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しんげん神奈川のブログ一覧

2014年06月20日 イイね!

我が愚弟、最期の日 “朝”

我が愚弟、最期の日 “朝”
 「コン! ウチに着いたよ!」

私は、急いで車から降り、後席のドアを開けようとしました。

しかし開ける直前に、大きな不安と恐怖が湧き上がって来

ました。

 「コンはもう…、逝ってしまっていないだろうな…」

一瞬、歯を喰いしばった後、祈る気持ちでドアを開けました。

コンは、コンは、まだ “現世” に居ました! その瞳は、シッカリと私を見据え、もう自由に動かせ

なくなった手足を、懸命に動かそうとしていました!

 「コン!無理すんな! 動かんで良いぞ! 俺がちゃんと運ぶから!」

コンの眼が、キラキラと輝いて見えました。しかし、だらしなく開いた口からは、

 「オイラ…、オイラ…、もう、動けそうも、ないよ…」

と言っているようでした。私はコンの頬に、これでもかと自分の頬を擦り付け、言い聞かせました。

 「あと少し、あと少しで、おウチの中だぞ!」

しかしここに来て、コンの呼吸は徐々に弱っていきました。私は兎に角、急ぎました。50kg近くある

コンの身体をフィットから引きずり出すと、ダランと持ちにくくなった身体を何とか担ぎ上げ、家の門

をくぐりました。が、ドアの鍵を開け、居間の鍵を開けるには、どうしても一度、コンを降ろさねばな

らない事に気がつきました。

 「クソ! こんな時に独り身は不便だなっ!」

仕方なく、玄関前の階段の中段辺りの段差に、もたれかかす様にコンを降ろし、ポケットから鍵を

取り出すと、直ぐにドアを開け、リビングの扉をあけました。そしてリビングの窓側に、コンのベッド

を持って来て、庭から直接居間へ入ってコンを寝かせようとしました。流石に鍛えていたとはいえ、

アラフィフのオッサンの身体のアチコチから悲鳴が上がり始めました。しかし、今は、そんな私より

も、もっと苦しい思いをしているコンが居るのです。私は荒い息の中、自分に喝を入れ、急いで階段

の所へと戻りました。そして深呼吸した後、一つ気合を入れ、階段の途中でもたれ掛っているコンの

身体を抱き上げようとしました。


 「コン、もう少しだから、あとちょっ………。 

                    コン?……コン?……コ…ン……」


瞬間、今まで感じた事の無いような悪寒が、吐き気と共に脊髄を駆け上がって来ました!

 「おい……、 コンッ! コンンッ!!」

私の眼が激しく動きました。目、鼻、口、足、そして、尻尾……。 しかし、何処を見ても、ピクリとも

動いていませんでした。抱き抱えようとした私の膝が、ガクガクと震え始めました。

 「ちょっと…まて…、ちょっと待てよ!! あとチョットじゃないかよっ!!」

抱き抱えたまま、私はコンの顔に自分の顔をこれでもかと押し込めました。そして胸に耳を当て、

コンの生命の欠片でも聞えればイイからと耳を澄ませました。しかし、いくら耳を押し当てても、コン

の身体から、生命の鼓動は聞こえて来ませんでした……。


                  ――平成26年 6月15日 6時54分――

           コンは、その波乱に満ちた犬生を終えました。享年11歳…。

         4日後に、満12歳の誕生日が控えていた、快晴の早朝でした……。


 たった一人ぼっちで、あの世に逝ってしまったこの愚弟が、とてもとても不憫に思えました。同時

に、己の腕の中で看取ってやれなかった自分に対し、どうしようもない自責の念が、マグマの如く

湧き上がって来ました。

 「クソッ!くそっ!クソォ――! 普段偉そうにしてるくせに、イザという時に、このザマだ!

                          この役立たずがぁ!!! …………うっうっうっぅぅぅぅぅ」

私は、コンの横に寄り添うように座り込みました。そして、まるで路上でへたり込んでいるオッサンの

後姿の様なコンの背中を、いつまでもさすりました……。



 居間の中央に、コンが眠るベッドを置き、まずは、コンを綺麗拭いてあげる事にしました。しかし、

余り強く拭くと、毛がゴッソリと抜けてしまいました。改めてコンの身体に宿っていた生命が居なく

なった事を実感しました。しかし、まだ温かく、柔らかい身体が、徐々に冷たく、硬くなっていくのを

黙って見ている事は、例え様も無い程の焦燥感との闘いでもあったので、兎に角、何かしていな

いと、心の平静が保てませんでした…。


 その日の午前中から、次々にコンの仲間達が訪れてくれました。そして皆、コンの事を偲び、泣

いてくれました。少しずつコンの亡骸の上に花が置かれてゆき、しかしそれは、あっという間にお

花畑の様になりました。あの、“ワイルド・コンチ”が、お花畑の真ん中で寝ているのです。生前の

彼なら、

 「花なんざ喰えねぇし、似合わねェ! 肉か骨ェ持って来い!」

とでも言ったでしょうが、今は黙々と、この現状を受け入れています。

 「勝手に一人で逝った罰だ! しばらくこのまま晒すからな!」

私はコンに、そう言いました…。


 犬友の弔問が一段落した頃、入院していた母が、一時帰宅して来ました。母は居間に入るなり

ヨロヨロと泣き崩れながら言いました。

 「でも、余り苦しまずに直ぐに逝ったから、コンも良かったんじゃないの?」

恐れていた “その言葉が” 私の胸深く迄、突き刺さった…。


 ココで、“或る事実”を言わねばならない…。


 救急病院内の別室で、担当医に告げられた或る事が有った。それはコンの腹腔内出血について

だった。私が、この若い獣医に対し、

 「この出血は、外的要因ですか? それとも内的要因なんでしょうか?」

と質問した時の返答が、

 「恐らく、出血は脾臓辺りからだと推察されますが、通常この量の出血が、外的要因による

          急性出血だった場合、かなり強い外部からのダメージが無いと起こり得ません…」

 「という事は…?」

 「脾臓を破損させるほどのショックともなると、そのショック自体で死に至る位の衝撃が必要となり

ますので、見た所、コンちゃんの身体にはそう言った痕跡が見られませんし、出血した血液も、新し

い血もありましたが、中に古い血も混じっておりまして…」

 「つまり…?」

 「まあ、ハッキリと断言は出来ませんが、恐らく1週間から半月前辺りから、

                           徐々に出血が始まっていたのではないかと……」

 「……。」

 「犬は…、とても、頑張り屋さんですから…、多分、我慢していたのでしょう……」

私は頭の天辺から爪先に太い杭を、巨大なハンマーで叩き込まれた様な衝撃に襲われた!

 「じゃあ、コン…は、もっと前から、ずっと…我慢して…いたと、いう事で…しょうか」

憐れみを帯びた目で獣医が静かに頷いた。途端、私は真っ暗な谷底に突き落とされた。しかし

頭の中で次々と思い当たる節が浮かんで来た。

 「半月前…。半月前って、あの、コンのブログをアップした頃じゃないか!」

突如、5月31日のブログに思い至った。そのブログの中で、間違いなく私は、彼の異変に気がつ

いていたのじゃないか! 私の身体が、まるで鉛の様に重くなり、その場にしゃがみ込んだ。

 「完全に、俺のせいだ……」

あの嘔吐きは、一度や二度の事では無かった。それこそ、毎日していたじゃないか!

 「お前さんは、あの頃から、ズーッと、苦しんでいたのか…」

隔離ケースを前に、私はコンに語りかけていた。コンはチラリとコチラを見て言った。

 「さあね…? もう、わすれたよ…」

私は怒りに打ち震えた。

 「お前は、全身真っ黒だから、顔色なんか、解る訳ねぇーじゃねーか!!

                       ちゃんと、≪オイラ、苦しい≫って、俺に言えよ!」

また、コンはチラリとコチラを見て言った。

 「もう…いいよ…、終わった事だから…」

 私は覚悟した。“この事実”が、これからもずっと私を苦しめるであろう事。これからの私の

人生と、そして人生を終え墓場に入った後も、

 「彼自身は本当に幸せだったのか? そして彼は、私を許してくれるだろうか?」

との自問自答が続く事を……。


 「コンは、良いコだった…。イイ子だったよ…」

 そう何度も言いながら、泣きじゃくる母を取り敢えず寝かせ、私はまたコンの元へと向かった。

辛うじて花束の隙間から出ている顔を優しく撫でた。もう硬く、冷たくなっていた。

 「ゴメンな…」

そうして、また一撫でしようとした時、突然インターホンが鳴った。既に深夜の時間帯だった。

訝しげに受話器を取ると、一言、

 「俺…」

と言う声が受話器から伝って来た。懐かしい声だった。それは、“或る事情”で、音信不通となって

いた悪友の声だった。ドアを開けると、私とはまた別系統の異形の強面が立っていた。

 「コンチ…、居るか?」

 「ああ、居るよ…。早く、会ってやってくれ…」

 「分かった…」

奴は相変わらずの無愛想で、勝手知ったる居間へと歩いて行った。そして居間に横たわるコンの

亡骸を前にして、不遜とも言える態度で煙草に火を点けました。私は只、ジッと奴の様子を見てい

ました。すると奴は、やおらしゃがみ込み、そっと左手をコンの顔に当てました。

 「………クッ、クッ、クッ、ク」

彼の肩が僅かに揺れ、その振動で煙草の灰が落ちました。私はその驚きの光景を、固唾を飲ん

で見守っていました。

 「ヤツが…、奴が、泣いている…」


 奴は若い頃から、その容貌と性格も手伝って、余り人付き合いの上手い奴ではありませんでした。

誰構わず牙をむき、そして絶対に相手を認めないという依怙地な奴でした。故に、多くの人から忌

み嫌われ、本人も人の道から外れた行動をとるようになり、誰も近寄らない状態となっていました。

私とも、文字通り殺し合いの様な喧嘩をした事もありました。が、それが却って私との距離を縮める

結果ともなりました。私は奴にとって、数少ない“友”と言える存在となりました。そして、もう一人、

奴の“友”となった者がいました。それが “コン” です。

 人間を含む大抵の生き物に嫌われていた奴に、まだウチに来たばかりのコンは、その純真な心

を表すかの様に、真正面から奴の懐に飛び込んでいきました。そして、無防備に奴に全てを曝け

出し、ジャレ続けました。コンは頑なに閉ざしていた奴の心を、あっと言う間に温かく包み込みまし

た。奴は私以外で、初めて友達が出来たのです。そしてそれは、コンにとっても、私と家族以外で、

初めての “友達” となった人物でした…。


 訳有って、しばらく私の周りから消えておりましたが、今、数年ぶりに会うやいなや、絶対に弱み

を見せなかったヤツが、私の前で静かに泣いています。

 私はこみ上げるモノを抑え込もうと、天井を見上げました。


 「お前さんが、こんなに大勢の人達に愛されていたなんて、俺はちっとも知らなかったよ・・・」


     深夜のリビングで、大の男が二人、一匹の犬の為に、静かに泣いていました……。



     “最期の日” おわり



    そして、“最期の刻” へ、つづく・・・


   この日の模様は、愚弟が大好きだった、“ホンダフィット” の

                     フォトギャラリー内の → “ココ” にアップしております・・・。
2014年06月19日 イイね!

我が愚弟、最期の日 “夜”

我が愚弟、最期の日 “夜”
 「…ィ、…兄ィ! どうしたの? 何で、泣いてるの?」

 「アホ! そりゃ俺の傍で、“スカしっ屁” をする奴が

                   居なくなったからだよ!」

 「兄ィ…、それを言うなよ…」

 「言いたくもなるわっ!」

 「じゃあ、オイラも言わしてもらうけど、兄ィが屁をこく時、

            いちいちオイラの鼻先でするのも結構キツかったぜ!」

 「コンチ…、それを言うなよ…」

 「とにかく、オイラまだ、兄ィの傍にいるから、いい加減、涙を拭けよ!!」

 「何を一丁前に言いやがって…」


 ……と、耳がキーンと鳴り響き、私はガバッと起き上がり、真っ暗な部屋の中を見回した。確かに

愚弟は、私の傍に居る。息もせず、冷たい身体となって……。


  “その日”。朝から特に変わった事は無かった。いつもの様に私が食事する正面に座り、涎を垂

らしていたし、いつもの様に退屈になると、「オイラと遊べ!」と、ジャレて来た…。


 異変を感じたのは、夜になってからだった。何となく、落ち着きがなくなっていた。アッチへウロ

ウロ、コッチへウロウロしていた。そしてそれが終わると、私の膝に顎を置いて、ジッと私を見つ

めるのだった。

 「何か変だな…」

と思い、いつもの様に抱き抱えようとした。と、その時、

 「キャン!」

と、コンが叫んだ! 別に何かを踏んだ訳でも無く、痛い事をした訳でも無い。

 「ん? どうした?」

私は慌ててコンを床に降ろし尋ねた。しかしコンは何事も無かったかのように、私の脛をペロペロと

舐め始めた…。


 それから2時間程が経過した時、徐々にコンの息が荒くなり出した。よく見ると足元もおぼつかな

くなっていた。

 「暑くなってきたから、脱水症でも起こしたのかな?」

これまで、こう言った状態の時は、熱射病による脱水症状の時に似ていたからだ。

 「コン、じゃあ、冷たい牛乳でも飲むか?」

その言葉に、コンは目を輝かせて歓び、私の元に走り寄ろうとした。

 その時!

コンは突然床に這いつくばった! 震える手足を懸命に伸ばして立ち上がろうとするが、直ぐに

ストンッ!と這いつくばってしまう!

 事、ここに至って、尋常では無い事に気がついた。

 「コン!どうした!?」

 「ハッ・ハッ・ハッ・ハッ…」

返答は、更に荒くなった呼吸だった。顔を覗き込むと、苦しそうな表情に変わっていた。

私も這いつくばり、正面からコンを見据えた。既に首を動かす事すら出来なくなっていた。しかし、

目は私の方へ向ける事が出来た。

 「なんかよく解らないけど……、オイラ…、なんかおかしいよ…」

そう言っているように聞こえた。

 「ちょっと待ってろよ! 今すぐお医者さんへ連れて行くからな!」

こうした時の私の癖で時計に視線を向けると、午前2時を少し過ぎていた。急いで夜間の救急病院

を探した。1件目の病院は、本確的な手術の設備が無いとの事で、やんわりと断って来た。しかし

素人目にも緊急を要する事は解っていた。すると先方も私の感情を汲み取ってくれた様で、自宅

から近い所にあり、更に最新設備が整った病院を改めて紹介してくれた。そしてすぐにコンの元へ

駆け寄り、既に焦点も合わず虚ろとなっていた目をしたコンに言い聞かせた。

 「コン! 大丈夫だよ! これから病院行くからな! 頑張れよ!」

そう言いながら、既に反応が無くなった頭部を撫でました。すると、もう、手も足も、身体も頭も、そし

て眼も動かせなくなっていたコンが…、コンが…、≪ぴょこん・ペタン、ぴょこん・ペタン≫と、尻尾を

動かしてくれました。私は居た堪れなくなり、何度も何度も頭を撫で続け、何度も何度も尻尾を撫で

続けました……。


 数分後、その病院から緊急治療の受け入れ準備が整ったとの連絡があり、未だ息の荒いコンを

フィットに乗せようと担ぎ上げました。

 「うっ!」

コンの身体は、今まで経験した事の無い、まるで猫の様な身体の“柔らかさ”となっていました。既に

全身の力が抜けており、ダランと首が垂れ下がってしました!

 「コンッ!コンンッ! まだ駄目だ! もう少し我慢しろ!今直ぐに病院に行くから」

すると、コンが話しかけてくれました。

 「うん…、わかった…。 なら、チョット急いでくれよ…。オイラ、オイラ、なんか苦しくなってきた…」

 「分かったから! お前を担いで車に行くから、少しでイイから頑張れよ!」

 「うん、わかった…たのむよ…」

私は、今までで一番重くなったコンの身体を、渾身の力を込めて持ち上げ、ヨロヨロとした足取りな

がらも、なんとかフィットに乗せました。

 「コン! 行くぞ!」

 「う…ん、兄ィ、まか…せ…た…よ…」

私はフィットに乗り込むと、人生で一番深くアクセルを踏み込みました……。



 「誰か、仲の良い犬友はいらっしゃいますか?」

 救急医療室へ担ぎ込まれてから、30分程経ったのち、担当医が私の所に来てそう言って来た…。


 病院に到着するや否や、入り口で待機していた病院のスタッフが、大勢でストレッチャーにコンを

乗せ、慌ただしくER室に運び入れた! そして直ぐにバリカンで手足や腹の毛を刈り出し、ソコに

色々なチューブを埋め込み始めた。口には人間用と同じ様な酸素吸入器が取り付けられている。

 「では、お兄様は待合室で御待ち下さい」

そう言って部屋から出されると、ゆっくり扉が閉じられた…。


 「誰か、仲の良い犬友はいらっしゃいますか?」

最初、その質問の真意が解らず、更に詳しい説明を促すと、腹腔内に大量の血が溜まっていると

の事で、腹を開いて手術をするにも、大量の輸血が必要となるという事だった。更に、

 「現在、当院では、大型犬の輸血用のストックが無いので、

              差支えなければコンちゃんの友達に輸血を頼めないかと思いまして…」

確かに友達は大勢いる。しかし皆、コンと同世代の老犬だった。その ”おじいちゃん、おばあちゃ

ん” から、輸血してもらう訳にはいかない。それに若い友達犬も、その殆どが小型犬ばかりだった。

チワワとラブラドールでは、容量に数倍もの差がある。故に輸血に必要となる血の量も小型犬の

数倍に及ぶのだ!


       ――私は天を仰いだ――


 しかし、背に腹は変えられない。兎に角、手術の執刀を、この若い獣医にお願いした。すると彼

は用意していた用紙を数枚、私の前に提示した。そこには、手術の同意書と、失敗した時の了承、

及び、心臓停止に至った時の、電気式、手動式、による蘇生マッサージの了解の同意等が明記さ

れていた。途端に、私の顔が曇った。“読み齧り”、或いは、“聞き齧り”ではあるが、そのどちらを

するにしても、身体にかなりの負担がかかる事を知っていたからだ。

 「電気ショックによるマッサージって、かなり皮膚を損傷しますよね?」

途端に暗い表情となった医者は言った。

 「確かに、電気ショックを2回程続けると、少し重い火傷を負います」

被せる様に私が言った。

 「手でマッサージすると、アバラ折れますよね?」

更に暗い表情となった医者は、静かに頷いた。私は、拳を握りしめた。老犬になって、火傷してまで、

骨折させてまで苦しい思いはさせたくなかった。コンも嫌がるのは目に見えていた。しかし現状は切

迫していた。兎に角、腹に溜まった血は抜かねばならず、その出血した分の血は、直ぐに補充しな

ければならないのだ! そんな私の心情を慮ってか、医者の方から私に或る提案をして来た。

  “自己血輸血”

それは、最終手段とも言える禁断の方法だった。

 腹腔内に出血した血液を取り出し、それを透析器で濾過し、再び体内へ注入するという方法だ。

ドーピング等に用いられる手法だが、今回は腹腔内に溜まっていた血を使うのであって、原因が

特定されないまま、その血液に原因があるかもしれないのに、再度動脈内へ注入するという事は、

却って死期を早めるのではないかと言う、大きなリスクが有るのだ。

 「それで、おねがいします…」

 「分かりました。では全ての透析が終わるまで、2時間程

                  かかりますので、待合室の方で御待ち下さい…」


 …2時間後、ER室の扉が再び開かれた。

 「お兄さん、中へどうぞ」

私が緊張して中へ入ると、思いの他、深刻な雰囲気は感じられなかった。医者が言った。

 「心配しましたが、どうやら失敗では無かったようです。

            血圧も上がり、ほんの少しですが、意識も戻りつつあります」

そう言って隔離ケースの方を指差した。数個並べてある隔離ケースの中で、一際大きいケースの

中にコンが入れられていた。他に入っている犬のケースと比べると、縦横それぞれ2~3倍の差が

有るから、容積では10倍から15倍位の差が有った。

 私の表情が一段落した頃を見計らって、医者が決断を促してきた。

 「で…、どうされますか?」

私は、厳しい決断に迫られた。 ココでリスクの高い手術をするか、それとも、コンの苦しみを無視し

て、このまま家に連れ帰るか…。

 私は、絶望的な二者択一を突きつけられた。

と、その時、私の耳にコンの声が聞えて来た。ふと、隔離ケースに目をやった。

 「もういいよ…、兄ィ、もう、いいよ…。オイラ、おウチへ、かえりたいよ…」

隔離ケースの向こうで、コンがそう訴えかけているように見えた。私は決断した。

 「解りました。手術は結構です。このコはウチで看取ります…。 だから、

     だから、取り敢えず、ウチまで持ってくれるように、最低限の処置だけはお願いします!」

そう言って、若い医者に頭を下げた。そしてコンの元へと歩いて行った…。


 隔離ケースに私が近づくと、ぐったりしていたコンは、視線を上げ私を見つけると、また尻尾を

≪ぴょこん・ペタン、ぴょこん・ペタン≫と振り始めた。

 「やっぱり、お兄さんの事、解るみたいですね! 私達には全く振りませんでしたから…」

病院のスタッフ達が気を使ってか、乾いた笑い声で、私にそう言いました。 私はしゃがみ込み、

未だ色んなチューブに繋がれたままのコンに囁きかけました。

 「こんな狭いガラス箱の中に、一人ぼっちにさせてゴメンな…。

           じゃあ一緒に帰ろうな! お前さんの大好きな、俺んちへ…」

そう言うと、心なしか、コンが微笑んだように見えました…。


 数分後、応急処置を終え、未だ手足と腹部を包帯で巻かれたまま、フィットの後部座席に乗せ

られた後、スタッフ全員で見送られながら、私達は病院を後にしました。


 そしてそれは、“コン” にとって、“現世” での、最後のドライブとなりました…。


  つづく


   この日の模様は、愚弟が大好きだった、“ホンダフィット” の

                     フォトギャラリー内の → “ココ” にアップしております・・・。
2014年06月18日 イイね!

ほんの小さな、お願いですが・・・

ほんの小さな、お願いですが・・・
 そろそろ、普通の生活に戻ろうと考えてはおりますが、どうしても

まだ踏ん切りがつきません。女々しいと思われようが、自分の気持

ちに嘘はつけません。なので、あと2回だけ、愚弟の話をしたいと思

います。クルマのブログでは御門違いですが、 読みたく無い方は、

遠慮なくスルーして頂いて結構ですので、この件、御了承下さい…。

  でわでわ・・・
2014年06月17日 イイね!

まだまだ、時間が必要だな・・・

まだまだ、時間が必要だな・・・   人生で初めて経験する、空虚な時間。ただ淡々と

 1日が過ぎてゆく。腹は減っている。食欲も有る。しかし

 どうしても食べ物を口に入れる事が出来ない。口に

 無理やり入れても、激しい腹痛に見舞わられるだけと

 なっている。こんな経験は初めてだ・・・。


  今まで、数多くの親類や知人やペットとの別れを経験してきたが、それらとは全く異質の感情

 が、身体を支配している。まるで、自分の身体が、自分では無いような錯覚に何度も陥る。そして

 その都度、どんなに具合が悪くても、私に対して全身全霊を込めて慕ってくれる愚弟の姿が、私

 の心をきつく締めたり、優しく緩めたりしてくれる。自分の感情さえも、中々コントロールが出来な

 い。故に、愚弟のせいだけでなく、私自身の感情に驚いている私がいる。今まで自分は、謙遜は

 無しに言うと、非常に強い人間だと思っていた。頭脳・身体・運動能力・精神力と、全てが自信に

 溢れていた。しかし、しかし、今やその自信は消え去った。初めて自分が弱い人間だという事を、

 イヤと言う程思い 知らされている・・・。


  そして、その理由も解っている。

  それは、間違いなく、愚弟が私の身体の一部であったという事だ…。


  巷でよく言われる、“ペットロス症候群” では無い。何故なら、その準備は今までしてきたのであ

るから。単なる喪失感等の感情の部分だけでは無い。文字通り、愚弟は私の人生の中でも或る部

分、パートナーだったのだ! 冗談抜きに、彼とのコンビで、数々の修羅場を乗り越える事が出来

た。チンピラの溜まり場となっていた近所の公園の秩序を取り戻せたのも、愚弟との“行動”を伴っ

た連係プレイの賜物であったし、昔、山奥で遭難しかけた時に、常に数歩、私の前を歩きながら森

に生息するあらゆる動物からの攻撃に対処出来るように私を守ってくれた時もあった。また或る時

は、私がふざけて川で溺れたふりをしていたら、本気で私を救助しに来たし、更には、私がウィルス

性の胃炎で緊急入院した後、こっそり病院を抜け出して家に帰ったら、やはりというか、家の門をく

ぐったところで気絶してしまい、しかし目が覚めたら、私の身体はすっぽりと、愚弟の小屋の中に押

し込まれていた事もあった。そして小屋からはみ出していた私の右手を、いつまでもいつまでも優し

く舐めていたのだ。そんな愚弟を機嫌の悪かった私が理不尽に怒鳴っても、彼は兎に角純真に、不

平不満を一切言わず、そんな私を見捨てずに、付いて来てくれたのだ。そう、愚弟は、全く持って、

ペットの域を超えていた、正に同志であり戦友であり、そしてまごう事無く、パートナーであったの

だ!

 しかし、しかし、本当の彼の存在はそんなモノでは無かった。彼はいつの間にか、“私の心の拠り

処”そのものとなっていたのだ!

 彼が傍に居るだけで、心が暖かくなった。彼が私の頬を一舐めするだけで、身体全体が優しい布

で包まれた。彼の愚直なまでに真直ぐな瞳を見るだけで、素直に謝る事が出来た。そして彼が私

の足元でスヤスヤと寝息を立てている時、これ以上なく、私を“優しい人間”へと変えてくれる。“癒

し”なんぞと言う生ぬるいモノでは無い!

 彼が私の傍に居た事で、負の感情になった事は一度も無い! どんな時であれ、全てを優しい方

向へと導いたのだ。

 そう、彼は私に初めて、“幸福”というモノを教えてくれた。居なくなってから思い知らされる、これま

で幾度として繰り返されてきた、直しようもない人間の愚かな過ちを、私も身を持って体験する事に

なったのだ……。


 彼が、“最期の時”へと至る日々の中に、これからもずっと私を苦しめるであろう “或る事実”

後に判明した事を、いずれ言わねばなるまい……。

 これからの私の人生と、そして人生を終え墓場に入った後も、

 「彼自身は本当に幸せだったのか? そして彼は、私を許してくれるだろうか?」

との自問自答を、続ける事だろう…。


 しかし今はまだ、素直な感情に身を任せていたい。

     彼の全く混じりっけの無い、純真な瞳の様に……。



               ―――我が愚弟、最期の1日 後半です――――


 前回同様、愚弟が大好きだった、“ホンダフィット” のフォトギャラリー 

                            内の → “ココ” にアップしております・・・。


  でわでわ・・・
2014年06月16日 イイね!

もう少し、時間を下さい・・・

もう少し、時間を下さい・・・  長い1日が終わりました…。色々な事が有りました

 が、今はその殆どの光景が、どうしてもぼやけて見

 えてしまいます。

 でも、何故か頭の中では、“涙そうそう” が、途切れる

 事なく、流れています・・・。



 という訳で、もう少し…、もう少し、時間を下さい……m(_)m



       ※長い一日となった記録を、残しました・・・。

             気分が悪くなる方も居ると思います・・・。

                 みんカラとは場違いな事だとも思います・・・。

                     でも、どうしても、残しておきたいと思いました・・・。



               ―――我が愚弟、最期の1日です――――


  愚弟が大好きだった、“ホンダフィット” のフォトギャラリー 内の

                        → “ココ” にアップしております・・・。


    でわでわ・・・

プロフィール

犬、クルマ、バイク、食べ歩き等で常に忙しい休日を送っている、渋谷生まれの代々木育ち。でも今は川崎(笑) 遊びの資格を、結構持っているので(スキューバ、ボート、ス...
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2024/08/08 03:16:02
凄い偉業ですよコレは!!! 
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2018/10/07 07:59:57
≪“ダンディズム”・・・男の幸せとは・・・≫ Epilogue  そして・・・重大発表・・・ 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2018/08/29 22:01:45

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ホンダ CB1100 ホンダ CB1100
バイク最高! バイクも仕事柄たくさん乗ってきましたが、やっぱり国産がいいですね~(笑) ...
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