2017年1月、米空軍は米軍岩国基地(山口県)に最新鋭ステルス戦闘機F35を10機配備する(参照:『朝日新聞』)。米空軍が米国本土を離れてF35を配備するのは初。他6機と合わせて16機の戦隊だ。
広く知られるように、F35はアメリカの軍備大手ロッキード・マーティン(以下ロッキード社)等が開発する高性能ステルス機能を持つ次期戦闘機。「高性能センサーおよびセンサー融合技術、ネットワーク対応型の戦闘能力、高い整備性」(ロッキード社)を備える。(参照:「ロッキード・マーティン社F35公式サイト」)
開発が始まったのは1996年11月。空軍、海軍と海兵隊のいずれにも対応できるように、3機種が同時に製造された。
「今後、もし無人攻撃機(ドローン)が主流になるならば、おそらくF35が最後の有人攻撃機」(米軍関係者)とさえ言われている、最新鋭の有人攻撃機である。
◆F35配備の「意味」
米軍の最新鋭戦闘機が日本に配備となると、中国の海洋進出を警戒する目的だろうとの推測も根強いが、今年8月にF35を飛行したテストパイロットの手記 では、北朝鮮の核施設への攻撃を明記している。(参照:『SEVEN DAYS』)
8月25日に、米バーリントンにあるバーモント空軍州兵で4人の隊員が「通常の訓練」の一環として「北朝鮮攻撃のシミュレーション」を行った。
従来ならばスーパーホーネット2機、F-15を8機、F-16を8機、加えてAWACS 1機、管制機1機など、総勢20機は必要とみられた。この場合、兵士60~75名がリスクにさらされると当局は見ている。しかし、仮にF35を取り入れた場合、F35(GPS誘導ミサイル搭載)を2機、護衛のF15を2機で済む。兵士は4名となる。
F35は「シングルエンジン、シングルシート(single-engine,single-seat)」を特徴としており、パイロットは常に単独で操縦や通信、攻撃を行う。コックピットには「大きなiPad」(前出テストパイロット)のようなモニターがありタッチパネルで操作する。
折しも前日の24日には、北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)1発を新浦(シンポ)付近から発射し、約500km飛んでいた(参照:「防衛省」※pdf)。
F35の配備で、北朝鮮への攻撃がにわかに現実味を帯びてくるようだ。
しかし、F35の機体整備をめぐり、日本が足元をすくわれかねないかもしれない動きも出ている。
オーストラリアのマリース・ペイン国防相とクリストファー・パイン国防産業相が2016年10月、アメリカを訪問した。豪北部準州へのインフラ投資として、米豪で20億豪ドル(約1520億円)を共同負担することで合意。(参照:『豪国防省』)
これには2012年から開始された米軍の兵力配備戦略(Force Posture Initiatives)の一環としての米軍駐留費も含まれており、海兵隊を最大2500人まで受け入れ可能とした。
この決定に元気づいたのは豪軍事産業界だ。
「北部準州がF35の整備基地になる」と地元紙が報じ、F35関連事業について、「すでに30社以上が8億豪ドル(約600億円)の契約を結んでおり、2023年までには20~25豪ドル(約1520~1900億円)規模になると予想される」とパイン国防産業相も期待を込めた見通しを述べた。(参照:『NEWS』、『NT news』)
ただ、よく考えてみればちょっと不思議だ。
なぜなら2014年12月には、「(F35戦闘機の)機体の整備拠点については、2018年初期までに日本及びオーストラリアに設置すること」(参照:『防衛省』)と、米国防省はすでに決定しているのだ。北太平洋エリアを担当するのが日本、南太平洋がオーストラリア--そう決まっていたはずだ。
F35の整備には大きく分けてふたつある。
ひとつは「機体の整備」(JSF Airframe Maintenance, Repair, Overhaul and Upgrade、MRO&U)で、通常の整備、点検、修理、交換など。
もうひとつは「重整備(heavy maintenance)」。エンジン内部まで分解し、検査を要する複雑かつ高度な整備作業だ。F35の場合、戦闘システムの機密性を保つために複数のブラックボックスを内蔵しており、重整備ではこれらを取り外しそのまま米国本土に送らねばならない 。(参照:『The Australian』)
◆整備拠点の棲み分けはできていたはずなのに……
日本の場合「機体の整備」を三菱重工小牧南工場(愛知県)、重整備をIHI瑞穂工場(東京都)で行うとされた。IHIは日本向けF35のエンジン(Pratt&Whitney F135)について米プラット&ホイットニー社と共同生産することで合意済みだ。
オーストラリアの整備拠点は、NSW州のウィリアムタウン空軍基地とQLD州のアンバレー空軍基地とみられていた。
きちんと棲み分けはできていたはずなのに、なぜ豪国防相らはアメリカに出向き、整備拠点を強調する必要があったのか。
国防産業相の報道官は取材に対し「パイン国防産業相が10月に米国を訪問したのは、車輪、電子機器、無線システムなどJSF部品の整備拠点として、オーストラリアの能力をプロモーションするため」と回答している。
◆「パートナーではなくカスタマー」
ここで、オーストラリアの考え方で見逃してならない点に、「パートナー(仲間)」という意識がある。
米豪のインフラ投資が決まった後、現地でこんな報道が流れた。
「ペイン国防相はこう言った。オーストラリアの会社はJSF事業を確固たるものにできる、なぜならばオーストラリアはカスタマーではなく、パートナーだから」。(参照:『NT News』)
例えば豪空軍ではF-35A Lightning II Joint Strike Fighter(JSF)を解説するときに必ずといっていいほどこのフレーズをつける。
「JSFプログラムはパートナー9カ国 – オーストラリア、カナダ、デンマーク、イタリア、オランダ、ノルウェー、トルコ、イギリス、そして米国(空軍、海軍、海兵隊)- これらの国家がF-35A運用について共通の戦略・技術・手順を開発する共同訓練をします」
その一方で、ロッキード社は上記9カ国「オリジナルパートナー」(表中の赤枠)に加えて、「イスラエル、日本、韓国という3カ国の海外有償軍事援助(foreign military sale、FMS)のカスタマーは、2016年に第1号機を受け取るでしょう」(参照:『ロッキード社』)としている。
日本はカスタマー(顧客、表中の青枠)なのだ。
かつて日本は武器輸出三原則があったため、F35の開発・生産には加わっていない。オーストラリアからすれば「自分たちの事業であるから、自分たちで受注するのが当然」と思ってはいないだろうか。
レストランで言えば「メニューを考えるのは俺らシェフ9人だから、お客のあんたは黙って席に座って食べててくれ」ということになる。
◆F35整備事業で日本はイニシアチブを握れるか?
今後、配備されればいよいよF35整備事業も本格化する。
日本の航空自衛隊の初号機 F-35AライトニングII「AX-1」は、9月にロールアウト(最終組立完了)した。すでに整備訓練(フロリダ州エグリン空軍基地)やパイロット訓練(アリゾナ州のルーク空軍基地)も行われている。(参照:ロッキード社F35公式サイト)
豪空軍に対しては機体引き渡しも済んでおり、いま現在は米国内で飛行訓練中。豪本土には2018年に来る予定だ。
今後、日本がこの局面をどう切り抜け、拡大していくか。日本ビジネスが誇る世界一の信頼と高い技術力で、空に力強く飛翔することを期待したい。
確かに日本はプロジェクト後発参加組だからそれなりのハンディはあるだろう。莫大な金が動く軍需産業でその中でも特に金額が大きい航空機の整備事業なので様々な駆け引きがあるのだろう。日本は技術はあるがそうした駆け引きには弱いのでどうなるか。日本は米国にとって最重要のパートナーだからそうそう悪いことにはならないとは思うが、・・。