巷で言われていたV8から直6への“ダウンサイジング”に
関しては、全くネガな印象は無かった。 寧ろBMW伝統の
“シルキーシックス”の香りが、通常の直6モデルよりも強く
感じたのは好印象だった。“M”にも拘らず、兎に角パワー
の出方がスムース且つ、上品なのである! 先代のV8モデルはもう少し野蛮な感じがしたが、現行
モデルから一気に洗練されたという事であろう。故に、このクルマに乗って思ったのは、アルピナの
存在である。かなりB3モデルと被ってくる箇所が増えた様な気がした。
本来此の≪Elegant・Barbarianエレガント・バーバリアン≫(優雅な野蛮人)というカテゴリーは、ア
ルピナの独擅場だったのだが、現行のM3&M4に於いて、その差はかなり縮まった感は否めない。
勿論あのアルピナ独特の乗り味とは一線を引くが、それでも全く違うモノとも言えなくなったのは事
実である…。
路面がまだウェットなので、それほど高回転までエンジンを引っ張る事は出来なかったが、それで
も十分な加速とサウンドは堪能出来る。トルクは“モリモリ”と言った感じではないが、パワーの出方
同様、トルクの出方もスムースなのには感心した。これならサーキットで走らせても楽しいだけでは
無く、かなりのタイムも叩き出せるだろう。
「コレ、マジでイイかも…」
いつの間にか頭の中で懐具合(全財産)を換算し始めた。
「うんうん…なんとか…イケる…かな…」
AVの購入を減らして、吉牛を特盛から、並みの“つゆだく”に抑え、“坊(仮名)”と“お嬢(仮名)”も私に
付き合わせて少し餌を減らせば何とかなるかなと計算すると、ギリギリではあるが購入範囲に入って
いる事が判明した! 一気にテンションが上がる! すると曇天模様にも拘らず、急に周りの景色が
色鮮やかに見えて来た。思わず鼻歌が室内に木霊し始めた。
「♪マハリ~クマハ~リタ ヤンバラヤンヤンヤン!
♪マハリ~クマハ~リタ ヤンバラヤンヤンヤン!
魔法ぉ~の国ぃ~から やって来た ちょっと~チャームな 女の子
サリー♪ サリー♪ 不思議な力~で町中に 夢と笑いをふりまくの~・・・・」
私は気分が乗ると、魔法使いサリーを口ずさむ癖が有った。ふと横を見た。“今江のアンチャン”は
真っ青な顔を下に向け、小刻みに震えていた。それが笑いを堪える為なのか、或いは恐怖に耐えて
いたのかは定かでは無い…。
さて店に戻ろうかとハンドルを目一杯切った時、突如アゲアゲだった顔に深い皺が寄った。
「ん? コレ…マジかよ…」
普通に走っている時には気づかなかったが、異常な位ハンドルの切れ角が狭かったのだ!
幹線道路の普通の道で来ればそれほど気にならなかった事だったが、あの細い路地を運転して来
てしまったのは、今思えば神の啓示か…。
私が定めている足車としての優先順位の2-トップが、“四駆とサンルーフ”であるならば、それに
続く第三位の選定基準が、最小回転半径なのだ!
以前にも言ったかもしれないが、私がよく行くスーパーの駐車場に入るには、かなりキツいクランク
が有り、フィットですら一発で抜けるには結構気を遣う場所なのだ。しかしこのM4のタイヤの切れ角
では、到底一発では行けない事は火を見るより明らかだった。一気に色鮮やかに見えた景色がドン
ヨリと曇り始めた。更に追い打ちをかける様に、“今江のアンチャン”の視線が、私の左手の小指付
近をチラチラと這っているのに気が付いた。
「クソー! さっきの“震え”は、笑いを堪えていたんじゃなかったのか…」
まあ、非日常車としてみれば、充分候補に値する素晴らしいクルマなのには変わりなく、ココは大人
の対応をしようと肝に銘じていた…。
店舗に戻り、見積もりを出して貰った。 受付の若いオネーチャンが、飲み物のメニューを持って
来た。いつもの様に
「ウーロン茶か緑茶を、23℃にして持って来て!」
と言おうとしたが、少し線の細い子だったので、泣かれると困ると思い、グッと胸にしまい込み、熱い
緑茶を…とだけ言って席に腰を降ろした。
因みに店内には同じM4のAT車も展示してあった。プライスタグを見ると、MT車の約100万円安だっ
た。今や国産車だけでなく、外車もATよりもMTの方が高い時代になったのだ! ちょっと寂しい気が
した…。
意気消沈している私の表情を読み取ったか、商談を終えたのち“今江のアンチャン”が勇気を振り
絞って営業トークをかまして来た。
「あ、あの~、しんげん様は昔“7シリーズ”に乗られていたという事ですが、
弊社も、つい最近ですが新型の7シリーズをリリース致しまして…」
勿論知っていたが、今更あの巨大なクルマを所有しようとは思っていなかった。が、一生懸命、私に
話し掛ける “今江のアンチャン” を見ていると、純粋な誠意に満ち溢れ、逆に不憫すら覚える程だっ
たので、ココは彼の顔を立てる事にして、案内された斜向かいにある新車専用の正規ディーラーへ
と向かった。
こちらは先程の店舗とは違い、大人の雰囲気が満ち溢れていた。営業マンの平均年齢も高く、受
付嬢も、実際は“受付け熟嬢”であった。無論フェイスもスタイルも平均値はかなり超えていた事も
言っておこう! 客層も殆どが御爺ちゃんに片足ツッコんだ様なレディース&ジェントルマンばかり
であった。そんな中、肩で風を切って入店して来た昇り竜の袢纏を羽織り、裸足にサンダルの、全身
猫の毛塗れのテレンスが入って来たのだから、一瞬だが店内の空気が凍った。しかしそんな事は慣
れっこなので、気にせず辺りを見回すと、店の隅に…と言ってもメインステージと言って良い場所に、
何とも言えない白いカラーリングを纏った新型の740iが展示されていた。
「新型のコチラも見た目が宜しい!」
と思ったら、現行モデルから設定が始まったMスポーツバージョンであった。
「7シリーズに、とうとうMバージョンが設定されたとなると、
増々アルピナの差別化が際どくなって来たな…」
本来BMWと暗黙の了解の元、アルピナの独占状態であった7シリーズのハイパフォーマンス部門
が、遂にBMW本社によって浸食される気配を感じた…。
740iの第一印象は、
「それほど大きくは感じ無いな…」
である。しかし諸元表を見れば、全長が5mを優に超える“大型車”である。見た目をどんなに小さく
見せようとも、数値は嘘を吐かない。それは運転すればすぐに判る事。例え大きさを感じない運転
しやすいクルマだ! とは言ってもそう感じるだけで、実際は大きいのである。 まあ、良く言えば
“進化”であり、悪く言えば“誤魔化し”と言えるだろう。例えるなら頭痛薬の様なモノだ。痛みの原因
を治すのではなく、痛みを司る器官の“感覚を鈍らせる”のである。まあそれでも運転し辛いよりは
遥かに良い事だが…。
「嗚呼! あったあった、こんなヤツが! 昔は手動で、リヤガラスにしかなかったけど…」
暫く740の車内で色々弄っていると、後席のウィンドウにスルスルとブラインドがせり上がって来た
ので、思わずそう叫んでしまった。7シリーズ独特の装備である、
“ウィンドー・ブラインド”だ。
考えてみれば・・・
ワタクシも大昔BMWオーナーであった事を、この機能を見てようやく思い出した…(^。^;)
「そういやこの機能がダサいと感じたから、当時流行っていたチョット濃いめの
スモーク貼って、ディーラーの若いサービスとモメたんだっけ…」
懐かしい思い出が次々と蘇って来た! たった一つのクルマの機能で、こんなに色々と昔の事を
思い出せるのは、クルマ好きにとっては幸せな事なのであろう。
しかし、残念な所も見つけてしまった。この新型の7シリーズから、とうとうAUXジャックが消えてし
まったのだ! 時の流れには逆らえないとはいえ、既にその存在を消し去っているメルセデスやア
ウディとは違い、何とか“その”存在を維持していたBMWのアドバンテージが、私の中で小さくなって
行ったのは、やむを得ないであろう。更には、つい先程絶賛していたメーターパネルがとうとうデジ
タル表示になっていた事!!どんなに精巧にアナログ風にしたって、横から見たらショボイのなん
のって! 因みにこの事は、ランボにもメルセデスにも言える事なのですが、猫も杓子も皆レクサス
のマネをしたら、アカン!と声を大にして言いたい!(○`ε´○)プンプン!!
と、こうして、7シリーズの“ひやかし”を終え、帰途に着く事にした…。
帰りは、のんびりと走る事にしたので、往きには使わなかった“大幹線道路”を使う事にした。
暫くすると、見覚えの有る軽トラが前方に見えて来た。
「ん? アレって…」
何という偶然か、2週間以内に違反金6,000円を収める事になっている“軽トラ爺”さんだった。向こう
は私の事に気が付いていない様だった。なので軽トラと並走して、そっと運転席を見た。爺さんは心
なしか、ションボリしている様にも見えた。まあ皺だらけの顔なので、本当の所は判らなかったが…。
数十分後自宅に戻った私は、急いでワンコとニャンコの餌を与え、ソソクサとベッドに潜り込んだ。
まだ陽は高いが、明日の朝は早いのである!
「さーて、欲しいバイクを片っ端から跨ってみるべぇ…」
私は遠足前日の少年の様な笑みを浮かべながら、そっと瞼を閉じた…。
おわり
※尚、この日の模様は、愛車紹介 BMW 750i L フォトギャラリー
内の→
“ココ” にありますので暇な時にでも、どうぞご覧下さい!
でわでわ!