中学に上がってからの毎日は、確かに楽しかった。“彼女”とは
クラスが一緒になる事は無かったが、いつも休み時間中には、お
互いがどちらかのクラスに通っていた。当然早くから公然の仲と
なっていた。と言うより今思えば“彼女”が見せびらかすように公
然の仲にさせたがっていたフシを感じた。“彼女”は小学校の時と
は全く打って変わって明るくなっていた。学校が村から離れていた
事も関係したのだろう。“彼女”の家庭を知る村の者は中学では、ほんのわずかしかいなかった
からだ。さらには中学から給食では無く、弁当持参となっていた事も関係するだろう。弁当ならば
母が家で作って直接“彼女”渡しても、因業ババァはイヤミ位しかいう事が出来なくなっていたと
思われるから…。
中学に上がってからの“彼女”は輝いていた。暗いイメージしか持っていなかった他の村の同級
生達は皆目を瞠っていた。元々スタイルも良く、顔も綺麗な部類に入る“彼女”だったのだが、身な
りと表情が暗かったせいか、その“彼女”の美しさを看破する同級生はいなかったという事だろう。
この俺を除いて…。
体育の時間は、俺にとっては至福の時間帯だった。体育は通常2~3組が合同で行っていた。な
ので、“彼女”のいるクラスと一緒の授業となる事が多かった。さらに言えば、当時の女子の体育着
はブルマであり、しかも体にピッタリとフィットするタイプであった為、恥ずかしがる女子達には悪かっ
たが、男子達は大いに堪能させて貰ったものだった…。
その日の授業は体力測定だった。各自順番に高跳びや幅跳び、または反復横跳び等の項目を
こなしていた。特に反復横跳びの時は、順番待ちをする位置が、女子達には運の悪い事に、男子
達には天国の様に、測定者の丁度正面になってしまっていた。それはつまり俺のクラスの男子が
正面から見守る中、“彼女”のいるクラスの女子が反復測定をしなければならない状況となってい
た。女子達は次々と恥ずかしそうに反復横跳びをこなしていた。俺のクラスの男子達はソレを見て
下品に囃し立てていた。その時“彼女”の順番が回ってきた。元々きつめの体育着だった事もあり、
“彼女”の美しい身体のラインがハッキリと分かった。そんな中、測定が開始されると、男子達は一
気に押し黙った。飛び散る汗。弾ける躍動感。そして悩ましく弛む胸と、フェロモンがムンムンと湧
き出ている太腿からデルタ地帯。確かに中一とは思えない艶めかしさが醸し出され始めていた…。
そんな“彼女”を見て、さりげなく股間を抑える者や腰を引いている者が何人かいた事を俺は知って
いた。ひとしきり股間をさすりなだめていた連中は、その後、必ず恨めしそうな顔で、俺を睨むのだ。
しかし俺は、そんな時ほど優越感に浸れる時は無かった。何故なら“彼女”は俺の彼女であり、今
こうして測定している時も、この俺を見つめながら汗をかいているのだ…。
そんな“彼女”との付き合いは、しばらく順調にいっていた。キスは週に一回くらいはしていた。最
初の頃はとにかく人気のない場所で、ホンのチョット唇が触れ合う位の可愛いモノだったが、それ
でも数をこなすうちに中学生とは言え、結構大胆になってくるものだ。最後の方は行きのバスの中
や、校舎内でもしていたくらいだ。しかもけっこうディープなヤツを…。
結局中学の三年間の内、最初の2年間は、俺にとって比較的楽しい良い学園生活だったと思う。
だが、中学を卒業してトータルで中学校時代というモノを思い返した場合、俺にとって中学校生活
と言う期間は、決して良い時代では無かったと断言出来る。その兆しが顕著に表れ始めたのは、
3年に上がって直ぐの頃だった…。
“彼女”は相変わらず輝いていた。さらに第二次成長期でもあった為、“女”としての丸みを帯びた
体つきや仕草に変化しつつあった。俺から見れば“彼女”はまだ男の子っぽい所が有ったが、制服
が少しきつめの為、上着やスカートも、背が高くなるにつれ、やや短めとなってしまい、それが総じ
て妙に艶めかしかった。しかも“彼女”の成長がまだ止まる気配は無く、学年が上がる度にスカート
は相対的に短くなっていた。気高い“彼女”ではあるが、羞恥心に関しては、まだまだ慣れていない
様だった。クラスメートの男子や、担任の教師までが自分の胸や太ももに視線を向けて来る毎日を
送っていては、否応なく、自分が女である事に気が付かされざるを得ない。
そんな中、俺の周りでは色々な事が起こり始めた。まずは同性からの嫉妬があり、その“彼女”を
想う不良連中から睨まれ始めたのだ。一応俺は幼少時より柔道をしており、この時は既に“二段”
を允許していた。なので俺が不良に絡まれる事は無かったのだが、“恋は盲目”との格言を、奴ら
は健気に証明して見せていた。或る日、俺はその輩達に呼び出された。最初無視する事も考えた
が、いつまでもグダグダしていても埒が明かないと思い、その呼び出しに応じる事にした。呼び出し
場所は学校から少し離れた所に有る廃材置き場だった。一応念の為、こちらも昔からの子分であ
る“B夫”を引き連れて行った。俺が廃材置き場に着くなり、輩のリーダー格である“D志”が言った。
「なんだ! きたねぇな おめえは一人でこれねーのか!」
そう言う“D志”の後ろには四人の輩が立っていた。
「で、話ってなんだ?」
ツッコミたいのは山々だったが、俺は輩のペースには乗らず、無視するように言った。
一瞬目を剝き、イラつく素振りで“D志”が言った。
「…オメェ、…“彼女”と、ど、どこまでやった!!」
いきなり出てきた言葉は、予想通り幼稚で下衆なものだった。
「何で部外者のお前が、“俺達の性生活”を聞きたがるんだ! ひょっとして、お前変態か?」
俺もレベルを下げて、憎らしげに下衆っぽく呟いてみせた。
「おめぇ…なめんじゃねーぞ!」
精一杯のドスの効かせたつもりの、ベタなセリフを“D志”が言った。
「じゃあ、お前が先に俺のケツ舐めろや」
俺は、とにかく相手を怒らせる事に集中した。喧嘩はアツくなった時点で負けである。俺は相手が
怒りに満ちて来るほど、逆に冷静になってくる性分だった。所詮、中坊位の輩なんてのはツッパっ
てはいるが、基本、自分よりも強い相手とは、しかも一人では闘った事が無いのは明白だった。さ
らに冷笑気味に畳み掛ける。
「群れなきゃ何も出来んモヤシの分際が偉そうに……ママのおっぱいでもチュパチュパしてな!」
中学生にしては、結構気の利いたセリフだったと、今思い返しても感心する。
これ以上ない位、真っ赤な顔をした“D志”達は、俺の思い通りにキレた。
「テメェ!」
交渉決裂を表す言葉と同時に、何処で用意したのか、鎖やパイプを振り回して、輩達は一斉に
襲い掛かって来た…。
つづく