・・・深夜奇譚・・・

　AM3:10。深夜…というより、明け方に近いこの時間、たまに行く

不味いラーメン屋で、ネギチャーシュー中盛りを食していた。店内

はこんな時間にも拘らず八分程度の客入りだった。いつも座る場

所が、他のグループに占領されていた為、店の奥のカウンター席

に腰を下ろしていた。そこだけはポッカリと空席が目立つ場所だった。

私の席を一つ置いた隣の席に、リクルートスーツに身を包んだOL

が一人いた。どうやらかなり酔っぱらっている様だった。イケメン店員にかなりしつこく絡んでいる。

まあこの店は、二〇年以上前から二四時間営業を謳っており、そのせいか飲み会の締めによく

使われていた。このOLも、そんな一人であろう。

　いつもの様に注文したラーメンが来るまで、店の蔵書である、ゴルゴ13と鬼平犯科帳をカウン

ターに持って来て読んでいた。

　「ねー！〇〇ちゃん！　きいれよ～！」

　「はいはい聞いてますよ！」

　「あのれ、わらしね、すーっごくちゅらいのよ！」

　「そうでしょう、そうでしょう！」

店員はOLの愚痴を聞き流しながらも、鮮やかな手さばきで麺を取り分け湯切っていた。

　「へい！、ネギチャーシュー中盛りお待ち！」

　「てーんきゅ！！」

ゴルゴと鬼平の本を閉じ、ラーメンへとかぶりつく。と同時に横から熱い視線を感じた。

　「イ、いかん！　俺を次の対象にしてくるかも！」

とうの経った酔っぱらいのオナゴ程、扱いに困るものはない。殴る訳にもいかないし、かといって

お持ち帰りが出来る程、私自身を奮い立たせる位の“フェロモン”と“肌”に張りは無い(苦爆)　等

と思っている間にも、増々私への視線を太くしているOLだった。店員もようやく自分以外に対象が

生まれたのをコレ幸いと、隣のグループの輪へと溶け込んでいた(苦笑)増々焦った私は、いつも

の様にじっくりこの不味いラーメンを味わう事無く、一気に口内へと流し込んで、一刻も早くこの場

から立ち去ろうとピッチを上げた。しかしそれが裏目に出た。彼女に口実を与えてしまったのだ…。


　最後のチャーシューを口内に放り込み、それを、スープで一気に胃の腑へと流し込んで、立ち上

がった瞬間、何と、いつの間にか、私のすぐ横に座って、私の袢纏の裾を掴んでいる彼女の姿が

有った。全く気配に気が付かなかった(驚)

　「や～！　すんごい食べっぷりぃ～！　それ、何ていうラーメンれすか？」

捕まってしまった……。目は完全にトロンとなっており、恐らく記憶が無い状態であろう事は、想像

に難くない。とにかくここから立ち去らねば！　と、おざなりな口調でOLに対応した。

　「あー、コレ、ネギチャーシュー中盛り」

　「うわーおいしそー！　れも、わらし、中盛りは、食べられなーい！」

　「じゃ、並盛にして、それで・・・」

と立ち上がろうした瞬間、いきなりこのOLが私の膝に腰かけて来た！

　「らーめ！　らに、りげよーとするの！」

酔っぱらいとは思えない程俊敏な動きで、私の首に両腕を回す。いつの間にか、御姫様抱っこの

様な態勢となっていた(苦笑)

　「ねー、あした、〇〇で会おう！」

　「・・・。」

　「ううん、あうらけ～！」

　「・・・。」

　「でも・・・、イイよ、あらしを、らいても～！」

　「・・・。」

いつの間にか、私がデューク東郷となっていた(爆)

　「はい、じゃあ、赤外線通信～！」

と言って携帯を私に押し当てて来た。

　「ゴメン、今携帯を持っていないんだよ！」

これは本当だった。いつもは深夜の犬の散歩に出る時は、必ず携帯を持ってい出ていたのだが、

今日に限って、本当に今日に限って、持って来るのを忘れていた。と考えている傍から、彼女が、

またまた俊敏な動きで、私の服に付いている、あらゆるポケットの中を弄りはじめた！

　「うそ～！　れったいに、あるれしょ～！」

ゴソゴソとポケットを弄られている時、これほど神に感謝した事は無かったであろう！　神がこの

事を予測して、敢えて私に携帯を持たせないようにした事を！

　「あれ～…、らい…」

　「な、本当に無いだろ」

と、初めてOLの姿を間近に見ると、背はかなり低いが、プロポーションは中々のモノである事が

わかった。それに結構華奢だった。しかも歳の割には、また、リクルートスーツらしからぬ位、かな

り短いタイトスカートを履いており、まあ色っぽくないとは言えない位のモノではあった。んが、その

化粧の落ちた顔は、松原智恵子そっくりではあったが、その肌はかなり凸凹でもあった(苦笑)　そし

て、真新しいスーツとは対照的に、使い古されたPRADAの大きなバッグに、指先には鮮やかなピン

クのマニキュアが塗られていた。ヒールも、少しくたびれて見えた。単なるハイミスOLの酔っぱらい

ではあるが、その風情からも、

　「この子も色々苦労しているんだろうな…」

と、同情の気持ちが芽生え始めて来てもいた。と、そんな私の気持ちをブチ破るかのように、彼女

の手が、私の股間へと伸びて来た！　私はすくっと立ち上がり、

　「この糞ババァ！」

と怒鳴ろうとしたが、ひょっとしたら、私よりも年下かもしれない事から、その言動が、自分に跳ね

返ってくる危険性も生じたので、敢えて無言で立ち上がった(自爆)

　「オネーサンも、大変だろうけど、これからも、お仕事がんばってね！」

と、優しく肩を抱き、ポンポンと頭を撫でながら会計を済ませ、ゆっくりと、しかし決して止まる事無

く、外に停めてあったフィットへと乗り込んだ。

　「ふー！　危なかった…。しかし、本当に神様っているもんだなぁ～！」

と感慨に耽っていると、或る考えが浮かびあって来た。

　「あれ？　じゃあもし携帯を持って来ていたら、あのOLと、

　　　　　　　　　　　　　　　　尋常では無い仲になっていたという事なのか…？」

これも運命というのか、もし、というモノが有れば、今夜私が携帯を持っているか、いないか、という

だけの事で、私の人生が大きく変わっていたかもしれないという事に、何かとてつもない大きな力が

この世に存在している様に感じた。

　「なんか不思議な夜だったな…。お前さんはどう思う？」

ふと振り返り、後席に話しかけた。


　 後ろでは、待ちくたびれたワンコが、一つ大きな欠伸をしていた…。


　　でわでわ！