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頑固一徹カズですのブログ一覧

2013年01月31日 イイね!

NAVIアーカイブ(2001年2月26日発売4月号)高性能4輪駆動車、氷上テスト

NAVIアーカイブ(2001年2月26日発売4月号)
Dynamic Safety Test 冬の陣〜高性能4輪駆動車、氷上テスト
1250psの雪まつり!

ポルシェ911ターボ
アウディS6&S3
スバル・インプレッサWRX STi

4台合計で1250ps! 日本とドイツを代表する4輪駆動車を、気温マイナス10度Cのアイスバーンでダイナミックセイフティテストにかけた。路面ミューの極端に低い場所で、その超高性能はいかに発揮されるのか? テストを終えた清水和夫は、パワーが欲しいなんてもう言わない、と語ったのである。

今回のDST(ダイナミックセイフティテスト)は、北海道某所の氷上で行った。テスト車両は、ポルシェ911ターボ、アウディS6およびS3、そしてスバル・インプレッサWRX STiの4台。いずれもハイパフォーマンスな4輪駆動車である。 北海道の都市では、多くのスタッドレスタイヤが路面を磨くために、まるでスケートリンクのように滑りやすいアイスバーンが存在する。ミラーバーン、あるいは、ブラックアイスを呼んで恐れられているが、クルマにとっては最も厳しい条件であろう。今回は、超高性能4WDを、ミラーバーンを再現した過酷な条件でテストにかけた。 テスト項目は以下のふたつ。ひとつは、直線での加速とブレーキングのテスト。もうひとつは、全長1・5㎞の特設ハンドリングコースにおけるタイム計測である。

●テスト1
直線での加速&ブレーキテスト

 まずは、基本ともいえる直線での加速とブレーキのテストからはじめる。加速テストでは、それぞれの車両で3回ずつ0-100㎞/h加速を行い、100㎞/hに達するまでに要した時間を測定、加速Gと加速馬力を算出した。インプレッサ以外は電子制御式自動安定装置(ポルシェがPSM=ポルシェ・スタビリティ・マネージメント、アウディがESP=エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)が備わるので、タイヤのスリップを検知するとエンジン出力が絞られる。そこで電子制御システムをオンにした状態とオフにした状態の、ふた通りをテストした。 ブレーキテストは100㎞/hから完全停止するまでの時間を計り、減速Gとブレーキ馬力を測定した。ドライの路面では、ブレーキ馬力が加速馬力の4倍程度あればとりあえず安心、というのがわれわれの見解であるが、路面ミューの低い氷上では、加速と減速の関係はどのように変化するのだろうか。今回のテスト車両はすべて4WDなので、発進加速が充分に得られることは予想できる。ポイントは、ブレーキ性能と加速性能のバランスである。 ウィンターテストの難しい点は、路面が時々刻々と変化することだ。同じコースを繰り返し使うとタイヤが路面を磨いてしまい、カーリングの競技場のように摩擦係数が大きく低下する。したがって、路面状況を慎重にコントロールしながらテストを行った。 


● ポルシェ911ターボ
ポルシェのブレーキは信じられない

 ポルシェ911ターボが氷雪路での使用を考慮して開発されたとは思えない。しかし、あたらめてポルシェの基本性能の高さを認識する結果となった。 広報車を借りようとすると、本当に北海道まで運んで氷上を走るのか、となかなか信じてもらえなかった。「よくそんなバカバカしいことをやるね」と、呆れる人もいたが、私とNAVI編集部はいたって真剣だった。911ターボに合うサイズのウィンタータイヤは、ピレリにしか存在しないことは知っていたので、ミラノから千歳空港まで空輸する手配をした。 よって、今回のテスト車両で911ターボのタイヤだけが欧州銘柄となった。ドライ路面での高速走行も想定したピレリ240snow sportだ。国内のアイスバーンへの対策に特化した国産スタッドレスと較べれば、大きなハンディがあることは認識していただきたい。 それでも911ターボは、十分な発進加速を見せた。主たる駆動輪たる後輪に荷重がかかるRR(リアエンジン・リアドライブ)というレイアウトと、後輪が滑ると前輪にトルクが伝わるオンデマンド4WDの組み合わせは、力強い発進を可能にした。 また、PSMも効果的に作動し、横滑りを抑えてくれる。 PSMをオフにすると直線でもリアが横滑りをはじめるから、420psの10分の1もパワーを使えない。「パワーが欲しい」なんて、この場面では言えないと思った。 ブレーキ性能には驚いた。タイヤじたいのグリップ力は国産スタッドレスより20~30%は劣ると思われるが、それでも0・31Gという減速Gは、4台中のトップ。「ポルシェのブレーキは宇宙一!」と言い続けてきた私でさえ、にわかには信じられなかった。 考えられる第一の理由は、RRというレイアウトだ。静止時の911ターボは、リアに車重の6割の荷重がかかっている。ブレーキング時にクルマは前のめりの姿勢をとるが、そのときに前後荷重が50対50に近づくのだ。結果として、フロントが重いクルマよりも、後輪の制動力を充分に活かすことができる。 もうひとつ、ABSが丹念にチューニングされていることも見逃せない。ABSの特性が、高速サーキットから雪道までカバーするようにしつけられている。このふたつの理由から、アイスバーン上でも911ターボのブレーキは信頼できるものになっている。 


●アウディS6&S3
ESPでしゃばらない

 2台のアウディにはブリヂストンのスタッドレス、ブリザックMZ03が装着されていた。これは正しいタイヤの選択だ。日本と欧州とでは雪道の事情が違いすぎるので、国内では国産スタッドレスをお奨めしたい。 アウディジャパンは、日本仕様にブリヂストンのスタッドレスタイヤを認定している。そのために、北海道で冬季テストも行っているようだ。インポーターでこのような取り組みをしているのは、私の知るかぎりアウディジャパンだけである。それだけ真剣にクワトロの販売に力を注いでいるのだろう。BMW330iXに欧州製ウィンタータイヤを設定したBMWジャパンは見習うべきだろう。 アウディS6の4WD方式は、ポルシェ911ターボのビスカスカプリング式とは異なり、メカニカル型フルタイム4WDを採る。1980年に登場したクワトロシステムを、20年の年月をかけて進化させたものだ。 発進加速は今回テストした4台中で最も力強く感じられ、しかもスムーズだった。発進時、ひとつのタイヤも滑ることなく、4輪が同じ動きをする。さらにアクセルを踏み込むとエンジンのトルクに耐えられなくなったタイヤに回転方向のスリップが生じる。するとコンピュータが介入し、スロットルが自動的にコントロールされる。しかし、電子制御システムの介入はごくわずかだ。ESPの介入頻度は、ポルシェ911ターボよりも少ない。 ESPをオフにして発進してみると、4輪がホイールスピンするものの、ESPオンの時よりも加速性能は高かった。S6が採用するクワトロシステム、機械的に直結された完全なフルタイム方式なので、多少タイヤがスリップしても4輪がスクラムを組んでいる。したがってESPを切っても駆動力は高い。結果として、コンピュータによるスロットル制御よりも、ドライバーの足によるコントロールが勝ることとなった。また、BSブリザックMZ03が、多少スリップしても摩擦力が低下しないように設計されていることと、アイスバーンを意識して開発されたことも見逃せない。 ブレーキテストでも良好な値を残した。軽いタッチでしっかりしたブレーキフィールが得られる、というのが特徴的だ。ABSやEBD(電子式ブレーキ配分システム)が効果的に作動することも確認できた。EBDとは、コーナーリング中のブレーキではクルマの姿勢安定性を高めるためにリアの制動力を抑える傾向に作動し、直線では積極的にリアの制動力を高めるよう作動するシステムだ。つまり横Gを検出することで前後のブレーキ配分を可変にするのである。 S3は、エンジン横置きのFFをベースとした4WDとしては充分な発進性能である。しかしS6に較べると、多少ではあるが発進時のもたつきが感じられる。後述するが、これは両者の4WD方式が異なるためである。ESPをオフにしたほうがESPオンのときよりも加速Gが大きいことはS6と同じであるが、絶対加速GではS6が上回る。また、S6よりホイールベースが240㎜短いS3のほうが、横滑りが感じられる。 S3のエンジン特性が非常に扱いやすいことは記しておきたい。1・8ℓターボユニットの、低速でぶ厚いトルク特性は好ましい。2000rpmも回っていれば充分なトルクを発生しており、レスポンスも申し分ない。そのため、発進時のスロットルコントロールが容易であった。

●スバル・インプレッサWRX STi
280psが邪魔になる

 今回のテスト車両で、スバル・インプレッサだけがトラクションコントロールを備えていなかった。モータースポーツ参加車両のベースモデルという位置づけはわかるが、レガシィに採用されているVDC(ビークル・ダイナミクス・コントロール)をオプションでもいいから用意してほしかった。国産車の安全デバイスは、モデルによって採用されたりされなかったりするケースがある。これは安全に対する認識の甘さを証明していると思う。 STiモデルだからVDCが不要であるという理屈はどこにもない。公道を走るクルマである以上、最良の安全性能を提供すべきだろう。事実、インプレッサは発進に苦労する場面があり、氷上では280psをもてあましているような印象を受けた。また、2ℓターボエンジンは急激にトルクが立ち上がる特性なので、コントロールが難しい。唐突にトルクが盛り上がり、ホイールスピンを誘発してしまうのだ。 ブレーキング時には、ABSの作動がやや敏感にすぎるように感じた。サスペンションが硬いので、タイヤと路面との接地性があまり良くないからだろう。結果として、インプレッサは加速Gも減速Gも2台のアウディに劣ってしまった。“4WDのスバル”としては面目がない。ちなみに、インプレッサが装着していたスタッドレスタイヤ、ダンロップ・グランスピックDS-1は、アウディが装着していたBS製とほとんど性能差は感じられなかった。

●テスト2 
ハンドリングテスト 

 ハンドリングコースでは、限界域での総合的なハンドリングをテストすることで、滑り易い路面での動的安全性能を評価した。 コース全長は、一周約1・5㎞。直線での最高速度はメーター読みで約80㎞/h。この直線をS字コーナーやヘアピンなどで結ぶ。路面状態は、アイスバーンと圧雪が交互に現れるもので、公道に近い条件を意識して作った。使用するギアは2速と3速が主体。ESP等の電子制御式自動安定装置は、オンとオフ、ふた通りをテストした。 氷雪路では、クルマの様々な挙動が現れる。逆に言えば、クルマの挙動を自由自在に作ることができる、ということでもある。したがって、曲芸的なドライブも可能なのだ。そのための、いくつかのポイントを伝授しよう。 まず、ドライバーの状況判断が非常に大切である。刻々と変化する路面を瞬時に読むことが必要なのだ。たとえば、圧雪とミラーバーンでは摩擦力が大きく異なる。圧雪では30㎞/hでクリアできるコーナーであっても、ひとたびミラーバーンになると15㎞/hでも困難になる場合がある。路面を読んで進入速度を半分にする判断は、経験がないと難しい(つまり痛い思いをしないとわからない)。 雪道ドライビングでのステアリングホイールは、スキーのストックと同じだ。あるところまで切ったら後は意味がない。どんなにステアリングホイールを切っても曲がらなくなるのだ。こういった状況に陥ったら、ブレーキを積極的に使い、スピードを路面条件にミートさせなければならない。ここが非常に重要なのだ。したがって雪道では、ハンドリングよりもブレーキ性能のほうが重要となる。路面状況を読むこと、的確な状況判断、スピードコントロール。この3つができれば、雪道は決して難しくない。 次のステップは、クルマの挙動をコントロールするスキルだ。ドライの舗装路と違って、思うようにはクルマが動かなくなる。タイヤの摩擦力を超えると、アンダーステアやオーバーステアが極端にでてくるのだ。タイヤの摩擦力の限界を超えられないという点では、4輪駆動であっても2輪駆動と同じである。しかし多くの4輪駆動車は、2輪駆動よりもゆっくりと挙動を変える。4駆は駆動力が大きいのでスピードがでやすいことは気をつけたほうがいいが、コントロール不能という状態にはなりにくい。

●ポルシェ911ターボ
コンピュータはドリフトしない

 ポルシェ911ターボは、直線での加速とブレーキのテストでは満足できたが、コーナーリングでは横方向のグリップ力の弱さを露呈した。そのために、PSMが頻繁に作動する。それでもPSMのおかげでスピンは避けることができるから、PSMさまさまだ。 ひとたびPSMを切ると、まるで荒れ狂ったモンスターにまたがっているかのようになる。救いは、豊富な低速トルクの恩恵でデリケートなアクセルコントロールが可能であることだ。おかげでなんとかスピンしないで完走することができた。しかし10ラップ連続で全開走行すれば、私でもスピンするだろう。 タイム的にはPSMをオンにしたほうが速かった。PSMオフの時には必死に怪物をコントロールしたが、プロフェッショナルドライバーが電子制御システムに負けたのだ。しかしPSMをオフにして、911ターボをドリフトさせながら自由自在に走らせたことはとても刺激的だった。かつてモンテカルロラリーで、スウェーデン人ラリードライバー、B・ワルデガルドが911を真横にしてドライブしていたことを思い出す。電子制御システムにドリフトはできないだろう。

●アウディS6&S3
ヘビー級なのに軽い
 
 2台のアウディには感心した。特にメカニカルセンターデフとESPを組み合わせるS6はスムーズに走行した。「第5世代のクワトロ」と呼ばれるS6の4駆システムには様々な工夫が施されており、絶対的な駆動力の高さとコーナーリング中の駆動力の配分など、他メーカーの4輪駆動車には見られない高度で洗練された特性を持つ。加速性能とブレーキ性能、さらにコーナーリング性能が見事にバランスしているのだ。 これは、完成の域に入ったクワトロシステムによるところが大きいだろう。ESPをオフにしても、ドリフト体勢に持ち込むなど自由自在にコントロールできたのがその証左だ。ESPをオンにしてもクワトロシステムのおかげで挙動が安定し、結果としてESP介入の頻度が少ない。タイムはESPをオフにしたほうが若干ではあるが速かった。 S6は、スポーティさと安定性が最も高いレベルでバランスしたサルーンである、と私は断言したい。車重1・8トンを越すヘビー級であるが、操作系が軽くスムーズなので、動きが鈍重に感じることはないことにも感銘を受けた。 S3は、他の“S”とは異なるメカニズムを採る。ベースが横置きエンジンのFFなので、エンジンを縦置きするS4、S6、S8といった兄貴分とは仕組みが大きく異なる。しかし、“S”の名が与えられるだけあって、性能に不満はなかった。 S3は、オンデマンド4WDに分類できるが、実際の特性はフルタイム4WDに近い力強いものであった。トランスファーの応答性が非常に高く、常に4つのタイヤがスクラムを組んでいるかのような安心感だ。 ホイールベースが短いので、直進性はS6にはかなわない。60㎞/hを超す速度になると、横滑りがはじまる。するとESPがすかさず介入し、方向安定性を確保するように作動する。ESPは本当にありがたい。直進性で劣ると述べたが、S3の動きはS6よりもキビキビした動きであり、インプレッサに近いものだった。 ESPの介入頻度はS6よりも多い。しかしESPをオフにしても破綻をきたさない操縦性には感動した。横置きエンジンでもアウディが作るクワトロは完成度が高いのだ。また、S3の1・8ℓ直列4気筒ターボエンジンの豊かな低速トルクとレスポンスが低ミュー路では扱いやすい。

●スバル・インプレッサWRX STi
WRCの遺伝子は健在

 直線の加速とブレーキではアウディに後れをとったインプレッサであるが、コーナリング性能は非常に高かった。他の3台が電子制御による安定性重視のチューニングを施しているのに対し、インプレッサはメカニカルLSDにより積極的に駆動力をタイヤに伝える思想で作られているからだ。そのため、コーナリング中の加速性能が優れているのだ。今回テストしたSTiの前後デフには、シュアトラック(トルク感応型LSD)が備わっていた。ちなみに、リアは標準装備であるが、フロントはオプション装備されたものだ。

 まず、ビスカスカプリング式LSDと組み合わされたセンターデフが前後のタイヤを固定し、前輪だけが勝手にスリップをすることを防いでくれる。さらに、フロントアクスルとリアアクスルに搭載されたLSDが左右のタイヤを固定し、内輪のスリップを防ぐとともに絶対的な駆動力を高めている。 しかしメカニカルLSDの装着によって、コーナーでのハンドルの効きはやや鈍い。アウディのほうがスムーズな回頭性を示すのだ。つまりインプレッサSTiはアウディの“S”より競技志向が強い、上級者用のセッティングとなっている。LSDは、効けば効くほど操縦性は難しくなる。 ベストラップは予想通り、インプレッサが勝ち取った。 


●テストを終えて
下手な人こそ4WD
  
 現在、私が所有する自動車はホンダNSX、レガシィ・ツーリングワゴン、メルセデスベンツE320・4マチック、ポルシェ911カレラ4の4台だ。4台中3台が4WDである理由を尋ねられると、私は「事故を防ぐときに“運”を使いたくないからだ」と答えている。 人間一人に与えられた“運”は平等だと思っている。だから日常の交通で遭遇する危機の際に、最高の道具で対処したい。“運”を使わずに、クルマの機能と自分の能力で事故を未然に防ぎたいのだ。私は自分のテクニックを過信しない。プロフェッショナルドライバーでも人間である以上、過ちを犯すものなのだ。 2WDよりも4WDのほうが危険回避能力が高いことを知っている以上、4WDに乗らない理由はないと私は考えている。誤解を恐れずに言えば、下手なドライバーほど4WDに乗るべきなのだ。 4WDは駆動力が分散されるからタイヤの寿命も延びるし、滑りやすい路面でクラッシュする危険性だって下がる。タイヤ代、板金代、そして命の代償だと考えれば、4WDは決して高くないのだ。 近年、4WDが多様化している。ポルシェは4駆技術を、高速の安定性とRRレイアウトの泣き所であったタックインを抑えることに使っている。アウディのように高級なスポーツサルーンとして4WDシステムを使うケースもある。当然、インプレッサのようにWRCで勝つための4WDも存在するし、スカイランGT-Rのようにサーキットで勝つための4WDも存在する。もちろん、オフロード走行を想定したSUVにとって4駆は不可欠だ。次期ジャガー(Xタイプ)がFFのフォード・モンデオのパーツを使いながら4WDになると言われるなど、プレミアム化のための4WDという方向もある。 未来を考えれば、4駆の重要性はさらに増す。ハイブリッド車の場合、プロペラシャフトがなくても4WDが可能なのだ。電線をひけばリアのモーターを駆動することができるからだ。これからの自動車には、4WD技術が欠かせない。4WDが自動車技術の主役になると私は信じている。 みなさんがクルマを選ぶ時に、「オンロードでも4WDが有利」という私の言葉を思い出してほしい。2WDはクルマとしての「動く機能」(これはモビリティの根元的なもの)が限定されていることを忘れないでもらいたい。 優れた4WDを上手なドライバーがドライブしても、コントロールできなくなる領域が存在するのは事実だ。タイヤの物理的な摩擦力を超すことはできないのである。よってESPやPSMのようなヨーモーメントを使う自動安定装置は極めて効果的であり、あらゆる自動車に標準装備されることを願いたい。 4WDと自動安定装置が組み合わされたクルマと2WDで自動安定装置のないクルマでは、どんな路面状況でも予防安全性能に大きな差があることは間違いない。事故を未然に防ぐという自動車の最も基本的な機能を高めるために、電子制御で武装した4WDがユーザーの味方になることは間違いない。

テスト参加車両の4駆システム
【ポルシェ911ターボ】
ポルシェは70年代後半から4WDシステムの開発に着手しているが、本格的な量産モデルは97年登場のカレラ4からである。ベースになる911のパワートレーンは、トランスミッション、デフ、エンジンの順に結合された直列レイアウトの後輪駆動で、水平対向エンジンとの組み合わせもふくめて、ちょうどスバルのユニットを前後逆にしたレイアウトになっている。このため、4WDにするためにトランスミッションの前端から前論駆動用のプロペラシャフトを取り出した、直列構造の4WDになる。前輪用のデフのすぐ手前にビスカスカプリングを配置し、センターデフなしの簡易型4WDである。ただ通常はリアがメインの駆動輪で、後輪がスリップすると前輪に駆動力を伝達するタイプ。操舵する前輪とリヤ重視の駆動力という、ポルシェならではの優れたバランスを実現している。

諸元
全長×全幅×全高:4435×1830×1295㎜
ホイールベース:2350㎜
車両重量(前後荷重):1530kg(前580/後950)エンジン形式:水冷水平対向6気筒DOHC4バルブ+ツインターボ排気量:3600㏄
ボア×ストローク:100.0×76.4㎜
最高出力:420㎰/5700rpm
最大トルク:57.1kgm/2700~4600rpm
トランスミッション:6段MT
サスペンション形式:前/マクファーソン・ストラット               後/マルチリンク
ブレーキ:前後/通気式ディスク
     
タイヤサイズ:前225/40R18
後265/35R18
タイヤ銘柄:ピレリ240snow sport
価格:1680万円


【アウディS6】
アウディが“クワトロ”と名付けた、元祖フルタイム4WDシステムで、縦置エンジン/縦 置トランスミッションという構成。ギアボックス前部にフロントデフを内蔵し、エンジンの動力はトランスミッション後部で 前輪用と後輪用に振り分け、前輪用の動力はトランスミッションの内側をUターンさせる。通常のセンターデフのかわりにトルセンデフという特殊なギアを使用しているのが 特徴。通常はセンターデフ+LSDという構成だが、トルセンデフは前後輪で回 転差が生じると自動的に差動を制限するLSD機能を持っているため、他のシステム よりシンプルなのだ。クワトロは、4WDシステムとして驚くほど簡潔で、しかも確実なシステムとして成立している。

諸元
全長×全幅×全高:4845×1850×1450㎜
ホイールベース:2760㎜
車両重量(前後荷重):1810kg(前1090/後720)エンジン形式:水冷V型8気筒DOHC5バルブ
排気量:4172㏄
ボア×ストローク:84.5×93.0㎜
最高出力:340㎰/7000rpm
最大トルク:42.8kgm/3400rpm
トランスミッション:5段AT(ティプトロニック)サスペンション形式:前/4リンク
          後/ダブルウィッシュボーンブレーキ:前後/通気式ディスク
     
タイヤサイズ:前後225/40R17
タイヤ銘柄:ブリヂストン・ブリザックMZ-03価格:915万円

【アウディS3】
S3のベースになるA3は、コンパクトなボディサイズを生かすために、横置エンジン/トランスミッションを採用したFFモデル。このためS3では横置レイアウト用の新しいクワトロシステムが開発された。トランスミッションのトランスファー部から後輪に伸びるプロペラシャフトの後端部、つまり リアデフの直前に「ハルデックス」カプリングと呼ばれる電子制御油圧アクティブクラッチを設置。前輪にわずかでもスリップを生じると、その状況に応じて油圧をクラッチにかけて後輪と接続させ、後輪を駆動するシステムだ。センターデフ式ではないため、軽量・コンパクト、しかも応答性に優れた4WDシステムといえる。

諸元
全長×全幅×全高:4150×1765×1400㎜
ホイールベース:2520㎜
車両重量(前後荷重):1460kg(前880/後580)エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC5バルブ
排気量:1780㏄
ボア×ストローク:81.0×86.4㎜
最高出力:210㎰/5800rpm
最大トルク:27.5kgm/2100~5000rpm
トランスミッション:6段MT
サスペンション形式:前/マクファーソン・ストラット後/ダブルウィッシュボーンブレーキ:前後/通気式ディスク
     
タイヤサイズ:前後225/45R17
タイヤ銘柄:ブリヂストン・ブリザックMZ-03価格:420万円

【インプレッサWRX ST i】
スバルの4WDシステムはアウディとよく似ている。スバルは水平対向エンジンだが駆動系は縦置エンジン、縦置トランスミッションというレイアウトを採用しているのだ。このため前輪駆動軸がトランスミッションの内側を貫通するUターン構造であるため、軽量でシンプルな4WDシステムとなっている。アウディと異なるのは、後輪用と前輪用の差動部はセンターデフ+ビスカス式LSDという一般的な形式を採用している。このシステムは、前後輪のいずれかがスリップするとその回転数差に応じてビスカスカプリングが自動的にLSDとして働 くようになっている。つまり、センターデフとコンパクトなLSDという組み合わせなのだ。RAモデルのみは、このビスカスLSDの代わりに手動コントロールの電磁式LSDを装備 している。

諸元
全長×全幅×全高:4405×1730×1435㎜
ホイールベース:2525㎜
車両重量(前後荷重):1430kg(前870/後560)エンジン形式:水冷水平対向4気筒DOHC4バルブ+ターボ排気量:1994㏄
ボア×ストローク:92.0×75.0㎜
最高出力:280㎰/6400rpm
最大トルク:38.0kgm/4000rpm
トランスミッション:6段MT
サスペンション形式:前後/マクファーソン・ストラットブレーキ:前後/通気式ディスク
     
タイヤサイズ:前後225/45R17
タイヤ銘柄:ダンロップ・グラスピックDS-1価格:319.8万円

Posted at 2013/01/31 10:28:56 | トラックバック(0) | クルマの安全 | 日記
2013年01月31日 イイね!

NAVIアーカイブ(2006年1月26日発売3月号) (10)うすうす感じていた通りだった

NAVIアーカイブ(2006年1月26日発売3月号)
(10)うすうす感じていた通りだった
Honda FIT(2WD)


 最後に番外編のつもりでFFをテストした。ライトウェイトで小気味よく走るフィットはどんなパフォーマンスなのだろうか。私は人一倍4WDを乗りついできた。レース、ラリー、スポーツカーから高級サルーンまで4WDに乗ることが私のライフスタイルになっている。でも、うすうす感じていたのは、よくできた2WDは雪道でも侮れないということ。ウインターラリーやレースでも、路面条件やコースのレイアウト次第では「2WDと4WDの差」が縮まるし、時には逆転することもある。4WDを万能選手だと過信することはホントに危険な考えなのだ。
 フィットの第一印象はよかった。ビックリするくらいよく走った。エンジンパワーが控えめで、タイヤと路面の摩擦力に見合っているのだろう。かつて、ラリーで(FRが主流の時代に)FFのスバルが強かった時代、“FFのスバル”と言われ、もてはやされた。しかし、成績がよかったのは事実だが、その原因はFFだったからというよりも、パワーがないから乗りやすかったといったほうが正しい。パワフルなFFはうまくエンジン特性をチューニングしないとドライでも乗りにくい。
 FFの欠点は轍でステアリングが取られやすいことだと思っていた。横置きFFの欠点は、左右のドライブシャフトが不等長なので、路面からの反力が手に伝わってくるのだ。でも、フィットのステアリングは轍でも取られにくい。電動パワステのチューニングがうまい。手応えに満足というわけではないが、初心者でもステアリングを取られないことはありがたいだろう。
 ただ、自動安定装置(ホンダはVSAと呼ぶ)だけは欲しかった。雪道で70~80km/hくらい出すと直進性に不安を覚える。
 しかし、ジムカーナではあっさりと43秒38をマークし、4WD軍団を震え上がらせた。サイドブレーキターンを我慢してのタイムだ。発進時にちょっともたつく程度で、走りだすとコーナーリングもブレーキングもすばらしい。これにVSAがあればもっと4WDとの差を縮められたはずだ。絶対的なトラクション性能や高速の横風安定性など、基本的に4WDにかなわない面はあるにせよ、ESPなどの技術によって、滑りやすい路面でも2WDは走りやすくなった。
 結局、今回のテストで導き出した結論は、次のようなことだ。
 どんな駆動方式であろうと、どんな技術であろうと、あるいはどんなブランドであろうと、どんなタイヤを履こうと、どんなにうまいドライバーがステアリングを握ろうと、どんな路面であろうと、どんなスピードであろうと、自動車とそれを操るドライバーに完全な安全はない。そのなかで、常にリスクを知り、最善を尽くすことがスマートなドライバーだと思う。エンジニアは技術を過信することなく、実際の生きた路面で(テストコースではないという意味)、ドライバーに安心と快適性を届けるべきではないだろうか。四つのタイヤがスクラムを組む4WDカーは、まだ発展登場の段階にあるのだ。

 これをそのまま私からのメッセージとしたい。

Posted at 2013/01/31 00:34:43 | トラックバック(0) | クルマの安全 | 日記
2013年01月29日 イイね!

NAVIアーカイブ(2006年1月26日発売3月号)(9)技術に喰われるな! Honda LEGEND

NAVIアーカイブ(2006年1月26日発売3月号)
(9)技術に喰われるな! Honda LEGEND
ホンダ・レジェンド
タイプ:オンデマンド4WD[アクティブ型]
トランスファー:ダイレクト電磁クラッチ

 SH-AWD(Super Handling All Wheel Drive=四輪駆動力自在制御)と名づけられたこの4WDは、いかにもホンダらしいユニークなシステムだ。リアデフに左右一対のクラッチを置くやり方は、1988年に同社が発表したコンチェルトの「イントラック」やMDXのVTM-4などに採用されているが、これにより前後のトルク配分とリアのLSD機構をリアデフに一体化することを可能にしている。SH-AWDではこの発想をさらに一歩進め、舵角センサーや横Gセンサーなどの情報をもとに後輪左右のトルク配分を能動的に、自在にコントロール。旋回時には後外輪により多くトルクを配分すると同時に後車軸を増速することで、より曲がりやすい特性としている。


◇ホンダらしさのために……
 ホンダは(従来からの位置づけである)レジェンドという高級車を作りたかったのか、あるいはレジェンドという名のGTカーを作りたかったのかーー。雪道で走らせてみることで答えを探すことができるかもしれないと考えた。
 このレジェンドがモデルチェンジする前、“次期レジェンドはV8のFRになる”という噂が広まった。ホンダが、アメリカで5万ドル超の高級車をアキュラブランドで販売するため、セレブな高級車が必要だったからだ。セレブ=V8、FRというのは定説だ。
 5万ドルのホンダ車を求めるユーザー層は、いったい何を求めるだろうか。保守的で伝統的な高級車、たとえばレクサスやメルセデスのような高級車はホンダには似合わない。むしろBMWのように若々しく、先進技術に満ちあふれたイメージこそがホンダらしい。
 V8のFRを開発するか。いや、それではメルセデスやBMWの真似になる。ならば、ホンダが得意としてきた横置きFFをベースにしたハイテク4WD、しかもリヤアクスルには「外輪増速」という奇抜なアイディアを組み合わせた4WDでいくほうが、ホンダらしい……と。
 ところで、レジェンドのような大型FFは運動性能に限界がある。大きなエンジンをフロントの車軸よりも前方に搭載するパッケージは、重量配分が悪化する。そのためにホンダはかつて、エンジンを縦に置き、フロントミドシップFFという極めてユニークなクルマを開発したことがあった。エンジンを後退させてレイアウトさせたため、旋回性能は向上したが、前輪の荷重が減少し、トラクション性能が低下してしまう課題が浮き彫りになった。この失敗がホンダのトラウマとなっていることは間違いない。愉しいハンドリングをホンダらしさとするならば、旋回性能とトラクション性能の両立は、いずれ避けては通れない技術的な課題であった。しかも300ps級のエンジンでその課題を両立させるには、大胆な発想が必要だとエンジニアは考えた。この考え方はむしろ当然だろう。
 旋回性能とトラクションを両立させるのに適したハイテクを、ホンダはかつてプレリュードで実用化していた。FFで、外輪を増速させることでアンダーステアを是正し、旋回能力を飛躍的に高めるATTS(アクティブ・トルク・トランスファー・システム)だ。これは、左右前輪の駆動力を適切に配分することにより、スーパーニュートラルステアを実現する画期的なシステムだ。プレリュードの消滅とともにいったん市場から姿を消したが、レジェンドで復活することになった。
 ホンダは、レジェンドのリアアクスルに、ATTSで培った外輪増速機構を搭載し、フロントヘビーを感じさせない軽快でリニアなハンドリングを実現した。ATTSは4WDのリアアクスルに搭載されたことでSH-AWDへと発展した。ただ、この名称にはシュアなハンドリングとう意味が込められているそうだが、レジェンドという高級車の本質とは違うような気がした。SH-AWDを生かすには、メルセデスCLSのように大胆なクーペボディを与え、イメージの統一が必要だったかもしれない。しかし、レジェンドとしての機能をマジメに追求すると、背の高いセダンデザインにならざるを得ない。

◇新しい高性能高級車のビジョンの予感
 走ってみて、まず気になったのが、ごく低速では重めのステアリングが、スピードともに軽くなってしまうことだ。スタッドレスタイヤを履いているのか、サーキットでスリックタイヤを履いているのか、手応えでは分かりそうにない。たとえば、タイヤがわだちに触れた際、ステアリングの手応えを感じたい。感じさせてくれ! タイヤがわだちに差しかかった後で挙動が乱れるケースは少なくないのだ。ステアリングのインフォメーションは高級車であろうが、人力車であろうが、人間が操縦するものすべてに普遍的な、基本中の基本機能だと信じている。
 ブレーキはポルシェなみによく利く。車重は1760kgと重いが、ストッピングパワーに不満はない。
 エンジンもすばらしいが、スロットルは若干ナーバスだ。細やかなコントロールがしにくい。VSAはスイッチをオフにできるが、オンでも結構テールが流れやすい。ハイテク安全デバイスに関してはBMWのような思想があると感じた。レジェンドはNSXオーナー向けのクルマかもしれない。普通のお父さんが乗ったらビックリするはずだ。
 SH-AWDにはスノーモードが備わる。このスイッチをオンにすれば、操縦性はBMWからアウディに変わる。つまり、より安定志向となるわけだ。
 SH-AWDは、単に後輪の外輪増速の機能だけではなく、駆動系統とエンジンのECUやVSAなどをシンクロさせた統合的な制御が特徴だ。コンピューター制御は従来のフィードバッグ制御だけではなく、フィードフォワードと呼ばれる「先読みの制御」も行われる。タイヤが滑ってから駆動力を配分するという旧手法ではなく、「滑る前に滑りに備える」という「プレスリップ(Pre-slip)」的な思想がエンジニアのこだわりだ。タイヤの滑りを対処療法的かつ予防的にコントロールすること。これは新しい高性能高級車のビジョンを描いたのではないだろうか。さらに、従来から実用化されている安定装置VSAが最後の車両安定性を見守る。
 多様なハイテクをもったクルマの問題は、人とテクノロジーの関係が疎かになることが、レジェンドに関して、私はこれが心配だ。4WDはハイテクだろうが、ローテクだろうが、2WDと同じスピードで流れていれば安全マージンは高い。が、慣れてくると技術に頼ってしまう。それを私は「技術を喰う」と呼んでいる。人間はゾンビのように貪欲で、喰われた技術は、役に立たなくなるのだ。日本でABSが普及した時、追突事故がかえって増えたことがあった。利くブレーキだと勘違いしたゾンビは、見事にABSという技術を喰ってしまったのだ。レジェンドに満載された技術が食欲旺盛なゾンビに喰われないように祈りたい。

<タイム>
VSA ON、AT SNOW MODE   46秒28
VSA OFF、AT SNOW MODE  42秒06
VSA ON、AT NORMAL   44秒26
VSA OFF、AT NORMAL     44秒05
Posted at 2013/01/29 10:09:31 | トラックバック(1) | 日記
2013年01月27日 イイね!

NAVIアーカイブ(2006年1月26日発売3月号)(8)新しいプレミアムをめざすならLexus IS250 AWD

NAVIアーカイブ(2006年1月26日発売 3月号)

(8)新しいプレミアムをめざすなら……Lexus IS250 AWD

レクサスIS250 AWD
AWD名称:i-Four
タイプ:LSD付センターデフ式4WD[アクティブ型]
トランスファー:センターデフ(プラネタリーギア)
+電子制御湿式多板クラッチ


 LSDとして電子制御湿式多板クラッチを用いたセンターデフ式の4WD。トルク配分を不等分とするためにセンターデフにはプラネタリーギアを採用。これにより、通常時は前30:後70の後ろ寄りの設定としてFRのような性格を与えた。運転状況や路面の状態に合わせて多板クラッチをコントロール、前後のトルク配分を最適化。VSC(ビークル・スタビリティ・コントロール)と協調して、たとえば、発進時には後輪の横滑りを防いだり(発進時制御)、ステアリングを切ったままでも安定して発進できるよう(発進時スリップ制御)にする。アクティブ型ではあるが、スポーティな性格を与えるためではなく、あくまで安定性指向というのがトヨタ(レクサス)らしいところ。

◇まだ産声を上げたばかりのブランド
 IS250AWDはいったい何を目指して開発されたのだろうか。レクサスの北国仕様に過ぎないのか、あるいはメルセデスやアウディのように、しっかりした思想があるのか。その真意はまだ不明だが、実際に乗ってみると、ステアリングフィールはとてもしっかりとしていて、時々刻々と変化する路面の様子がよくわかる。電動パワステでこの手応えを実現しているのには脱帽だ。寒さでかじかんだ手でISのステアリングホイールを握ると、その触覚がとても暖かく感じる。「ありがとう」と言いたくなった。
 ステアリングホイールにヒーターを採用したメーカーがあったが、表皮の工夫で暖かさを感じることができた。
 ISで不思議なことは、前後のタイヤの外径が異なること。太さを変えるケースはあっても、外径を変えたのはISとポルシェ・カレラくらいだ。しかし前後にデフを持つIS250AWDは前後同じサイズのタイヤに戻している。いったいどんな考えがあるのか、私には理解できない。前後のタイヤサイズを変える必然性があれば AWDでも貫くべきだ。ポルシェのカレラ4は、前後のデフのギア比を変えることで、前後の外径差を補正している。ポルシェは後輪のトラクションを高め、摩耗を減らすという目的のため、997のタイヤサイズを変えた。思想は貫かれているが、レクサスには思想がない。
 
 ところで、新星レクサスについて少し触れおこう。「新星」と書くのは“(北米などで展開されてきた)古いレクサスをぶっ壊し、新しいプレミアムに生まれ変わる”とトヨタのレクサスチームが宣言しているからだ。とりあえず、LSが登場してオールレクサスが揃うまで、その言葉を信じることにした。
 新星レクサスにはすべてのモデルにハイブリッドが存在するし、ISやGSのように4WDモデルも用意される。ISとGSは従来からあるクラウンやマークXのアーキテクチャーを使っているから、当然、湿式多板クラッチのAWDが存在する。ところが、この原稿を書いているデトロイトで会ったLSのチーフエンジニアの吉田さんに「LSには4WDはあるのですか?」と聞くと言葉を詰まらせて「……ハイ」と答えた。
 私は吉田さんの言動の変化を見逃さなかった。LSのハイブリッドとなるとエンジンとモーターの合計トルクは70kgmを超えるかもしれない。GSハイブリッドのように単なるFRでは十分な駆動力が得られないと危惧できる。つまり、LSのハイブリッドは4WDになる可能性が高いのだ。箱根でアウディA8をテストしているトヨタの開発陣と思われる部隊と遭遇したこともある。
 レクサスは4WDの世界も変えるポテンシャルを持っている。現にエスティマにはプロペラシャフトのないオンデマンド・モーター4WDが存在する。日産も、マーチに発進時だけに有効なモーターアシスト4WD「マーチe・4WD」を実用化させている。電気モーター駆動と4WDは、新しい世界を切り拓くかもしれない。

◇トヨタの4WDのある問題
 それでは、IS250AWDを雪道で走らせてみよう。第一印象はサスペンションが硬いこと。AWDは車高も高めで、轍の走破性を考慮している。それは歓迎できるが、サスペンションをノーマルのIS250よりも硬くしたのは理解できない。ランサー・エボリューションワゴンよりも硬いのだ。これではせっかくのAWDでも、雪道でのロードホールディングに欠ける。FRのISも相当に硬いサスペンションを使っているが、ISのライバルはランサーやインプレッサだったのだろうか。
 そのため、タイヤと路面の接地感は良くない。ミクロの世界では、雪道の路面は凹凸が多いのだ。硬いサスペンションでは常時タイヤが路面から跳ねあがり、雪道を走っている安心感に欠ける。ATをスノーモードにすると、シフトダウンを嫌って高いギアで固定してくれるため、スロットルを踏みすぎても、挙動変化が少なくなるのはありがたい。
 ブレーキはどうだろうか。これはレジェンドの方がいい。ABSが遊びすぎてブレーキが怖い。さらに、ブレーキを踏んだ時のスタビリティもよくない。これらすべてサスペンションの接地性に原因があると思う。タイヤと路面の接地性が悪いのではないだろうか。 
昔、レンタカーでトヨタのマークⅡを北海道で借りたことがあった。店を出てすぐ先の交差点でスピンしそうになった。「4WDって頼んだだろう!」と店員に文句を言った。店員いわく「これ、4WDなんすけど……」。トヨタのFR系の4WDはVSCがついていても、低速ではスピンするバグがあるのだ。リコールほどの問題ではないが、VSCがついた4WDが交差点でスピンするとは、意外な弱点と言える。ISやGSに搭載されるAWDシステムの大きな欠点だ。
 この原因は電子制御センターデフとVSCが制御上で協調できないからである。VSCはエンジンのスロットルコントロールやヨーモーメント制御でブレーキを介入させる。ところが、湿式多板式のデフは、タイヤが滑って初めて4WDになるロジックだ。タイヤがスリップしてからセンターデフがトルクを伝達するまで、スロットルを絞るわけにいかないから……と、私はこう推測している。
 雪のジムカーナはどんなパフォーマンスだったかーー。可変できるのはATモードだけだ。スノーモードではエンジンパワーが抑え気味となるから、走りやすい。よく曲がる4WDだが、トラクション性能が不足しており、テールの流れが頻繁に起きる。そのたびにVSCが介入するからコーナーの立ち上がりで失速しやすいのだ。
 
ISの課題は、とにかくサスペンションの接地性を高めること。さらにABSやAWDの制御も見直す時期にきているようだ。

<タイム>
ECT POWER 1回目 48秒31
      2回目 43秒04
ECT SNOW      44秒88
Posted at 2013/01/27 11:04:27 | トラックバック(0) | クルマの安全 | 日記
2013年01月26日 イイね!

NAVIアーカイブ(2006年1月26日発売 3月号)Mitsubishi LANCER Evolution Wagon

NAVIアーカイブ(2006年1月26日発売 3月号)
(7)ロードカーということを忘れるな!
Mitsubishi LANCER Evolution Wagon

4WD名称:ACD
タイプ:LSD付センターデフ式4WD[アクティブ型]
トランスファー:センターデフ(ベベルギア)+電子制御油圧多板クラッチ

 ランサーエボリューションやこのランサーエボリューションワゴンには、アクティブ型のセンターデフ式4WDが搭載されるが、他との一番の違いは、ラリーでの使用を前提に開発されている点。そのために開発されたのが、油圧多板クラッチで差動制限力を電子制御するセンターデフシステムのACD(アクティブ・センター・ディファレンシャル)だ。通常はベベルギアのセンターデフにより前後のトルクは50:50に配分されるが、舵角や車速、4輪車速、前後G、アクセル開度などの情報をもとに車両の状態をシステムが判断しながら、差動制限力をフリーから直結の状態までコントロールすることが可能。路面状況にあわせて最適な制御を行えるよう、“TARMAC”(乾いた舗装路)、“GRAVEL”(濡れた路面・未舗装路)“SNOW”(雪道)のモード切替スイッチを用意。路面状況をクルマ側が判断するよりもドライバーに選ばせた方がより正確で素早い制御が期待できるという理由からだが、いかにも勝つための4WDらしい発想である。


 雪道でのタイヤやクルマの評価は非常に難しい。路面がどんどん変化するからだ。
 かつてウインターラリーに参加していた時、ゼッケン番号でスタート順が決まる。シードされているから1番から10番までの間だったが、どの位置で走るかが運命の分かれ道になるようなところがある。仮にその日、雪が降ると、路面は当然のように新雪となる。パウダースノーの路面はふかふかで、どんなスパイクタイヤでも「糠に釘」を打つようなものだった。全くグリップは得られず、後続車のために除雪してあげることになる。
 じゃあゼッケンが遅い方が有利かというとそうでもない。最悪なのは路面が荒らされ、デコボコになること。そうなるとタイヤは路面にうまく接地しないし、抵抗も増える。自分より前に何台も走ることで表面の雪が飛び散り、アイスバーンの硬い路面が顔を出すこともあり、そうなると、やはりグリップしにくいのだ。かように雪道の路面変化はドライバー泣かせだ。一般道でも路面の状態が変化しているケースがある。ある部分でグリップしているからといって、調子に乗ってはいけない。

◇清水和夫ドライビング教室
 今回、特設ジムカーナコースでのタイム計測を真っ先に始めたのはランサー。クルマの性能もさることながら、路面条件が非常に良かった。そのため、トップバッターだったが、ACDをスノーモードにして計測すると38秒82を記録した。路面変化を知るため、スタッフが別のクルマで走った後にも計測すると、40秒50にまで低下した。何台ものクルマが走った後では、路面が2秒分も悪化していたことになる。たかだか数百mのコースでこの差だ。まぁ2回の計測の間に走ったのが自己啓発(ようするに練習)にいそしむ編集部員(ようするに素人)じゃなければ、これほど路面は荒れなかったと思うが……。
 ランサーやインプレッサに乗るユーザーは、ラリーに憧れているドライバーが少なくない。雪を見るなりトラクション・コントロールのスイッチを切ってドリフトして遊びたくなる。その気持ちは理解できなくない。もちろん公道では練習すべきではないが、安全な場所があれば、こんな訓練をするといいだろう。
 それは、Jターン訓練。安全な速度からABSを思いきり踏む。ペダルが振動するが、その状態でステアリングを切ると曲がりにくい。ABSのロジックには“クルマを安定させる”という指令がプログラムされている。だから、曲がるためにはABSが作動する少し手前までブレーキペダルを緩める必要があるのだ。
 実際、ランサーを上手にターンさせるには、そうしたブレーキテクニックが大切だ。クルマのノーズがインを向き、半分以上ターンしたら、遠慮なくスロットルを踏み込む。そうすれば、AYC(外輪増速)が備わるランサーはFRのように美しい姿勢を作りだしてくれる。大事なのは常にフロントタイヤの接地性を感じておくこと。リヤタイヤは横に流れても歓迎できるが、フロントタイヤが横に流れる、つまりアンダーステアを出すと、山岳路では崖下に転落することを意味しているのだ。
 ACDを「ターマックモード」にすると、ほとんどFRのようなオーバーステアが顔をのぞかせる。反面、ステアリングの反応は最もリニアで、コントロールしやすい。スノーモードにすると、センターデフのロック率が高まり、トラクション重視となって少しアンダーステアが気になる。でも、タイムを出すにはトラクションが絶対に必要。「ドライビングプレジャーか、安定したトラクションか」という差になるわけだ。

◇電子制御の前にすべきことがある
 一般道路の印象を述べてみよう。真っ先に気になったのがワイパーの性能がプアなこと。モーターもブレードもほとんど役に立たない。些細なところへの配慮ができないメーカーは自然消滅する運命にある。過去の悪い習慣をすべて見直すことができるかどうか。生まれ変わるならそこからだ。セールスにつながる部分、たとえばレカロシートはとてもすばらしい。悪しきワイパーとよいシート……。思想が感じられない。安全運転で何が最も重要か。視界とシートだ。その2つの機能が100点と0点では洒落にならない。
 また、サスペンションが硬いから一般道路はタイヤの接地性が薄い。ランサーは旧態依然とした昔の三菱の作り方だ。エンジニアの自己満足、自画自賛。カーボンを付ければカッコイイとか。カーナビだってグループ企業の使いにくいタイプを採用している。エンジンはドッカンパワーだし。もうちょっとエンジンの低速トルクがあってもいいともう。
 ブレーキ性能は、アウトランダーよりはしっかりとした制動力を得られる。エンジンの速さに比べると、下り坂のブレーキが足りないことは事実だ。ATはマニュアルモードで走ると、ギア固定が可能。
 ランサーは「ラリーカーだから」というエクスキューズで多くの問題が表面化されていない。でも、ワゴンはカルトカーではない。ロードカーとしてどんな価値を作るのか。ラリーカーとしてみると「安い、速い」という魅力があるが、メーカーとしての思想はこのクルマからは見えてこない。
 このカルトカーも07年頃にはフルモデルチェンジする。三菱がどこまで生まれ変わることができるか。それはクルマという商品が企業の都合で開発されるのではなく、ユーザーの立場で、新しい価値を作ることができるかどうかにかかっている。技術は価値を導く手段に過ぎない。

<タイム>ランエボワゴン
ACD SNOW 38秒82


Posted at 2013/01/26 19:04:05 | トラックバック(0) | 日記
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