ドノーマルのS2000に乗った若い子が「サーキット走るのにどのパットが良いですかねッ!?」と目をキラキラさせながらショップで聞いている姿を見て,「若いっていいなぁ~」と思ったおっさんのOXです.
さて,失火対策の一環として「
吸気温センサの位置戻し」をしたのですが,それによってセッティングがズレてしまい,
前回の走行ではs氏さんにご心配頂く事態になってしまったので,反省の意味も込めてLINK ECUの温度補正をおさらいしておきます.
詳細に入って行く前に,まずは温度補正のセッティングがズレるとどんな事態になるか?というと,こんな感じです(↓).
私のEF8は油圧計が付いているので,エンストすると油圧がゼロになり,アラームがピーーーッ!と鳴るので分かり易いと思います.上の動画の流れとしてはこんな感じです(↓).
①スタートラインギリギリまでクルマを前に進めた瞬間にエンスト(1回目)
↓
②そこからキーを捻って,再始動
↓
③しかし,回転数がアイドリング領域まで落ちてくると再びエンスト(2回目)
↓
④再びキーを捻って再始動を試みるも,今度はエンジンが掛からず・・・
↓
⑤少し間を置いて,再びキーを捻ったら始動成功
↓
⑥このままだとまたエンストするので,アクセル煽って無理やり2000rpmキープ
↓
⑦コースインのメロディーに合わせて,クラッチミートして前進するとまたエンスト(3回目)
↓
⑧キーを捻って,再始動成功
↓
⑨アクセルを開けて,そのまま強引に前に出ようとすると今度は失火し,ガクン!とショック
↓
⑩ただ幸いにしてエンストまではしなかったので,そのままアクセル煽ってコースイン!
一度走り出してエンジンルーム内の熱気が取れれば,この症状は出ないので,以降は問題なく走れます.なんせ相手が温度なので,寒い時期だとセッティングが難しく,トライ&エラーで直していくしかないのですが,こういう酷いヤツに遭遇すると毎回焦りますね.
(今回は再始動出来ているのでまだマシな方.ワーストだと始動すらしなくなります・・・)
・・・で,こうなる原因が燃料制御の温度補正です.
コースイン待ちの隊列で停車アイドル状態になると,エンジンルーム内の温度はどんどん上がっていきます.それを吸気温として拾ったLINK ECUは「吸気温が上がって吸える空気が減ってるんだから,その分燃料も減らすよ!」と補正します.トルクがあるエンジンなら多少燃料が減っても影響はないのですが,失火症状を抱えて青息吐息な今のB16Aだと,それに耐えられません・・・.結果,始動→即エンストとなる訳です.従って,対策としては「吸気温が上がっても燃料を絞りにくいセッティング」にすれば良い訳で,それを司っているのが「充填温度補正」になります.
「充填温度」とは,「エンジンのシリンダーに充填される空気の温度」の事です.
「それってまんま吸気温じゃね?」と思いたくなりますが,厳密には異なります.「吸気温度」は吸ってる空気の温度そのままで,ほぼ外気温とイコールです.一方,「充填温度」は先述の通り「シリンダーに充填される空気の温度」なので,外気温とイコールになりません.なぜか?
インテークマニホールド(インマニ)を通るからです.インマニはエンジンの熱(≒水温)で温められますので,当然外気温よりも高温です.このため,外から吸った空気はシリンダーに向かう途中,インマニに触れる事で温められ,外気温よりも上がります.LINK ECUではこの水温の影響を受けた後の吸気温として「充填温度」というパラメータを用いて燃料噴射量の補正を行っています.
この「充填温度」は,エンジンの発熱量はもとより,吸気温センサの位置,インマニのサイズ等によって異なりますので一義的に決まりません.このため,LINK ECUではセッティング要素となっており,具体的にはエンジン回転数と負圧(MGP:Manifold Gauge Pressure)を軸としたマップに値を入れる形となっています.
このマップの値は%表記となっており,0%だと「充填温度」=「吸気温」,100%だと「充填温度」=「水温」となります.
・・・と文字で言われもイメージしづらいと思いますので,図にするとこんな感じです(↓).
水温=80℃,吸気温=20℃くらいのイメージで見て下さい.この図だと「充填温度」は「水温」と「吸気温」のちょうど真ん中(50%)にいる感じです.水温:吸気温=50:50となるので,(80℃ × 0.5) + (20℃ × 0.5) = 50℃って感じでしょうか.
ここから「充填温度」マップの値を50%→20%に下げていくと,「吸気温」に近づいていきます(↓).
水温:吸気温=20:80となるので,(80℃ × 0.2) + (20℃ × 0.8) = 32℃となり,「充填温度」は下がります.
(吸気温に近い値になる)
反対に,「充填温度」マップの値を50%→80%に上げていくと,今度は「水温」に近づいていきます(↓).
水温:吸気温=80:20となるので,(80℃ × 0.8) + (20℃ × 0.2) = 68℃となり,「充填温度」は上がります.
(水温に近い値になる)
図にするとこんな感じなのですが,最初,私はこれで1つ勘違いをしました.
「吸気温が上がった時に燃料が減って薄くなってエンストするなら,吸気温変化に対する反応を鈍くすればいい」→「充填温度マップの値を水温側に寄せれば(=値を大きくすれば),吸気温の動きを無視して水温の動きに連動するようになるはず・・・」と.確かに過渡変化に対してはその通りなのですが,これだと「充填温度」の絶対値は上がります.
LINK ECU内の燃料制御は「充填温度が上がったら燃料を減らす」「充填温度が下がったら燃料を増やす」という考え方なので,「充填温度」の絶対値が上がると燃料が減って,余計薄くなっちゃうんですよね・・・.
なので,「吸気温が上がった時に燃料が減らないようにしたい!」なら,「充填温度マップの値は小さくする」方向にセッティングする必要がありました.過渡特性と絶対値の動きは正反対なのに,最初これを勘違いして「アレッ? 対策して良くなったはずなのに,余計エンストし易くなった・・・」と混乱しました.
では次に,「吸気温センサの位置戻し」をしたら,なんでセッティングが変わるか?です.
B16Aは元々インマニのところに吸気温センサが付いています.これをダイレクトイグニッション化する際,ショップの判断で吸気温の影響を減らすために,インマニ→エアクリーナー(エアクリ)直後に配置変更をしてくれました(↓).
インマニよりもエアクリの方がエンジンの輻射熱の影響が小さいので,吸気温の変化も小さくなり,制御も安定するだろうという考え方です.イメージにするとこんな感じですね(↓).
これによって,確かにエンジンルーム内の温度上昇の影響は小さくなり,空燃比は安定したのですが,今度は水温・吸気温共に何も変化していないのに,突然空燃比が乱れる現象が起きるようになりました.考えてみるとそりゃそうで,エアクリのところで拾った吸気温と,インマニのところの温度は10~20℃違うので,「充填温度」として考えた場合には温度補正が合わなくなる訳です.実際のエンジンの燃焼に用いる温度は「充填温度」な訳ですから,青息吐息な私のB16Aでこのズレは痛いだろうと考えました.
そこで吸気温センサの位置をB16A本来のインマニ側に戻した訳なのですが,「充填温度補正」のセッティングが同じまま位置を変えるとどうなるか?というと,こうなってしまいます・・・(↓).
「吸気温」として見た場合,エアクリ側よりもインマニ側の方が温度が高くなるのですから,絶対値が上がって,LINK ECUとしては燃料噴射量を減らしにいってしまいました.こうして再びトルク不足に陥り,最初の動画のようなエンスト病が発症します・・・.
対策としては「充填温度」の絶対値が上がった分,マップの値を小さくして辻褄を合わせに行けば良いので,今回の結果を踏まえて後日セッティングし直しました.今の時期であれば多分これで大丈夫なはず・・・.
(カンカン照りの日だとエンジンルーム内の温度がもっと上がるので心配ですが)
なお,「エンストし易いならひたすら濃くすれば良いじゃん!」と考える人もいるかもしれませんが,濃くし過ぎると今度は始動出来なくなります.始動・アイドリング両方のバランスを踏まえつつ,水温・吸気温・エンジンルーム内の状況(日射の具合等)を踏まえてセッティングをしないといけないので,温度補正の適合はホント面倒です・・・.
以上,「充填温度補正」のおさらいでした.