行ってきました・・・ボートショー！　後篇上　　黄昏が煌く時…

　抱き合う二人は微動だにせず、しばらくの間、お互

いの暖かさを確認し合っていた。それは、喜びや嫉妬、

反省や後悔。そして希望、といった色んな感情が混じっ

た暖かさだった。ようやく彼女の力が抜けていく。私もそっとその手を解いた。

　「えへ、ココ、ファンデーション付いちゃった。ごめんね」

項垂れたままでも分かる照れた素振りで、ファンデーションが付いたシャツを指先でチョコチョコ

と擦った。

　私は彼女の心の負担が少しでも軽くなればとの思いから、今度は私の番とばかりに、自分も

決して順風満帆だった訳では無い事を話した。

そんな私の話を、彼女は俯き加減で静かに聞いていた。

　「……と言う訳だ。つまり、変わってしまったのは俺の方で、君は全く変わっていな・・・」

と言った時、今まで静かに聞いていた彼女が、私の話を遮り、またしても感情を露わにした形相

で私に訴えかけた。

　「あなた…は、あなたは、電話番号を変えていなかった……。わたしは、わたしは、３度も変えた。

　それは、私が３度変わったという事。三倍あなたから遠ざかった事。３倍あなたより汚れてしまっ

　た事…。でも、でも！……貴方は、貴方は！　変わっていなかった。そう思ったらね……、急に、

　急に、凄く、凄く、ココがね、ギューッと締め付けられるように痛くなったの。本当に、毎日毎日、

　ギューッと締め付けられるの！」

と、彼女は胸に手を当てその場にうずくまった。私の両足は、まるで地面から生えているように、

微動だにしなかった。いや、出来なかった。柔らかな赤みを帯びた木漏れ日が、二人に優しく降

り注ぐ。爽やかな、でも、チョット冷たい風が二人の髪をなびかせる。うずくまった彼女は頭を上げ、

そのクシャクシャになった顔を私に向けた。

　「えへっ、泣いちゃったっ！」

と言って、彼女は涙を拭いた。しかし、その情景はあの時のままの様だった。まるで子供の様に

両手でグリグリと目を擦るその仕草に、私の両足は、一気に永久凍土から解放された。ゆっくり

としゃがみ、そして…彼女の頭を胸一杯に抱え込んだ。みるみる私のシャツが、今度は涙で濡れ

ていく。でも彼女から伝わる鼓動と、そして熱っぽい身体から伝わる想いが、私の氷の様に遮断

されていた心のＡＴフィールドをも浸食していく。私の進むべき道が見えた様な気がした。今まで

の淡い想いが、今はハッキリとした感情に変化していくのが分かる。

　「愛おしい…。今は君が愛おしい…」

ふいに出たその言葉に、小刻みに震えていた彼女の身体が止まった。

　「やっ…と…、やっと、助けに来てくれた…」

　「ん…、なに？」

　「遅かったぞ！〇〇ちゃん！」

そう言った彼女の顔は、夕陽で真っ赤に染まっていた。そしてその顔は、あの時のままだった。

当時は分からなかったその顔の表情も、今は、その表情が何を指すか分かるようになった。

　私の中で、ある決意が徐々に大きくなっていくのを感じた。それは、あっという間に、居ても立っ

ても居られないほどの焦燥感となり、思わず彼女を抱え上げた！

　「△子・・・やっと二人きりになれたね。君には苦しい思いばかりさせてごめんね。これからは

　いつも一諸にいるよ……。人間にとって一番大切なのは愛することだ。でも僕が一番大切なの

　は君だ。君への愛だ。△子・・・俺は君が好きだ！すきだ好きだ大スキダ！ずっと君が好きだっ

　た！！大きな声でも言える。△子、僕たちはこの新□御●の中で、鳥になって結婚しよう。それ

　が二人の結婚式だ！！」

いつの間にか周りに集まっていた鳥達が、一斉に飛び立った！


　　そして…。夕陽の最後の煌めきが、二人を優しく照らし出した…。


　　つづく


　　※尚、ボートショーの模様は、愛車紹介の“ヤマハPC28”の

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　フォトギャラリーにアップしていますので、どうぞご覧下さい！