
山肌を抜ける風が心地良い。暫くは“坊(仮名)”の楽し
そうな表情を肴に、マッタリと時を過ごしていた。
すると次々にワンコがやって来た、チワワにミニチュア
ダックスに、そして…。
最後に入って来た黒い大きな物体を見て私の表情が固まった。
「え? まさか・・・」
私の目の前をゆっくりと歩く姿にデジャブが芽生えた。それは黒いラブラドールレトリーバーであり、
青い首輪を填めており、そして飼い主に聞くと体重は48キログラムということだった。それはつまり
“愚弟”こと亡き弟、コンチと全く同じ容姿と数値だったのだ! もう、“坊(仮名)”そっちのけで、その
ワンコの一挙手一投足に目が奪われた。
「やはりこのドッグランには、何かが宿っているのかな…」
そう思いたくなるようなタイミングであった。しかし、そんなセンチな想いに耽る間もなく後ろから悲鳴
が上がった!
「キャ! チョッチョッちょっと!!!」
振り見向いたその視線の先に、
“必殺技” を見事に決めていた “坊(仮名)” の姿が有った…。
暫くはワンコ以外にも、みんカラ内で私宛に来た或るメッセについて心当たりが有りそうな、みん友
氏数名に問い合わせてみたり、近況を語り合ったりしていたが、コンによく似たワンコ達と思いっきり
戯れた後、次の場所へ向かう事にした。そこはコンの生前には縁が無かった場所でもある、小・中型
犬用のドッグランであった。
実は昔からココに行ってみたいとは思っていた。何せ小型犬ばかりなので、それほど深刻なトラ
ブルに巻き込まれる可能性も低く、また比較的若いオナゴが飼い主であるケースが多い事も高ポ
イントであるから。故にワタクシは“坊(仮名)”と言う武器を手に入れたので、ここぞとばかりに希望
に胸を膨らませ、鼻の下を伸ばしながら、いざ!という心意気と共に向かった訳である・・・。
数分後、確かに可愛い小型犬達に囲まれ、幸せな嬌声を上げている中に私は居た。やはりという
か、ココでも“坊(仮名)”は人気者となっていた。しかし、可愛いポメラニアンの飼い主は、“宮川大助・
花子”の様な御夫妻であり、小型犬用の場所なのに、何故か大型犬であるアフガンハウンドが居た
り、しかもその飼い主は“グレート義太夫”そっくりであったりと、やはり世の中思い通りにはならない
という事を噛み締めながら、皆と戯れていた。まあ、先方達も、“テレンス”には不釣り合いな、可愛
いワンコを連れているなと思っていたろうが・・・。
さて、そろそろ帰らねばならない時間となっていた。“坊(仮名)”と一緒に遊んでくれた礼を言い、帰
路に着く事とした。しかしフィットに戻りイグニッションキーを捻った途端、燃料計の警告灯が点灯し
た。一応自宅までギリギリ戻れる量は残っているとは思ったが、念の為ここで給油する事にした。
久しぶりの≪セルフでは無い≫GSに入ると、当たり前の事に、いちいち感動した。
「おお! 灰皿を綺麗にしてくれるのか! おお! 窓を拭いてくれるのか!」
等と、たまには人が居るスタンドも良いなと思った瞬間ではあった…。
そして無事フィットの燃料補給を終え、一路自宅へと走り出すと、また目の前に次期愛車候補の
バイクが現れた。これは丁度良いと、わざわざバイクの前後左右にフィットを移動し、ライディング
ポジションや車体の高速時の姿勢や排気音等を舐める様に確かめていると、やおらライダーがコチ
ラを向き、中指を立てて、フル加速して視界から消えて行った。勿論フィットでは追い付ける筈も無
く、何か若いオナゴに逃げられた甲斐性ナシのオッサンの様な感覚に囚われた。
「そんな、跡を濁して逃げんでもよかろうに…」
と、少し悲しい思いに駆られたが、先方から見れば、ウザい!か、挑発している!としか取れない
行動だという事を後になって気付いた…。
最寄りのICを降り、サッサと自宅へ戻ろうとしたが、思いの他早く戻って来たので、少し時間に余裕
が生まれると、急に炒飯が喰いたくなったので、馴染みの支那料理屋へ寄り道する事にした。
「サービスセットに餃子! あと麺は硬めで、サラダのドレッシングは少なめに!」
常連らしい流れる様な注文を終えると、早速餃子を受け入れる準備に取り掛かった。まあTV孤独の
グルメ(五郎さん)の受け売りだが、餃子のタレを、醤油から胡椒に切り替えるという食べ方である。
つまりラー油はお好みで、基本は酢と胡椒をたっぷり入れたタレを付けて餃子を食するのである!
まあ想定内の味ではあるが、奇を衒った味でも無く、まあまあ美味しいので最近は良くこの方法で
餃子の半分は食べている。残りの半分は今迄通り、酢と醤油とラー油で食べるので、二度美味しい
というオマケつきの食べ方である。貧乏たらしいと言わば言え!!
私が作る炒飯の次に美味いコノ店の炒飯を堪能すると、ようやく自宅へ戻る時間となった・・・。
フィットを自宅内に停め、“坊(仮名)”と一緒にクルマから降りると、何処からともなくミーコがフィット
に飛び乗って出迎えてくれた。
「ミーコちゅあん、ただ今~~♡♡♡」
スグにミーコを抱き寄せ、その愛らしい顔に思いっきりスリスリしたが、ふと下を見ると、見るも無残
に身体を八つ裂きにされたネズミの残骸が目に飛び込んで来た。嫌な予感がしたので眼球だけを
ソロソロとミーコに向けた。 ミーコの口の周りは、赤く血に染まっていた。 私は全身に硬化ベーク
ライトを流し込まれた様に固まった…。
皮膚が剥ける程、ゴシゴシと入念に洗顔し、モンダミンを大量に口内に投入し、思いっきりうがいを
した後、ソファーに腰を埋め、やっと一息つく事が出来た。
私の足元には、流石に疲れたか、“坊(仮名)”がスヤスヤと寝息を立てていた。そんな姿を見て微
笑むと、今度は毛繕いしているミーコの姿が目に入った。そんな姿を引き攣った作り笑いで見てい
ると、猫ドアが威勢よく開いた。“お嬢(仮名)”の御帰還である!
「“お嬢(仮名)”、 やっぱりお前さんを見ていると落ち着くよ…」
“お嬢(仮名)”の凛々しい姿を見てホッとした私は、“お嬢(仮名)”をスリスリするべく抱き抱えようと
した。と、しかし私の手が止まった。“お嬢(仮名)”の顔をジッと見つめた。
“お嬢(仮名)”はその口に、何か≪得体の知れない生物≫を咥えていた。 再び硬化ベークライト
を流し込まれた私の横で、次の仕事を告げる、バッハの“トッカータとフーガ”の着信音が、携帯から
流れ始めた。
こうして私の短い休暇が終わった…。
おわり
※尚、この日の模様は、愛車紹介ホンダ フィット フォトギャラリー
内の→
“ココ” と “ココ” にありますので暇な時にでも、どうぞご覧下さい!
でわでわ!