カイエン2台とパナメーラに分乗して本コースの端の方へと走って
行くと、車窓の外は段々鬱蒼とした緑の景色に変って行った。ココが
あの開けた広大なサーキットの一部だとは到底思えない程、それは
森の中と言っても過言では無かった。解り易く言うとこの場所は所謂
“南コース”の北側に位置しているのだが、今は全くオリジナル本コースの名物コーナーだった場所
とは思えない程ひっそりと存在していた・・・。
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この日は南コースでドリフトのイベントが開催されていた事も有り、その場所の直近まではクルマ
で行く事が出来なかった。故に手前の簡易駐車場に車を停めてそこから徒歩で向かう事になった。
暫く歩くと前方に寂れたトンネルが見えて来た。心霊スポットだと言われれば疑う事無く信じて
しまう様な佇まいの其のトンネルの中を歩いて行くと、徐々にスキール音やエグゾーストノートの
爆音が聞こえて、またそれと同時にタイヤの焼ける臭いが鼻腔を刺激始めて来た。ふと眼下に広が
る南コースに目をやると、大観衆とバリバリのドリフトカーのデモンストレーション走行が行われ、
至る所でタイヤスモークと歓声が上がっていた。 しかし我々一行は其方とは反対の斜面を息せき
切って黙々と登っていた・・・。
ようやくフェンスに阻まれた箇所に到着した。そこには注意喚起の看板が立てられ、ココが普通の
場所では無い事を誇示していた。皆の目が輝き出し歩く速度が増して行き、先程までの鬱蒼とした
景色が一気に開け、正にココがサーキットの一部だった事がこれでもかという位圧倒的なオーラと
共に眼前に広がり始めた。
「おお!スゲー!」
「かなり斜面キツイな~」
皆が一斉に感嘆の声を上げると、早速とばかりにアチラコチラで撮影会が始まった。私もここぞと
ばかりにキツイ斜面を登り当時の面影と雰囲気を全身に浴びながら、かつてここで繰り広げられた
伝説のレースの想いを馳せた。そう、ココは富士名物の“30度バンク”である・・・。
当然と言えば当然なのだが、1974年に閉鎖されて以来、此の場所がメンテナンスを受ける事は
無く廃墟にも似た荒れ具合だった。コース路面になめらかな箇所は一カ所も無く、かなりの凸凹で、
大根を持って来ていれば簡単に“大根おろし”が出来る位のソレは荒れ様だった。とは言え個人的な
思いを述べさせて貰うならば、やはり30度バンクを復活させて欲しいのは否めない。安全がどうの
こうのと言われるが実際アメリカでは未だにオーバルのバンクコースが主流であり、日本でも今は
震災により閉鎖されているが“もてぎ”でも採用されているのだから本気でやれば出来ない筈は無い
のである・・・。
富士スピードウェイ 30度バンク(旧コース)
皆で集合写真を撮った後、走行会の時間が迫って来ていた事も有り名残惜しいが現役の本コース
へと戻る事にしたが、しかし短い距離とは言え考えてみれば、其処でポルシェを足車として使用する
贅沢は中々味わえない事だと再認識して思わずニンマリとしていたその横を、先程のドリフトイベン
トの一環として試乗希望者をピストン輸送用に使用しているクルマと何度かスレ違った。この日本で
正規の割り当ては5台しか確認されていない、その内の2台の “メルセデス・ベンツ G63 AMG
6×6”が、ホンのちょっとではあるが、ポルシェの優越感に楔を打ち込んだのは誤算ではあった。
何せアノクルマの車両価格は8,000万円なのだから・・・(^。^;)
さて走行会が始まり、メンバーの殆どは本コースへと入って行った。走行会に参加しないメンバー
は、しかし尽きないクルマ談義に花を咲かせていた。するとココでも外人の姿がチラホラと確認出来
た。インターネットが発達したお陰でFSWも世界のクルマ好きの聖地となりつつあるのは間違いが
無い。何せ日本で初めてF1GPが開催された場所であり、今や世界を席巻するジャパニーズチュー
ンドカー(JDM)の聖地でもあるのだから、日本人以上に思い入れのある外人が激増するのも自然の
流れであろうから・・・。
さて走行会も無事終わり、寂しい事だがお開きの時間が迫って来た。全国から集まったメンバー
故、皆で一緒に帰宅の途に就く訳にもいかずココで現地解散となるのだ。1台また1台と去っていく
メンバーを見送りながら、万感迫る想いが押し寄せて来るのを止める事は出来なかった。
最近はクソみたいな灰色の毎日が続いていたワタクシではあるが、だからこそ夢の様な時間を
堪能出来た喜びは良い意味で“筆舌に尽くし難い”ひとときであった。
それでも多くのメンバーが東京方面に向かうので、最後の最後とばかりにポルシェでのランデ
ブー走行に勤しんだ。私の周りはチューンド911だらけではあったが、ここ高速クルージングに関
しては間違いなくカイエンが優れている! 満腔の想いで私は此の仮の愛車返却までの残り少ない
時間を最後まで堪能する事にした・・・。
数十分後、最寄りのICを降りた私は、カイエンを返却してフィットに乗り込んだ。今まで数え
きれない位ポルシェを堪能した後フィット等の国産車に乗り込んだが、その時は心の底からホッと
するのが常であった。いくら楽しいとは言え、スポーツをした後は疲れるのは当たり前であり、その
後に国産車に乗る事は、まるで温泉に浸かる様な安心感と寛ぎを与えてくれるのだ。しかし今回は
違った。フィットに乗り込んで直ぐに感じた事は、何かフィットが古臭く感じたのだ!勿論911から
フィットに乗ったならばこれまでと同じ感覚だったかもしれない。しかしSUVのカイエンは誰が何
と言おうともやはりスポーツカーでは無く、ラグジュアリーカーなのだ! だから解り易く言えば今回
は最新型のハリアーからスターレットに乗り込んだ感覚に近いかも知れない。私はポルシェも国産
車の目指す方向寄りにシフトしたのかと一抹の不安と寂しさが込み上げて来るのを静かに感じた。
さて、感傷に浸っている暇は無い、これからすぐに仕事なのだ! 私は自分に喝を入れ仕事先へ
と向かった。
「あ、その前にパンクしたタイヤを直しに行かねば・・・」
私はハンドルを勢い良く切ると急いでタイヤ店に向かった。徐々に引き締まる頬の自覚を憶えなが
ら、粛々とフィットを走らせた。
夢の時間が終わり、現実の荒波の中へと埋没する私が其処に居た・・・。
おわり
※ 尚、この日の模様は、愛車紹介ポルシェカブリオレ の フォトギャラリー内の
→
“ココ” にアップしておりますのでどうぞご覧下さい!