事業化に成功すれば確実に会社の柱になる――。
三菱重工業がそう見込んで8000億円近い資金をつぎ込んできた小型航空機「三菱スペースジェット」事業が暗礁に乗り上げている。2008年に事業化を決定してから設計変更による開発遅延を繰り返し、2020年2月には6度目となる初号機納入延期を発表。2020年夏の予定だった全日空への初号機引き渡しは2021年度以降になった。
■事業化計画は事実上の仕切り直しに
事業化計画は事実上の仕切り直しといえる。足元では発電向けのタービン事業が好調で、財務体質も改善している三菱重工だが、開発遅れが財務の悪化を招く可能性もある。
「安全第一の姿勢で、型式証明取得試験に集中する。スケジュールの遅れに関して大変申し訳なく思っている」
2月上旬に開いた2019年4~12月期決算に関する記者会見で、三菱重工の泉澤清次社長は硬い表情を崩さなかった。スペースジェットがアメリカで型式証明を取得するのに必要な最終試験機の完成が遅れていること、一部サプライヤーが担当する開発案件が残っていることなどを説明。詳しいスケジュールは最終試験機が開発地である名古屋から試験を行うアメリカに移動してから説明するとした。同時に、これまでスペースジェットの開発を担ってきた三菱航空機の水谷久和社長が4月1日付けで退任し、米国三菱重工社長の丹羽高興氏が後任の社長に就くと発表した。記者から開発遅延の責任について質問が及ぶと、泉澤社長は「水谷社長も成果を出している。誰か特定の個人に責任を帰す考えはない」と言い切った。スペースジェットと同サイズの航空機は競合が少なく、今後も需要が見込めると三菱重工は主張する。アメリカの規制に対応する次世代機の開発にも着手している。多額の開発費がかかっていることもあり、もはや引くに引けない状況だ。これまでに投じてきたスペースジェットの開発費はすでに8000億円近くにのぼる。今後のスケジュールの遅れを考慮すると、事業化にかかる費用は1兆円を超えるのは確実だ。2020年3月期末までに過去に計上していたスペースジェット関連の資産1300億円をすべて減損処理する。今期の開発費1400億円と合わせた関連損失は2700億円にのぼる。好調なガスタービン事業などで稼いだ2020年3月期の全社の事業利益はほとんど吹き飛ぶ計算だ。ただ、過去に支払った税金分の繰延税金資産を2100億円計上するため、2020年3月期の純利益は前期比微減の1000億円を確保するとしている。
■不足する航空機開発ノウハウ
納入延期を繰り返す理由は、三菱重工に航空機の完成品を開発するノウハウが不足していることが挙げられる。ボーイング向けの主翼や胴体といった部品製造の実績はあるが、無数の部品を組み合わせたうえで、どんな事態にも耐えられる完成機を作り出すのには別の経験とノウハウが必要だった。2016年にカナダのボンバルディアから三菱航空機に移ったスペースジェット開発責任者のアレックス・ベラミー氏は「計画は不透明で、日々の働き方も不適切だった」と移籍当初を振り返る。2017年の5度目の納入延期の際には電気配線の不具合が判明。設計をやり直し、2019年までにその数は900カ所以上にのぼった。その後、三菱重工の技術者主体だった開発チームに多数の外国人技術者を呼び込み、組織を立て直したことで、「あとは大きな問題はない」(ベラミー氏)という。最終試験機は2020年初めに完成し、アメリカに渡って型式証明を取得するはずだったが、3月18日にようやく初飛行にこぎ着けたばかりだ。航空機産業の関係者からは「経験豊富なボーイングでさえ、新型機の開発には数年の遅延がつきもの。ましてや三菱重工がすんなり造れるはずがなかった」との声が漏れる。三菱重工幹部は「不具合がある中途半端な状態で飛ばしてしまって、万が一問題が起きれば会社が持たない。そうなるよりははるかにいい」と話す。スペースジェットの納入延期と、それに伴う関連資産の減損1300億円には、単なる開発遅れ以上の意味がある。それはスペースジェットが近い将来に事業化し、利益をもたらすことを「当面期待できない」ということを三菱重工が認めたことを意味する。三菱重工の小口正範CFO(最高財務責任者)は「いったん事業化のことは考えずに、開発に専念するしかない」と、今回の会計処理の意味を解説する。三菱航空機の親会社である三菱重工が繰延税金資産を計上するということは、三菱商事やトヨタ自動車も出資している三菱航空機の価値を実質ゼロと見なすことにほかならない。
■3月末には債務超過に
三菱重工はボンバルディアが持つスペースジェットと同クラスの航空機CRJの保守部門を買収する予定だ。こうした動きはスペースジェット事業化後を見据えてのものだが、開発が遅れれば、買収に伴うシナジー効果は宙に浮くことになる。売り上げのない三菱航空機は3月末には債務超過に陥るが、増資はせずに三菱重工からの貸し付けで資金繰りをまかなう。仮に開発がうまくいって事業化しても、三菱航空機への出資関係を含めてどのような体制で三菱航空機を運営するかなど、難題はいくつも待ちかまえている。ただ、これほどの巨費をつぎ込んでも三菱重工の経営は揺るがない。近年の構造改革によって有利子負債が圧縮され、その額は2009年3月期末の1兆6128億円から2019年3月期末の6651億円へ、約半分に減らした。岩塚工場(名古屋市)の売却を決めたほか、祖業である造船部門でも長崎造船所香焼工場が売却交渉入りするなど、稼働率の低い工場の整理を進めている。泉澤社長は「国の発展段階によって必要とされる産業は変わる。進化の歴史ではないか」と語る。スペースジェットに1400億円の開発費をかけても、2020年3月期のフリーキャッシュフローは1000億円を確保する見込みだ。これは長年懸案になっていた日立製作所との訴訟が和解になり、期末に2000億円が入ってくるほか、スペースジェット以外の事業が好調なためだ。中でも発電(パワー)事業は、日立との和解によって三菱日立パワーシステムズが三菱重工の完全子会社になる。大型タービンでは世界トップクラスのシェアを握り、とくに環境性能のいい高効率タービンが好調だ。今後も、既存設備のメンテナンス需要が伸びることを見込む。足元ではコロナウイルスの影響で景気減速の波も押し寄せている。航空事業の主要顧客であるボーイングは債務超過にあえぎ、3月17日にはアメリカ政府に支援を求めた。今後、スペースジェットの事業化を悠長に待つ体力があるのか。三菱重工が正念場に立たされる可能性は低くない。(高橋 玲央 :東洋経済 記者)
航空機の開発には高度な技術の他に豊富な経験が必要になる。開発の経験がなければ技術だけでは航空機は作れない。スペースジェットが初飛行した時にその飛行を見て、「きれいな飛び方をする素性のいい飛行機だな」と思った。しかし、いい航空機を作ることといい旅客機を作ることは別問題だ。三菱重工には素性のいい素直ないい飛行機を作る技術はあったが、安全で快適な最新鋭の旅客機を作るノウハウは持ち合わせていなかった。それはなぜかと言えばYS11以来、システムとしての旅客機を作り上げた経験がなかったからだろう。マスコミは予定が遅れていることばかり取り上げて叩くが、考えようによっては半世紀もの間旅客機を作ったことがない旅客機素人集団がよくぞあれだけの飛行機を作ったものだと思う。しかし、とうとう部内ではどうにもこうにも行かなくなってボンバルディアから技術者を引き抜き、最後は部門ごと買収するなどの手を打った。当初の予定よりも8年遅れてはいるが、そしてそれが決して小さいものではないが、よくぞここまでたどり着いたものではある。あとは1日も早くスペースジェットを世に出すことに専念すべきだろう。航空機産業と言うのは関連会社が多数にわたるすそ野の広い産業で明日の日本にはぜひ必要な産業ではある。また三菱重工と言う会社は宇宙航空、防衛などの分野で他社にない技術を有する会社でこの会社も明日の日本にはぜひ必要な会社だ。スペースジェットがどの程度商売になるかは不明だが、少なくとも旅客機開発の経験は十分に積んだはずだ。それが明日の財産になるのだからぜひ頑張って開発を続けてほしい。観光だけでは日本は将来立ち行かない。明日の日本には高度先端技術がぜひ必要だ。明日の日本のために、頑張れ、三菱重工、・・(^。^)y-.。o○。
Posted at 2020/03/19 10:19:05 | |
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