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2016年09月07日 イイね!

翼の向こうに(16)




「さあて、小桜を喜ばせてやりに行くか。」

 
酒と肴を入れた包みを無造作につかむと作業服を着替えもしないで高瀬は立ち上がった。私も作業服のまま高瀬の後を追った。


「武田、四国はいいぞ。気候も人も穏やかで。山下隊長に言っておいたよ。新しい基地を選ぶのなら四国に限るってな。紫電を造っている川西の工場にも近いし、そのうちに敵がくるだろう沖縄にも近い。」

 
包みを軽く振りながら高瀬は楽しそうに四国のことを話した。何時もしれっとした態度の高瀬には珍しいことだった。


「誰かいい人にでも巡り合ったのか。四国で。随分楽しそうだな。何時もに似合わずに。」


「ああ随分といい人達に沢山出会ったよ。」

 
高瀬は相変わらず楽しそうに答えながらどんどんと歩いて行った。料亭の玄関先に入ると高瀬は大声で小桜を呼んだ。


「小桜、小桜、お前の会いたがっていた男を連れて来たぞ。小桜、早く出て来い。小桜。」

 
高瀬はこの非常時に他人に聞かれればまた問題を起こしそうなことを大声で叫び続けた。高瀬の声が止むと入れ代わりに奥の方から廊下を走って来る足音が響いた。「顔を輝かす。」という言葉を何回も耳にはしたが、本当に顔を輝かすということが人に起こるということをこの時初めて実際に自分の目で確かめたように思った。

 
小桜は先に立って私たちを部屋へと案内した。席に座って改めて見た小桜はもう何時もの落ち着いた表情に戻っていた。


「お酒と、それから武田中尉さんはビールでよろしかったのかしら。今お持ちしますので。」

 
小桜は一旦言葉を切って間を置いてから少し声を落として付け加えた。


「ただ物があまり入りませんのでお口に合うものが差し上げられるかどうか。」

 
申し訳なさそうな小桜に向かって高瀬は下げてきた包みを取り出して座卓の上に置くと日頃に似合わぬ穏やかな口調で言った。


「出張の土産です。これで何か造ってください。でも俺達は部隊でたらふく食っていますから、何か有り合わせを出してくれれば充分です。後は皆さんで分ければいい。」

 
小桜は「ありがとう。」と言って、顔の前で手を合わせると包みを持って出て行った。その小桜と入れ替わりに入ってきたのが小梅だった。


「ようこそお出でなさいませ。」

 
ひときわ甲高い妙に明るい感じのする声が部屋に響き渡った。


「おうおう、来たか、来たか。待っていたぞ、小梅。」

 
小梅の声に合わせて高瀬が叫んだ。小梅はその声を待っていたように高瀬の脇に腰を下ろすと高瀬の肩にもたれ掛かるようにして酌をした。私は手を伸ばして小梅が置いたお盆の上のビールを引き寄せて手酌で飲み始めた。そこに料理を持って小桜が入って来た。


「小梅ちゃん、お客様を放り出したらだめじゃないの。」

 
小桜は手早く卓の上の配膳を済ませるとビールの瓶を取り上げて私に向かって差し出した。


「小桜姉さん、いいわねぇ。本当に幸せそう。」

 
小梅が高瀬の腕を取りながら小桜に向かって茶化すように囃し立てた。小梅に茶化されて、小桜は燃え上がったように顔を赤くして体を引くと私から離れて俯いた。


「小梅、そういうのを武士の情けを知らない仕打ちと言うんじゃ。馬に蹴られちまうぞ。それよりも面子
がそろったんだから乾杯といくか。互いの再会を祝して。」

 
高瀬は盃を取り上げると小梅に向かって突き出した。そして自分の盃が満たされると小梅にも盃を渡して自分で酌をしてやっていた。私も高瀬に倣って小桜にコップを渡すとビールを注いでやった。四人の器が満たされたのを見届けると高瀬が盃を持ち上げてあたりに響き渡るような声を張り上げた。


「こんな時代に我々が無事に再会出来たことは真に目出度い。これからも互いに永く壮健でありたい。乾杯。」

 
乾杯が終わって酒が回り始めると高瀬の口が急に滑らかになった。例によって彼の独壇場だった。フィリピンでは帝国陸海軍ともいやというほどアメリカ軍に撃破されてフィリピンを押さえられてしまったこと、そしてフィリピンを押さえられるということはこれまでも容易でなかった南方からの資源等戦略物資の輸送路がますます締め上げられること。それに伴って今後本土では物資の調達、軍需品、民生品などの生産がほとんど止まってしまい、今後戦争どころか国民の生活も今以上に事欠くようになっていくであろうことなど、それこそその筋の耳に入ったら大目玉くらいでは到底済みそうもないようなことを小桜や小梅相手に平気の様子で喋り捲っていた。

 
私もさすがに気になって何度かそれとなく控えるように促がしたのだが、本人は平気の体で「何、かまうもんか。」と取り合おうともしなかった。そればかりか高瀬の戦況解説は更に過激になり、今後アメリカは本土爆撃の中継基地として使用するために硫黄島を取って、さらに空襲を強化してくるだろうし、フィリピンの後は沖縄、九州そして関東とこれまでと同様に飛び石作戦で押してくるだろうとか、それは客観的な分析ではあるが、こんなところで芸者相手に話すべきではないようなことまで次から次へと披露していった。


「日本は負けるんですか。この戦争。」

 
小桜が不安そうな顔で高瀬の顔を見つめながら言った。


「負ける。勝てるはずがない。後は何時どうして負けるか、その負け方が問題だ。」


「何だか日本が負けた方がいいみたいな言い方ですね。高瀬中尉は日本が負けた方がいいと思っているのですか」


「勝てるのなら勝てるに越したことはないが、ここまで来てしまったら早い方がいい。戦争が長引けばそれだけ日本人の命が失われ、国力も殺がれていく。戦争は必ず終わる。それもそう先の話じゃない。戦争が終わればこの日本を復興させなければならない。その時何の資源もないこの国にとって人間は唯一の宝だ。それに、」

 
高瀬は言葉を切った。そして盃を取って小梅に突き出すと酒を注がせ、それを一気に飲み干してから盃を静かに卓に戻して顔を上げたが、その顔は俄かに曇った空のように暗かった。


「少し気になるのは奴等の出方なんだ。敵といってもドイツやイタリアは同じ白人の国だ。これまでも何度も争って来たし、ナチさえ打ち倒してしまえば後は身内同士みたいなもんだろうからそんな無茶はしなかろうが、日本の場合は少し事情が違う。

 
日本は奴等がついこの間まで犬やサルと同様に扱ってきた有色人種の国だ。そのサルのような生き物が自分たちの身内に当たるロシアを破って白人の世界に躍り込んで来た。そして今回、少なくとも一度は白人の勢力を西太平洋からアジアに渡るまで、それこそ一気呵成に駆逐して白人に手酷い痛撃を与えた。有史以来、白人にこんな打撃を与えた有色人種の国家はこの日本だけだからな。

 
そんな国の存在を奴等白人が今後も認めるかどうか。それこそどんな手段を使っても徹底的にこの国と国民を殲滅するまでこの戦争を止めないかもしれない。事実今の奴等はそれだけの力を持っているからな。

 
日本はフィリピン戦で特攻戦術を採用して、また奴等の心胆を凍りつくほど寒からしめた。一体何をやりだすか分からない奴等だってな。そんな奴等は抹殺してしまった方がいいと思っているかもしれない。だからこそ日本人は理性も誇りもある民族だということを示せるような方法で戦を終わらせた方がいいんだが。このままじゃ陸海軍とも納得はしないだろうし。

 
沖縄、ここで最後の戦闘を戦って、その間に戦争を終わらせる方策を考えて終戦に持ち込む。沖縄を捨石にするわけじゃないが、戦闘に際して非武装地帯を設定してそこに住民を避難させて住民が戦闘に巻き込まれないような方法を講じておく。しかし今の総力戦ではそれも難しいかな。サイパン戦でもそうだったらしいが、できるだけ住民は戦闘に巻き込まない方がいい。そうすることが日本はウォーモンキーという奴等の宣伝を覆す方法でもあるんだが。軍は自分たちの利益と歪んだ名誉心を守ることしか考えていないからな。」

 
高瀬の話に誰も口を挟む者はいなかった。重苦しい静けさが四人を包み込んでいた。


「高瀬中尉も武田中尉も沖縄に敵が来たら戦争に行くんですか。」

 
小桜が感情を押し殺したような低い声で言った。


「年が明けたら我々も西へ移動することになると思う。何所に行くかは言えないが。」

 
高瀬が珍しく言葉を濁して答えた。さすがに高瀬も部隊の移動配置に関しては軽軽しく口に出せなかったのかもしれない。


「戦いに行くんですね。」

 
小桜が切なそうに尋ねた。


「俺達は軍人だから戦えと言われれば戦わないわけにはいかない。」

 
私が答えるとすかさず高瀬が混ぜっ返した。


「俄か雇いだけどな。ついこの間まで学問の府、理性と知性の殿堂である最高学府に学んだ秀才の言うこととは思えん。良い子ぶらずに本音で話してみろ。本音の議論のないところに進歩はない。」


「本音で言ってみてもどうしようもないこともある。それでは聞くが、おまえの言うように日本はもうどう戦っても勝ち目がないのなら俺達は何のために戦うのか。無駄なことではないのか。」


「難しいな。しかし、何と言っても敵は止めてくれんからな。こっちが頭を下げるまでは。」

 
何時の間にか、小桜と小梅は我々から身を引いて置物の人形のように畏まっていた。


「本音を言えば貴様が言うようにもうこの戦は止めるべきだと思う。」


「なるほど。」

 
高瀬がまた混ぜっ返してきた。


「まあ聞け。この戦もう止めるべきだとは思うんだが、一体どうして終戦に持っていくんだ。陸軍は一億玉砕を叫んで止まない。海軍もこれを抑えて表立って終戦を口にすることができない。それよりも一部は陸軍に引きずられて一億玉砕、徹底抗戦を叫び出す始末だ。国家も国民もない。あるのは軍の面子だけだ。その軍の面子のためだけに国家や国民に犠牲を強いるのは理不尽だと思う。

 
大体この国はどこもかしこも、おらが村、おらが家の世界なんだ。国家や国民という大きな概念よりも、おらが村、おらが家に先に目がいってしまう。結局、軍本来の存在目的なんぞどこかに忘れて、自分が所属する部隊の利益や自分の実績に走ってしまう。

 
もっともこれは日本人全体にみられる傾向で軍ばかりを責めることはできないかもしれないが、国家存亡を賭けたこの時にまでそんな狭い視野でしかものを見られないとなると、その視野狭窄が本当にこの国を滅亡させてしまうかもしれない。」


「待て待て、そんな大それたことを、一体誰かに聞かれたら傘の台が飛ぶぞ。」

 
高瀬はわざと真面目ぶった顔をして声を落としてそう言った。私は「何を言うか。自分のことは棚に上げて。」と言い返したが、実際こんなことを聞かれたらどんな処分を受けるか分からなかった。



Posted at 2016/09/07 22:59:21 | コメント(0) | トラックバック(0) | 小説2 | 日記
2016年09月07日 イイね!

MRJ、飛行再開に向けて準備を進める。




国産初の小型ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」が空調システムの不具合で米国移送を中断した問題で、開発主体の三菱航空機が国内での試験飛行を今週後半にも再開することを検討していることが6日分かった。部品の改修後、再び同システムなどで異常が生じないかを確認したい考えだ。

 

三菱航空機は米西部ワシントン州モーゼスレークの「グラント郡国際空港」に試験飛行の拠点を開設。8月27日にはMRJが愛知県豊山町の県営名古屋空港を離陸し、米国に向かった。しかし、空調の監視システムで不具合が発生。28日も同様の異常が見つかり、2日連続でUターンする異例の事態に陥った。その後、飛行を取りやめていたが、不具合の原因究明で一定の進展があった模様。関係者は「飛行再開の準備を進めている」としている。ただ、米国に移送するには、経由地のロシアなどの航空当局から空港使用の許可を取り直す必要もあり、米国入りは9月下旬以降にずれ込む見通しだ。

 

移送先のグラント郡国際空港は、ボーイングなど他の航空機メーカーも試験飛行の拠点として活用している。三菱関係者は「しっかりと問題に対処し、少しでも早く飛ばしたい」と話している。




今はシステムを一括して外注してしまうのだろうからトラブルがあっても開発元でも分からないのかもしれない。システムがどうこうよりもセンサー系のトラブルではないかと言う気がしないでもないが、いずれにしても改善方向に進んでいるのか結構なことだ。
Posted at 2016/09/07 14:38:00 | コメント(0) | トラックバック(0) | その他 | 日記
2016年09月07日 イイね!

中国の日本に対する本音は、・・。




中国共産党機関紙・人民日報は6日、中国・杭州で4、5日に開かれた20カ国・地域(G20)首脳会合の議長を務めた習近平国家主席が5日に安倍晋三首相ら6カ国首脳と個別に会談したことを写真付きで報じた。日本以外の首脳とは2国間の友好を表すそれぞれの国旗の前で習氏が握手する写真を掲載したが、習氏と安倍首相の写真の背景は会場となった室内の壁。日中間にはなお「壁」があるようだ。


初めて「会見」と表記

習氏はG20に合わせ、20カ国・地域のうち7月12日に会談した欧州連合(EU)のトゥスク大統領とユンケル欧州委員長を除き、日米英など全18カ国の首脳と会談。人民日報は全て写真付きで報じ、国旗がないのは安倍首相だけだった。

 

安倍首相と習氏との会談会場にも両国の国旗は掲げられたが、日本側同行筋は「国旗の前で写真を撮る暇が無かった」と説明する。

 

習氏は2014年11月と15年4月の国際会議の際にも安倍首相ら各国首脳と会談し、人民日報の写真では2度とも安倍首相と習氏の後ろには国旗がなかった。しかも他の首脳との会談の写真説明は「会見した」と記したが、安倍首相との会談だけは「応約会見」(誘いに応じて会見した)という言葉を使い、あくまで安倍首相の求めに応じたという語感を出した。

 

今回は安倍首相との会談の写真説明も初めて「会見」と表記した。SMBC日興証券の肖敏捷・中国担当シニアエコノミストは「双方とも歩み寄りの意思があるのではないか」と指摘した。いつ国旗が背景にある写真が掲載されるのか、今後も日中外交筋や経済関係者らの注目を集めそうだ。




中国の本音

昔は朝貢国だったくせに日清戦争で手酷い敗戦を喫し、日中戦争ではコテンパンにやられ、そして今も日本がなければ中国の東シナ海、南シナ海支配はほぼ完成していはずだ。太平洋戦争で米国にあれだけ完膚なきまでに叩きのめされたのに70年で復活してわが行く手に立ちはだかる。それはもう八つ裂き、釜茹でにして豚に食わせても飽き足らないくらい憎たらしい国だ。そんな国の親方と誰が笑顔で国旗を掲げてその前で握手なんかするものか。


そんなところかな。





Posted at 2016/09/07 14:36:40 | コメント(0) | トラックバック(0) | 政治 | 日記
2016年09月07日 イイね!

二重国籍問題で苦境のレンホちゃんは、・・。




民進党の蓮舫代表代行が6日、台湾籍を除籍した時期を「確認が取れない」として除籍手続きを取った。蓮舫氏は「二重国籍」の状態のまま、首相の座を狙う党代表選(15日投開票)を戦っていた可能性もあり、首相の資質の根源に関わる国籍に無頓着だったのは致命的といえる。また、蓮舫氏は旧民主党政権時代、国家公務員を指揮する閣僚を務めており、過去の職責の正当性も問われそうだ。

 

「31年前、17歳で未成年だったので、父と東京で台湾籍の放棄手続きをした。ただ、私は(当局とのやりとりに使った)台湾語が分からない。私は台湾籍放棄の手続きをしたと『父を信じて』今に至る」

 

蓮舫氏は6日、高松市で行った記者会見で、自身の疑惑についてこう釈明した。台湾籍を「放棄した」との認識は、当局とどのような会話を交わしたか分からない父の記憶に頼っていたことを明らかにした。

 

最近の発言もぶれている。蓮舫氏は3日の読売テレビ番組で、台湾籍を「抜いている」と断言し、時期については「18歳で日本人を選んだ」と語っていた。

 

しかし、6日の会見では「17歳」と修正し、「台湾に確認を求めているが、いまなお、確認が取れない。31年前のことなので少し時間がかかる」と発言が後退した。蓮舫氏をめぐる疑惑は8月以降指摘されていたが、6日になってようやく台湾籍の除籍手続きを行った理由も要領を得ない。

 

政権交代を標榜(ひょうぼう)する野党第一党の民進党代表は、国民の生命に最高責任を持つ首相を目指す立場でもある。その代表選に出馬する際、首相としての資質に関わる国籍の確認をなおざりにしていたことは、民進党内にも「政治生命にかかわる話。想像以上に深刻でショック」(閣僚経験者)と衝撃を与えている。

 

蓮舫氏は平成16年から参院議員を3期務めており、22年発足の菅直人内閣では行政刷新担当相として入閣した。公職選挙法上、国会議員の被選挙権に「二重国籍」は影響しないが、国家公務員を指揮する閣僚として、他国籍を持ちながら職務していたならば、資質が批判されるのは必至だ。

 

代表選で蓮舫氏と争う玉木雄一郎国対副委員長の陣営幹部は「嘘を重ねているように映る蓮舫氏に代表の資格はない」と断言。前原誠司元外相の陣営幹部も「きちんと説明すべきだ」と追及する構えをみせる。

 

蓮舫氏は会見で「日本人であることに誇りを持ち、わが国のために働きたいと3回の(参院)選挙で選ばれた」と語った。だが、なぜ日本国のトップを目指す際に「二重国籍」の有無をきちんと確認しなかったのか。引き続き代表選を戦うならば、さらなる説明責任が求められる。




国籍を二つ持っている人は結構多い。米国籍と日本国籍を持つ人が多い。便利なんだろうか。日本の場合、二十歳で国籍を選択することになっているが、そのまま二重国籍者も多い。それはそれでいいんだろうけど政治家と言うのはどうして聞かれると事実を言わずに適当に都合のいいことを言って後から追及されるとあれこれ言い訳を並べて自分を追い込むのか。事実を言えばいいだろう。分からなければ確認すると、・・。それで、「台湾籍を持っていました。でも私は首相を目指すので日本国籍を選択して台湾籍は放棄します」と言えばいいじゃないか。そうじゃないかな。もっとも目指すのは自由だが、なった日には日本は間違いなく崩壊するだろうが、・・。





Posted at 2016/09/07 14:34:24 | コメント(0) | トラックバック(0) | 政治 | 日記
2016年09月06日 イイね!

翼の向こうに(15)




翌日、ここに赴任して最初の作業で滑走路脇の待機所に出た。そこで初めて紫電二一型に対面した。機体は未だ試作機を示す黄色に塗られたままだったが、大きな幅の広い四枚のプロペラや太い胴体、広く大地を踏みしめた両脚、翼から突き出した四門の二〇ミリ機関砲など、私はこれまでの零戦にはなかった紫電の力強さに目を奪われていた。


「今日は慣れた零戦で行きましょう。乗り物は向こうに用意してありますから。」
紫電に見入っていた私の後ろから高藤飛曹長に声を掛けられて後ろを振り返った。


「今日はまだこいつは見るだけにしといてください。でも近いうちにいやって言う程乗れるようになりますから。」

 
高藤飛曹長の後について指揮所に行き、訓練開始の申告をするとエプロンでエンジンを回している零戦の方に駆け出した。走りながら高藤上飛曹は私に、「今日は私が先に行きますからついて来てください。」と声を掛けた。


『つまり任用試験のようなものか。』

 
少しばかり嫌な気がしたが、それも操縦席に納まると忘れてしまった。離陸の時指揮所を見渡すと何時の間にか司令、飛行長から山下大尉までが椅子に座ってこちらを見つめていた。


「どうせ俄か雇いだ。」

 
そう呟いて腹を決めるとスロットルを開いて滑走を始めた。先には高藤上飛曹の機体がもう滑走路を蹴って飛び立とうとしていた。車輪が滑走路を離れて機体が浮き上がると同時に車輪を格納して先を旋回しながら高度を取っている高藤機を追った。高度三千に上がるといきなり急上昇から失速反転、機首を戻して連続宙返り、左右のロール、急降下から引き起こして急上昇、そのまま宙返りをして水平に戻してから左右の連続垂直旋回と息もつかせない高等曲技飛行の連続だったが、それでもこのくらいは難無く追従できるくらいの技量は持ち合わせていた。

 
一通り機動飛行が終わると高藤機は一旦私の横に機体を並べて身振りで空戦機動に入ることを示し、すぐに急横転で翼を翻して離れて行った。追従しても無駄なことは分かっていたので私は高藤機とは反対の方向に機体を振って大きく旋回しながら高藤機の位置を確認しようとした。

 
遮二無二後を追ってこない私に面食らったのか、高藤機は千メートルほど上空で旋回しながら様子を見ているようだったが、そのうちに狙いすましたように後上方からこちらに向かって降下して来た。

 
私は以前に高瀬から聞いていたとおり機体を背面にするとそのまま思い切って操縦桿を引き、背面急降下に入った。そして背面のまま徐々に引き起こして私とは反対の方向に降下して行った高藤機を首が捩れるほど一杯に捻って視野の端で捕えながらその行く手を追った。そして引き起こして上昇して来た高藤機を目がけて、もう一度機体を背面にするとそのまま急降下して突っ込んだ。

 
自分に向かって突っ込んでくる私を発見した高藤機は小気味良く切り返して真っ直ぐに私の機を目がけて上昇して来た。双方の相対速度は千キロを超えていただろう。あっという間に接近して機体を躱す間もあればこそ、二機はごく至近距離をすれ違った。後で聞いたところ地上で見ていた幹部達は『衝突したか。』と息を呑んだ者もいれば救助のために走り出した者もいたそうだ。

 
私は『距離が近い。』とは思ったが、衝突しそうになるほど接近していたとは思わず、そのまま地上すれすれまで降下して這うように安全圏へ逃れた。へたに頭を上げると上から狙い撃ちにされると考えたからだったが、これがいけなかった。地上では私が墜落したと大騒ぎになっていた。

 
そんな地上の騒ぎなど全く知らずに大きく横須賀基地の外側を回って滑走路に滑り込んだ。そして指揮所に終了の申告に行くと佐山少佐が「あまり派手なことをしてはらはらさせるな。」と小言を言った。山下大尉は何も言わずにやにや笑いながら私を見ていた。

 
私は先に降りていた高藤上飛曹のところに行って危険な目に遭わせたことを謝罪した。高藤上飛曹は「実戦だったら私が落とされていたかも知れません。少しばかり慌てましたよ。零戦であんな飛び方をするのは高瀬中尉くらいと思っていました。」と言って笑った。 

 
午後は紫電の機体構造と操縦法の説明があり、それが終わるとその日の作業は終了した。宿舎に引き上げる途中、聞きなれない爆音が耳に入ったので音の聞こえてくる方向を見上げると数機の友軍機らしい機影が目に入った。


「紫電を取りに行った連中が戻ったぞ。」

 
誰かが叫ぶのが聞こえた。機影は徐々に大きくなって鮮やかな濃緑色に塗装された紫電二一型が四機滑走路に滑り込んだ。


「試作機じゃなく量産型だ。」

 
隊員達は口々に叫びながら真新しい機体に駆け寄った。私は皆の後からゆっくりと四機の新型戦闘機に近づいて行った。その中の一機から高瀬が降りてくるのが見えた。高瀬も私を見つけて軽く手を振って見せた。


「とうとうお出でになったな。」

 
飛行機から降りて来た高瀬は私に向かってぞんざいな口調で言った。


「ところで今晩貴様の歓迎会を兼ねてこの間の料亭に行くか。四国の肴と酒を持ってきているんだ。あの芸者、ほら、小桜もお前に会いたがっているぞ。」

 
高瀬は私が何と答えようと歓迎会は既成事実として実行を決めているようだった。そして本当に出先から抱えて来た一升瓶と肴をいれた風呂敷包みをぶら下げて宿舎へ歩いて行った。後に残された新型戦闘機にはもう整備員が取り付いて整備を始めていたが、その周りを基地に残っていた搭乗員が取り巻いて物珍しそうに眺めていた。


『どうせこれからいやと言うほど見られるさ。自分の棺桶になる乗り物なんだから。』

 
何だか高瀬が好みそうな言葉を心の中でつぶやきながら私はゆっくりと宿舎に向かって歩いていった。着替えを済ませて宿舎のベッドに寝転んでいると高瀬が戻って来た。


「皆、一生懸命乗り物を見ているが、自分の棺桶にはやはり興味が湧くのかな。」

 
窓の外に視線を投げながら言った高瀬の言葉に私は吹き出してしまった。


「何が可笑しいんだ。」

 
怪訝な顔をして振り返った高瀬には答えもしないで私は笑い続けた。


「おかしな奴だな。何とも悲しいことなのに。何故そんなに笑うのかな。」

 
高瀬に真新しい塗料を纏って身繕いした新型戦闘機に見入っている搭乗員達を見ていて、自分も同じことを思ったこと、そして高瀬もきっと同じことを言うだろうと思っていたことなどを話すと高瀬も笑い出した。そうして二人でしばらく笑い合った。


「貴様もニヒリズムが分かってきたようだな。ところで今日は外泊許可を貰って来たぞ、飛行長から。小桜な、本気でお前に惚れたらしい。あれから毎日、お前がくるのを待っているようだ。特に海軍の客が来た時には駆け出すようにして玄関先に出迎えているらしい。俺も彼女に何度かお前のことを聞かれたよ。」

 
突然高瀬に小桜のことを言われて小桜と過ごした一夜を思い出した。たった一人の肉親を戦争に奪い取られて身の置き所もなく彷徨っていた小桜が私に何を求めたのか、そんなことにさえあまりに無頓着だった自分に後ろめたさを感じもしたが、死に神の大鎌のように人の絆や個人の感情を絶ち切って憚らない戦争の中にあって、しかも軍人という立場で女一人の心の平穏を守ってやることを考えるなどとんでもないことのように思えた。


「戦争をしているんだ。芸妓一人に構っていられるか。」

 
照れ隠しもあって私はわざとぶっきらぼうに言い放った。


「確かに俺達は戦争をしている。お前の言うことも尤もかも知れない。ただ一人の人間の心の平穏さえも考えてやれない者に国を守ることなんか出来るのかな。お前のことを言っているわけじゃない。一般的なことを言っているんだがな。まあ、とにかく会って声くらい掛けてやれ。戦争をしている軍人だけが苦労しているわけじゃない。軍人だけが戦争をしているわけじゃないんだから。」

 
高瀬は何時になく殊勝なことを口にした。私もそんな高瀬に気圧されて「分かった。」とだけ一言答えた。



Posted at 2016/09/06 23:51:57 | コメント(0) | トラックバック(0) | 小説2 | 日記

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ntkd29です。CB1300スーパーボルドールに乗って11年、スーパーボルドールも2代目になりました。CB1300スーパーボルドール、切っても切れない相棒にな...
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