行ってきました・・・ボートショー！　中篇下　　黄昏の辿り着いた場所…

　「なんで！？　なんで！？　なんでなんでなんで！！」

と、彼女は突如として怒りの感情を剝き出しにして、私に

詰め寄った！

　「なんで……あの…と…き…。」

　彼女の魂の波動に圧倒された私は、なす術も無く彼女の次の言葉を待つ他なかった。

　私に喰い付かんばかりに接近した彼女であったが、ふと我に返ったように、肩を落とし俯いた。

　しばらくは、カァーカァー！と鳴くカラスの声だけが聞えた。

　項垂れた彼女は、そのままその頭を私の胸に押し当ててきた。

　「彼が…急…に、…私を…押し倒した時…、

　　　　　　　　　　本当に、本当に、私、怖くて…貴方の、貴方の名前を叫んでしまったの！」

　「・・・。」

　「何度も、何度も、心の中で貴方を呼んだわ！」

　「・・・。」

　「でも、貴方は助けに来てくれなかった。……ううん、勿論判っているわ、無茶な事だって」

　「・・・。」

　「でも……私は忘れていなかったわ。…ここで…、ここで、貴方が言った事を…」

　「・・・。」

沈黙を守る私だったが、徐々にあの時の事を思い出していた…。

―――目の前にある景色が、一気に３０数年の時を遡る！―――


　…セピア色の景色の中、まだ幼い男の子と女の子が並んで座って夕日を見つめていた。

只々、その美しい夕焼けに見入っていた彼女が、視線はそのままの状態で話しかけてきた。

　「〇〇ちゃん、もし私が悪者に捕まったらどうする？」

　「そりゃあ、すぐ助けに行くよ！」

　「どうやって？」

　「そうだな～。…うん、大声で叫ぶんだ！」

　「何て？」

　「〇〇ちゃん！　助けてー！　って！」

急に彼女は私に向き直り、ひどく真面目な表情となって言った。

　「ホントに呼んだら、助けに来てくれる？」

突然の彼女の押しの強さに、少したじろいだ私は、つい胸を張って言ってしまった。

　「当たり前だろ！　地球の裏からでも、すぐに助けに来てやる！」

と言った後、私はそーっと横目で彼女の顔を見た。夕陽で真っ赤に染まった彼女の顔は、

泣いているのか笑っているのか、よく分からない顔をしていた。何か彼女の見てはいけない

ようなものを見た感じがして、慌てて視線を前に戻した。そしてしばらくの沈黙の後、どちらと

もなく立ち上がり、夕闇迫る公園を後にして、二人でトボトボと帰って行った……。


……そして今、私の胸元で睨みあげている彼女の目を見た。鼓動は高鳴り、そして、猛烈に

熱くなった！

　「そう…。そうだったな…。…ごめん、ゴメンな…」

その一言が、彼女の心のＡＴフィールドを解き放った！　私に抱き付き、物凄い力で抱き締め

たのだ。その力たるや、シンクロ率６０％を超えているようだった。

私も負けじと、彼女の身体を抱きしめた。彼女の身体は、思ったよりも華奢だった。少し驚いた。

尚も彼女は力を込めて来た。その力で、私も吐き出さずにはいられなかった。

　「ごめんな、本当に、ゴメンな…」

抱き締め合う二人の上を、いつまでもカラスが、カァーカァーと飛んでいた。


　美しい公園の広場を、黄昏が、赤みを帯びた色で染め始めていた…。


　つづく