今や、“お嬢(仮名)”ファミリー内で唯一人(猫)の雄
となったクロ。 性格も典型的な猫であり、生まれて
すぐに個性を出し始めていた。 つまり・・・・。
【天上天下唯我独尊】 を、地で行っていた・・・。
新しい家族の元に旅立った≪はる≫と同じ様に、早い段階から、この子は近いうちに
「この家を巣立って行ってしまうだろう・・・」
と感じていた。 それとは対照的に、ミーコは恐らく長くは生きられないだろうと感じている。
何となくだが、理由はある。 ミーコは使い古された言葉だが、≪美人薄命≫ に尽きる。
元々、内蔵器官の一部が未発達という事もあり、未だガリガリの状態である。更に母猫
からの虐待もあってか、寿命も縮まった事だろう。
クロの方は、兎に角マイペースであり、また人間と同じ様に、男の子特有の反抗期の態度
を示している。兎に角、母親に対しても無関心を装うのだ。 あんなにミーコを虐待していた
“お嬢(仮名)”も、何故かクロに対しては溺愛と言って良い態度をとっていた。 しかしそれに
対してクロは、
「うぜーなー!」
とばかりに露骨に嫌な顔をして“お嬢(仮名)”から離れることもしばしばだった。
お嬢が殺人鬼と化して、ミーコや、“坊(仮名)”や、σ( ̄。 ̄) オイラ とバトルを繰り広げていた
時も、我関せずとばかりに、どんな修羅場でも、欠伸をしながら高みの見物に徹していた。しかし
食事に関してはガメツかった。ミーコの餌はおろか、“お嬢(仮名)”の餌、延いては“坊(仮名)” の
餌すら、その餌の権利者達を押し退いて食べ尽くしていた。その御蔭か、体格はみるみる発達し
筋力腕力スピード共に、“お嬢(仮名)” を、既に凌駕している。 故に、この子は外に出て、たとえ
一匹になったとしても、生きて行けるなと感じたのだ・・・。
そんな先日の或る日、ようやく精神が安定してきた “お嬢(仮名)” と、その仔猫達は、あっという
間に、仲睦まじい状態に戻っていた。
そして、ふと外を見た“お嬢(仮名)”は、そっと仔猫達との戯れを中断し、窓の方へと歩いて
行った。2匹の仔猫と、何故か“坊(仮名)”も、金魚の糞の様に、その後に続く・・・。
「ナンか、良い画だな~」
と、その微笑ましい光景を、父親の様な目線で見守っていた。
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が、コレは正に、嵐の前の静けさだった。 そして次の瞬間・・・・
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“お嬢(仮名)” が、突如豹変し、襲い掛かって来たのだ!!
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あまりの恐ろしさに、仔猫達はおろか、“坊(仮名)”と私も、ビックリして飛び上がった!
完全にホラー映画の様だった!!
そして仔猫達は・・・
ミーコはとっさに目の前にあった網戸をよじ登り、難を逃れることに成功した。
が、しかし、クロは・・・。
流石のクロといえど、あの変わり身の早さには適応しきれずに、“お嬢(仮名)”の一撃を
喰らってしまった。
「シャアアアアアアアアアアアアアアアーーーー!!!!」
八つ墓村の殺人鬼と化した “お嬢(仮名)” は、尚も攻撃の手を緩めず、今迄の鬱憤を晴らす
かのように、クロへの攻撃を続けた。 堪らずクロは外に逃げ出したが、そんなクロを許す事無く
“お嬢(仮名)”も飛び出し、一直線にクロへ突撃した!
「ミギャァァァァー!!」
「シャァァァァァ!!!」
とても親子とは思えない、殺し合いと断末魔の様な叫びが辺りの空気を揺らした!!
「コラ!“お嬢(仮名)”! 何やってんだ!!」
ようやく我に戻った私は、そんなお嬢を叱った! しかし私の足では追いつける筈も無く代わりに
同じく我に返った“坊(仮名)”が、“お嬢(仮名)”を窘めるべく追いかけて行った! 視線が届かな
い先の草むらの方から、ガサゴソと音が聞こえた。 そしてすぐに静寂が訪れた・・・。
しばらくすると、何事も無かったかのように、“お嬢(仮名)”が戻って来た。 そんな“お嬢(仮名)”
の態度に対し、“坊(仮名)”とミーコは、完全に引いていた。 そして私は、眉間に皺を寄せていた。
今の瞬間、“お嬢(仮名)”ファミリーの歴史が、大きく動いた様に感じたからだ。
「クロは、もう、戻って来ないかもしれない・・・」
直感的に、そう感じた。
勿論、いつか居なくなるとは思ってはいたが、まさかこんな形で去るとは思ってもみなかった。
そして心の中に、大きな黒い霧が立ち込めるのを感じた・・・。
案の定、クロは戻って来なかった。取り敢えず猫ドアは開けたままにして、1日待った。 しかし
近くにクロの気配は微塵も感じられなかった。
一応、“坊(仮名)”の時と同じ様に、関係各所に連絡と申請はした。しかしそれはどれも、惰性
と言って良い程、私は虚ろな状態だった。当然、犬と猫は違うのである。 案の定、猫に関しては
動物愛護センターですら、あまり乗り気では無いのが見て取れた。 しかしそれは仕方の無い事
である。基本、猫は、1匹でも生きて往ける動物だから。人間と共存せずとも、生きて行ける生き
物なのだ・・・。
寂しさは確かにある。しかし、余り心配もしていないというのが、今の正直な気持ちである。
そして、クロが居なくなって、気が付いた事が有った。クロが誰かに似ているなと思っていた
のだが、ふとその人物に思い至ったのだ。
「そうが・・・、“フーテンの寅さん” の雰囲気を、クロには感じていたんだ・・・」
と、同時に、心が軽くなって行くのを感じた。
「寅さんなら、いずれ、いつか、ひょっこりと、帰って来るのだから・・・」
私は1つ微笑んで、部屋へと戻って行った・・・。
しかし、返す返すも、“お嬢(仮名)” の想定外の変化には、いつも振り回される!
全く、“心” と言うモノが読めない・・・。
こんな可愛らしい時もあるのに、或る時突然、全く躊躇する事無く、一瞬で般若と化す!
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「“お嬢(仮名)”! お前さん・・・、やっぱ、こえーよ・・・」
私は、つくづく人間で良かったと感じた。 コレが“お嬢(仮名)”と同じか、若しくは小さい生き物
だったならば、間違いなく翌日に私はこの世からいなくなっている事であろう。“お嬢(仮名)”が
私に対し従順な表情を見せるのは、単に私の方が大きく強いからだけに他ならないのだから・・・。
と、取り急ぎご連絡まで・・・
でわでわ・・・