ。自分からそう言ったの。事情があって仕方なく見合いを受けたんだって。そう言って謝罪して帰ったわ。でもさわやかですてきな人だったわよ。」


「えっ。」


女土方はちょっと意外な顔をした。


「ホテルの入り口ですれ違ったすらりと背の高い中年の人かな。そう言えばなかなかスマートな人だったかもしれない。」


「ビアンやゲイの人って美男美女が多いのかな。罪よねえ。さあ車を返して東京に帰りましょう。」

 
僕は荷物を持って立ち上がると駐車場の方向に歩き出した。そしてタクシーを頼んで後についてきてもらうと佐山家に向かった。そして車を戻すと佐山母に一言見合いの結果について報告をした。


「あっさり振られちゃったわ。じゃあまたね、お母さん。元気でね。」

 
僕はそれだけ言うと「あんた、また何か仕出かしたんでしょう。」なんて調子で喚き立てている佐山母の声を背中に受けながらタクシーに乗り込むと小樽駅に向かった。しかしこの世には同性愛者というのも結構いるものなんだな。売名的なものを除いてこの国ではまだまだ欧米のように表面には出てこないから実態は分からないが、自分がこの体になって以来目の前に出てくる奴等の半分はその類だ。感情の問題はとにかく別に同性愛者が悪いとは思わないが、こんなに多いとも思わなかった。もっとも今の僕も傍から見れば立派な同性愛者なんだろうけど。


“I’m strait!”


僕としてはそう叫びたい気持ちだけどね。


帰りの飛行機の中で黙って雑誌に目を落としていた女土方が顔を上げると僕に向かってぽつりと言った。


「みんな何もないように平然としているけどその内側にはいろいろな問題を抱えているんでしょうね。誰にも口に出して言えないような問題をひっそりと抱えて伸吟しながら何とかしようとしているのかもしれないわね。」

 
僕は今日出会ったすらり氏のことを思い出した。あの狭い地域社会の中で人と絡み合って生きていかなくてはいけないという境遇の中で一体どうして自分の生き方を探していくのだろう。それも周囲が容易には受け入れそうにない生き方を。

 
僕にしても複雑な事情を背負って彷徨っている身なので何の力にもなってはやれないのだが、すらり氏が「自分はゲイなので」と言った時の顔が妙に思い出されてならなかった。僕は飛行機の小さな窓から見える地上の明かりに目を落とした。きっとどこかの町なのだろう明かりがかたまって見えるところもあればポツリポツリと点在しているところもあった。その明かり一つ一つがまるでそれぞれ皆違った人の生き方のように見えた。僕はこれまでポツリポツリと点在する明かりのような生き方を好んできたが、これから先この複雑な状況を抱えて一体どうして生きていくのだろう。窓から目を離すと女土方が僕の方を覗き込んでいるのに気がついた


「どうしたの、深刻な顔をして。何か困ったことでもあるの。」


女土方は心配そうに尋ねた。


「ううん、そうじゃないの。あの人のことを思い出して。お見合いの相手の人。自分の生き方を見つけるまで大変じゃないかなと思って。」


「そうね、この国はね、同性愛に関してはまだまだ興味本位と嫌悪が主流だから。」

僕は女土方の手を取って軽く握った。

「ねえ、私たちは一人じゃないから。きっと大丈夫ね。」

女土方はゆっくりと大きく頷いた。

 

法事も終わり僕たちはまた日々の仕事に明け暮れる毎日に戻って行った。考えてみれば何だか訳の分からないうちにいろいろなことを経験した。どうにもならない運命に翻弄されながらとにかく自己保身を基本に目の前に次から次へと展開される驚愕の出来事に対応して何とか切り抜けてきた。確かにそんな対応の仕方はお互いに好むと好まざるとにかかわらず出会わざるを得なかった相手を翻弄し傷つけることになったかもしれない。でも僕自身も自己保全の瀬戸際で悪戦苦闘を続けた果ての結果なのでそういった人たちには何とかご勘弁いただきたいと思う。

 

しかし自分のことを棚に上げてこんなことを言うのは気が引けるところもあるが、それにしても誰も何でもないような顔で日々を生活しているようだけれど、その裏では驚くような重荷を背負って呻吟している人たちが何と多いことか。女土方や小樽で出会ったすらり氏にしても勿論のこと、馬の骨氏も新たな女性と浮名を流し、あの総務の女史とアイ・ラブ・恐怖のトライアングルでもめにもめているようだ。しかしこれなどは自業自得と言うのかも知れないが。一つだけ馬の骨氏を擁護すれば彼は女性を惹きつける何かしらの魅力を備えているように思う。ただし引き寄せられた女性をどのように遇するかは個人の力量や資質によるのだろうが。

 

また気がかりと言えば佐山芳恵は一体どこでどうしているんだろう。それと僕の体はどうなっているのだろう。単純に佐山芳恵が僕の体を占有してそこで出会った運命と呻吟苦闘を続けているのか、それとももっと別の運命を生えているのか僕には見当もつかなかったし今後の先行きはもっと見当がつかなかった。

 

そうして不安を抱えながら不透明な時間を生きてはいるものの人間というのは環境適応性が旺盛なのか僕自身の個性なのか女生活もそれなりに慣れてきて日常の生活にはさほどの不自由を感じなくなってきていた。勿論目が覚めたら全く知らない人間に、しかも女になっていてその全く知らない人格を出来るだけなぞって生きると言うのは並大抵のことではなかった。それでもどうひっくり返されて調べられても自分が佐山芳恵ではないということを科学的に立証することは不可能だと自覚してからは僕の行動はかなり大胆になった。

 

元々僕自身個性が薄い類の人間ではないし、その個性を殺すことを最も嫌う人間であった僕としてはなぞることが出来る分の佐山芳恵を演じはしたが、当然のこととは言え彼女の人格をなぞれるところなど多寡が知れていた。だからきっと周囲では佐山芳恵は気が違ったのではないかと思うほどの激変振りだったに違いない。佐山芳恵には気の毒なことをしたところも多分にあったのかもしれないが、しかしそれは僕にとっても同じことだった。それに僕が今の状態で生きていくには他には方法がなかったのも事実だった。そうして開き直ってしまえば当初は多いに戸惑った日常生活もそれなりに板に付いて生きることが出来るようになった。また僕自身にしても最初の頃とは違って傍から見ていても女としての立ち居振る舞い周囲にがさほどの違和感を感じさせなくなってきていたようだったし自分自身も女としての生活をそれほど苦痛とは感じなくなっていた。




Posted at 2015/09/07 23:51:39 | コメント(0) | トラックバック(0) | 小説 | 日記
2015年09月07日 イイね!

大型二輪に乗ろう(ワルキューレ・ルーンと言うバイク)

大型二輪に乗ろう(ワルキューレ・ルーンと言うバイク)


今日はバイクの6か月点検でホンダドリーム世田谷まで出かけて行った。往復で150キロ、ちょっとしたツーリングだ。しかし、先月福井・京都方面にツーリングしてから雨にたたられてほとんどバイクに触れていなかったのでそれなりに楽しいミニツーリングだった。







おまけに天気が悪くて小雨が断続的に降る中、雨衣にレイングローブと雨フル装備での往復だったが、特に問題なく乗り切った。ちょっと暑かったけど、・・・。







点検自体はオイル・フィルター交換とタイヤの空気圧調整程度で特に問題はなし。ただ、フィルターは1年で交換したと思っていたら換えていなかったので今回交換した。これはちょっとうっかりしていた。







ところで今日は珍しいバイクを見た。バルキリールーンというアメリカンバイクでゴールドウイングの系列として米国で作られたバイクだが、ホンダ史上最高額のバイクで当時の換算で378万円だそうだ。バルキリーというのは英語読みで日本ではドイツ読みから派生したワルキューレが一般的なようだ。ワルキューレとは北欧神話の女神で戦場で死んだ勇士をバルハラ宮へ導きもてなす女神の名前だそうだ。







日本には100台も入っていないと言うので実車を見ることはないだろうと思っていたらホンダドリーム世田谷で中古車が販売されていた。車体はシームレス構造、メッキパーツを多用して、フロントサスはスプリンガーフォークと言う珍しい形式の重厚長大なバイクだ。







スプリンガーフォークと言うのはハーレーなどで多用される形式だが、見た目が複雑で格好いいだけで強度が弱い、価格が高い、性能が低い、重量が重い、整備性が悪いなど良いとこなしの形式のようだ。確かにこのバイク、性能よりはひたすら見た目重視のバイクのようだ。価格は299万で諸費用込だと320万、買いたいとは思わないが、めったに見ることが出来ない珍しいバイクなので見たい方はホンダドリーム世田谷へどうぞ。
Posted at 2015/09/07 20:32:49 | コメント(0) | トラックバック(0) | バイク | 日記
2015年09月07日 イイね!

先島は辺野古移設に賛成




沖縄県石垣市の中山義隆市長は7日、日本記者クラブで会見し、同市の尖閣諸島沖で中国公船が日本領海への侵入を繰り返していることについて、「現実的な脅威が高まっている。漁業者は不測の事態を恐れて周辺海域での漁を控えている」と危機感を訴えた。
 
 




市長は「日米安全保障条約も大事だが、自衛隊が的確に対応できるだけの配備が必要だ」と強調。防衛省が石垣島への陸上自衛隊配備を計画していることには、「しっかりテーブルに着いて対応したい」と受け入れに前向きな姿勢を示した。
 







米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古移設について、市長は「普天間飛行場の危険性除去を最優先に考え、県内移設もやむを得ない。辺野古しか対応策はない」と容認。参院で審議中の安全保障関連法案にも触れ、「自衛隊と米軍が連携していかなる状況でも対応できる体制をつくるものだ」と改めて支持を表明した。







沖縄本島よりも前島の方が遥かに現実的な考え方をしている。沖縄は辺野古移設を拒否して集中協議は決裂したが、先島は辺野古移設に賛成している。琉球は中国に朝貢外交をしていたので中国が懐かしいのだろうか。先島は琉球王朝の重税と弾圧に苦しめられていたので沖縄本島には抜きがたい不信感と憎しみがあるようだ。でも、実際に脅威に直面している先島と補償金をもらってぬくぬくしている沖縄との違いだろうか。





Posted at 2015/09/07 20:31:02 | コメント(0) | トラックバック(0) | 政治 | 日記
2015年09月07日 イイね!

文民統制に反すると枝野君は言うが、・・・。




民主党の枝野幸男幹事長は7日、防衛省の河野克俊統合幕僚長が昨年12月に安全保障関連法案が今年夏までに成立するとの見通しを米軍幹部に伝えたと共産党議員が指摘している問題について、事実であれば政府は河野氏を罷免すべきだとの考えを示した。

 

国会内で記者団に「政府案も決まっていない段階での発言だ。シビリアンコントロール(文民統制)を逸脱している」と強調した。





文民統制と言っても民主党がどんな文民統制をしていたのか。ただ、法案の採決を遅らせようとしているだけだろう。メディアもあれこれ盛んに報道していたのだからそうしたことを語ったとしても実際に何かを実行したわけでも約束したわけでもない。大騒ぎすることでもない。それよりもこうした文書が次々外部に出てしまうことの方がよほど問題だろう。
Posted at 2015/09/07 20:29:01 | コメント(0) | トラックバック(0) | 政治 | 日記
2015年09月07日 イイね!

所詮は鳥なき里の蝙蝠、装甲車は戦車の代わりにはなれない。




陸上自衛隊は平成28(2016)年度概算要求で、現在開発中の機動戦闘車36両に259億円、また生産の当初にかかる初度費用を82億円要求している。機動戦闘車は105ミリ戦車砲を採用した砲塔を有する8輪装甲車である。陸自はゲリラ・コマンドウ対処の普通科の火力支援、島嶼防衛などでの敵の軽戦車、装甲車両などの排除に使用するという。


だが結論から申し上げれば、機動戦闘車は陸自機甲科の失業対策が主目的であり、必要とされる任務には不適合である。単に予算を浪費するだけだ。

■ 単に予算を浪費するだけ
 陸自の戦車定数は、1976年の51年防衛大綱では1200両だったが、その削減が続き、07大綱では900両、16大綱では600両、22大綱では400両、そして現在の300両にまで減らされている。これはソ連が崩壊し、わが国に対する本格的な敵の陸上戦力上陸の可能性が大きく減じたからである(もっとも最盛期のソ連ですら、わが国に対する師団規模の侵攻を行える能力はなかった)。

 

機動戦闘車は諸外国でいう戦車駆逐車であり、装輪戦車と呼んでも差し支えない。防衛省は現中期防(現中期防衛力整備計画)で99両の機動戦闘車を調達するとしており、最終的には200両程度の機動戦闘車が調達される予定だ。これらは戦車の定数には含まれない。つまり戦車の定数が300両に減っても、機動戦闘車を加えれば実質的に500両となり、22大綱の戦車の定数を大きく上回る。

 

今回の要求金額を調達数で割れば機動戦闘車の調達単価は7.194億円である。200両ならば1440億円であり、これにさらに要求されている初度費を加えれば1521億円となる。初度費は初年度だけはなく後年にも要求される可能性があるので、調達総額はさらに膨らむ可能性がある。言うまでもないが、それ以外にもすでに開発費がかかっている。


 




機動戦闘車の乗員は4人である。整備員、後方要員、訓練機関、司令部要員などの関連要員を乗員の約3倍とすれば、機動戦闘車の運用には約3200人の人員が必要となる。人件費は固定費であり、毎年これだけの規模の人件費が必要となる。仮に年金や退職金、各種手当、訓練費やその他の間接費用をふくめて1人あたり1000万円として計算すれば、毎年320億円の人件費がかかる。これでは戦車を大幅に削減した意味がなくなる。

 

本来戦車を削減した費用や人員を、兵站(へいたん)や衛生などの陸自の弱い部分に回すべきだった。衛生要員は1個普通科中隊(約100人)あたり本来3人だが、人手不足で1人の所も多い。対して、他国では1個小隊に1人のメディックが配されるのが普通だ。また炊飯も問題だ。1個中隊あたり1両の野外炊飯車があてがわれるが、食事を用意するために1個小隊から1個分隊分の隊員を手伝いで出すという。戦時にそのようことができるだろうか。諸外国では途上国ですら、中隊以上の部隊ではコンテナ式のキッチンや食堂を有しているが陸自にはこれすらない。率直に申し上げて陸自は軍隊として活動する基盤がない。

■ 大口径の砲は不要
 機動戦闘車はゲリラ・コマンドウ対処に向かない。装甲は戦車よりもはるかに薄く、正面装甲でも機関砲、側面せいぜい12.7ミリ弾に耐えられるレベルで、その他部分は7.62ミリに耐えられるレベルだ。またこのような戦車駆逐車で真正面からの、最新型の戦車相手に戦車戦を行うのは自殺行為だ。だが待ちぶせした場合や、敵の戦車が旧式の場合ならば、先に敵を発見し、正確な射撃で敵戦車を撃破することも可能だ。

 

105ミリ砲は、機動戦闘車が想定しているゲリラ・コマンドウ対処や、島嶼(とうしょ)防衛にも不向きだ。まず威力が過大であり、都市部で使用すれば不要な建物の破壊など不要な副次被害を起こす。つまり多くの民間人の死傷者が出、不要な民間資産を破壊する可能性が高い。自衛隊は国産開発する常套文句として「わが国独自の環境と運用」という言葉を多用するが、国民の7割が都市部に居住する「わが国独自の環境」では副次被害は大きな問題だ。

 

いずれの任務でも35~40ミリクラスの中口径の機関砲、すなわち歩兵戦闘車レベルの火力で十分である。どうしても大口径の砲が必要ならば76ミリや90ミリの火砲を使用すればよろしい。あるいは後装式の60ミリないし120ミリ迫撃砲も候補となるだろう。その方が車両のコストも安く上がるし、より多くの弾薬が携行できるし、兵站も小さくて済む。これは市街戦や島嶼防衛でも重要だ。

 

しかも機動戦闘車用の砲弾は、単に74式戦車の砲弾の流用であり、ゲリラ・コマンドウ対処に必要な多目的砲弾も開発もなされなかった。過去の戦争の戦訓で、従来の榴弾では建物や強固な陣地に立てこもった敵に対して有効ではないことがわかっている。従来の榴弾は、本来野戦で破片をばらまいて殺傷することを目的としており、建物や陣地に立てこもった敵に対して十分に威力的ではない。

 

これは昨今のイラクやアフガニスタンの戦闘で大きな問題となり、欧米やイスラエル、中国などでも多目的弾の開発・装備化が進んでいる。この中には電子式信管を有して、発射時に砲弾にプログラムを行い、敵の上空で砲弾を炸裂させることができるものもある。陸自はゲリラ・コマンドウ対処のためといいつつ、そのための砲弾の開発を行っていない。これも本来は華々しい対戦車戦をするための装輪「戦車」が欲しかったのだろうという、間接的なエビデンスである。







また機動戦闘車は車体も専用のものが開発されたが、これまた大きな無駄である。陸自は新しく、8輪装甲車を開発するが、そのバリーションとしてそのような歩兵戦闘車、あるいは火力支援車を開発すればよかった。仮に105ミリ砲を搭載するにしてもそのバリエーションとして開発すればよかった。そうすれば運用や兵站コストは劇的に下がる。逆に申せば、専用の車体を開発したことで運用兵站コストは劇的に高価になった。

 

実際、陸自には1990年代にそのような装甲車のファミリー化構想があり、105ミリ砲を搭載する火力支援車も検討されていた。この構想のための試作も行われたが、新たな汎用8輪装甲車の開発はなされなかった。そしてまたも個別最適化した装甲車を作り、わざわざ調達単価と運用コストを上げ、弱い兵站を圧迫している。96式自走120ミリ迫撃砲などたった24両しか調達しないのに、わざわざ専用の車体が開発された。この高コストのために陸自の装甲車は調達数が少ない上に、採用の近代化も行われず、旧式化や稼働率の低下が放置されている。そして機動戦闘車がほぼ完成したころに新型の8輪装甲車の開発が決定している。

 

諸外国では1980年代以降、装甲車両ファミリー化は常識であり、21世紀なってもこのような無駄な装備の開発と調達を行っているのは陸自ぐらいである。わざわざ不効率な開発を行って少ない予算を浪費し、脆弱な兵站を自らさらに脆弱化させている。






■ 74式戦車を近代化すれば十分
 ゲリラ・コマンドウ対処では10式戦車もこれを理由に開発されており、用途がダブっている。105ミリ砲搭載の車両が必要ならば、10式など開発せずに、74式戦車を近代化すればよかった。これをネットワーク化し、対戦車兵器用の増加装甲やRWS(リモート・ウエポン・ステーション)など装備を付加すればよかった。その方が安上がりだし、要員の訓練もほとんど同じで無駄がない。敵の戦車の交戦を想定せず、ゲリラ・コマンドウ対処を主任務とするのであればそれで十分である。ゲリラ・コマンドウ対処では戦車駆逐車よりも防御力が高い戦車の方が有利である。ゲリラ・コマンドウ対処では耐地雷・IED(即席爆発装置)防御力が重要だが、機動戦闘車はこの点でも脆弱である。

 

ゲリラ・コマンドウ対処をする場合、5個ある各方面隊に1個分隊も配備すれば十分であり、ならば近代化した74式が60両もあれば事が足りる。200車両も新たな、しかも高価で脆弱な車両をわざわざ導入する必要はない。むろん10式戦車も必要なかった。

 

機動戦闘車や10式戦車に、贅沢に使う予算は陸自の機甲科にはない。陸自唯一の機甲師団である第7師団は人員約6000人だが、諸外国のひと回り小さな旅団レベルにすぎない。たとえば英陸軍の1個機甲旅団は5000~6000人。総兵力は約10万人で陸自の3分の2だが、3個機甲旅団からなる1個師団を有している。

 

第7師団では戦車と共に戦う歩兵戦闘車である、89式装甲戦闘車は諸外国の戦車並に高価だったこともあり、第7師団ですら歩兵中隊に十分に行き渡るほど配備されていない。しかも採用された1989年以降まともな近代化もなされておらず、稼働率も低い。

 

さらに申せば指揮通信車をはじめ1970~90年代に採用された多くの装甲車両も同様であり、現代的な戦闘は不可能である。つまり一個旅団すらまともに整備できていない、まるで博物館のような惨状を呈している。

 

とても実戦を想定しているとは思えない。機動戦闘車や10式戦車のような「楽しい玩具」を導入する予算があれば、旧式装甲車両の近代化や更新、稼働率の改善、兵站組織の向上に予算を使うべきだった。

 

機動戦闘車はゲリラ・コマンドウ対処に向いていないだけでなく、島嶼防衛にも不向きだ。戦闘重量は約26トンであり、空自が導入するC-2輸送機以外では空輸できない。C-2はペイロードが30トンと言われているが、新聞報道などによれば機体の強度不足などでかなり減って、26トンほどという報道もある(防衛省のライフサイクルコスト報告書の平成24年度版および25年度版では、C-2のペイロードは、ペイロード8トンのC-1の3倍としている、そうであれば24トンということになる。だが平成26年度版では30トンとなっている)。

 

26トンであればギリギリ機動戦闘車が搭載可能である。C-2は30機ほど調達されるといわれているが、機動戦闘車1個中隊とその支援部隊、弾薬などを運べば2/3が必要となる。だが島嶼防衛では機動戦闘車の優先順位は低い。ほかの人員や装備、弾薬が優先される。多くのC-2を機動戦闘車に使用するわけにはいかない。

 

沖縄本島や宮古島などの一部をのぞけば、C-2が運用できる2000メートル級の滑走路は存在しない。またC-2は舗装した滑走路でしか運用できないので、急造の滑走路では運用できない。島嶼防衛を想定するならば、機動戦闘車はペイロードが約20トンで、不正地でも運用できるC-130Hに搭載できるものが望ましかった。先述の汎用装甲車のバリエーションの火力支援車両ならば、世界中でC-130Hで空輸できる車両はいくらでもある。この点でも機動戦闘車は島嶼防衛でも役には立たない。船で輸送するならば沖縄あたりに一個中隊ほどの戦車部隊配備、あるいは戦車のみを事前に集積しておけばよい。







機動戦闘車の重量が大きくなったのは、単なる歩兵の火力支援ではなく、戦車戦を想定して精密な射撃と機動力の実現を目指した、つまり「装輪戦車」を目指したからだろう。

 

装軌(キャタピラ)式の戦車や装甲車は、履帯という「面」で地面と接しているために、安定度が高く、不整地走行能力が高い。対して装輪式装甲車はタイヤという「点」で地面と接しているために、安定度や不整地走行能力が装軌車よりも劣る。このハンディを解消し、主砲射撃の反動を吸収するためには、より車体を重くし、より多くの、そして幅の広いタイヤを採用する、独立懸架装置を採用するなどの方策が必要だ。

 

このため機動戦闘車の横幅は約3メートルもある。これまで陸自は道路法の制限があり、装輪装甲車の全幅は2.5メートル以下としてきた。この制限ゆえに96式装甲車は全幅を2.45メートルに制限されたため、不整地走行能力が低くなり、「戦闘車両として必要な急発進・急加速・急停止・急操向ができない」と陸自の機甲科のOBも証言している。つまり事実上、路上でしか運用できない。このため軍用装甲車として96式は欠陥品である。

 

しかし不思議なことに、在日米軍はこの道路法の制限を受けない。ちなみに現行法でも国交省に書類を毎年提出すれば横幅2.5メートル以上の車両も運用できるが、陸自はこれまでできないと言ってきた。確かに全幅2.5メートルの制限ではまともな防御力と不整地走行能力は確保できない。横幅が2.5メートルを大幅に超過する機動戦闘車を導入するのであれば、道路法と過去の主張をいかように改めたのか、納税者に説明する責任があるだろう。

 

また、これまでのほかの装甲車も全幅2.5メートル以下にする必要はなく、そうであれば96式ももっとまともな装甲車になり、「欠陥品」にならなかったはずだ。実際に96式開発の関係者も「あと10センチ全幅が大きかったら、ああはならなかった」と証言している。

 

全幅が3メートルになるとそれこそ道路が狭く、都市部が多い「わが国固有の環境」で普通科(歩兵)と直協して行動するのはかなり困難だ。諸外国の汎用装輪装甲車は全幅3メートルクラスも存在するが、2.6~2.8メートル程度が主流である。たとえば米軍のストライカー、フィンランドのAMVなどの全幅はこの辺りであり、この程度に納めるべきだったろう。

■ 三菱重工にノウハウがなかった? 
 機動戦闘車の全幅や重量が大きくなった理由のひとつとしては、主契約者の三菱重工が装輪装甲車、特に大口径砲を搭載したものの開発経験がなく、比較的軽量の車体で主砲射撃時の反動をマネジメントすることができなかったことも、理由なのではないだろうか。諸外国では105ミリ砲を搭載した、より軽量な車体の装甲車は多数存在する。

 

これらのことから、機動戦闘車は装輪戦車、「戦車駆逐車」を志向していることがわかる。つまり機動力戦闘車導入の目的は機甲科の「失業対策」である。だがこれを「装輪戦車」と説明すると財務省に説得できない。だからあくまで戦車ではありません、ゲリラ・コマンドウ対処、島嶼防衛に使用します、と説明してきたのだ。

 

だが、「戦車でない」と説明するために、火器管制装置などを10式戦車よりも劣ったものにしている。イタリア軍の戦車駆逐車であるセンタウロは、戦車を補完する存在として開発されたために、火器管制装置などは主力戦車であるアリエテと同じものを採用している。このためセンタウロとアリエテでは乗員の移動が容易であり、訓練も整備も共用化できる部分が大きい。

 

ところが機動戦闘車と10式のそれは共用化されていない。当然相互の乗員の移動や訓練や兵站の共用化はほとんどないだろう。しかも「戦車」でないと主張するために、ネットワーク機能の付加も決定されていなかった。これは筆者が機動戦闘車のお披露目の際に質問して明らかになったが、8月末の防衛省概算要求のレクチャーではネットワーク機能も付加されるかもしれないと言い出した。意地の悪い見方をすれば、すでに機動戦闘車の調達が事実上決定してしまってから、ネットワーク化を決定したのではないか。

 

いずれにしても機動戦闘車は、火力支援用としても、戦車駆逐車としても中途半端な存在となってしまった。そしてその任務は旧式戦車の改良や歩兵戦闘車などでも達成可能なものであり、あえて多額費用をかけて「装輪戦車」を開発・調達する必要はなかった。

 

本当に必要なものに予算を使うのではなく、陸自村の「社内政治」に多額の予算をつぎ込んでいては、まともな戦力構築はかなわない。陸自の装備調達は戦争ごっこ向けであり、実戦を想定していない。このような予算の無駄遣いは納税者の理解は得られないし、早急にやめるべきだ。今からでも機動戦闘車の調達は中止すべきだ。登山と同じで引き返すことも勇気である。







ずい分と長く機動戦闘車の悪口を書いているが、この車両は10式戦車と同様にスラローム射撃ができるなど軽量の装甲車では不可能と言われた走行中の精密射撃が出来、性能的にはかなり高度なものを持った車両のようだ。しかし、所詮は装甲車で戦車のような防御力も持たなければ120mm滑空砲のような強力な火力も装備しない。鳥なき里の蝙蝠のようなものでその活用は相当に制限される。この装甲車を100両装備するなら10式を100両装備した方がはるかに戦力としては大きいだろう。戦車を大幅に削減されたのでこんなものを持ち出したのかもしれないが、どうもこれが活躍する場面が思い浮かばない。





Posted at 2015/09/07 00:34:42 | コメント(0) | トラックバック(0) | 軍事 | 日記

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