「夢中で頑張る君に~エルボー」
お笑い芸人、COWCOW・多田健二さんのこんな一発ギャグをご存じだろうか。レオパレス21(以下、レオパレス)のオリジナルCMソング『それぞれの夢』をパロッたものだが、実はこのギャグのような事態が現実に発生してしまっている。テレビCMに登場する広瀬すずさんのように、レオパレスで憧れのひとり暮らしをスタートして、夢中で頑張る若者にとって寝耳にエルボーというか、後頭部にスタン・ハンセンばりの強烈な肘打ちを食らうほどインパクトのある事実が明らかになったのだ。賃貸物件には防火や防音を目的として設置される部屋と部屋の間を仕切る壁、「界壁」があるが、レオパレスの物件には、屋根裏まで達していない物件が複数存在していることを、『ガイアの夜明け』(テレビ東京)が指摘したのだ。同番組に出てきた「関係者」によると、界壁なし物件は20年前から問題になっていたものの、社内で隠ぺい・放置されてきたという。
音が漏れるくらいならば互いにガマンをすれば済む話だが、屋根裏がつながっているのはマズい。ここを利用すれば他の部屋へ容易に侵入できてしまう。若い女性からすればこんな「恐怖の館」はない。なかには、「そういえば、昔レオパレスに住んでいたとき、留守中にモノの置き場所が変わっていたり、モノが失くなったことがあったんだよね」なんて思い出して背筋が冷たくなった女性もおられるかもしれない。そんな破壊力満点のエルボーは入居者だけではなく、物件オーナーにも容赦なく向けられている。昨年から、レオパレスを相手どってオーナーたちが集団訴訟を行っているという報道を耳にしたことがあるはず。原因はライバルの大東建託や、目下大炎上中のスマートデイズ(かぼちゃの馬車)でも、オーナートラブルといえば必ず登場する「サブリース」(一括借上げ)だ。これは、オーナーが建てたアパートやマンションを、大東建託やレオパレスのような不動産会社が30年~35年と長期にわたって一括で借り上げるというもので、オーナーからすれば募集や家賃の集金など物件管理をすべて丸投げできたうえ、安定した家賃収入まで保証してくれる、といういたれりつくせりのシステムだ。
●日本型組織のスタンダードというか、「伝統」
だが、世の中そんなにうまい話などあるわけはなく、オーナートラブルが後を絶たない。それはレオパレスにもあてはまる。30年間一括借り上げで「空室や家賃滞納の有無にかかわらず、毎月安定した収入が得られます」(同社Webサイト)と言うから契約したのに、10年もしないうちに営業マンがやって来て言いくるめられて家賃を減額されてしまった。そんなことを訴えるオーナーたちが、「被害者の会」まで立ち上げて、レオパレス批判を展開しているのだ。部屋探しをしている人に役にも立つし、相続税対策や不動産の有効活用もできる、とレオパレスと契約を結んでいるオーナーからすれば、振り向きざまに三沢光晴のローリングエルボーを食らって意識もうろう、足元もおぼつかないというようなノックアウト寸前の悲惨な状況なのだ。もちろん、これらについてレオパレス側にも「反論」はある。『ガイアの夜明け』が放送されて、慌てて催した緊急記者会見では隠ぺい・放置は否定し、「施工業者に渡している図面と施工マニュアルの整合性に不備があった」「図面等と現場との照合確認が不十分であった」(同社ニュースリリース 5月29日)とヒューマンエラーだと説明している。
また、サブリース問題に関しても、レオパレス側は契約時に支払家賃の変動リスクについて書面や口頭で説明している、と同社Webサイトの「よくいただくご質問」に掲載。「固定期間経過後の一括借上賃料につきましては、経済事情の変動、近隣相場家賃、賃借需要の変動等を勘案したうえで、原則として2年毎に見直しの協議をさせていただきます」というパンフレットの抜粋部分をわざわざ赤線で囲んで「しっかりと説明しています」アピールをしている。このあたりの事実関係は、いずれ法廷やジャーナリストのみなさんの調査報道によってハッキリしてくるはずなので、ここでとやかく言うつもりはない。ただ、「被害者の会」の方たちが主張されるように、「30年間家賃保証」の説明に問題があったとしても、『ガイアの夜明け』に出てきた関係者が証言したように、「界壁なし物件」を20年間、社内で隠ぺい・放置していても特に驚かないし、むしろ「だよなあ」と納得してしまう。レオパレスという企業がどうこうという話ではなく、美しいスローガンやおいしい話を触れ回りながらも、実際にやっていることは大きくかけ離れていて、弱い立場の人間に犠牲を求めるというのは、日本型組織のスタンダードというか、「伝統」だからだ。
●陸軍参謀本部というマネジメント層らの「思想」
分かりやすいのが、太平洋戦争における陸軍戦車隊だ。当時、日本の主力となっていたのは「チハ車」と呼ばれる「九七式中戦車」。他国のガソリンエンジン車と異なり、世界で初めて空冷式ディーゼルエンジンを採用していたため火炎瓶を投げられても炎上しない。スピードも早く、その技術力は戦後のディーゼル車にも応用されたという。なんてことを聞くと、「やはり日本の技術は世界一ィィィ!」と、『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくるシュトロハイム少佐ばりに大喜びをしてしまう方ばかりだと思うが、レオパレスのアパートが敷金ゼロで家具や家電など完備されていても、肝心の界壁がなかったように、この「チハ車」にも肝心な装備がスコーンと抜けていた。1943年、20歳のころに学徒動員されて兵庫県加古川の戦車第十九連連隊で初年兵教育を受け戦車手となり、後に小隊長にまでなった経歴をもつ、作家の司馬遼太郎はこう述べている。
「この戦車の最大の欠陥は、戦争ができないことであった。敵の戦車に対する防御力も攻撃力もないにひとしかった。防御力と攻撃力もない車を戦車とはいえないという点では先代の八九式と同様にで、鉄鋼がとびきり薄く、大砲は八九式の五七ミリ搭載法をすこし改良しただけの、初速の遅い(つまり砲身のみじかい)従って貫通力のにぶい砲であった。チハ車は昭和十二年に完成し、同十五年ごろには各連隊に配給されたが、同時期のどの国の戦車と戦車戦を演じても必ず負ける戦車だった」(戦車・この憂鬱な乗物)
そんな「司馬史観」は信用しないぞ、最近では日本が大敗したノモンハンも実はソ連軍の被害のほうが甚大だったんだ――。さまざまな反論が聞こえてきそうだが、「チハ車」の大活躍で多くの日本兵が助けられたとか、敵国が震え上がったみたいな話はほぼ皆無という動かしがたい事実もある。では、なぜそれなりの技術力をもっていた陸軍が「壁のないアパート」さながら、「戦えない戦車」をつくってしまったのか。工業国として未熟だった、資源不足でしたしかたなくなど言い訳は星の数ほどできるが、本質的なところを言ってしまえば、陸軍参謀本部というマネジメント層らの「思想」によるところが大きい。
●入居者という「中身」が横ばいであれば普通に考えれば「破たん」
戦後、司馬遼太郎は、参謀を務めたことのある兵科の少佐から、陸軍技術本部の優秀な技術者たちの、敵国と比する戦車をつくるべしという申し出を参謀本部が跳ね返したという事実を聞いた。彼らの言い分をまとめると以下のようなものだったという。
「戦車であればいいじゃないか。防御鉄鋼の薄さは大和魂でおぎなう。それに薄ければ機動力もある(厚くて機動力をもつのが戦車の原則)。砲の力がよわいというが、敵の歩兵や砲兵に対しては有効ではないか」(同上)
日本の戦車戦が悲惨な結末を迎えていることからも分かるように、これはちっとも「有効」ではなかった。どの国も歩兵や砲兵は、だいたい分厚い鉄鋼の戦車が守る。この元参謀によれば、参謀本部には戦車隊出身の幹部は1人もいなかったので近代戦の構造をそもそも知らなかったのではないかと推察している。つまり、陸軍のマネジメント層は、自分たちが置かれた厳しい状況を客観的に見ることができず、「大和魂」のような根拠のない精神論や、世界は自分たちを中心に回っていると思い込む御都合主義に完全にとらわれていた。その「重篤な病」が目に見える症状としてあらわれたのが、「戦えない戦車」だと考えるべきなのだ。では、「界壁のないアパート」は、いったいどんな「病」の兆候なのか。先ほど、レオパレスのWebサイトには「よくいただく質問」というページがあると申し上げたが、そこにちょっと陸軍参謀かと目を疑うような記述があった。「少子高齢化で学生の数が減少していくなか、今後もワンルームを建築し続けて大丈夫なのか?」という質問に対して、こんな回答がよせられていたのだ。
「年齢別の単身世帯数の将来推計を見てみると、当社の入居者層である生産年齢人口と呼ばれる15~64歳の「単身世帯」は1,000万世帯超で、2035年までほぼ横ばいと予想されており、入居需要は今後も一定数を見込める状況です」
以前、大東建託の記事でも触れたが、日本では今も年間40万戸の新築賃貸住宅がつくられていて、そこに加えて、これまでレオパレスや大東建託のようなメーカーが生み出してきた膨大な数の賃貸住宅にあふれている。このように「器」だけが右肩上がりでも、入居者という「中身」が横ばいであれば普通、「破たん」という言葉が浮かぶ。にもかかわらず、「一定数を見込める」と自信満々で断言できてしまうあたりに、「防御鉄鋼の薄さは大和魂でおぎなう」と似た精神構造を感じてしまう。
●臭いものにフタの対応をするのか
全上場企業の約80%がレオパレスを寮や社宅として利用しているという実績があるので、「法人企業が採用に積極的になればなるほど、寮・社宅として当社利用が増加していくことが期待されています」というが、過去5年でパナソニックが11万人、ソニーが4万人という大幅な従業員の削減を行い、メガバンクも採用を減らす今、なぜそこまで強い「期待」を抱くのか。その自信の根拠は何なのか。大変申し上げづらいが、筆者には陸軍参謀本部が冒されたのと同じ「病」を感じてしまう。もちろん、それは賃貸住宅業界だけの問題ではない。
「一生暮らせる安心、安全の高級マンション」をうたいながらも、工期に間に合わせるために基礎工事をサクッと手を抜く。「世界一の品質」をうたいながら、ノルマをこなすために検査データを改ざんする。「世界一の原発メーカー」をうたいながら、思うような結果が出ないとしれっと利益をかさ上げする。
あらゆる業界、あらゆる組織で、陸軍参謀本部のような御都合主義的な持論が展開され、それが不正のトリガーとなっているのだ。歴史に「もし」はないが、「九七式中戦車」のような大きな問題のある兵器しかつくれなくなっていた時点で、陸軍参謀本部が、自分たちの「病」に冒されていることを受け入れて、ゼロからの組織改革にのぞんでいれば、その後の戦局は大きく変わっていたかもしれない。意図のありなしはさておき、レオパレスが「界壁のないアパート」を世に送り出していたのは紛れもない事実だ。そして、成長エンジンであるサブリースへの批判が高まっている現実もある。これを受けて、経営陣はどういう判断をするのか。「施工業者がミスしないようにこれまで以上に厳しく管理します」「サブリースを誤解している人がいるのでしっかり説明していきます」というだけでは、根本的な問題解決に至らないと感じるのは、筆者だけだろうか。
旧陸軍は戦局が厳しくなればなるほど、「国民の戦意高揚」の名のもとで宣伝戦に力を入れた。そういえば、賃貸需要の冷え込みが一部で指摘されるなかで、レオパレスも大東建託もそんな景気の悪い話を吹っ飛ばすようにテレビCMをバンバン流している。『ガイアの夜明け』以降、株価も続落するなかで夢中で頑張るレオパレスに、我々は心の底からエールを送れるようになるのだろうか。注目したい。
97式戦車は歩兵支援用戦車として作られた。その任務は敵の機銃拠点を潰すこと、だから装甲は対機銃防御でいい。主砲も対戦車戦を考慮していないので短砲身の榴弾砲でいい。そうした設計方針で作られている。当時、もっと貫通力の大きな砲を装備して装甲も厚くした方がいいと言う意見もあったが、日本の貧弱な工業力と貧弱な輸送インフラがそれを許さなかった。それでも太平洋戦争初期には米国のM3軽戦車を撃破して太平洋戦線最強の戦車にも輝いている。また太平洋戦争全期間を通じて主力戦車として活躍しているので改造車も多数作られるなど決して欠陥戦車ではない。本来なら太平洋戦争初期に75ミリ砲を装備した三式戦車を戦線に投入すべきだったが、それができなかったのはやはり工業力の問題だと言える。それでも97式戦車改に装備された47ミリ速射砲は英国から"Effective gun"と好評価されている。撃たれる側にしてみれば嫌な砲だったんだろう。せめて敵の戦車の装甲を貫通できる砲を装備した戦車を戦線に投入してやれば日本の戦車兵はそうむざむざと負ける軍隊ではなかった。75ミリ砲を装備した1式砲戦車は待ち伏せ攻撃で米軍のM4や軍用車両などを多数撃破している。また戦後は中国に残された97式戦車改が国共両軍で多数使用されている。総合的に見ても決して悪い戦車ではなかった。本来であればこの戦車とは別に対戦車戦用の高初速長砲身砲を装備し、重装甲の戦車を作るべきだったが、貧乏国日本の実情が許さなかった。それは97式戦車の罪ではない。陸軍にはウソや思考が時代からずれたところもあったが、こと97式戦車に関してレオパレスと同一視するのは97式戦車に気の毒に思う、‥(^。^)y-.。o○。
Posted at 2018/06/05 19:21:16 | |
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