かつてはコンマ1km/L単位で、カタログに記載される燃費が新車が出る度に塗り替えられ、各メーカー間で抜きつ抜かれつの激しい燃費競争が行われていた。しかし、カタログ燃費と実燃費の乖離が大きく、ユーザーの燃費への意識が薄らぎ、いつの頃からかメーカー間でも燃費競争が影を潜めているようにも見える。燃費表示がJC08モードからWLTCモードへの移行期というのもあるかもしれない。そんななか、コンパクトカーの両雄、ヴィッツ改め新型ヤリスと、新型フィットがデビューした。注目のWLTCモード燃費はヤリスハイブリッドが36.0km/L、フィットe:HEV(ハイブリッド)が29.4km/L。この数値を見ると、もはやコンパクトカーの燃費競争が終焉したようにも思えてならない。本当に、かつてのような燃費狂騒(競争)は終わったのか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
燃費競争は行きつくところまで来たのか?
最近あまり使われなくなったクルマ用語に「燃費競争」がある。ライバル車同士で、燃費数値を競い合うものだ。昔は最高出力を競う「馬力競争」もあったが、その後は「燃費競争」の時代になった。それが最近はあまり話題にならない。燃費性能は今でも重要で、今後は燃費規制も厳しくなる。国土交通省は、2030年度にWLTCモード燃費を平均25.4km/Lまで高める燃費基準推定値を発表した。2016年度の燃費実績が19.2km/Lだから、2030年には32%の燃費改善が求められる。具体的な燃費概算値を挙げると、車両重量が1000kg以下のコンパクトカーは27.3km/L、1400kgのセダンは24.6km/L、1800kgのミニバンでも21.1km/Lだから、相当に燃費を改善せねばならない。この数値を守るには、ハイブリッドが不可欠だ。それなのに最近は、燃費競争はもう終わったかのような印象を受ける。
2020年2月には、フィットがフルモデルチェンジを行い、ヴィッツも一新して車名をヤリスに変えた。両車とも全長が4m弱に収まる5ナンバーサイズのコンパクトカーだから、燃費性能もセールスポイントになる。従来の流れでいえば、燃費数値を互いにアピールする燃費競争に発展しそうだ。実際、2013年に先代フィットが登場した時のTV・CMのコピーは「リッター36.4km/L(JC08モード数値のこと)、低燃費ナンバーワン、フィット3」というものであった。商品開発も燃費数値に神経質で、先代フィットハイブリッドのベーシックグレードは、このグレードのみアルミボンネットが採用され、燃料タンク容量をほかのグレードよりも8L少ない32Lに抑えた。この変更により、CMで訴求された36.4km/LのJC08モード燃費を達成している。ちなみに燃料タンク容量を8L減らすと、車両重量の数値では約6kgの軽量化が達成され、燃費計測で使う等価慣性重量も変わる。従って燃費数値を好転させやすい。そこで燃費重視のコンパクトカーや軽自動車では、燃料タンク容量を小さくするのが常套手段になったが、新型フィットの燃料タンク容量は全車40Lで統一されている。TV・CMコピーも「人が心地いいならクルマは嬉しい」とされ、燃費は訴求されていない。
新型フィットのWLTCモード燃費は、1.3L、NAエンジンを搭載する、ベーシックが20.4km/L、量販車種のホームが20.2km/L、e:HEV(ハイブリッド)のベーシックが29.4km/L、ホームは28.8km/Lとされている。ヤリスの数値は1Lエンジン搭載車が20.2km/L、新開発された1.5Lエンジン車のXとZは21.6km/L(CVT)、ハイブリッドXは36.0km/Lだ。燃費数値だけを比べると、フィットが劣り、ヤリスが勝っているが、それでもヤリスは燃費の優位性をアピールしていない。しかもヤリスはガソリン車にあえて、アイドリングストップ車を設定していないのだ。トヨタの新車開発者に燃費をアピールしなくなった理由を尋ねると、以下のような返答であった。
「燃費には今でも力を注いで開発しているが、カタログなどに記載される燃費数値よりも、実際にお客様が使われた時の実用燃費にこだわっている。ライバル車の燃費数値はチェックするが、それを見て自社製品の数値を高める目標にはしない」と言う。2017年5月に登場したミライースは燃費競争をやめたクルマとして記憶に残る1台。新型にもかかわらず先代と同じ35.2km/Lで上級グレードは34.2km/Lに低下した
エコカー減税が燃費競争を助長した
いわゆる燃費競争が激しかった時代は、2010~2015年頃だ。この背景にはエコカー減税の実施があった。当時は2010年度燃費基準の達成度合いに応じて、購入時に納める自動車取得税と自動車重量税を、50%・75%・100%(免税)の3段階で軽減した。減税率の格差が大きく、しかも目新しい制度であったため、「エコカー減税に該当すること」がクルマを選ぶ時の条件になった。一種の流行で、特に軽自動車は同じパワーユニットを使った車種を豊富に用意するから、段階的に燃費数値を高めていった。例えばスズキの場合、2011年3月にMRワゴンのJC08モード燃費が27.0km/Lになり、2012年2月にはMRワゴン・エコを追加して27.2km/Lに向上させた。2012年9月にはワゴンRが改良して28.8km/L、2013年7月には再びワゴンRが改良して30km/L、2014年8月にはワゴンRがFZを追加して32.4km/Lという具合だ。この間にムーヴやミライースも改良を受けて、競争しながら燃費数値を向上させ、ひとつの車種が1年間に数回、燃費数値を更新していた。この頃にダイハツの販売店からは、次のような話が聞かれた。
「JC08モード燃費の数値がライバル車に比べて0.5km/L負けると、エコカー減税率が下がることもあり、売れ行きにも差が付く。燃費の良いクルマは、購入時の税額と購入後のガソリン代が両方とも安くなるから、お客様も魅力を感じる。特に軽自動車は、ボディサイズとエンジン排気量は全車共通で、背の高い車種は外観や車内の広さも似ている。お客様にとって違いが分かりにくく、燃費数値、エコカー減税による税金の安さ、メーカーが軽自動車の販売1位か否か、といったことが重要になる」とコメントした。ところがこの後、ユーザーから「カタログやウェブサイトに記載される燃費数値と、実際の燃費が全然違う」という批判が寄せられるようになる。最近はブログやツィッターもあるから、カタログ数値と実走行の燃費に大きな隔たりがあると、その情報が簡単に広がってしまう。
その一方で2013年以降になると、ユーザーの関心は、燃費数値から衝突被害軽減ブレーキに移っていく。販売店からは「ぶつからないクルマはどれですか? という質問を受けるようになった」という声も聞かれた。つまり燃費数値にこだわって選んだものの、実用燃費は大きく異なり、各車種とも燃費競争を重ねると数値の差も縮まってくる(当然だが燃費数値を無限に向上することはできない)。新たに登場した衝突被害軽減ブレーキは、初期段階では装着車と非装着車に分けられ、歩行者の検知性能にも差が生じた。こういった事情から、ユーザーの関心は衝突被害軽減ブレーキに移り、燃費数値の0.5km/Lにこだわるユーザーは減っていった。
JC08モード燃費に代わりWLTCモードに移行
ここでJC08モード燃費ランキングを見てほしい。現行プリウスはWLTCモード燃費を表示していないため、ヤリスとどちらの方が燃費がいいのか気になっている方も多いと思う。 ヤリスの燃費表示は、WLTCモード燃費の36.0km/Lだけで、JC08モード燃費は明らかになっていない。カローラスポーツやカローラセダンのWLTCモード燃費とJC08モードの関係(JC08モード燃費はWLTCモード燃費の1.14倍~1.21倍)から、ヤリスのJC08モード燃費はある程度は読める。WLTCモード燃費の1.14倍としてJC08モード燃費を計算してみると、ヤリスのJC08モード燃費は41.0km/Lになるので、少なくとも40.0km/Lを超えているのは間違いないだろう。
■JC08モード燃費ランキング
1位:プリウスE/39.0km/L
2位:フィットe:HEV/38.6km/L
3位:アクアL/38.0km/L
4位:ノートe-POWER S/37.2km/L
5位:カローラセダン&ツーリングハイブリッドS G-X/35.0km/L
6位:グレイスハイブリッドDX/34.8km/L
7位:カローラスポーツSハイブリッド/34.2km/L
7位:インサイトLX/34.2km/L
9位:カムリX:33.4km/L
10位:カローラフィールダーハイブリッド/33.0km/L
※PHVを除く
2018年10月以降の新車からJC08モード燃費に代わってWLTCモード燃費が導入されると、トータルの数値に加えて、市街地モード/郊外モード/高速道路モードもある。 尚、継続して生産されているモデルであっても、2020年9月1日以降はWLTCモードの表示が義務化される。JC08モードでは格段に優れていたハイブリッドの燃費数値が、WLTCの高速道路モード燃費になると、NAエンジンと大差なかったりする。そうなるとユーザーも「燃費は単純に比較できるものではないらしい」と気付き、燃費競争からさらに遠ざかった。このほか2019年10月の消費増税と併せて行われた自動車税制の改訂も、燃費競争を抑える効果を発揮している。自動車取得税は環境性能割に変更され、2020年9月30日の登録(軽自動車は届け出)までは、軽減措置も実施されている。そのために燃費数値が異なる割に、環境性能割の税額に差が付きにくいからだ。
燃費に限らず、商品が進化するためには競争が必要だ。競争関係が薄れると、商品開発も緩んでしまう。ただし燃費競争が過激になると、エンジンのセッティングも計測時のモード燃費を重視したものになり、実走行の燃費を悪化させてしまう。これは不毛な競争だ。そして2010~2015年頃の過激な燃費競争を招いたのは、エコカー減税であった。国の施策が不毛な競争を招き、車両開発までモード燃費重視に歪めてしまった。初度登録(軽自動車は届け出)から13年を経過した車両の増税も含め、国のやることには問題が多い。自動車税の引き下げ程度で、満足することはできない。
車の燃費テストもF1ドライバー並みの技量を持ったテストドライバーがその技量を余すところなくつぎ込んで運転した結果の数値と言うので一般のドライバーがやってもそんな数値が出るわけもない。以前、トヨタのディーラーと話したが、「プリウスで20キロ以上の燃費を出すには相当にアクセルコントロールをデリケートにしないといけない」なんてことを言っていた。燃費の計算もモードのよって違うんだろうし、最近は実際の走行数値に近くはなっていると言うが、それでも実際の数値とは隔離があるだろうし、EVにしても走っている時は二酸化炭素は排出しないが、電気を作ったりバッテリーを作ったりするときには出すので似たようなものではある。燃費もアクセルをガンガン踏めば悪くなるだろうし、静かに丁寧な加速をすればそれなりによくなるだろう。要は穏やかな運転が燃費にも安全にも最も寄与すると言うことだろうか。コペンは軽だが、リッター16キロ強、CB1300は1.3リッターだが、20キロ以上走る。まあコペンの場合は動かしている車の重量がCB1300の2.5倍ほどもあるので同一レベルでは比較にならないだろうが、・・。最近は燃費よりも安全機能に関心が移りつつあるが、最近の車は本当によくできていると思う。もっともその恩恵のない車ばかりを選んで購入しているが、それはそれで困ったものではある、‥(^。^)y-.。o○。
Posted at 2020/03/02 14:30:43 | |
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自動車 | 日記