「♪貴方わぁ もぅー 忘れたかしらぁ~
赤いぃ 手拭いぃ マフラーにしてぇ~♪」
南こうせつの優しい歌声の目覚ましが部屋に鳴り渡る中、
私はそっと手を伸ばし目覚まし時計を止め、一つ大きく伸び
をすると、両手で顔を叩き早速準備に取り掛かった…。
まだ昨日の疲れが完全にはとれていない。流石にこの歳になって二日連続のバイク試乗は、
精神的にも肉体的にもキツイと感じる様になっていた。
昨日は朝早くから西へと向かい、海の傍でヤマハのバイクに乗りまくったが、今日は東へと
向かい、やはり同じく海の傍で、今度はホンダのバイクに乗りまくるのだ。
私はいつもの様に上下ジャージに袢纏を羽織ると、裸足にサンダルを引っ掛け、恨めしそう
な目で私を見送る愚弟の視線を無視しながら、フィットへと向かった。
予め二日連続で行く事にしていたので、ライディングギア一式はフィットの中に置きっぱなし
にしていたのだ(苦笑) 故に身支度は簡素を極め、素早く自宅を出る事が出来た。
天気は曇天模様であったが、辛うじて雨が降る気配は抑えられていた。いつもの様に東名
に乗り、昨日は西へ、今日は東へとフィットはひた走る・・・。
首都高に入り、しばらく順調に都心部へと走っていた時、谷町合流辺りから、フィットの背後
にピッタリと付いてくる黒塗りのクルマに気づいた。ヤー公かと思ったが、屋根の上に提灯の
オブジェが設置しているのが見えたので、直ぐにタクシーだという事が解った。高速上でタク
シーが煽って来る事等、今まで殆ど無かったので、寧ろ珍しげにバックミラーで注視していた。
「ナラナン(習志野ナンバー)かな?」
と思ったが、よく見れば“ノダナン”(野田ナンバー)だった。運転手はやはり“若造”と言うタイプ
だ。この“ノダナンタクシー”は、結構煽って来るのだが、抜くまでには行かない苛立ちが外から
も見えたが、こちとら別に譲ってやる義理も無いので、しばらくはそのままの状態が続いた。
そんな中、C1から湾岸方面へ向かう為、レインボーブリッジへの進入路に入る直前、突然レー
ダー探知機が反応した。直ぐに辺りを見回すと、右後ろ約50メートル付近に、本線からレイン
ボーへ車線変更してくる官憲の白黒ツートン車が見えた。途端にその周辺のクルマと同じ様に、
フィットも徐々に減速を始めた。しかしそれとは対照的に、ズーット真後ろに張り付いていたノダ
ナンタクシーは、ここぞとばかりにフィットのスリップから抜け出しこれ見よがしに私を抜いて行った。
「あらあら、気付いてないのかな…」
と、バックミラーを覗いた時には、既に赤橙回した官憲のクルマがノダナンタクシーを追いかけて
いた(苦笑)
「はい、御愁傷様!」
今度は私がこれ見よがしに、金魚のフンの如き官憲車の後に従っているノダナンタクシーを追い
抜いた(笑) まあ、よくある光景だが、捕まる奴にはチャンと理由があるという事だ。
そうして気分良く、無事お台場へと降り立ったフィットであったが、ココからまだ第二幕が有ると
は思ってもみなかった…。
早朝のお台場は、やはり空いていた。いつも人でごった返す人気スポットも、まだ閑散としてい
る。なのでクルマもスムーズに走らせる事が出来た。が、実はお台場に入ってからすぐに、目の
前に立ち塞がるクルマが有った。北陸地方の某ナンバーを付けているマーチなのだが、コレが
とにかく私をイラつかせた。車線内ではあるのだが、そのスペース内を、右にフラフラ、左にフラ
フラと、まるで酔っぱらいか、クスリでもやっているような車の動きを見せていたのだ。しかも、後
ろは一切見ていないような運転に危険を感じ、一気に抜き去ろうとすると、その時は同じ様に車
速を上げて来るのだ。
「コイツは、困ったな…」
私は溜息をついた。何故なら、そのクルマのドライバーは、決して悪意を持ってそのような運転
をしている訳では無い事が解ったからだ。運転していた“おじいちゃん”は、単純に物珍しげに
景色を楽しんでいるだけの、“おのぼりさん”だったのだ(苦笑) 故に、信号のタイミングが尽く
悪い流れとなり、私は其の悪い流れに付き合わざるを得ない状態となっていた。
「あ”ーもう! もう少しでいいから早く走らないと、
次の信号でまた長い時間引っかかっちゃうんだよ!」
目的地まであと少しと迫ってはいたが、私のイライラは頂点に達した。
「えい、行っちゃえ!」
多少強引ではあったが、迫りくる直角コーナーをアウトからオーバーテイクし、何とか前に出る
事が出来た。一気に前方が開け、ようやく自分のペースで目的地へと向かう事が出来た。
しかし…。
それは目的地の駐車場入り口まで、あと一つ交差点を曲がれば到着する所から始まった。
「な、なんだ?」
あろう事か、その駐車場の入り口を塞ぐように大型ダンプカーが路駐していたのだ!
「うそだろ! これじゃ、入れ無いじゃないの!」
トラックは動く気配も見せず、堂々と停まっていた。ナンバーを見るとやはりというか習志野
ナンバー(ナラナン)だった(怒) ゆっくり走って見ても、クルマの入る隙はない。そうこうして
いる間に、さっきブチ抜いた、“おのぼりマーチ”が迫ってくる。しかもおのぼりマーチの動き
が先程とまるで変り、かなりスピードを上げて来ているのが解った。
「くそー! 取り敢えず、もう一周してくるしかないか…」
急遽予定を変更して、フィットのスロットルを踏み込んだ。今度はマーチが追って来る番と
なった。後ろに付き合うと、面倒な事になりそうだと思ったので、ココは地の利を生かし、完
全に千切ろうと考えた。それは、信号のタイミングを利用する事で、次の交差点を或るタイ
ミングで通過した後フルスピードで走れば、次の次の次の交差点をギリギリ青信号で通過
出来る事を知っていたからだ。そしてその戦略は成功し、完全にバックミラーからマーチを
消し去る事が出来た。
「ふー、よしよし!ではまた急ぐか!」
目的地の周りを、大きく1周してまた元の道路に戻り走っていると、私の顔がまた曇った。前方
に先程から動いていないアノダンプが見えたからだ。
「あのくそダンプが!」
私は怒り心頭に達したが、取り敢えず車を停めるべく、泣く泣く別の駐車場へフィットを滑り
込ませた…。
「ふー、スッキリした!」
十数分後、有料ではあるが、偶然にも会場入り口の最寄りの場所へと続くパーキングだった
事もあり、結果オーライという事でその場所にフィットを停めると、一目散に入り口を塞いでい
る馬鹿ダンプの元へと向かった。
ダンプのエンジンは掛かりっ放しだったので、ドライバー在住だという事が解ったので、運転
席側のタラップを上がり、取り敢えず中を覗いた。中では短髪角刈りのオッサンが、気持ちよさ
そうに寝ていた(怒) 私は取り敢えずこの窓ガラスをたたき割ろうとして、拳を固めた右腕を思
いっきり振りかぶった。と、その時!
「イテテテッ!!」
私の肩と背中に激痛が走った!
「な、なんだ!?」
……筋肉痛だった(自爆)
「くそー! 昨日の疲労が、今頃出て来やがった!」
そう把握した瞬間から、身体のアチコチが痛み出した。
「う~、むむむ。 これではこの後の試乗にも支障が出て来るな…」
私は矛を収めようとした。が、どうしてもこの怒りを沈ませるには至らなかった。
「しょうがない、アレをやるか…」
私はタラップから飛び降りると、しばらく辺りを散策した…。
更に数分後、ようやく見つけた爆弾(犬の糞)を、やはり道端に捨ててあった割り箸でつまむと、
それをそっとダンプの運転席側のドアノブの裏側に丁寧に塗り込んだ(爆)
「これで済むと思うなよ!」
と言ってその割り箸をワイパーに挟むと、今度はドアの隙間から、タラップ、そしてタイヤへと、
小便を掛けて廻った(追爆)
「ダンプに罪は無いが、恨むなら持ち主を恨みなさい!」
と、溜まりに溜まっていた尿を放出した!
「ふー、スッキリした!」
取り敢えず納得した私はフィットの元へ、まだ殆ど車の停まっていない広大な駐車場を、一人
テクテクと歩いて行った…。
つづく
※尚、この日の模様は、愛車紹介ホンダCB1100 のフォトギャラリー 内の
→ “
ココ” にアップしておりますので、どうぞ合わせて御覧下さい!