沖縄県の翁長雄志知事が名護市辺野古の埋め立て承認を撤回すると発表した直後に急死し、辺野古問題は混乱に陥っている。政府は8月17日に予定していた土砂投入を延期し、9月30日に予定されている県知事選挙の後まで先送りされるとの見方も出ている。
辺野古移設は仲井真知事が承認したが、それに反対して当選した翁長知事は承認を取り消した。国は「取り消しは違法」だと県を提訴し、最高裁で県の敗訴が確定したので、また県が撤回しても法的には無意味だ。いつまでこんな茶番劇を続けるのだろうか。
■ 「沖縄振興策」は利益誘導
普天間飛行場を移設する方針は、もともと橋本内閣が米軍基地の整理縮小策の一環として提案し、1997年に辺野古沖に移転することで日米が合意したものだ。しかし民主党政権で鳩山首相が移設先について「最低でも県外」と約束し、具体案が出せないまま撤回して辞任した。
これによって辺野古問題は混乱し、仲井真知事も「県外移設」を掲げて知事に再選された。その後、2013年末に仲井真知事は安倍首相と会談し、首相は毎年3000億円の振興予算を8年間にわたって確保することを約束した。このとき仲井真氏は「有史以来の予算」と高く評価し、辺野古移設を容認した。
これに沖縄県民は反発し、県議会は知事辞任要求決議を賛成多数で可決した。「県外移設」が「オール沖縄」のスローガンになり、それを公約にして2014年に仲井真知事の約束を破ることを公約に掲げて当選したのが翁長知事である。
このように知事の方針が二転三転して何度も補助金を要求する沖縄の姿勢には「約束違反の利益誘導だ」という批判が強い。翁長氏も2012年の朝日新聞のインタビューで、それを認めている。
振興策を利益誘導だというなら、お互い覚悟を決めましょうよ。沖縄に経済援助なんかいらない。税制の優遇措置もなくしてください。そのかわり、基地は返してください。国土の面積0.6%の沖縄で在日米軍基地の74%を引き受ける必要は、さらさらない。いったい沖縄が日本に甘えているんですか。それとも日本が沖縄に甘えているんですか。
■ 沖縄の基地は減っている
翁長氏は利益誘導であることを認めた上で「それは本土の負担を沖縄が引き受ける対価だ」と開き直るのだが、それは本当だろうか。次の図のように沖縄が返還された1972年に比べると、沖縄の米軍専用施設の面積は33%減った。この時期に全国の基地が45%減ったので、沖縄の比重が上がっただけだ。
つまり基地が沖縄に集中したのではなく、本土でも沖縄でも基地は縮小されたのだ。沖縄の縮小率が小さかったのは、本土が沖縄に甘えているからではなく、その逆でもない。アメリカの極東戦略の変化によるものだ。
1951年のサンフランシスコ条約では、沖縄の米軍基地には日本国憲法が適用されなかったので、核兵器が配備され、海外派兵も行われた。それが沖縄に米軍基地の集中した原因である。
沖縄返還の後、米軍縮小策で在日米軍基地は大きく減り、その位置づけも補給基地になったが、朝鮮半島と台湾に近い沖縄の地政学的な重要性は大きいので、沖縄の基地はそれほど減らなかった。
その位置づけも「攻撃の前進基地」だったので、自衛隊がその役割を分担することは難しい。沖縄返還で日本の領土になったのだから、日本が守るべきなのだが、憲法の制約でできない。
このように沖縄の米軍基地は、日米同盟という戦後日本の「裏の国体」の要だったが、それは平和憲法という「表の国体」との矛盾を抱えている。日本政府はその矛盾を沖縄に押しつけ、補助金でごまかしてきた。
沖縄の地元紙をはじめとする革新勢力も、利益誘導の応援団となってきた。革新は基地反対を叫び、保守がそれを抑える見返りに本土からいつまでも補助金を取る茶番劇が続いてきたが、彼らは辺野古問題に決着がつくと困る。革新が弱体化したので、保守の翁長氏が革新に相乗りしたわけだ。
■ 日米関係の中で沖縄を考えよう
観光以外に産業のない沖縄にとって補助金は最大のビジネスなので、利益誘導は一概には否定できないが、それを「沖縄の心」という美辞麗句で飾ることが問題を混乱させてきた。本質的な問題は、日米関係の中で米軍基地をどう位置づけるのかである。
この点で、翁長氏が全国知事会に提案して、8月14日に防衛省に提出された米軍基地負担に関する提言は注目に値する。
これは「日米地位協定を抜本的に見直し、航空法や環境法令などの国内法を原則として米軍にも適用させることや、事件・事故時の自治体職員の迅速かつ円滑な立入の保障などを明記すること」などを求めるものだ。
現在の日米地位協定では、米軍基地に日本の航空法は適用されない。東京の上空は「横田空域」と呼ばれる米軍の空域で、管制権はアメリカにある。これは主権国家としては異常な状態で、占領統治の延長上にあるといってもよい。
ところが日本は憲法の建て前で軍備を持てないので、対等な軍事同盟を結ぶことができない。このためアメリカが在日米軍基地の指揮権も管制権も持つ地位協定ができ、日本政府は「事前協議」を求める権利しかない。
これを解決する方法は安保条約を改正して日米が互いに防衛責任をもつことだが、それは憲法第9条に違反する。アメリカから見ると、日本はアメリカを守る責任がないのに、アメリカが日本の防衛責任を負う安保条約は不平等条約である。憲法を改正するなら、安保条約と地位協定も一体で考える必要がある。
米軍再編の中で、海兵隊の基地は今後ずっと沖縄にあるとは限らない。北朝鮮情勢が不安定なとき辺野古移設を撤回するわけには行かないが、長期的には海兵隊の縮小は選択肢だろう。そういう戦略的な議論をするならともかく、情緒的な「反戦・平和」論議には意味がない。
沖縄問題の本質は、日米同盟の矛盾である。翁長氏はそういう沖縄の表も裏も知り尽くした上で、「沖縄の心」を最期まで演じたのだろう。それは彼なりの沖縄への奉仕だったのかもしれないが、ここで茶番劇には区切りをつけ、日米関係の中で沖縄問題をまじめに考えてはどうだろうか。
沖縄の米軍基地は横須賀、横田、厚木、三沢、佐世保、岩国などの日米共同使用の基地も含めれば20%強で比率はかなり下がってくる。それでも重い負担ではあるが、地理的な条件で本土では代替できないものが多い。今後、国際情勢も変われば米国の戦略も変わるだろうが、中国の世界戦略を考えれば西太平洋からインド洋を抑えるのに日本本土と沖縄の基地は今後も当面は動かせないだろう。また日米軍事同盟もさらに強化されることはあっても解消へと向かうことはないだろう。地位協定の改正と言っても「航空法や環境法令などの国内法を原則として米軍にも適用させることや、事件・事故時の自治体職員の迅速かつ円滑な立入の保障などを明記すること」「東京の上空は「横田空域」と呼ばれる米軍の空域で、管制権はアメリカにある。」などのうち、環境法令の適用や横田空域の返還は求めるべきだろうが、航空法、通信関係や基地への立ち入りは軍事組織である米軍としてはなかなか受け入れがたいところだろう。米軍は与えられた権利は最大限活用するのが原則だが、話して分からない相手でもないので問題があるならそれをぶつけて話し合うべきだろうなあ。地位協定も出来てから70経つので憲法と一緒に検討し直してみるのもいいかもしれない、・・(^。^)y-.。o○。
Posted at 2018/08/18 12:03:52 | |
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