※前回の ≪まゆ編≫ は↓からご覧下さい。
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予想外と言っては失礼かもしれないが、官憲の対応は懇切丁寧
&迅速であった。実に的確で時系列に沿った質問と対応であった。
流石“プロ”だという事であろう。とは言え、まゆと別々の取調室に、
其々長時間拘束されたのは結構キツかった…。
恐らく、まゆと私の供述の食い違い等を確認する為であろう事は直ぐに想像出来た。故に、少し
イラつかせるような質問をされても、アツくならずに対応する事が出来た。
と言う訳で、先に取調べが終了したのは私だったが、それからが長かった。彼女の取り調べから、
一つ一つ裏付けの調査をする為だからだ。私は暇を持て余した。警察署内見学ツアーもすぐに終わ
り、それでも何かとブラブラして時間を潰していたのだが、それもすぐに終わり、喫煙ルームで柔道
の稽古を終えて来た官憲達と柔道談義に華を咲かせたりもしたが、彼等も基本勤務中であり、長居
は出来なかったので、やはりすぐに一人ぼっちとなっていた…。
被害届を出してから、実に8時間程拘束された後、ようやく私に対して帰宅の許可が出た。しかし、
まゆの姿は無かった。その事をそれとなく聞いてみると、
「まゆさんの安全が確認出来るまで、彼女はコチラで保護します」
との回答を得た。つまりはそれだけ切迫していた状態だったのだ。それを裏付ける事を、後に、まゆ
から聞く事になるが、この時はまだ私は知らなかった。
帰宅許可が下りたとはいえ、私はまゆに伝えなければならない事が残っており、その旨を担当の
官憲に伝えた。暫く私の顔を眺めていたが、
「分かりました。では5分だけですが、ココで御待ち下さい」
と言って、先程まで取り調べられていた部屋に戻されると、またしばらく一人ぼっちとなった。
因みに、この部屋が面する廊下の突き当たりには留置所が有り、時折その奥から色々な “絶叫”
が聞えたりもしていたので、退屈せずに済んだのは幸いであった…。
ここで少し話が逸れるが、実は私は官憲署内留置経験者である。 所謂 “臭い飯” を食した事が
有るという事だ。とはいっても日本のソレでは無く、豪州官憲の所謂“ブタ箱”である。まだ学生の頃
だから、もう四半世紀前の事ではあるが、大学の悪友と3人で豪州を旅行した或る日、某地でナイト
ライフを堪能していた時の事であった…。
ストリップを堪能した後、頭を冷やす事も兼ねてパブの様なバーに入り、暫くパツキンネーチャン
のボンキュッボンのスタイルへの敬服と、オージー産の不味いビールについて悪友達と談笑してい
た時、突然店の奥から怒声が聞えて来た。皆の視線が其方に向くと、何やら白人の大男三人が喚
いていた。何だろうとしばらく見ていたら、次々に客が店から出て行った。そんな瘴気に溢れた雰囲
気がコチラにも伝わって来て、悪友の二人も店を出ようと私に言って来た。私は多少酔っていた事
もあり、好奇心が不安を凌駕していた。
「じゃあお前達は外で待ってろ。俺はチョコっと見て来るから!」
と言ってやや振らつく足取りで、瘴気漂う中心へと歩いて行った。とは言え、現場についても最初は
何が起こっているのか分からなかったが、壁となっている三人の大男の隙間から覗くと、其の三人
に囲まれていた一人の女性の姿が見えた。そして其の三人がその女性に向かって喚き立てていた
のであった。その女性は只々身を縮こまらせており、明らかにそれら3人の白人からの侮蔑語に耐
えている様だった。よく見ると其の女性はコノ店の店員の様であり、そして、“亜細亜系” の女の子
であった。どうやらこの女性が3人の大男に粗相をした様だったが、この三人は完全に泥酔してお
り、このコがソコまで彼等を怒らせる様な不手際をしたとは到底思えなかった。 そしてようやく状況
が飲み込めた。要するにこの3人がココのウェイトレスにちょっかいを出して、それを軽くいなされた
事によって逆上したのだった。そして其の女性が亜細亜系だった事も火に油を注いだようだった。
白豪主義がまだ色濃く残っていた時代である。
「白人様が、せっかく口説いてやったのに、アジア人の分際でソレを断るとは、許せん!」
と言う訳だ。酔っていた事も有ったろうが、それはしかし本音であろう。その証拠に誰も彼らを窘め
る者は無く、カウンターの奥に居るその他の白人ウェイトレス達やバーテンダーも見て見ぬフリをし
ていた。そして何も言わずにただ黙って侮蔑差別の怒声に耐えている女性に対し、更に興奮した3
人は彼女に抱き付くと強引に唇を奪いに行った!
「Chán lắm rồi!」
彼女はそう叫ぶと、それらの魔手を振り払い、カウンターの方へと逃げ出した。下衆の本性が露わ
になった3人は、途端に牙を剥き出し彼女の後を追った。次の瞬間、思わず私の右足が前に伸びて
いた…。
ふと意識を元に戻し、辺りを見回した。相変わらず取調室に一人ぼっちであり、相変わらず廊下
の奥からは、色々な絶叫が聞えて来た。
「そういや、あん時も、色んな “絶叫” あったな…」
私の意識はまた“あの時”へと戻った…。
私の伸ばした足の先に、先頭を切って走り出した男の足が引っかかり、そのまま水泳の飛び込み
の様に前に飛んで行った。
ガッシャーーーンンンン!!!
店内に盛大な音が木霊した。流石重量級と言うべきか、スーパーマンの様に低空を飛んで行った
白人Aは、そのままの勢いで椅子とテーブルを薙倒しながら滑って行く。それに続いた残りの二人
も一緒にヶ躓き、編隊となって、仲良く “ヘッドスライディング” をしていた。
「キャー!!」
店内に叫び声が響き渡った。しかしそんな状況でも、私はと言えば酔っていた事もあったが、
「へ~、白人女も、叫び声は、“キャー!”って言うのか…」
等と呑気な事を考えていた。が、やられた方は呑気になれなかった様である。フラフラヨタヨタとした
動きではあったが、まるで肉食獣が獲物を探す様に、自分を無様な姿にさせた原因を見つけるべく、
血眼になって辺りを見廻していた。そしてその視線が私の所で止まると、更に目を開き、真っ赤な顔
となって私に突進して来た! たとえどんなに酔っていても、こういう時は直ぐにシャキッ!っと、して
しまう私だったので、軽く右にかわしながら、掴みかかって来た相手の右肘を左手で巻き込む様に
して掴むと、そのまま相手の慣性力を使って身体を左に捻った。今度は“中空”を、やや太めのスー
パーマンが宙返りした。
「ドゥフッ!!」
大男は床に叩き付けられ、今度は鈍い音を店内に轟かせた。“一本背負い”と“払い腰”の中間の
様な技が決まったソレは音だった。
“酔拳”でもマスターしていない限り、酔っぱらい程、弱い状態は無い。それは万国共通であり、た
とえ相手がビール瓶等の武器を手にした大男だとしても結果は同じである。寧ろ身体が大きく重い
分、逆にコチラは余り力を入れずとも、相手は自分の重量による慣性力によって、私の思うがまま、
面白い様に吹っ飛んで行くのである! 故に、残る白人BとCも、アッチでガシャーン! コッチでド
ターン! 向こうでキャー! となり、まるでカーニバルの様な活況を見せた店内であったが、それ
もすぐに収まった。タダでさえ泥酔している所に、いきなり“運動”したのだから、酒の周りも早くなろ
う! すぐに3人は文字通り目を回しながら床と戯れた…。
とは言え、コチラも酒が入っていたので、急激に酒が回り、フラフラとなったのは仕方が無い事で
はあったが、それでも気になったのは、先程のウェイトレスの安否だった。今度は私がキョロキョロ
と辺りを見回すと、カウンターの端に、両手を胸の前で握りしめながら私を凝視している彼女の姿を
見つけた。余り焦点も合わなくなっていた虚ろな目をしたまま、私は彼女に近づいて口を開いた。
「Are you all right?」
(私訳:おう、オネーチャン、大丈夫だったかぁ~?)
呂律も確かでは無い下手糞な英語であったろうが、何とか噛む事無く言う事が出来た。彼女は一瞬
目を見開き、
「Ye,Yes, I'm good.…Thanks a lot…」
(私訳:は、はい、だ、大丈夫です…。あ、あの、ほ、本当に、有り難うございました)
と、彼女も余り英語が得意でないであろう発音で返答した。私は、うろ覚えの単語を繋ぎ、度胸一発
で言い放った。
「I'm happy for you. You be careful now!」
(私訳:そりゃあ良かった!でも悪い奴には気を付けなよ仔猫ちゃん!)
等と言って、私は英雄気取りでウィンクなんぞかました。実際酔いも手伝ってか、大仕事をやり遂げ
た様な充実感に包まれていた…。
店内にも落ち着きが見え始めた頃、外でけたたましいサイレンの音が聞えて来た。そしてその音
が店のすぐ前で止まり、乱暴にドアを開けた官憲達が突入して来た。私は官憲に手招きすると、床
で寝ている乱暴狼藉を働いた輩を指差した。すると、その官憲の中の一人が私に向かって、
「You're under arrest!!」
(私訳 : この猿が! テメェを逮捕する!!)
と大声で叫ぶや否や、官憲達が警棒を振り回しながら数人掛りで私に覆い被さって来た!
瞬間、私の血が逆流した!
つづく
※尚、東サロ・コンパニャー・シリーズ最終回は、愛車紹介ポルシェ911 の
フォトギャラリー内の → “
ココ” に アップしていますので、どうぞご覧下さい!