
視界に浮かび上がる速度メーター
自動車の技術は日進月歩で進化を続けている。多くのクルマで採用される新技術がある一方、意外にもなかなか流行の兆しが見られない機能もある。速度メーターなどをフロントガラスに映し出す、ヘッドアップディスプレー(HUD)はその一例だ。見た目には派手で大きな進化があっても、市場に受け入れられるかは別の話だ。技術的にどれだけ困難なことを成し遂げたとしても、ユーザーが望んでいる機能とズレていれば普及しないのも当然だ。特に運転席周りのインテリアは運転感覚を大きく左右することもあるため、“見た目ばかりの進化”にはユーザーがついてこないことも多い。
中でも記憶に残っているのは、BMWやマツダなどが導入したHUD。フロントガラスに現在の速度や、道路標識などを映し出すシステムだ。従来はハンドルの直下などに埋め込まれた各種メーターを見なければわからなかった情報が、ごくわずかな視線移動だけで完結できる。何より、見た目のSF映画のような近未来感でクルマ好きの間では話題をさらったものだ。トヨタや日産も取り入れているHUDだが、レクサスなどの高級車を除いては標準装備車がまだまだ少ないのが現状。その理由は、機器自体の値段の高さ以上に、ユーザーからの評価が分かれてしまっているからだと、筆者(上山龍介、フリーライター)は推測する。
運転の安全性に直結する“情報の置き場”
そんなHUDだが、各メーカーによって違いはあるものの、中にはルートを矢印で案内してくれる機種もある。では、何がドライバーの間で議論になっているか――それは、運転中に集中力が分散する点なのだ。利点のひとつである「情報へ短い視点移動でアクセスできる」というポイントは、裏を返せば
「イヤでも情報が目に飛び込む」
ともいえる。昼間でも問題なく視認可能な輝度で表示されるHUDの情報は、絵やぬいぐるみとは異なり、意味を持つ情報だ。状況によって常に更新されて動き続けるため、つい意識を割いてしまうこともある。
クルマを運転したことがある人であれば、運転時の視界がどれほど大事かは容易にわかるだろう。クルマの構造上、発生する死角は多く、いつ飛び出してくるかわからない歩行者や自転車を警戒するためには大変な集中力を要するものだ。警察庁が発表した「原付以上運転者(第1当事者)の法令違反別交通事故件数の推移」(2019年次)によれば、脇見運転による事故発生率は全体の14.8%。これは全体の2番目に位置する割合で、意識が脇にそれたときの危険性を如実に表している数字といえる。安全運転を心がける多くのドライバーから、意識を散らされる要因をなるべく排除したいという意見が上がるのはあたりまえ。その意味で、HUDの情報サポートとうまく付き合えない人が少なからず出てくるのも仕方ないだろう。
見た目重視のおしゃれアイテムか
HUDによるサポートを体験した人からは、
「かっこいいからオプションで付けたけど、常に視界の端っこでチラつくのはちょっと…。思った以上に邪魔だった」
「試乗で体験したときはワクワクが勝ったけど、意識が散るから逆に危ないかな」
という声も。体験としての喜びはあるものの、実際に運転してみると違和感を覚えたという声が多かった。さらに焦点距離の違いも、運転好きの間でしばしば挙げられるHUD関連の難点だ。2台、3台、それ以上先で動く車両を見て運転するドライバーの多くは、遠い距離に焦点があっている。そんな状態で不意にフロントガラスのHUD表示を見ようとすると、焦点を合わせるためのタイムラグが発生してしまう。必然目を凝らす時間が長くなり、意識が手元に移りやすくなる……ということだ。
しかし一方、これらの問題は、従来の速度メーターを使っている状態と変わらない点にも注目したい。車速を知ろうと手元を見たり、標識を見たりするため、正面以外へ目を向けるのはまっとうな運転といえるはず。HUDの搭載有無に関係なく、ドライバーはその危険を冒しているのだ。欲しい情報が目の前に浮かび上がってくるという、SFチックな見た目がインパクト大なHUD。だからこそ、“見た目のわりに”という色眼鏡で見られている節があるのかもしれない。
技術が形になるのはこれから
見た目のインパクトを重視して、実用性に欠ける技術は多い。特に自動車はデザインも大事なアイコンであるため、例えば
「美しいフォームだが運転席の視野が狭い」
なんてクルマの例はパッと頭に浮かぶことだろう。HUDもそんな見た目偏重主義の例に加えるべきだろうか。少なくとも筆者はそう思わない。確かに発展途上の技術だが、新しく生まれた仕様に課題はつきものだ。そして「フロントガラスに必要なとき、必要な情報を浮かべられる」といった進化が実現できれば、運転席周りのレイアウトは一気に自由を得る。未熟な新技術にこそ、未来の可能性が潜んでいるのだ。(上山龍介(フリーライター))
HUD(ヘッドアップディスプレイ)と言う技術はもともと車のために開発された技術ではなく1980年代に戦闘機の先進技術として開発されたものだ。戦闘機は空中戦をする際に計器パネルにあるレーダースコープで敵機の状況を把握しつつ接近し、いざ目視で敵を視認しようと顔を上げると外の明るさに目が眩んで目標を捉えることができなくなってしまう。これを防止するために風防パネルや風防の前に設置されたスクリーンに敵機の情報、自機の飛行情報、使用できる武器の状況などを投影してディスプレイに集中し、視線の分散を減らそうと言うものだった。登場当時は画期的な技術だったが、現在ではヘルメットのバイザーに投影するなどまた新しい技術が開発されている。さらには周囲360度を投影するなどと言うとんでもないものまで登場しているようだ。こうした新技術に刺激されてその先進性を生かそうと車にも取り入れられたのだろうが、戦闘機の場合は敵機に集中すればいいのだが、車の運転はそうはいかない。前後左右の車両や歩行者、自転車、バイクなど様々なものや方向に注意を向けていないといけない。その分、インパネからの情報については常に必要なものは速度くらいでそれも常時監視している必要はないし、感覚として今どのくらいの速度かと言うことも分かる。敢えてフロントシールドに情報を表示しなくてもインパネの速度計を見れば分かる。要するに表示される情報の重要性が命がかかっている戦闘機と格好いいとかおしゃれとか言うレベルの車では天と地ほども違う。車のHUDも表示方法や表示される情報の内容によっては便利な装置になるかもしれない。消えていく技術になるか、生き残っていくかは今後の改良次第だろう。四輪操舵も鳴り物入りで登場したが、違和感があるとかで消えていったが、大型のセダンやSUVで最近はまた復活してきているようだ。操舵の制御方法が格段に進化したことと大型車であればあるほど小回り性能が求められるからだそうだ。HUDも先々投影方法や表示される情報が進化すればまた復活するかもしれない。あ、そういえばGRヤリスにもついていたなあ、・・(^。^)y-.。o○。
Posted at 2022/11/06 00:46:59 | |
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自動車 | 日記