「やっと来た!」
「なに寝てんのよ~!」
「あれ、また痩せた?」
同時に複数から声が掛かった私ではあるが、目の前の
御馳走しか目に入らないので早速とばかりに空いた席
へと腰を降ろす事にした。とは言え、実は家を出る前に余りにも腹が減っていたので、某す○家
で≪キング牛丼≫を喰ったのだが、まあ8分程で完食しそれでもちょっと足りないと感じたワタ
クシは本当は饂飩が喰いたかったのだがここには麺類は置いていないので、おん玉カレーを
追加注文した。当然この後盛大に開かれる宴会の事は頭に入っていたが、7時間以上先の事
であり特に気にしてはいなかった・・・。
「しかし皆もう社会の重要なポジションに君臨してんだな~」
頭が白くなり眼尻に小皺が増え老眼鏡を持参し腹も少々盛り上がったメンバー達を観るにつ
け、シミジミとそう思わざるを得ない。何か嬉しい気持ちと寂しい気持ちが同居した様な感覚
に見舞われた。等とスカシた風情で感慨に耽っていると、
「なにしんげんさんだけが若いつもりでいてもあなたも十分オッサンだから!」
と弾劾の声も何処吹く風の如く、大ぶりなタン串を頬張りつつしっとり静かに反論した。
「何言ってんの!オイラは未だベビーフェイスだよ!赤ん坊の様な餅肌も未だ維持してるし!」
と言って財布から五百円玉を取り出すと火照ったおでこに貼り付けた。500円玉はピクリと動
く事も無く接着剤で張り付けた様におでこに付いていた。一斉に各所からビール噴射の音が
鳴り響き、更に輪をかけてシュプレヒコールが挙がった!
「しんげんさん、ソレちょっと違うと思う!」
そうして楽しい宴会は続く。そして話は大人の世界となり、各所から病院の話や良く効く
薬の話、リハビリや美容整形の話などに華が咲いた。更には訴訟関連の話や政治の話にも及
んだ。何せメンバーの中には、敏腕ドクターや敏腕弁護士、某大手広告代理店幹部や、プロの
劇場カメラマン、カフェテラスオーナーや作家崩れの物流経営者、はてまた落選議員などと
錚々たる顔ぶれなのだから話は多岐に亘り、また滞る事も無かったのだ・・・。
料理は〆の雑炊へとなったが、ココで私に異変が生じた!腹が減らないのである!
いつもならワタクシの鎮座するエリアの食べ物だけがスッカラカンになるのだが、今日
は寧ろワタクシの居るエリアの食べ物がかなり残っている。私は愕然とした!牛丼屋での食事
が有ったとはいえそれでも7時間位のインターバルが有ったので全く問題ないと思っていたの
だが、どうやら体の消化能力は思い通りにはいかない様になっていた様だった・・・。
本日一番の寂しい気持ちになった私だが、場は会計の段となりまたまた楽しげなお金の
やり取りが始まった。
「俺○○円札○枚あるからお釣りゼロね!」
「私は一万円札しかないから誰か両替して!」
そうして店のスタッフに徴収した料金を支払うと、
「領収書はどうされます?」
と店員が聞いた瞬間、数名の目がキラリと光り、その雰囲気を察した敏腕ドクターT氏が
「領収書欲しい方何人ですか? 数名で〇〇円毎に頼みましょう!」
といつもの提案をしたのだが、その時今回初参加の敏腕弁護士S氏が、
「あ、今年の10月1日からインボイスの施行が開始されたので、そういう領収書の切り方は
出来なくなったと思うんですが・・・」
と遠慮がちに発言した。当然プロの意見なので皆の視線が店員に注がれると、ベテラン店員は
一旦店の奥に戻り確認に向かった。結果やはり駄目だという事で1枚の領収書だけを渡された。
しかしココはもう大人。争奪戦など起こりよう筈も無く、にこやかに話し合いで決着を見た(笑)
店を出るとココで御別れのメンバーも居たので皆で写真を撮る事にした。そして記念写真も
終わり名残惜しいが宿に戻る事にした。しかし明日はそれ程早く起きなくていいので時間に
縛られずにゆっくりと過ごせるなと思い部屋に向かうと、途中で数名が
「何処に集まる?」
等と会話していたので、磁石に吸いつかれるが如く勢いで私は其の会話の輪に加わると、
「ああ、T氏の部屋で呑み直す事にしたのよ」
との言質を得たワタクシは、先程の寂寥感を払拭するべく近所のコンビニへと向かった。早速
とばかりに酒のコーナーへと向かい、ビール酎ハイワインウィスキーを取り、そして酒の
ツマミのが置いてある棚の品物を根こそぎカゴに入れレジに向かうと、両手いっぱいになった
レジ袋を下げながら、深夜の田舎道を歩いて行った・・・。
「しんげんさん、ソレ買い過ぎだよ~! 誰が食べるの!?」
お酒とツマミが満載の大袋を二つ提げて来た私を見るなりそう言って来たが、
「イヤイヤ、なんだかんだ言ってこれが結構減るもんですよ!」
と言って場に瓶や缶の“柱”とツマミ類の“畑”を構築する事に励んだ・・・。
T氏の部屋には他にY氏の姿があった。結局はこの3名だけとなったが、パラノイア創設期
からのメンバーであり、パラノイアのコアメンバーと言えるが、故に話はクルマの話題に
留まらず、家族の事やゴシップ類の話、はてまた世界経済の話や天下国家への論客と化した。
やはり気心の知れたメンバーとの会話は忖度無に本音で語り合う事が出来、それは適度な
緊張感も相まってとても有意義で楽しい酒席となった。
「ホント日本人の特権だよな~」
私は柿ピーとチー蒲を摘まみながら酎ハイを喉の奥へと流し込む度にそう思った。美味い酒、
美味いアテ、楽しい会話。人生で最も幸せなコンテンツに浸る事が出来るこの瞬間、私は
とても楽しい充実感を憶えた。
さて流石にこれ以上飲むと明日の走行に差支えが出ると判断し、寂しいがここで≪二次会≫は
お開きにする事にした。私はふらつく足取りで自室に戻るとベッドにダイブする前に風呂に
入ろうとバスルームへと向かい、火照った体と頭をリフレッシュさせ、途中で抜ける事には
成るが明日の楽しいツーリングをイメージしながらベッド脇の明かりを消した・・・。
つづく!