
「さて…」
と席を立った瞬間、また眩暈に襲われた。しかも今度は
かなり激しいモノだった。まるで自分の身体が鉛の様に
重く感じた。いつの間にか跪き、私の意識が遠のいて
行った…。
体中が重い。しかしなにか甘美な気持ちが、私の身体を包む。この感じは何だろう…。
横たえた私の身体にそっと寄り添う暖かい存在があった。その暖かさを感じるだけで、何故か
私は幸福感に包まれていた…。
ふと目が覚めた。見覚えの無い天井が目に入って来た。私は慌てて身体を起こし、辺りを見
回した。誰もいない部屋。俺の女神は夢だったのか。そう考えると居てもたってもいられなかっ
た。それは、まるで母親を探す幼児の様にも思えた。次々とドアを開け放ち、俺の女神を探した。
そして、私はホッと息を吐いた。女神はいた。何処へも消え去ってはいなかった。彼女は化粧台
の前で、既に今日1日が始めていた。髪をとかし、化粧をし、身嗜みを整えていた。
「おはよっ! コン兄ィ!」
「お、おはよう」
私の返しに、チラリと化粧台の鏡越しに彼女がはにかんだ。
「コン兄ィ…昨夜は…嬉しかったよ」
「…。」
「私を…、私を優しく、包んでくれて…」
そう言うと心美は照れたように一段と激しく髪を梳いた。
やはり、あの甘美な感覚は、夢では無かったのだ! そう理解した時、私の息子がムクムクと
肥大した!
「あ! 駄目! コン兄ィったら!」
私は堪らず彼女を後ろから抱きしめた…。
数時間後、二人の姿はポルシェの中にあった。先程まで居たベッドの中で、心美からリクエスト
が有ったのだ。
「コン兄ィ、私、温泉に行きたいな…」
そうして今、海沿いのホテルから、山間の中にある旅館を目指していた。美しい木々の景色が、
車窓を流れて行った。降り注ぐ陽の光の中、横を見れば女神が微笑んでいる。ココは天国なの
か…。それとも…。
小1時間程で温泉宿に到着した。露天風呂を貸し切っていた。二人は競う様に身に着けていた
邪魔な布を脱ぎ捨て、抱き合ったまま、湯の中へと其の身を身を投じた…。
小鳥が囀り、サラサラと木々の小枝が歌う山のせせらぎに身体を癒された後、二人は湯を出た。
次の予定は、私がリクエストした。
「あのさ、クルマの方の次期候補を見に行きたいんだけど…」
「うん!いいよ! 私も見たい! コン兄ィ、の次期愛車候補って何かな~」
一気に山を降り、某外車ディーラーへと向かった。
「へー、このクルマがそうなの…」
「まだ本決まりじゃないけど、たぶんこの車種になりそう」
彼女は、フムフムと言った風情で、このクルマの辺りを廻っていた。その時、一陣のつむじ風が
舞い降りた。冷たい風が肌に刺さるように駆け抜けて行く…。
ふと心美を見ると、何故か彼女は泣いていた。
「どうした?」
私は駆け寄り言った。
「ううん、何でも無い…」
しかし、その言葉とは裏腹に、彼女の悲しげな表情に変わりは無かった。
「じゃ、次は何処に行こうかな?」
私は、努めて明るい声で聞いた。心美は泣き笑いのような顔になり、そして涙を拭うと、やはり
努めて明るい声で言った。
「私…、私、桜が観たい…」
まだ肌寒い気候が続いている今、果たして桜が開花している所が近くにあるだろうか?
と、疑問が湧いたが、彼女が行きたいと言ったからには、どうしても彼女に桜を見せたくなった。
私はポルシェに鞭を入れ、ひたすら南下を始めた…。
目の前に、桜並木が出現した。一か八かで訪れた某桜の名所は、既に八分咲きとなっていた。
「わー!綺麗!」
心美は駆け出し、その満開の桜の木の下でクルクルと燥いでいた。
「コン兄ィ! 早く、コン兄ィもおいでよ!」
「ちょっと待てよ! 何か身体が重いんだよ!」
「コン兄ィったら! 少しはダイエットしなさーい! うふふ!」
「何をいまさら! あはは!」
二人は桜吹雪の中を、飽きる事無く駆け回っていた。
そうして、賑やかで楽しい時間が過ぎて行った…。
突然、雨が降って来た。二人は急いで近くにあった茶屋に飛び込み雨宿りした。二人共かなり
濡れそぼっていた。1枚のタオルでお互いの身体を拭った。そうして最後は一緒に二人の頭にタ
オルを乗せ、まるで幼い兄妹の様に髪を拭き合った。
「うふふ!」
「あはは!」
何するにしても、一つ一つの行動すべてが、幸せに感じた…。
数分後、髪を拭き終った後、心美が突然、私の胸に飛び込んで来た。私は優しく彼女を抱き締めた。
彼女が私を見上げた。その目に涙が溜まっていた。
「また…、どうしたの?」
心美はグッと感情を飲み込んだ後、じっくり自分に言い聞かせる様に言った。
「コン兄ィ…」
「ん?」
「コン兄ィ、私の事…、私の事、絶対に、忘れ、ないでね・・・」
そう言うと心美は私の胸に顔を埋めた…。
「忘れるもんか、忘れる訳ないだろう!」
私はムキになって、そう叫び、そして心美を引き寄せると、彼女の唇に自分の唇を重ねた…。
と、その時、急に意識が遠のいて行く・・・
コレは夢なのか・・・
それとも・・・
ふと目が覚めた。気がつくと、フィットの中に居た。慌てて辺りを見回す。ソコは、某バイク屋の
駐車場だった。私は溜息を吐いた。どうやら寝ていたようだった。
「そういや、まだ身体完治してなかったもんな…」
徹夜が続いている最近の生活リズムで、かなり疲労がたまっていたようだった。
「しかし、なんつー長い夢だ!」
私は一人苦笑し、早速次期愛車候補を見るべく、店のドアを開けた…。
「いや~~社長、御目が高い! このバイクは正に社長の為にある様なバイクですよ!」
店に入るなり、いきなり元気の良い店員がまとわりついて来た。そして拒否する間もなく、展示
場の隅にあるバイクの元へと連れて行かれた。確かにそのバイクは格好良かった。そりゃそうだ。
次期愛車候補だったのだから。しかし…。
「俺は、“社長”というタイプでは無い! 強いて言うなら、“隊長”タイプじゃ!」
と、店員に対し、訂正を求めようとしたら、
「ま、ま! 取り敢えず、バイクに跨ってみて下さいよ!」
と、流されるまま、バイクに跨って見た。おあつらえ向きに、正面の壁は一面大きな鏡となっていた。
故に私の姿が否応なく写り込んでいる。
「う~む…。自分で言うのも何だが……。似合い過ぎている…」
店員は、微妙に肩を震わせていた。
「お客様…。兎に角、お似合いですよ!」
「って言うより…」
更に店員は、どうしても我慢出来ずに、その言葉を継いでしまった。
「やはり私は、生姜焼き&カキフライ弁当と、
ハンバーグ&エビフライ弁当にした方が宜しいかと…」
「な、な、何だコイツ?」
突然の事に慌てた私だったが、その思いとは裏腹に私の口からは別の言葉が吐いて出た。
「ププププ……ぶはっ!」
堪えきれず、私は噴き出した!
「それじゃあ、オイラと同じだよ!!」
「なな、なんだ俺? 何だこのセリフは…」
と、不思議に感じた思いと同時に、或る事に気がついた。
「あれ? 何だ、このデジャブーは…」
私がその疑問に気が付いた瞬間、また急に意識が遠のいて行く・・・
コレは夢なのか・・・
それとも・・・
・・・・という夢から覚めた私の足元に、オリ〇ン弁当が2つ置かれていた。そう、さっき自分で
買いに行った奴だ。どうやらまだしばらくは、大人しく寝ていた方が良いようだ・・・。
そうして二つのオリジン弁当を平らげた後、私は、また床に着いた。
今度もまた、良い夢が見られますように! 私は祈りながら布団を被った。
と言う訳で、 おやすみなさい……。
アッヒャッヒャ!ヽ(゚∀゚)ノアッヒャッヒャ!
おわり!
※尚この日の模様は、愛車紹介ポルシェのフォトギャラリー内の
→ “
ココ” に、アップしておりますので、どうぞご覧下さい!
でわでわ!