リオデジャネイロ五輪が盛り上がっている。日の丸を背負う代表選手たちの熱い戦いを手に汗握りながら見入っている人は多いはず。しかしつい先日、そのリオ五輪に出場した1人の日本人女子選手の言動が大きな波紋を呼び起こした。リオ五輪・陸上女子マラソン日本代表の福士加代子(ワコール)が14日のレースで日本勢最高位の14位となり、レース終了直後に向けられたマイクに向かって次のように叫んだのである。
「金メダル取れなかったあ! ほんとしんどかったあ! 暑いけどなんか、しんどすぎて、いろいろなことがしんどすぎて。でも金メダル目指したから最後までがんばれました」
このレースで優勝し、金メダルに輝いたジェミマ・スムゴング(ケニア)のタイムは2時間24分04秒だった。福士はレースでスムゴングらの先頭集団に25キロ過ぎまで入っていたが、徐々に離されていってペースダウン。結局1位から6分近くも引き離され、タイムは2時間29分53秒に終わった。
結果はメダルどころか入賞にも届かず、明らかに「惨敗」。それでも福士はガッツポーズでゴールインを果たし、笑みも浮かべていた。そしてテレビカメラを前に前出の言葉を口にすると、さらにこうも続けた。
「マラソンはね、きついな。ここまでの過程も、レースも全部苦しいけど、オリンピックのマラソンは出るもんだね。楽しいよ。苦しいけど。もう泣きたい」
案の定、ネット上は大炎上した。期待に応えられなかったにもかかわわらず、「金メダル取れなかったあ!」「オリンピックのマラソンは出るもんだね。楽しいよ」などと連呼したことで、嵐のごとく凄(すさ)まじいバッシングを浴びせられた。その罵詈雑言の数々をいくつか拾い上げてみると、以下の通りだ。
「この結果でヘラヘラしながらメダル云々を口にするのは余りに品がない」「惨敗したのに『楽しい』なんて口が裂けても言えない」「日の丸を背負っている意識がまるで感じられず、最初から五輪出場を自分のためだけの記念レースだと思い込んでいたのだろう」「聞いていて本当に腹が立った」など――。
●福士加代子は誤解を受けやすい選手
ここに至るまで福士選手が努力を積み重ね、口先だけではなく本当に金メダルを狙っていたことは間違いない。ただし、あのレース終了直後の発言に関しては“失言”とみなされ、批判を受けても仕方がなかったのかもしれない。福士加代子という人物は非常に誤解を受けやすい選手だからだ。
五輪では過去3大会(アテネ、北京、ロンドン)で長距離走(アテネ=10000mのみ、北京・ロンドン=5000mと10000m)の代表選手に選ばれ、3000m、10000mの日本記録、そしてハーフマラソンのアジア記録保持者でもある。5度目のフルマラソン挑戦となる2013年8月の世界陸上モスクワ大会では銅メダルにも輝いた実績の持ち主。青森県出身の「みちのくの爆走娘」はトラックレースで、そしてマラソンでもしっかりと結果を残してきた。
その上で福士はこれまでも陸上界において「キャラが濃い」ことでも知られていた。津軽弁丸出しでインタビューに応じたり、珍発言を繰り返したりするなど非凡な実力に加えて、リップサービスも非常に旺盛で異色の存在として脚光を浴びていたのである。
一方で内面は恐ろしいまでに自分を追い込む超ストイックな人物であることも忘れてはいけない。トラックレースで過去3度の五輪出場を果たしたものの悲願のメダルには届かず10000mでは入賞も逃し、北京とロンドンで出場した5000mはいずれも予選落ち。その悔しさがあったからこそ、マラソンでリベンジを図ろうとした。
マラソン挑戦当初はレース終盤で“ガス欠”を起こして失速するケースが多かったことから、栄養士の助言で食事摂取量を3倍に増やし、白米も毎食食べて糖質をエネルギー源にする食事改善も敢行。陰の努力を積み上げた末に3年前の世界陸上モスクワ大会で銅メダルを取ったことでマラソン競技に手ごたえを感じ、さらに精進して今度こそ五輪の表彰台で1番上に立つと自分に言い聞かせた。
●リオで金メダルだべ、うふふ
何と言っても、その福士のキャラの濃さが際立ち、世に知れ渡ったのは一連のリオ五輪代表選考騒動のときだろう。今年1月、福士はリオ五輪代表選考会を兼ねた大阪国際女子マラソンで2時間22分17秒の自己最高記録をマークして圧勝。3年ぶり2度目の同大会優勝を飾り、日本陸連の設定記録(2時間22分30秒)を9年ぶりに切った。
優勝インタビューでは得意の津軽弁パフォーマンスで「リオ決定だべえ!」と早とちりで叫んだものの、同年3月開催のリオ五輪代表・国内最終選考会を兼ねた名古屋ウィメンズマラソンがまだ残されていることを理由に日本陸上競技連盟(日本陸連)から代表内定の通知は“保留扱い”とされた。
これに福士サイドは猛反発する形で一般枠で名古屋ウィメンズマラソンに出場し、改めて好タイムを記録して五輪代表の座を射止める強行出場プランをほのめかしたが、日本陸連や周囲から「コンディションにも影響を及ぼすので五輪でメダルを狙うならやめてほしい」と猛反対を受けた。
すったもんだの末に「総合的判断」として福士は強行出場を回避し、名古屋ウィメンズマラソンで好記録が生まれなかったこともあってリオ五輪代表に選ばれたのである。
今年3月18日の会見で福士は大勢のメディアの前で、こう言い放った。
「マラソンは過去の先輩の功績があるので、チャンスだと思っている。覚悟を表明したのでどんな練習でもやるしかない。リオで金メダルだべ、うふふ」
あえて五輪では今まで1度も立ったことのない表彰台を狙うことを宣言した。しかも口にしたのは、その頂点だ。自分を追い込むストイックなタイプであるがゆえに有言実行の強い気持ちが芽生え「金メダル」の言葉が飛び出した。十八番の“だべ”も、しっかりとつけて――。
しかし、雪辱を期した今回のリオ五輪で彼女に勝利の女神は微笑まなかった。6月に右足の炎症を患うなど100%満足な調整ができなかったのも事実。それでも言い訳はしなかった。
●素顔は不器用かつストイック
2007年の香川丸亀ハーフマラソンに出場したときだったと記憶している。当時、福士は筆者に「なるべくならばレースが終わったら笑顔でいたい。必死になって走った後、同じように辛い顔をしていたら周りも自分も暗くなってしまう。それは嫌でしょ。だからそれが自分のスタイル。非常に不器用なのかもしれないですが……」と言ったことがある。その言葉は今も頭の中にこびりついている。
だから毎回レース後に飛び出すおちゃめな発言(今回のリオ五輪では“KY発言”と多くの人から受け止められているが)も、そしてあえて貫き通す笑顔も不器用だからこそ揺れ動く内面や本心を周囲に見せまいとするための“仮面”にしているのではないだろうか。
それが証拠にゴールイン後、笑顔を見せながらも福士は汗とともに流れ落ちる大粒の涙を周囲に気付かれないように何度もタオルでぬぐっていたという。素顔は不器用かつストイックな「みちのくの爆走娘」の4度目の五輪が終わった。
「がんばったけど、負けた。人生で一番がんばった」。
そう自分に言い聞かせるようにコメントした福士は死力を振り絞りながらも「負けた」ことで、内心では悔しさと納得感が複雑に絡み合っているはず。負ければ批判を受けるのが代表の宿命であることも十分によく分かっている。今後は休養が濃厚だが、気持ちを整理してすべてをリセットしてほしい。
頑張ったんだからいいんじゃないの、何と言おうと、・・。不謹慎だの品がないだの外野がとやかく言うことじゃない。強化費用だのなんだのお上から出ている分もあるだろうし、国家の代表として参加しているんだろうけど、体を張って鍛えて参加したのは本人だからねえ。苦しいことも辛いこともあっただろうし、何よりも負けた本人が一番悔しかったんじゃないの。ガラッパチを装っていても吹き出す汗に紛らわせて拭っていた涙が一番それを物語っていると思うけどね。ご苦労さんくらい言ってやれよ。
Posted at 2016/08/18 15:48:51 | |
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