米軍普天間飛行場に隣接している沖縄県宜野湾市の市立普天間第二小学校のグラウンドに12月13日午前、飛行中だった米軍機ヘリコプターの窓枠が落下した。当時校庭では体育の授業が行われている最中だった。
報道によると、窓枠は校庭の中央付近に落下し、衝撃ではねた小石のようなものが4年生男子児童の左手に当たった。学校は授業を打ち切って、児童を下校させたという。
今回窓枠が落下した大型輸送機CH53ヘリコプターをめぐっては、今年10月に沖縄県東村の牧草地で不時着し炎上。2004年8月にも沖縄国際大学の敷地内に墜落して炎上し、大学の校舎や付近の住宅の屋根などが壊れる被害が出ている。
もし米軍ヘリが原因となった事故で民間人や建物に被害が出た場合、米国に損害賠償を求めることは可能なのか。また、刑事責任はどうなるのか。林朋寛弁護士に聞いた。
●米軍の代わりに「日本」が賠償責任を負う?
米軍ヘリが原因となった事故で民間人や建物に被害が出た場合、米国に損害賠償を求めることになるのか。
「そのような場合、損害賠償責任を負うのは『日本』です。
『日米地位協定の実施に伴う民事特別法』の第1条は、米軍人が職務上、日本国内で他人に違法な損害を与えた場合は、日本国が賠償すると定めています。つまり、損害賠償責任が生じるような事故を『米軍人』が起こした場合、まずは日本が彼らに代わって、被害者に対する損害賠償をすることになっているのです」
米国は全く賠償をしないのだろうか。
「いいえ、そうではありません。これは分かりやすくいうと、日本がいったん肩代わりし、後から米国にその分を払ってもらう、という仕組みです。ただし注意すべきは『米国に全額を払ってもらえるわけではない』という点です。
たとえば、米国のみに事故責任がある場合には、米75%・日25%の割合で賠償金を分担することになっています(日米地位協定第18条5項(e))。つまり、たとえ米国側に100%責任のある事故でも、日本国は25%を負担しなければならない、と取り決められているのです」
被害者個人が、事故を起こした米軍の個人に対して民事訴訟を起こし、損害賠償を請求していくことも不可能なのだろうか。
「訴訟を起こすこと自体はできますが、請求は認められません。なぜなら、国家賠償法で公務員個人の賠償責任が否定されているのと同様の理由で、米軍人個人の賠償責任が否定されているからです。
また、日本の判決による米軍人への強制執行手続は、日米地位協定第18条5項(f)で否定されています。つまり、もし裁判所に支払いを命じる判決を出してもらっても、強制的に取り立てることができないのです」
●米国が裁判権を放棄しない限り、刑事責任も問えない
被害者は金銭的な救済こそ受けられるものの、民事訴訟において、米国や軍人個人の責任を追及するのは不可能ということになりそうだ。では、刑事責任はどうなるのか。
「日本では、航空機から故意に物を落下させた場合は、50万円以下の罰金とされています(航空法89条・150条7号)。また、操縦士や整備士等の過失で航空機から物を落として人に傷害を負わせた場合は、業務上過失致死傷罪(刑法211条)に問われることになるでしょう。法定刑は致死の場合まで含み、5年以下の懲役・禁固もしくは100万円以下の罰金です。
今回のケースでいうと、米軍ヘリの窓枠が小学校の校庭に落下しました。幸いにも窓枠が小学生に直撃はしませんでしたが、もし死傷者が出ていれば、窓枠の落下の原因を作った者について業務上過失致死傷罪等の刑事責任が問われるべきところです。
しかし、米国の軍人等が犯罪をしたとされる場合は、公務中の行為による犯罪だったかどうかで扱いが分かれます。米軍のヘリの飛行については、米軍の公務中ということになるでしょう。
米国の軍人等の公務執行中の作為(したこと)・不作為(すべきなのにしなかったこと)から生じた犯罪は、米国が第一次の裁判権を持ちます。つまり、日本国内であっても米国の軍人が公務中に起こした犯罪は、米国に裁判をする権利があるということになっています(日米地位協定第17条3項(a))。米国が裁判権を放棄しない限り、米国の軍人等に対して日本の裁判所で刑事責任を問うことはできません」
今回、米軍ヘリから落ちてきた窓枠が当たって死傷者が出ていたとしても、日本の裁判所では刑事責任を追及できなかったかもしれないということだ。
「はい。今回のような事態は、沖縄だけに生じるものではありません。東京でもその他の日本のどこでも生じ得る事件です。自国の領域内で死傷者が出ても当然にはわが国の裁判にかけられないような不合理・不平等な協定は直ちに改正すべきで、わが国の主権を取り戻すべきだと思います」
日米地位協定に言う「裁判権が競合する場合」と言うのは日米双方に当該行為を犯罪として処罰する規定がある場合だが、航空機の墜落などを含めて米国では原則過失犯を処罰する規定がないので、今回の落下物のような事案は地位協定の対象外となる。そうした場合は一般の外交ルートにより交渉することになるが、国際捜査共助と同様に相罰性のある犯罪が対象で、また、「自国民を他国の官憲に引き渡さない」という国際慣例があるので米国で犯罪でない行為について引き渡しを求めるのはさらに難しい。一般に自国の領域外で犯罪を行った者の処罰は国外犯の規定によって被疑者の国籍国が処罰することになる。日米地位協定では起訴後の被疑者の引き渡しが規定され、殺人などの重罪事犯については起訴前の被疑者の引き渡しが考慮され、実際に被疑者が引き渡されていることなどを考えれば一般国際法よりもさらに進んだ規定あるいは運用がされていると言える。昭和20年代に成立した協定で現状にそぐわない点もあるが、一般国際法と比較しても何らそん色のない協定でことさら不平等と非難するには当たらない。マスコミも地位協定についてよく理解したうえで一般国際法と比較して論ずるべきだろう。
Posted at 2017/12/24 10:50:51 | |
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