夜が明ける頃の静かな時間帯。しかしそんな静寂を
打ち破るかのように私の携帯が鳴った。
「ちゃららー⤴ ちゃららら・ちゃっちゃ~⤵
チャララー⤵ チャッチャッ⤴チャッ⤵チャッチャ~」
ヨハン・ゼバスティアン・バッハが作曲したオルガン曲の定番である、“トッカータとフーガ ニ短調”
が鳴り響く中、私はPC画面から視線を外し、携帯を取った。
「もしもし」
「あ、しんげんさん、おはよーゴザイマース!」
早朝の私の耳に、某雑誌編集者の明るい声が木霊した。
「なんざんしょ?」
「あ、すいませーん! 次号の企画、再来月に変更しましたー!」
大きな会社に守られている編集者とは、いつもこうだ。残酷な通知を明るい声で告知して来る。
(だから仕事関係の着信音は“トッカータとフーガ ニ短調”にしているのだ(苦笑)
「つーことは?」
「はい、今月は結構でーす!」
「……了解」
「では、また宜しくお願いしマース!」
といって、明るい声のまま通話が切れた。私の心を暗くしたまま…。
ま、こんな事はよくあるので、気持ちを切り換える事にした。
「ふー! いきなり時間が空いたな…」
本来、今日中に上げるべき原稿がポシャったので、急ぐ事も無くなった。世間は休日である日曜
日の早朝。このまま寝るのも癪に障るので、ナンカしようと思案した。とは言え最近は結構毎日が
楽しい。その一番の理由は、次期愛車探しを口実に、アチコチ車やバイクを見に行けるからだった。
「そういや、どっかに…」
と、或る事を思い出し、未だ乱雑なままの書類の海を、ゴソゴソと探し回る…。
「おー!あったあった!」
それは、ポルシェ・ディーラーから送られてきたDMである。近々開催される、毎年恒例の中古車
フェアーの招待状だった。開催日時を見ると、正に今日が最終日であった。
「丁度良かった。チョックラ見に行こう!」
と思い立ち、徹夜のままだが、早速準備に入った…。
“なでしこJAPAN風”の半袖短パンの上下ジャージに身を包み、小物を入れたモノショルダーの
デイバックを肩にかけ、デジイチを首から下げて、麦わら帽子を被り、ナイキのサンダルに足を通
すと、いつものワタクシの戦闘服の出来上がり!(爆)
そんな姿で、私を待つフィットへと向かった…。
同じ週末の休日でも、土曜日と日曜日では、首都高の混み具合が全然違う。滅茶苦茶混んでい
る土曜日とは違い、時間帯にもよるが、日曜日は基本的に何処も空いているのだ。
と言う訳で、かなり早めに現地に到着した。と言っても開場時間ギリギリである。
「流石に遅かったかな…」
と思いながら、パーキングへ向かう。しかし、全くと言ってよい程、人の気配が無い(苦笑)
「まあ、いつもの国際的な催し物じゃないからなぁ」
と、いつもは大混雑する駐車場へと向かった。やはりココも閑散としていた(苦々笑)
「これなら会場も空いているだろうから、チョット寄り道しようかな…」
と、急遽周辺を散策する事にした。考えてみれば、しょっちゅうこの場所に来ている割に、その周辺
の事は余り知らない。と考えていた矢先、スグに目の前に青い海が広がった。
「へー! こんな場所が有ったんだ!」
潮の香り漂う、綺麗な遊歩道の様な公園である。しかしその木陰のアチコチには、恐らく仕事をさ
ぼっている会社員や警備員や、逆に“仕事中”のホームレスの姿があった(爆)
「平和じゃのぉ~」
暑さでダラダラと汗が滴る中、しかし私は、のんびりとした気分に包まれた…。
十数分後、巨大な会場の入り口に辿り着いた。当然大きな建物の下、殆どが日陰であるし、しか
も強い海風に常に晒されている場所にも拘らず、私の汗が止まる事はなかった。
「日陰くらい、涼しくなれ!ってんだ!」
と、ブツクサ言いながら、入口へと向かう。とここに来てようやく混雑する人の波が見えて来た。
「おー!なんだかんだ言っても、大きな催物だもんな」
と一人微笑み、更に歩を進めると、アチコチから犬の吠え合う喧騒が近づいて来た。
「ん? なんだ?」
と同時に、マダーム達の賑やかな話し声も大きくなってくる。よく見れば、ベビーカートの中には犬
が乗っていた(笑) それに大きな犬を従えた集団の姿もある。自然と案内板に目をやると、そこに
は、ポルシェフェアーの案内板と並んで、
“人とペットの豊かな暮らしフェア”
なる看板が設置されていた。
「へー、こんなのもやってるのか…」
コレはこれで、コチラの方も興味がある(苦笑) が、今日はあくまで次期愛車探しに来たのだからと
後髪を引かれる思いで、その会場とは違う方向に歩き出した。とその時、私を呼び止める声がした。
「申し訳ありません! そちらでは無く、こちらが会場の入り口デース!」
と、カラフルな制服に身を包んだスタッフが手招きをした。
「あっそ!」
と、スタッフの指示に素直に従い、手招きのする方へと歩いて行き、そのドアを開けた。
すると突然、私の前に凄まじい喧騒が訪れた。
「わんわん! キャンキャン! バウバウ!」
…ペット会場の方だった(爆) ま、私の格好を見れば無理もないかもしれないと、ココは相手を許す
事にして、慌ててその場を後に、ポルシェの会場へと向かった…。
こちらはやはりというか、閑散としていた(苦笑) こんなに人気の無い会場ロビーを見たのは初め
てだった。
「天下のポルシェとは言え、やはり大きな箱ではキツイか…」
と、少し淋しい気持ちになったが、気分を切り換え、会場受付へと向かった。
「招待状はお持ちでしょうか?」
入口付近に居たスタッフが駆け寄り、招待状の提示を求めた。勿論一般の人も無料で入れる催物
ではあるので、別に出さなくても良かったのだが、一応持って来ていたので、それを見せると受付嬢
へと案内された。
受付嬢が記入するリストをチラリとみると、どうやら私が最初の来場者の様であった。
「ありがとうございます、今日はゆっくりと御覧下さい」
そう言って、手続きを終えたのちに、会場内へと促された…。
意気揚々と私は入場した・・・。
まさか、“あんな” 経験をするとは思いもよらずに…。
つづく
※ 尚、この日の模様は、ポルシェ911 のフォトギャラリー 内の
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ココ” と → “
ココ” にアップしておりますのでどうぞご覧下さい!