去る2015年9月、航空自衛隊は新空中給油機の導入選定において、ボーイングKC-46A「ペガサス」を3機導入する方針を固めました。
選定は入札契約方式によって行われる予定でしたが、有力候補として目されていたエアバスA330MRTT(多用途空中給油・輸送機)を擁するエアバス社は、勝利の見込み無しと入札を見送ったため、自動的にKC-46Aの導入が決定しました。この新しいKC-46Aの導入によって、自衛隊機の作戦能力は大幅に向上することになります。
KC-46Aは、アメリカ空軍への導入開始からすでに60年が経過し、老朽化が著しいボーイングKC-135「ストラトタンカー」や、マクダネルダグラス(現・ボーイング)KC-10「エクステンダー」の後継機として開発が進む新型機であり、双発ワイドボディ旅客機ボーイング767の貨物機型767-200LRを原型とします。
またこのKC-46Aは、すでに航空自衛隊の小牧基地に4機が配備済みであるKC-767(原型は旅客機型767-200ERF)と基本的には同型の航空機です。航空自衛隊への導入は既存機と命名を統一しKC-767となるのか、KC-46となるのかは、いまのところ未定です。
オスプレイにも給油できるKC-46A
KC-46AはKC-767、両機におけるもっとも大きな違いは、その空中給油方式です。どちらも「フライングブーム方式」と呼ばれる給油ブームを機体後尾に備えており、コックピットの後部に設置された空中給油操作ステーションから遠隔操作で戦闘機の受油口へブームを接続します。
そしてKC-46Aのみ「プローブアンドドローグ方式」に対応しており、フライングブーム方式とは反対に、戦闘機側が給油機の給油口へ接続するためのドローグシステムを、左右翼下の給油ポッドおよび機体後部の合計3か所に備えています。
フライングブーム方式はF-15J「イーグル」、F-2A、そして空自が導入予定のF-35A「ライトニングII」といった戦闘機がこれに対応。なおF-4EJ改「ファントムII」は導入当時の政治的な理由から空中給油能力が除外されています。
プローブアンドドローグ方式は、ヘリコプターのUH-60J「ブラックホーク」と、導入予定のティルトローター機V-22「オスプレイ」が対応しています。
空自がすでに導入しているKC-767はフライングブーム方式での空中給油しかできないため、現在、これら機種への給油が行えず、別途、プローブアンドドローグ方式にのみ対応したKC-130H「ハーキュリーズ」を使用しなければなりません。
しかし新たに空自が導入予定のKC-46Aは、両方の方式で空中給油が可能。ただ、KC-767へ新たにプローブアンドドローグ方式への対応能力を追加することも、適切な予算さえあれば容易に行えるでしょう。
航続時間延長以外に大きな意味がある空中給油機
空中給油機の主な目的は戦闘機の支援です。戦闘機は非常に燃費が悪く、最大出力を発揮する「アフターバーナー」を使用すると10分あまりで機内燃料タンクを使い切ってしまいます。燃料消費を抑えて巡航しても、せいぜい1時間程度の空域パトロールしかできません。
しかし空中給油機の援助を受けることによって、パイロットの肉体と精神の限界である8~10時間程度まで航続時間を延ばすことができ、アメリカ空軍などでは実際そうした作戦が行われています。
また一般的に戦闘機は降着装置の強度が弱く最大離陸重量に制限があり、対地攻撃用に爆弾をフル武装した場合、重量制限から燃料を減らさなくてはなりません。しかし空中給油を受けることを前提とすれば、燃料が少ない状態で離陸しても問題ないため、爆弾搭載量を最大限に発揮できるようになります。
空自がすでに4機導入しているKC-767。そこへ新たに3機のKC-46Aが加わることで、有事の際においても常にこれら空中給油機を2機程度、滞空させておくことが可能になります。そしてこれは、戦闘機の能力が大幅に向上することを意味します。
またKC-767、KC-46いずれも機内には貨物室と客室が設けられており、自衛隊海外派遣における物資輸送においても非常に重要な役割を担います。原型機ボーイング767はありふれた旅客機であるため、世界中どこの空港へ出向いても受け入れ側が難儀することはありません。
以前は憲法上の制約から空母、戦略爆撃機、空中給油機などは保有できないと言っていたが、今では当たり前のように装備されている。また、以前は空中給油装置を取り外すだの、爆撃コンピュータを取り外すだの、わざわざ金をかけて能力を落すようなこともしていたが、それもなくなった。時代も変わったものだ。でも8時間から10時間も飛ばされるパイロットは気の毒だが、・・・。
Posted at 2015/11/15 14:48:46 | |
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