札幌ドームのトイレの数は、ハッキリ言ってこの規模
では少なすぎる! またルートも限定されており、スタ
ンドを駆け上り、高い位置に有るコリード―を廻り、また
階段を降りて行かねばならない不便さは、何とかして欲
しい程、もどかしい! 特に切羽詰った状態では、途中で
力尽きる事も考えられるからだ!(苦笑) まあ今回は何とかなったが、ちゃんとシャワートイレで
あることを確認してから駆け込んだ。
「……ブ、ブブブ……ブバッ!!」
身体が少し浮く位の圧で噴射した!
「ふ~…間に合った…」
地獄の我慢から解放された瞬間の、天国に登るような、この何とも言えない幸福感!
「黄金プレイが廃れないのも頷ける!」
と、少しズレた感想が口から漏れた時、地鳴りのような音が聞こえてきた。んが、次の瞬間、札幌
ドームが揺れた! グワァングワァングワァンンンン!!
トイレ内も音と振動が反響し、この世の終わりかと一瞬感じた。
「何だ何だ!!」
しかしその理由は直ぐに判明した。2点リードしていたホークスに、ファイターズが、ついに追い付
いたのだ! 場内の割れんばかりの歓声がトイレ内にも侵入してきた!
「ううう、く、クソ! 俺がトイレなんかでウ〇コなんかしなければ、
こんな事にはならなかったのに!!」
…そうでも無い事は百も承知であったが、言わずにはいられなかった!
そそくさと身支度をした後、急いで席に戻ろうとしたが、その先にフードコートが有ったので、少し
歩を緩めた。
「イカン、下から出したから、腹が減った! 腹が減っては戦は出来ぬ!」
と、最近はどの球場にも進出しているKFCのブースに行った。
「このオリジナルチキンとビールのセットで…」
品物を受け取ると、一目散に席に戻った。その先には未だチャンスが続くファイターズファンの
熱狂が支配していた。席に着くなりチキンにかぶりつき、ビールを呷った!
「クソー!キバレー!キバレー!」
声を枯らして応援したが、緊迫状態は尚続く。
「ううう、く、くそ! ち、血が足りねぇ~」
カリオストロで第一回クラリス奪還作戦に失敗して、重傷を負ったルパンのセリフを吐きながら、
スタンドに居る売り子を探す。すると、おにぎりセットを売っている売り子を呼び、3セット購入した。
「う、ウォー! 踏ん張れぇ~! 踏ん張れ~!」
おにぎりをまとめて口に入れ咀嚼し、声を枯らしての応援に、急激に喉が渇いて来た。セットの
ビールは既に底を尽いていた。
「ううう、く、くそ! まだ、ち、血が足りねぇ~」
再度ルパンのセリフを吐きながらスタンドに居る売り子を探す。
すると、少し違和感のある光景に出くわした。ビールの売り子は大勢いるのに、或る一人の売り子
だけは、全く注文がかからないばかりか、客からも疎外されていた。確かに西武ドームの売り子と
違い、札幌ドームの売り子の大半は男であったし、絶対数も少なかった。更に少数である女の売り
子の中に、イイオンナは見かけられない。しかーし、流石、某ビール会社の御膝元でもあるので、
ビールは美味く、また料金も少しではあるが、西武ドームよりも安く設定されていた…。
そんな事を考えていると、その客から相手にされない売り子が近くに寄って来た。なんとなくその
理由が分かった。彼は全身(と言っても、露出している頭部と両腕から推測したに過ぎないが…)
白癬菌の皮膚病の様なモノを患っているように見えたからだ。確かに飲食物を扱う人員配置として
疑問が残る配置ではあるが、逆に言えば問題ないから配置したと思われるので、寧ろ私は軽い怒
りを覚えつつ、敢えてその貧相な売り子の青年を呼んだ。売り子はパッと表情が明るくなり、駆け
足で私の傍まで来た。
「ビールひと…いや、二つくれ!」
「あ、ありがとうございます!」
青年は泣かんばかりに喜び、そして震える手つきで紙コップにビールを注ぎ込む…。
「ありがとうございます。二つで1,200円です!」
私は財布から2千円を取り出し彼に渡した。
「ありがとうございます!二千円からですので、800円のお返しです!」
と、つり銭袋をガサゴゾ漁っている姿に、俺は言いようの無い健気さに感動していた。
「イイヨ…いいよ、つり銭は!」
「えっ?」
「やるよ! 帰りの電車賃とKFCの、“コンボスナック”のセット位は賄えるだろう!」
青年はお札を握りしめたまま、唖然と私を見つめていた…。
「いいから、とっとけよ…」
青年は、なんともうれしそうな、しかし申し訳なさそうな表情で礼を言った。
「さ、もう少しだ! 仕事がんばれよ!」
青年は帽子を脱ぎ一礼をすると、仕事に戻って行った…。
その時だった。また札幌ドームが揺れた! ウウウォォォォォ!!!!
鼓膜が破れんばかりの大歓声の中、とうとうホークスが逆転されたのだ!
ガンッ!
思わず前のベンチを、へし折らんばかりに蹴とばした!
ビシャ!
そのベンチの後ろに備え付けられていたカップホルダーに入れてあった、買ったばかりのビールの
紙コップが弾け飛んで、辺りにビールを散布させた! ガタイのイイ強面カップルも、ビビククッッ!
と飛び上がっていた(爆)
「しまったぁ! 敵地のビールの売り子にチップなんかやらなければ、
こんな事にはならなかったのに!!」
…そんな事は無いのは百も承知であったが、言わずにはいられなかった……。
シリーズの行方を左右しかねない、痛い痛い大逆転劇を目の当たりにし、傷心の重い身体を引き
ずるようにして、恐らくファイターズファンの応援で盛り上がっている地下鉄ルートを避け、タクシー
乗り場へと歩いて行った。外はいつの間にか雨が止んでいた。ヤケ酒でも煽りたい思いもあったが、
今はとにかくゆったりと湯船に使いたい気分だった。私は運転手のオッチャンに、〇〇ホテルに行く
よう頼んだ…。
つづく
※尚この模様は、フィットのフォトギャラリー内、“札幌ドーム③” を参照してください!(笑)