第１回 AKB48 巡礼の旅 中編⑤

　もう、ココでの撮影はタイムリミットに近づいていた。

周りにギャラリーが居ようが居まいが、背に腹は変え

られない。意を決して強風が弱まった頃を見計らい、

広場正面にカメラを設置して、其のカメラの上に携帯

を置き、既に携帯内に超高音質バージョンでダウンロードしていた“会いたかった”着うたフル

を解き放った！


　「会いたかったー　会いたかったー　会いたかったー　Yes！

　　　　　　　　　　　　会いたかったー　会いたかったー　会いたかったー　Yes！　君にぃ～～～」


自然と体が動き出す。自然と汗が噴き出す。そして自然と心地良い世界へと誘われる。もう周

りの事など、どうでもいい！　今はただ、彼女達と一体になったオッサンが、一人青春を謳歌し

ているのだ！　何とでも言え！　何と言われても、俺は踊り続ける！

　そんなノリノリの大男がダンスハイになっている時、徐々にではあるが人の気配も減ってきた。

増々熱の籠った、キレのあるダンスへと昇華してゆき、結果、最高のパフォーマンスとなった事

に自己満足を爆発させていた。心なしか、足早に去って行くカップル達の後姿を見ながら…(爆)

　メインのダンスシーンを撮影後、このロケ地最後のショットとなる、“優子＆たかみな”が、階段

を駆け下りるシーンを撮り終えると。精神の平衡を取戻し、急いで次の場所へ行かねばならぬ

事に気が付いた。手早く機材を取りまとめ、長い階段を下りてゆく…。

　ようやく階段を降り終えると、その灯台への階段入り口横にある、少し寂れ気味の駄菓子屋兼

お土産屋さんの前に、何と最新型のZX-14が停まっている事に気が付いた。導かれる様に、その

土産屋の中へ入っていくと、中では簡易テーブルの席についていた親子連れの姿が目に入った。

どうやらこの“オトーサン”がバイクの持ち主の様だ。そしてその横には、余り美味しくなさそうに、

おでんのコンニャクをパクついている息子の姿があった。早速“オトーサン”に話しかける。

　「外のZXに乗って来たのですか？」

いきなりの問いかけに、訝しげな表情でこちらをみたオトーサンだったが、私が以前ZZ-R1100に

乗っていた事を告げると、急に愛想良くなり、しばらくはバイク談義に華が咲いた。話題も付きか

けた頃、オトーサンが、少しソワソワしだした。それを見てある事を感じた私は、さりげなく水を向

ける事にした。

　「そういえば、この上にある灯台で、昔AKBのPVが撮影されたんですよ！」

私はその言葉で、オトーサンの眼が、きらりと光ったのを見逃さなかった。

必死に表情を押し殺そうとしながら、オトーサンが応えた。

　「え？　そ、そうなんですかー。　し、知らなかったなぁ～」と、

大人ならばわかる、白々しさが含まれた語句ではあったが、これ幸いと畳み掛ける様に続けて、

オトーサンは息子の方に向き直った。

　「〇男！　この上に、あのAKBが使ったロケ地があるんだって！　凄いな～！」

息子はクールに聞こえていないフリをしていた(笑)

　「いやー、凄いな～。　これも何かの縁だから、このおでん食べたら、行ってみようか？」

　「………。コクッ」

息子は、どう見てもイヤイヤながら頷いていた(苦々笑)

　「いやー、この通り、息子も行ってみたいようですし、この後行ってみますわ！」

オトーサンは満面の笑みで私にそう答えた。何かダシに使われた感は否めないが、まあAKB

ファンが一人でも増える事はイイ事だ！　と一人頷き、駄菓子屋を出た。

　「さあ、もう二仕事！」

と、気分を切り替え、あの銅像の様な“御婆さん”が見守っているであろう駐車場へと向かった。

　数分後、機材を整理して後部座席に括り付け、次のロケ地である“Half Moon”へとCBに跨り、

様々な思い出に包まれる事になった洲崎灯台を後にした。


　つづく