オレは始めてスカイラインに乗ったのは70年代の
GC10という箱スカだ。2リッターの直6エンジンはシングルキャブレターで120馬力??を発生。ポルシェ・シンクロと呼ばれた5速MTでヒール&トゥを学んだ。そしてコーナーというコーナーを責めることがオレの青春だった。特にヘアピンカーブよりも緩く曲がったSコーナーが好きだった。たまに流れるテールをステアリングでコントロールする。当時は教えてくれる人はいない。ひたすら失敗から学んだ。
8トラックのカーステレオからはビートルズが流れている。深夜の特訓が終わるとちょうど朝日を迎える。時間がゆっくりと流れる心地よい疲労感を覚えた。それから10数年、日産から新型GTRのプロトタイプを乗る機会に恵まれた。GTRの開発テストはニュルが主戦場に選ばれた。始めてニュルを走ったのはポルシェ944。クルマの印象よりもコースのすごさに驚いた。こんなに狭くて超高速コースは絶対に攻めれないと思った。
しかし、ここで鍛えられて開発された944は、ドライバーには優しい(易しいではなく~ここが肝心)クルマであった。GTRのオレのベンチマークはポルシェ944。サスをこんなにストロークさせることができるなんてと驚いた。当時の日本車はハイスピードでサスが動いたら、バネ上のボディは酔っぱらいのオッサンのようにフラフラしていたのだ。
ライバルの自動車メーカーもGTRを気にした。買って走ってテストしてレントゲンまで撮ったメーカーもいたくらいだ。オレは雑誌のテストだけではなく、グループAやN1レースにも参戦するチャンスが与えられ、90年代はGTRのコクピットにいる時間のほうが自宅にいる時間よりも長かった。家族は完全にGTRウイドウ(未亡人)となった。1994年に始めてR33GTRでニュルに参戦した。開発が目的であった。その意味では今回のLFAと似ている。大雨のレースだった。「カルッセル」とうバンクのコーナーが水没したくらいだ。
ニュルは走る速度で景色が変わる。10分ぐらいかけて走ると、まるで観光気分。自然に囲まれた丘陵地帯の美しさを感じることができるし、コースの途中にあるアデナの街の教会の鐘を見ることもできる。だんだんと速くなると景色がかすむ。当時のGTRで8分代で走るとほとんど景色は目に入らない。路面の凹凸や滑りやすさだけが気になるからだ。しかし、クルマとの対話は深まっていく。限界走行を探る旅が始まる。
そしてもっと速く走ろうとすると、対話の対象はタイヤとなる。タイヤは遠くて近い存在であることが分かる瞬間だ。この領域のドライビングは奥深い。ニュルを知らないエンジニアはその深さがわからない。カタログスペックや装備などのチャラチャラしたものを追いかける。だからダメなクルマしか作れない。人間には感情があり、怖いとか、愉しいとか、悲しいとか、つらいとか、色々な感情がある。ニュルを走ことで、人間の感情は抑えられない。つまり、ドライバーとクルマの本質に近づけるのだ。
スポーツカーでは世界一と言われているポルシェやBMWが聖地と崇めるニュルでNSXやGTRやインプレッサが鍛えられた。当時、トヨタは「ニュルってどこですか?」っていってた。ニュルはファッションの世界ではパリコレやミラノコレクション。そこで一流と言われるからそこへ行かないといけない。一流のクルマを作るにはニュルが必要。ホンダと日産はニュルを模擬したテストコースまで造ってしまった。
ニュルは1920年代にアドルフ・ヒットラーが作った公共工事の一環。アイフェル地方の貧しい人達に一切のパンを食べさせるために作られた。彼はアウトバーンを作り、ニュルを作り、ワーゲンビートルを作り、ドイツの経済を救った。しかもドイツの自動車文化の源流となる速度無制限というコンセプトを持ち込んだのだ。ヒットラーがクルマ好きでなかったら、今のメルセデスもポルシェもBMWもなかっただろう。だってアウトバーンとニュルがなけれ、GMとフォードが支配していたに違いない。欧州のグランプリレースは、最初はニュルで開催された。ポルシェはアウディの前身となるアウトウニオンから初めてのミッドシップレーサーを開発し、このニュルでデビューした。ホンダも初代F1もこのニュルであった。ニュルを走ることは登山で言えばエベレスト登頂と同じ。これ以上高い山はない。ここに登ることに意義がある。
一句
ニュルブルク ニュルっと滑って あ~怖い
エピソード
あるメーカーのエンジニアとニュルで待ち合わせした。彼らはフランクフルト空港でレンタカーを借りたが、
ニュルブルクリンクとニュールンベルグを間違え、東に250キロもミスコースした。目指すはニュルブルクリンクという小さな村。ニュールンベルグは第二次世界大戦のナチス・ドイツの戦犯裁判が行われた街。
Posted at 2008/04/30 00:37:55 |
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