久しぶりに丸二日乗った。こんなに乗ったのは、五年
ぶりくらいかも知れない。 そして、改めて思った。
「ポルシェはイイねぇ~」
勿論、“最新のポルシェが最良のポルシェ” だという事は解っている。
しかし、最新のポルシェが “最愛のポルシェ” だとは限らない・・・。
私の場合、それに該当するのが、タイプ964である…。
何せ、好きが高じて3台も乗り継いでしまった位なのだから!
しかも、その年式は92’→91’→90’と、年を追う毎に、過去へと遡る(爆)
最初の92年式はカレ2だったので、ターボミラー&エアバックが標準装備されていた。当時の私
はバイク小僧から脱却しつつある時期の事もあったが、やはりスポーツカーと言っても、ソコはク
ルマ。或る程度の快適性は求めていた。故に有史以来、初めてエアコンが “効く” ようになったこ
のモデルから、ポルシェライフを始めようとしたのだ(苦爆) 確かに “ナロー” も良かった。“ビッグ
バンパー” も良かった。しかし当時の私は、走りの質よりも“エアコンが効くか?”の方に購入判断
の重きを置いていた(自爆) 更にこのモデルから採用されたエアバッグも、私のミーハー心を掴ん
でいた。更に言えば、ダサい “筆箱ミラー” から、かっちょいい “ターボミラー” が最初から装備さ
れた、92’モデルをチョイスしたのは、必然の成り行きとも言えた(苦笑)
そんな中、私はこのポルシェを手放す事になる。理由…、それは、或る事故が原因だった…。
今から十数年前の或る日、某埠頭にポルで出かけた時、路駐していたトレーラーの後ろにクルマ
を停めた。それから少しのち、ポルの後ろにこれでもかという位トラックが接近して停めて来た。しば
らくは何事もなく時が過ぎて行ったが、突然、破滅が襲って来た。 前に停まっていたトレーラーが、
“悠然” と、バックして来たのである!
確かに色々な条件が重なってしまったのは否めない。最初のポルはグレー系の色だった為、路
面と色が似ていた事。後ろに同じく大きなトラックが居た為、ポルが見え辛くなっていた事。そして、
この場所が “埠頭” であったという事…。
皆様御存じの様に、ポルシェやフェラーリのクラクションは、“エアー・ホーン” を採用しています。
鳴らせば、とても甲高い、
「プァーーン!」
という音だ。つまり、場所が悪かった。コレは船の汽笛に酷似していたのだ! 故にいくらクラクショ
ンを鳴らしても、このトレーラーの運ちゃんは、遠くの船の汽笛に思えたのだろう。なので、ゆっくり
ではあったが全く躊躇する事無く、ポルに向かって来たのだ!当然避けようとしたが、真後ろにピッ
タリとトラックに張り付かれていた為、全く逃げ場は無かった。
「ガチャンンン!!」
衝突音が埠頭に響き渡った。事故そのものは軽微と言っても差し支えは無かった。実際ポルのフ
ロントがちょこっと凹んだだけだったし、トレーラーに至っては、ほぼ無傷と言ってよかった。
んがっ!しかし、ポルの車内では、“ノックアウト” された私が居た…。
ほぼ止まっていた状態での衝突なのに、なぜ私がダメージを受けていたのか?
その答えは、本来身体を守るべき存在の、“エアバッグ” によるものだった!
エアバッグが開くような衝突事故は通常、“走行中” に起こるので、ぶつかった時に起こる慣性力
により、前へ飛び出そうとするドライバーの身体の負担を軽減する為のモノである。しかしこのケー
スは、ポルシェが “停止” している状態で起こったのだ! つまり私の身体に、前に飛び出そうとす
る慣性力は発生していない訳で、当然の様に普通にシートに座っている状態でエアバッグが開いた
訳である。 コレがどの様な意味を成すのか?
「エアバッグというヤツが、私の顔面に “チョーパン” ブチかましてきた!」
という事なのである(核自爆) どんな強いボクサーでも出す事の出来無い異次元の速度で繰り出し
てくるパンチを、人類が避けられる筈は無い。故に私は成す術なく、一発KOと相成った。しかしこれ
で終わった訳では無い。
エアバッグにより、身体をKOされた後、私の ”懐” をも、KOする事になったのだ…。
フロントをチョット凹ます程度だけの破損だった筈が、当たった所が主に右側に偏っていたのが
運のつき。それが何を意味するか。それは空冷ポルシェにとって、致命的とも言える、“オイルクー
ラーの破損” を意味するのである…。
空冷時代の911は、外見は正面から見てシンメトリーなのだが、その中身は極端な、アン・シンメ
トリー構造となっている。
フロントを前に車体を上から見た場合、車体の左側はバッテリーや、ブロアー等の換気系システ
ムが場所を占め、右側はオイルクーラー・オイルライン・オイルタンク等の冷却系が場所を占めて
いる。なので雪の日に走らせると、それが実に良く解る。車体左側には雪が積もるのだが、右側は
全く雪が積もらない。それどころか、車体から湯気まで立っているのだ(苦爆)
つまり、右フロントにチョコンと当たっただけで、空冷ポルは死ぬのだ…。
まあ、この事故はトレーラー側に100%非が有るという事で、ゴネまくった挙句、大金をせしめる
事が出来たのは、不幸中の幸いであった。が、これにより私の中に “エアバッグ恐怖症 ” という
トラウマが住み着く事になった事故でもあった…。
故に次のポルシェは、エアバッグのついていない車種を探した(苦笑) そして神は私にご褒美を
与えた。すんばらしい、“バリモン” のポルシェを私の手に収めさせたのだ! 特別色の美しくて品
の有る深いブルーに塗られた2代目964は、年式は91’だが後期タイプなので、エンジンは同じで、
更にカップホイールが標準で付いていて、走行距離が少なく、更に内装がピラーやダッシュボード、
ドア、ルーフと、全てに車体色と同じ深いブルーのレザーが貼られている、所謂エクスクルーシブ
仕様の、ゴージャス911だった。当然エンジンには、オイル漏れの痕跡すらない、正に大当たり!
の911だった。無論値段も、かなりの額とはなっていたが、ソコは “事故長者” となっていた私には
余り追金せずに、購入する事が出来る範囲だったのだ(爆)
年式が1年古い車種にも拘らず、この91年式は車体が少し軽く感じた。シフトレバーの入りは、多
少渋かったが、許容範囲で収まっていた。外から見たらダサい筆箱ミラーも、運転席から見れば、
この上なく見やすかった。そして車全体から発せられていた、故障とは無縁の安心感…。
今度こそ、楽しい “ポルシェライフ” が長く続く筈だった…。
が、この “バリモン 964” との生活も、現実は購入してから僅か半年で終える事となる…。
つづく